ファンネルがどうにかして2人の態勢を崩そうと無数にビームを放つ。
その軌道がわかっているかのようにデルタプラスは最低限の軌道でビームを避け、射線上に入ったファンネルにはビームライフルを撃ち、粉々にしていく。
風がネプギアの聴覚を奪う。それでも視界に映るファンネルをM.P.B.Lで狙う。
クィン・マンサの右腕が壊れた。弾幕が薄くなったと思った瞬間には右胸にコンパの液体が着弾してさらに弾幕が薄くなる。
そしてビームが2人の目の前に迫った。
デルタプラスのスピードからしてこれを避けることは不可能だ。旋回も間に合わない。自分から猛スピードでぶつかりに行っているので、当たれば防御してもタダでは済まない。
この時、例えば時が止まって自分の思考だけが鋭敏になったとしたら。
そう、死ぬ寸前にアドレナリンがドバドバ出て時間がゆっくりに感じる……そんな感じでいい。
目の前に問題がある。『当たったら死ぬビームがあります。避けられません。防御しても大怪我は確定です。どうすればいいでしょうか』。
常人なら頭を抱えるだろう。せめて防御してチャンスを待つか?いや、ここでダメージなど受けてはチャンスなど来ない。
この模範解答は、『諦める』か?
いや、違う。素直に問題を受け止めるなら、そうなるが。
素直に問題を受け止めるような人は、ここにはいなかった。
「…………!」
ネプギアは自分の中で脈動をさらに強く感じられた。
それは、ビームが来る前。もうその瞬間からネプギアは『危機』を感じていたのだ。
それはミズキも同じ。
だから、考える時間があった。ほんの少し、どうするか考える時間があった。問題を見て、考えて、この問題が詰みだということに気付いた。
………だったら?
《ネプギア!》
「わかってます!」
答えは、『なんとしてでも避ける』だ。
ここには問題に素直に従う人などいない。問題が理不尽なら……問題ごと吹き飛ばす。
そうでなければこんな理不尽な相手に立ち向かえやしない!
ネプギアがデルタプラスの機首を両足で踏んで飛び上がった。
ネプギアはそれにより慣性を維持したまま上に飛び、デルタプラスは機首が下に向いたことにより、斜め下へと滑り込む!
《⁉︎》
《こっちは、やる気が違うんだ!》
デルタプラスはモビルスーツ形態へと素早く変形。盾に収まったままのビームサーベルが刃を形成した。
それを勢いのままにクィン・マンサの右足へと突き刺す!
《くぅぅぅあっ!》
そのまま反転、ビームライフルを撃つと大爆発を起こして足を爆散させた。
《⁉︎⁉︎⁉︎》
態勢を崩したクィン・マンサが膝をつくよりも先にネプギアはクィン・マンサの胸へと肉薄した。
《M.P.B.Lの!》
精一杯逆制動をかけるくらいのスピードがちょうどいい。
それくらいのスピードなら、タックルした時に自分の身が壊れずに済む。
クィン・マンサの残った左胸のメガ粒子砲にM.P.B.Lを突き刺した。
両足まで使ってようやく勢いを殺しきったネプギアがM.P.B.Lの引き金に手をかけた。
《最大出力でぇぇぇっ!》
キンッ、とクィン・マンサから一瞬だけ光が迸る。
そしてネプギアが離脱するのと同時、クィン・マンサの体は爆発しながら崩れ落ちていった。
「やった⁉︎」
「待ってくださいです!頭が!」
しかしクィン・マンサの脱出ポットの役目を果たす頭部が分離して離脱しようとする。
《逃すか!》
しかしデルタプラスは急上昇してそのポッドを後ろから掴む。悪足掻きに口のあたりからビームを撃つが、後ろから掴んでいるために当たらない。
《確かめさせてもらう……!君が何故、ファンネルを使えるのか!》
地面めがけてデルタプラスが急降下する。
《眠ってて!》
ガンッ!と鈍い音を立ててクィン・マンサの頭部が床に激突する。
頭頂部の部分が衝撃で凹み、ビームも止まる。搭乗者が気絶したか、それとも……!
「す、スミキさん⁉︎なにやってるんですか⁉︎」
《……中身を見る。ネプギア、その武器貸して》
「え、あ、はい」
いつ復活してもおかしくはない。細心の注意を払ってネプギアのM.P.B.Lで頭部を溶断していく。
その間にアイエフとコンパもこちらに追いついた。
「何やってんのよ、アンタ」
《声が聞こえた。……ファンネルを動かせるなら、中の人間はニュータイプか、強化人間か……》
金属音と共に頭部に切れ込みが入っていく。
その切れ込みが中空、つまりコックピット内に入り込むと中から水が溢れ出した。
「きゃっ!な、なによこれは……」
「水……じゃないです。もっと別の……」
《……っ⁉︎まさかッ⁉︎》
デルタプラスは先程よりも乱暴に切れ目にM.P.B.Lを差し込んで掘削していく。
頭部の半分ほどを切り裂くと、デルタプラスはその割れ目に手を入れて強引に頭部を開こうとする。
《信じてるからね……っ⁉︎お前だって!そこまで外道じゃないって!信じさせてよッ⁉︎》
バキン、と音を立てて大きく頭部が割れる。
その中のものを確認したデルタプラスは反射的に後ろを振り向いた。
《見るなッ!》
しかし遅い。
3人には刺激が強すぎる。えづき出した3人は口に手を当てて涙を流し始める。
「なん……なのよ……お、おえっ……!」
「なん、ですか……!なんですか、それはッ!」
「決まってます……。本で見たことあるです……。その、中のものは……!」
人間の、脳。
それがコードで繋がれてコックピットのあちこちに繋がっている。流れ出る液体は恐らく辛うじて脳を生かしていた生命維持装置。
この脳が何処から得たものかは知らない。誰かの脳をかっさばいたのか、初めから作り出したのか。
それでも、ミズキは叫ばずにはいられなかった。
《この……!外道がァァァァァッ‼︎‼︎》
バン!と床を叩く。
水は流れ出してしまった。つまり、この脳は、もう……!
3人が中身に唖然としていると後ろからカランと何かを落とす音がした。
それに振り返ると、そこには鉄パイプを落としたリンダがいた。
「……ひ……!」
「アンタが……アンタがこれをやったのっ⁉︎」
「し、知らない!アタイは何も知らない!ホントだ、知らなかったんだよぉっ!」
「こんなの、人がすることじゃありませんよっ!」
「ち、違う!アタイは、ただ上からの指示に従って……!あの機械を取り付ければ、無限大の兵隊が作れるって、それで……!」
《無限大……だって……⁉︎》
デルタプラスがシェアクリスタルの方を見ると、そこには新たな巨大モビルスーツが出来始めていた。
「ひいいっ!知らねえんだよぉぉっ!」
「あ、待ちなさい!」
《追う暇はない!僕らも逃げなきゃ!》
「でも……!」
《こんなに強いのが、まだまだ出てくるんだよ⁉︎一旦戻って対策を練るんだ!》
「でも、下っ端さんがやったんです!人の脳を、道具みたいに!」
《違う!断じて違う!リンダは、知らないって言ってた!あんなことをする外道は、僕は1人しか知らない!》
ビフロンス。アイツだ。こんなことを平然としでかすのは、アイツだ。
また高笑いして!上から見上げて!絶望絶望絶望って、飽きもせず!何もかもを、奪い去ろうとするッ!
《ここは退くよ!2人とも乗って!》
「……っ、わかったわよ!」
「……安らかに眠ってください」
「後で、迎えにくるですから!」
変形したデルタプラスの背にコンパが、腹から出てきた手をアイエフが掴む。
ネプギアとデルタプラスは飛翔して出口へと向かう。
(許さない……!みんなを奪い、みんなの記憶を奪うだけで飽き足らず……!)
無関係な人を、戦いに駆り出して。
無垢な魂に、こんなことをさせて。
(絶対に、絶対に……!)
復讐してやる。
ーーーーーーーー
ルウィーでは何やら高速の物体が教会に向かっているのを確認していた。
その数分後には教会の前までそれは迫る。
「何事ですか⁉︎」
《っ、ミナ!》
ドアを開けたミナの目の前にネプギア、アイエフ、コンパが着地し、デルタプラスもモビルスーツ形態になって地面に立つ。
《話はみんなから聞いて……!とにかく、僕に補給を頼む!》
「え、補給って……一体何が⁉︎」
「シェアクリスタルのエネルギーを吸い取って巨大な兵器が生み出されてるんです。一刻も早く何とかしないと、大変なことになります!」
「……なにやら、一大事のようですね。わかりました、補給をします」
それを聞いたミナは教会に全員を迎え入れる。
デルタプラスは補給を受けるためにまた飛び立っていった。
「………そんなことが……。その、巨大モビルスーツの性能とやらは?」
「まず普通じゃ歯が立たないでしょうね。あんなのがゴロゴロいたら、国だって危ない」
「どうやら、本気でルウィーを滅ぼしに来たようですね。私の目の黒いうちはそんなことをさせる気は毛頭ありませんが……」
実際問題、勝てるかわからない。ルウィーの軍隊を総動員してもだ。
「そして何より……非人道的です。止めなきゃいけないです」
「あんなの、人がすることじゃありませんよ。あんな酷いこと……!」
「……軍隊を揃えている時間はありません。かといって近場の兵隊だけを使っても全滅は確実……」
「私達が行きます。アイツの補給が終わり次第、もう1度攻撃をしかけるわ」
「可能なのですか?いくらアナタ達でも……」
「勝機はあります。あの機体は、シェアクリスタルで動いているんですから」
シェアを解放する、もしくはあの機械を破壊することにより、モビルスーツへのエネルギーの供給を止めることができるかもしれない。
「あ!アンタ達!騒がしいと思ったら!」
「あ、ラムちゃん……」
「何しに来たのよ!やっぱりルウィーをーーー!」
「やめて、ラム」
詰め寄ろうとしたラムをミナが手で制した。
「今は大事な話をしているの。邪魔をしないで」
「で、でも私は女神よ!敵は私が倒さなきゃ!」
「……お願い、ラム。もうそんな酷いこと言わないで?」
ミナが懇願した。寂しそうな顔をしたミナの顔にラムも渋々ながら口を閉ざす。
すると、ネプギアがあることに気付いた。
「……あれ?ロムちゃんは?」
「……泣いてる。探し物が見つからないとか、なんとか……」
「………!」
もしや、あの助言で本当にロムは自分の身の回りを調べ始めたのだろうか。それで見つからなくて泣いているということは……。
「っ」
「あ、ネプギア!」
「ぎあちゃん!」
「ロムちゃんのところに、行ってきます!」
ネプギアが駆け出して教会の奥へと消えた。
「あ、ま、待ちなさいよ!」
ラムもそれを追いかけていく。
アイエフが伸ばした手は虚空をウロウロした後、カクンと降ろされた。
「はあ……またか、こういうの」
「でも、そこがぎあちゃんのいいところです」
「あの……アレは、どうすれば……」
「放っておけばいいと思います。……『もしかしたら』もあるかもしれませんし」
本当はちょっぴり期待している自分を抑えて、アイエフは気を引き締めた。
ーーーー
「ひくっ、ぐすっ………」
「はあっ、はあっ、ロムちゃん……」
ネプギアが手当たり次第開いた扉。その部屋の1つでロムは泣きじゃくっていた。
「はあ、はあ、ちょっと!ロムちゃんに近づかないで、よっ!はっ、はっ……」
ラムもようやくネプギアに追いついて文句を言う。しかしネプギアは少し気に留めただけで、部屋の中に入った。
「ひぅ……ネプギア、ちゃん……?」
「ごめん、ごめんね……?適当なこと言っちゃって、それで……」
「違う、違うの……。絶対、ここにあるの……!けど、見当たらないの……なんで……⁉︎」
ただ何かが足りないと言う焦燥だけが募っていく。それがこの小さい子にとってどれだけの不安だっただろうか。
ネプギアはロムを抱きしめて、背中をポンポンと優しく叩く。ロムはネプギアの胸の中で泣きじゃくった。
「うぇぇ……ふぇぇ……!」
「ごめん、ごめん……!」