「ふっ、ふっ、ふっ!」
ガキンガキンとフィールドを拳で叩く音が響く。
まるで鬼神のような戦いぶりにアルヴァアロンだけでなく、味方のアイエフやコンパまで気圧されていた。
「潰れちゃえ、砕けちゃえぇぇっ!」
《…………》
しかしアルヴァアロンはビームサーベルでネプギアを薙ぎ払ってくる。
咄嗟に離れて避けたが、ネプギアの腹にビームライフルが向けられた。
「あうっ、くっ!」
手足で弾くが、GNビームライフルの威力は凄まじく先程のように軽くはない。
(さっきと威力が違う……!)
《うらぁぁぁっ!》
《!》
デルタプラスがビームライフルを撃つがGNフィールドで弾かれた。
大きく距離を取ったアルヴァアロンがフィールドを解除してデルタプラスに銃口を向ける。
《どうして、どうして僕が欲しい明日は掴んだ端から消えていく⁉︎》
《…………》
《答えろォォォォッ!》
アルヴァアロンのウイングは飾りではない。GNフィールドを作り出す粒子圧縮効果を応用してGNビームライフルの威力を向上させることもできるのだ。その威力はアルヴァトーレの大型GNキャノンにも匹敵する。
《届かない、明日が……!高くて、遠くて、儚くて……ッ!》
デルタプラスはそれを避けたが、アルヴァアロンはデルタプラスにすかさず銃口を向けて2射目の準備をする。
《眩しくてっ、欲しくて!こんなにも願っているのにさぁ!》
凶悪なビームを避けてビームライフルを撃つがGNフィールドで届かない。
《朝焼けに包まれて!暖かい風が吹く……!そんなところで暮らして、隣にみんながいる!そんな願いは贅沢なのっ⁉︎》
《………》
「もうっ……奪わないでください!」
《!》
ネプギアが切りつけるのをビームサーベルで弾く。アルヴァアロンがネプギアを蹴飛ばした。
「何もかも、アナタ達は持っていく……!今取り返そうとしてるじゃないですか!笑い合おうとしてるじゃないですか!」
《…………》
アルヴァアロンがウイングで粒子を圧縮し、GNビームライフルを放つ。
圧倒的な出力のビームがネプギアに襲いかかるが、ネプギアはM.P.B.Lを構えた。
「もうやめてぇぇぇ!」
最大出力のM.P.B.LのビームがGNビームライフルのビームとぶつかり合う。
《……………》
「うっ、くっ、ううっ……!」
ネプギアのビームが押されている。やはりM.P.B.Lの出力ではGNビームライフルに敵わない。
「………っ……!」
完全にM.P.B.Lのビームが弾かれた。
後はネプギアがビームの暴力的な熱に飲み呑まれるだけ。
ネプギアは目を閉じることもできず、悔しさに歯をくいしばる。
その目の前のビームは……魔法陣によって防がれた。
「えっ……⁉︎」
ーーーー『100年の物語』
「ネプギア、ちゃん……!」
「逃げ、なさいっ!」
「っ、うん!」
ネプギアがロムとラムの魔法がビームを防いでいるうちに射線上から脱出する。
ネプギアが完全に逃げると防御魔法も砕け散ってしまった。
「うっ……!」
「くっ!」
「ロムちゃん、ラムちゃん!」
「来ないで!行きなさいよ、バカッ!」
「今が、チャンスだから……!」
振り返ったネプギアにロムとラムが力を振り絞って叫ぶ。
その脇ではデルタプラスがメガ・バズーカ・ランチャーを構えていた。
《絶対に……落とす!》
《!》
《光になれぇぇぇッ!》
アルヴァアロンがGNフィールドで防御するが、あまりの威力に壁に押し付けられる!
圧倒的な光の本流はGNフィールドを突破することはできないが、確実に機体にダメージを与えてはいた。
《………》
《灼け爛れろよ!僕の願いは、たった1つなんだァァァッ!》
メガ・バズーカ・ランチャーの照射が終わると、そこにはスパークを散らすアルヴァアロンが壁に埋まっていた。
《今!トドメをッ!》
「っ、コンパ!」
「は、はいです!」
2人の鬼神のような戦いぶりを見つめていた2人が我に帰る。
デルタプラスはエネルギーを大量に消費したのか、ゆっくりと下降して地面に膝をつく。
《くっ……》
「ネプギアちゃん……!」
「アンタが行くのよ!」
「うん……!」
ネプギアも2人を置いてアルヴァアロンに向けて飛翔した。
(速く、速く……!)
アイツがまたバリアを展開する前に。
(速く、速く……!)
アイツが誰かを傷つける前に。
(もっと、速く!)
この刃を、届かせる!
ネプギアの体が矢のように一直線に飛んで行く。距離があったにもかかわらず、すぐにアイエフとコンパを追い越した。
「ネプギア……!」
「ぎあちゃん!」
「届いてぇぇぇ!」
「ネプギアちゃん、頑張って……!」
「行けーーっ!」
ネプギアのM.P.B.Lがアルヴァアロンに届く寸前、
《………》
「うくっ!」
GNフィールドが展開した。
ネプギアの刃はフィールドに阻まれてアルヴァアロンに届かない。
しかしネプギアは前に進むのをやめなかったし、諦めもしなかった。
「届いて……!届けっ!」
ネプギアのM.P.B.Lの刃が薄緑色に変色していく。そして段々とGNフィールドに侵入していき、ついにその刃はアルヴァアロンへと届いた!
《⁉︎》
《よし、ウイングを!》
ネプギアのM.P.B.Lは深々とアルヴァアロンのウイングへと突き刺さっていた。粒子圧縮効果を持つウイングを壊してしまえば、もうGNフィールドも高出力のビームも撃たれない。
「まだ、この程度では終わりません!」
ネプギアがM.P.B.Lを引き抜き、逆手に持ち替えた。
そして一瞬で離脱し、一瞬で旋回したネプギアがアルヴァアロンを切り裂いていく。
《⁉︎》
シュピッ!
《⁉︎》
シュピッ!
《⁉︎》
シュピッ!
アルヴァアロンが段々と細切れにされていく。ネプギアのあまりの速さにアルヴァアロンの反応が追いついていない。
気付けばネプギアの四肢には羽根のようなプロセッサユニットが生まれ、スーツもスマートになっていた。
「ロムちゃんを傷つけて!ラムちゃんを傷付けて!」
シュピッ!
《⁉︎》
「戦っているアナタも、まるで捨て駒みたいに!」
シュピッ!
《⁉︎》
「お姉ちゃんも傷つけて!犯罪組織……マジェコンヌ!」
シュピッ!
《⁉︎》
「命は……命は!」
「オモチャじゃないのッ‼︎」
ネプギアが残ったコクピットに向けてM.P.B.Lを向けた。
しかし、ネプギアの頭に脈動が走る。
「っ………!」
気付けば、アルヴァアロンの四肢は切断され、頭もなく、胴体だけの状態になっていた。
もはや浮遊する力すら無くしたアルヴァアロンの胴体は重力に引かれて地面に落ち、少しだけボディを凹ませる。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
ネプギアがそれを見ていると、段々と体の感覚が帰ってきた。
そして恐れも湧き上がる。
(もし、あの脈動が私を止めてくれなかったら……私は……)
ネプギアの脳裏に浮かぶのはモビルスーツの中に入れられていた脳。
怒りのままに、アレを貫いてしまうところだった。
「っ、はあっ……」
怖気にも似た悪寒が体を駆け巡る。
罪のない人を殺してしまうところだった。もし、あのまま止まれずに剣を突き立てていたなら……。
そう考えると安堵よりも先に恐怖がやってくる。
《ロム、ラム!》
「っ、は……!」
スミキの声でロムとラムのことを思い出す。
振り返ると2人は地面に力なく倒れていた。
「ロムちゃん、ラムちゃん!」
急いで2人の元に駆けつける。
息を荒く辛そうに眉をしかめている姿はお世辞にも無事とは言えない。
「はあ、はあ、ぅ………」
「ぁ……ぅっ………!」
「ロムちゃん、ラムちゃん!しっかりして!」
もともとあのビームを食らって無事なはずはないのに、無理をして防御魔法まで使ったから……。
(どうしよう、私のせいだ……!)
怒りに任せて周りが見えていなかった。そのせいで2人が死んでしまったら、私は……!
「コンパ、2人の容体はどう⁉︎」
「……酷いダメージです。このままじゃ、ダメかもしれないです……!」
コンパが駆けつけて背中の傷を見る。
懐から応急セットを取り出して治療を始めるが、素早くちゃんとした医療機関に運ばないと命が危ない。
だがこんなダンジョンの奥地に医療機関があるわけはないし、ルウィーに戻るのにも時間がかかる。
「八方ふさがりなの……⁉︎」
「やれるだけやるです!」
(私の、せいで……!)
祈ることしかできないのか。
絶望に呑まれそうになった時、ネプギアの耳に爆発音が届いた。
「えっ………?」
《……ネプギア、絶望に身を浸してはダメだ!》
デルタプラスがライフルを発砲したのだ。その銃口はシェアクリスタルに向いている。爆発したのはシェアをエネルギー源にしてモビルスーツを作り出す機械。
《絶望からは何も生まれない。絶望は悪だ。退けて、砕いて、引き千切って、叩きつけて、踏みつけるんだ。希望だけを見ればいい》
「希望、だけ………」
《シェアを解放させるんだ。そうすれば、2人の容体も回復するはず》
「は、はい!」
ネプギアがシェアクリスタルに向けて飛んだ。
優しくシェアクリスタルに触れると、凄まじい速度で天空へ舞い上がり、光のシャワーになって弾ける。
澄んだ光に包まれ、ネプギアは体に力が湧き上がるのを感じる。
「ぅ……あ……?」
「気持ち、いい……?」
「っ、起きた!」
「2人とも、大丈夫ですか⁉︎」
「ぅん……大丈夫……。ちょっと、背中が痛いけど……」
「いたた……。くっそ〜、よくもやってくれたわねアイツ!いたた……」
ラムの背中をロムが優しくさする。
無傷になるまで回復はしなかったらしいが、少なくとも命の危険は去った。
ネプギアはそれを遠目で見て安心していたが、再びネプギアを不思議な感覚が襲った。
過去2回シェアクリスタルを解放させた時と同じ感覚。頭の中の霧や靄がほんの少しだけ晴れるような感覚。
「うっ………⁉︎」
急に息苦しさを感じる。汗が吹き出て、震えが大きくなった。
とても頭がむず痒い。頭を掻くが、痒さの原因は表面にはない。その奥だ。
(なんで……⁉︎なんで、こんなに、不快な……!)
頭の中に何かが入り込んでしまったかのようだ。自分の体を抱き抱えて空中で縮こまる。そのまま震えと疼きに耐えていると、しばらくしてそれらは去っていった。
「はっ、はっ、はっ……!」
このままシェアクリスタルを集めるとどうなってしまうのだろう。少なくとも、無事では済まない気がする。とても暖かい感覚をもたらしてくれるシェアの光が今はまるで、麻薬のように見えて……。
ーーーーーーーー
「本当に、ありがとうございました。アナタ達のおかげで、ルウィーは救われました」
「いえ、そんなこと……。ロムちゃんとラムちゃんがいなきゃ、どうなってたかわからないし」
「そのロムとラムが助かったのも……そして記憶を取り戻したことも、きっとアナタ達のおかげなのです。どうか、お礼を言わせてください」
ミナが深々と頭を下げた。
「ところで、ロムちゃんとラムちゃんは?」
「奥の方で片付けをしています。アレはだいぶ時間がかかりそうですけどね」
すると、言った端からロムとラムがやってきた。疲れた顔をしているのは片付けのせいだろう。
「早速帰ってきたわね」
「だって全然終わんないんだもん!あんなの片付くわけないわよ!」
「ラムちゃん……ずっと絵本読んで……」
「ギク。そそそそんなことないわよ?」
「騒がしいわねぇ」
アイエフが溜息をついた。怪我の容態を心配していたが、この様子だとあまり心配はいらないらしい。
「ミナちゃんも手伝ってよ!あそこにある本、題名も読めないの多いのよ!」
「はいはい、あと少ししたらね。今は皆さんを見送るから」
「え……?ネプギアちゃん、行っちゃうの……?」
「お行きになるんですよね」
「はいです。もうルウィーにいる理由もないですし」
「次はリーンボックスに向かわないといけないし。悪いけど、もうここにはあまり滞在できないわよ」
アイエフがネプギアを見てそう言うと、ネプギアは悲しそうな顔をしているロムを見た。
「ネプギアちゃん……」
「大丈夫、またすぐ会えるよ。だからそんな顔しないで、ね?」
「うん……」
「ちょっとネプギア、私には何もなし?」
「あ、いや、ううん。ラムちゃんもまた会おうね」
「何よその取って付けたようなのは!」
3人がじゃれあっている中、アイエフとコンパとミナが距離を自然に取った。
「彼女達……記憶が戻ったのよね」
「はい。本当に違和感を消していたのですね、2人は女神候補生4人の写真に気付きませんでした」
「でも、鍵を打ち破りつつあるぎあちゃんがそれを見つけて……2人もそれを見つけたですね」
「はい。そしたら2人は自分がネプギアさん達の記憶をなくした原因のものを探し始めました」
「それはスーパーリテイルランドのコインだったと……」
あの頃の2人の記憶は……そうか、まだミズキには会っていない。ということは2人もまた、ミズキのことを思い出してはいないのか。
「ところで、ミズキさんは?」
「疲れて休んでるわ。無理もない、連戦だったもの」
「それに、精神的にも疲れたと思うです。頭の中身が出てきたり、2人が撃たれちゃったり……」
あの時のミズキとネプギアの怒る様は鬼気迫るものがあった。というよりアレは、完全に怒りに我を忘れていた。もしかしたら、いつか暴走してしまうかもしれない。
「ところで、あの金ピカの中には、その、あったですか?」
「はい。現在ルウィーの科学班で解析中です。意思があると分かれば、どうにかして体を用意して然るべき教育を受けさせるつもりではいます」
「よかったです……」
コンパがホッと安堵の息を吐く。
そこから少し離れたところで女神候補生3人も話をしていた。
「ところで、何で2人とも私のこと忘れてたの?」
「わかんない……。けど、あのコインを見たら、頭が痛くなっちゃって……起きたら忘れてたの」
「コイン?」
「そうよ。ほら、スーパーリテイルランドの」
「スーパー……リテイルランド……?」
「何よ、ネプギアまで忘れたの?一緒に遊びに行ったじゃない、ルウィーで」
「遊、びに……?」
ーーーーザザッーー
「あうっ……!」
ネプギアは頭の奥が急に痛み、顔をしかめた。一瞬のことだったが、痛んだ部分は間違いなく、シェアクリスタルを解放した時に痒かった部分と同じだ。
「ネプギアちゃん……?」
「う、ううん。何でもない。少し頭がズキってしただけ」
「それ、私達と同じじゃない?」
「え?でも私、何も忘れてないよ」
「そう?ならいいけど」
「でもネプギアちゃん……。遊びに行ったことのこと、覚えてる……?」
「スーパーリテイルランドでしょ?そんなの……そんな、の……あれ?」
多分、行ったのだと思う。私も行った気がする。けど、そこで何をしていたかまでは思い出せない。
「……ネプギアちゃん、あのね?」
「う、うん。なに?」
「遊びに行った時のあたり……何したか覚えてる?」
「遊びに行った時のあたり……?」
「前後ってことよ。なんか、イマイチ不自然なのよね」
「不自然って、何が?」
キョトンと首をかしげるネプギア。ラムは腕を組んで目を閉じながらムムムと考え込んだ。
「あの時のこと、とっても思い出せるのよ。遊びに行って、コインを集めたわ。お姉ちゃんの分と、執事さんの分。そこまではカンペキに思い出せるわ」
「けど、その前と後は覚えてないの……。何で遊びに行ったかとか、その後何があったかとか……」
「執事さん?」
「ええ。執事さんは執事さんよ。あの時新しく私達の……私、達、の……ああっ!」
「ラムちゃん……?」
「待って、ロムちゃん。執事さんのことわかるわよね。凄く優しくて、面白い人よね」
「うん……。仮面被ってる……」
「ねえ、執事さんってお姉ちゃんが捕まってからの3年間見た?」
「……見て、ない……。ああっ……!」
「なんなら、スーパーリテイルランドの後からいないわ。辞めたなんてわけないわ、忘れるはずないもの!」
「……ロムちゃん、ラムちゃん。それって……」
そこから先は言わなくてもわかった。
だがネプギアは確認のためにそれを口に出す。
「まだ、忘れてる部分がある……?」
「しかも、あの写真の時と同じよ。不思議だけど、わかってたのに気付いてなかった!」
「……もしかして、ネプギアちゃんも、ユニちゃんも……?」
3人の目が開く。こんなの、他人が聞いたら与太話だと笑われてしまうだろう。けれど何故だか3人はそれを否定する気も起きなかったし、むしろそれが事実なのだと強く感じていた。
「ネプギア?もう出発するわよ」
「あ、はい!少し待ってください!」
帰る時間になってしまったようだ。
3人は体を引っ付けて内緒話を始める。
「ミナちゃんに聞いてみるわ。何かわかるかも」
「ユニちゃんにも聞いておくね……?いろいろ、調べてみる……」
「うん、わかった。ありがと、またね」
ネプギアが手を振ると2人も手を振り返してくれる。
最後に疑問は残ったものの、全て一件落着して良かった。
「あ、そうだ。その執事さんの名前って何?」
「名前?あ〜、えっと……」
「クスノキ・スミキさん……」
ネプギアの頭に電撃が走った。
ネプギアに電撃走る。
ここでルウィーはお終いなので、次は年明けに。
次の敵モビルスーツはVからの登場です。鬱とか言わない。