超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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あ^〜、ケイ可愛いんじゃ〜


ハンカチと黒鼠

ネプギア達と話し終わった後、ケイはイストワールと通話をしていた。

目の前にイストワールのホログラムがある。

 

「……というわけだ。バーチャフォレスト最深部にあるガンダニュウム合金を回収してほしい」

《わかりました。それについてはこちらで行います》

 

イストワールは快く了承してくれる。

しかし何かを思い出したのか、ピンと指を立てた。

 

《そうでした。ガンダニュウム合金を1機分だけ頂いてもよろしいでしょうか》

「ん、まあこちらでしたいのは成分調査程度だからそれくらいはいいけど……何故だい?」

《使って作りたい機体があるんです。あと、出来れば擬似太陽炉も譲ってほしいです》

「幾つ?」

《1つで十分です》

「……出来ないことはない。こちらで作りたいのは2つだからね」

《でも、それに見合う何かですか?》

「そういうことになる。無償というのは何だかムズムズして苦手なんだ」

 

ケイがそう言うとイストワールは小さく笑った。

 

《では、何をご所望ですか?》

「そうだね……。と言っても今は特に困ったことはない……」

《貸しにします?》

「それでもいいが……」

 

む〜んとケイは考え込む。

別にそんな大きなものを請求するつもりはない。そもそも記憶を戻してもらっただけでも一生返せないものがあるだろう。

そしてふと、ずっとポケットの中に入りっぱなしになっている物のことに気付いた。

 

「そうだ、これを……」

《それは……ハンカチですか?》

 

言いかけてケイがピタリと止まる。

もしかして……いやもしかしなくてもこれは大分恥ずかしい質問なのではないだろうか。人としてというか、常識としてというか。

 

(あの時から返せないなんてなあ……)

 

すぐに洗濯してポケットの中にしまっておき、何度か彼に会う機会はあった。

しかしその度に返せず、すると気まずくなりのスパイラル。あれか、反螺旋ギガドリルブレイクなのだろうか。

ちなみに僕はこのスパイラルって言葉はあまり好きじゃない。デフレスパイラルとか言うし。

 

「…………」

《それ、どなたのですか?イニシャル、ケイさんのじゃありませんよね?》

「む」

 

手に握って見つめていたらイストワールに勘付かれてしまった。

そう言えば彼の名前すら知らない。それは大分失礼なのではないだろうか。

 

「……いや、確かに僕のハンカチではないよ。だが決してこのハンカチは要求に関係するものじゃない。そう、少し汗をかいて。この部屋は多少蒸し暑くてだね……」

《返したいんですか?》

「…………だから」

《返したいんですね?》

「……はい」

 

珍しく論破された。

ここぞという時のイストワールの迫力には眼を見張るものがあるな……などとどうでもいいことを考えて現実逃避を試みるも上手くいかない。

 

「まあ、なんというか、非常に恥ずかしいことなのだが、未だにこれは返せていないね」

《何故です?貸してもらったっきり会えないとかですか?》

「いや、数度会っているよ。だが、なんというか、返せないままズルズルと……」

《珍しいですね。そういうのにはドライな方だと思ってましたけど》

「僕もビックリだ。こうも気まずくなるとは思ってなかった」

 

例えば……例えばこのハンカチがイストワールのものだったとして、僕は何の気兼ねもなくサクッと返してしまうだろう。

 

《では、手紙と一緒に返すというのはどうでしょう》

「手紙かい?しかし、わざわざハンカチを返す程度で……」

《そんな重っ苦しいものじゃなくていいんですよ。『この前はありがとう』って書いた付箋なんかを貼り付けておけばいいだけです》

「なるほど。それなら簡単そうではあるが……しかし……」

《まだ何か?》

「実は、僕はこのハンカチの持ち主の名前すら知らない。つまり彼が何処で何をしているかもわからない」

(あ、受け取ったのは男の人なんですか。……紳士ですね)

 

女に渡すハンカチを持っているなど、いい男ではないか。本当の紳士を目指して波紋でも習得しているのだろうか。

それはさておき、ケイはハンカチを置く場所に困っているのだろう。部屋に置いておけるならそれが1番いいが、そもそもの部屋を知らないのだろう。

 

《ではやはり手渡ししかありませんよ。何度も会っているのでしょう?》

「うむ……。僕もそれしかないと思う。勇気を出す……というより勇気を出すほどのことでもないし」

《なんか、恋する乙女の言い草みたいですね》

「恋する、乙女?ははっ、勘弁してくれ。僕はそういうのに1番縁がない女だよ」

 

チカはベールにゾッコンだし、ミナは(ケイの勝手なイメージではあるが)旦那と幸せな家庭を持ちそうだ。

 

「イストワールこそ、自分のことを棚に上げないでくれ」

《う……》

 

イストワールは絶賛恋する乙女ではないか。

墓穴を掘ってしまったイストワールがピクリと眉をひそめる。

 

《ま、待ってください。ジャックさんが一体どうしたと……》

「聞いたよ。ミズキから」

《……こんちくしょうめ、です》

「とても恋する乙女の口から出た言葉とは思えないね」

 

ケイが言えたことではないかもしれないが、女らしくない。もう少しお淑やかになるべきではないか。

 

「とにかく、助言ありがとう。これは返してくるとしよう。それじゃ」

《……勝ち逃げですか》

「バレたか。ははっ」

 

プツッと通話を切る。

不機嫌な顔をしていたが、まあいいだろう。

しかし、生殺しの状況とはなかなか面白い。どう見てもお互い好き同士なのに、約束が果たせないから好きと言えないとは。それもこれもマジェコンヌが原因であるが……。

 

「少しくらい、サボっても面白いかもしれないな」

 

1日も早く、なんてことは言わない。むしろ1日でも遅らせてからかいたい。

 

「珍しいですね。ケイ様がそんなことを仰るだなんて」

「む」

 

そんなことを冗談交じりに考えながら部屋を出ると目の前に青年がいた。

 

「はは、もちろん冗談だよ」

「サボるのは確かにダメですけど、頑張り過ぎもやめてくださいよ」

「肝に命じているよ。……そうだ」

 

さも今思い出したかのように言う。

本当は顔を見てすぐに思いついていたのだが、それは言いっこなしだ。

 

「……これ、この前はありがとう」

 

ハンカチをポケットから出して差し出す。

気恥ずかしかった理由としては泣いているのを見られたから、というのもあるのだがそれはさすがにイストワールには言えなかった。

 

青年はハンカチを見て今思い出したように手をポンと叩く。豆電球でも光ったのだろうか。

 

「ああ、いえ、わざわざ返さなくても。捨ててもらっても構わなかったのですが」

「そういうわけにはいかない。それに、これは君のイニシャルだろう?」

 

『I.R』、その刺繍がされていた。多分彼の名前のイニシャルだろう。

 

「あ、はい。母が縫ってくれまして」

「なおさら返さなければならなくなるよ。ほら」

 

青年がケイからハンカチを受け取った。

 

「ところで、君は何故ここに?」

「ああ、擬似太陽炉の回収が終わったので、報告に」

「そうか。問題は?」

「特にありません」

「ならいいよ。お疲れ様」

「ありがとうございます。それでは」

「……あの」

「はい?」

 

後ろを向いて歩き出した青年を呼び止めた。

まだ聞くべきことがあった。

 

「……君の名前を、教えてくれるかな」

「名前ですか。えっと、『イデ・ランド』と言います。変な名前ですよね」

「ランド……君はランドというのか」

 

呼びやすい名前ではないか。

 

「それでは、私はここで」

「ん、わかったよ。それじゃあね」

 

手を振って別れる。

心がスッとした……というか。悩みが消えた時というのはこんな気分だろう。怒られる、と思ったら大して怒られなかった時みたいな。

ケイは心地よい気持ちになったが、今まで何を考えていたのかを忘れてそれを思い出すのに時間がかかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ここ、ですか?」

「のはずよ。今更嘘はつかないと思うけど」

「でも、プラネテューヌのは目立ってたですよね?」

「そうね。こんなひらけた場所で見当たらないわけないと思うけど……」

 

リピートリゾートの無数に枝分かれした小島の1つ、そこにネプギア達はいた。

その辺りに反応があったとケイは言っていたが、周りにはキラキラ光るクリスタルなどありはしない。

 

「そうです、こんな時こそーー」

「発想の逆転?」

「チェス盤をひっくり返すですか?」

「あう、言われました……」

 

エンジンがかかりかけたネプギアだったが、2人の先回りで止まる。

 

「少なくとも、このあたりの視界内にはないけど?」

「……海の中、とか……」

「海、ですか?確かに気にしてなかったです」

「でも、深いところにあったらさすがにあの輝きでも……ん?」

 

アイエフが周りを見渡していると、ふと視線を止める。

その先をネプギアもつられて見ると……。

 

「ワレチュー……ちょうどいいわね」

 

真っ黒な巨大ネズミ。ワレチューである。

 

「えと、あの、何を……?」

「とっちめて情報を聞き出すわよ。どうせアイツもシェアクリスタルを狙ってるんだろうし」

「いや、あの、でもそれは……」

「いいのよ、マジェコンヌなんだし。ちょっとくらい殴って蹴って聞き出すだけ」

「それちょっとですか⁉︎」

「ほら行くわよ」

「あ、待ってください!」

「あ、わ、私も!置いてかないでほしいです〜!」

 

3人がワレチューに向かって歩く。

最初に突っかかったのはアイエフだった。

 

「ちょっとアンタ。オイコラ。待てって言ってんでしょ」

「ガラ悪すぎですぅ!」

「チュ?ーーッ、チュ……?」

 

ネズミがピクリと悶えるように頭を抑えた。

おそらく記憶の疼きだろう。

 

「アンタ、シェアクリスタルを探してるんでしょ?場所吐きなさいよ」

「チュ、なんチュかお前は。いきなり来てなんだっチュ。……あ!あの時の!」

「思い出してもらえたみたいね」

 

ワレチューが高速で後退る。

 

「あの、ネズミさん。シェアクリスタルの場所、教えてもらえないですか?」

「あ、コンパちゃん!会いたかったっチュよ〜!コンパちゃんとシェアクリスタルの両方に出会えるなんて、今日はなんて日だ!っチュ!」

「やっぱり見つけてるのね。ほら、痛い目にあいたくなかったら場所を教えなさい」

「そうはいかないっチュ!まずはお前らを倒して……!」

 

ワレチューが手をあげると地面がボコボコと隆起する。

そこから現れたのは金棒を持った1つ目の機体。

 

「無限の兵に埋もれるがいい!っチュ!」





アンリミテッドソルジャーワークス。
っつうかむしろアイオニオンヘタイロイ?の方がしっくり来るかも。

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