ストライク、出撃
さあ、これから何をしよう。
私達は自由になったんだ。
遊ぼう。
学ぼう。
笑おう。
そう思っていたのはもう過去の話。
私達は今を、懺悔に費やす。
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森を走る少女が1人。その後ろには無数のモンスターがいた。
「はっ、はっ、はっ、はっ………!」
森を出た先は崖。振り返った少女の先には何体もの獣のようなモンスターがいた。
「ガルルルル……」
森について誰よりも詳しいのは森に住む者。獣モンスター達は完全に狩りを成功したと見た。
「ガァーッ!」
そして一斉に飛びかかる。
だが少女はニヤリと微笑んだ。
「作戦通り!お姉ちゃん!」
「任せなさい!」
死角になっていた崖下から飛び上がったのは女神化したノワール!
その手には大剣を構えている。
完全に油断して飛びかかった獣達めがけて、一閃!
「レイシーズ・ダンスッ!」
「⁉︎」
獣達は光の粒子となって消えた。
「やった!」
「よくやったわね、ユニ。今日はユニのお手柄ね」
地面に着地してからノワールが変身を解く。
「え?でも私、1匹も倒してないし……」
「成果はね。でも、ユニに助けられたのは事実。ユニがいなきゃ、あのモンスター達を一網打尽には出来なかったわ」
ラステイションのとある森で猛威を振るっていた獣達。彼らは賢く、罠にもかからずに畑や牧場を荒らしていたために討伐の依頼が来たのだ。
ずる賢いモンスターをまとめて倒す手段としてユニは囮作戦を提案、ノワールを説得してその作戦を発動した。結果は、大成功。
「でもまだまだね。もっと頑張りなさい」
「……………」
(やっぱり、まだまだ、か……)
そう言われると少し凹んでしまう。せっかく今日も頑張ったのに。そもそも、完璧なお姉ちゃんを超えるなんてーーって、ダメダメ!
「ひたむきで負けん気、ひたむきで負けん気……!」
「ユニ?どうかした?」
「う、ううん!でもお姉ちゃん、次は見ててね!次こそは私、たくさんモンスター倒すから!」
「え?あ、ああ、うん。頑張りなさい?」
「よし、ひたむきで負けん気……!」
後ろを向いて呪文のように唱える。最近は、少し凹んでしまう度にこの言葉を思い出すようになってきた。
ミズキ、って人。その人の言葉。
この言葉を唱えると何だかやる気が湧いてくる。負けないぞって、勝ちたくなる。お姉ちゃんにだって、勝ちたくなる!
「さて、もう1つの依頼ね。パワフルコングのEX種の討伐よ」
「EX種……?」
「ユニは知ってるかしら、最近、各国に赤黒いモンスターの個体が発見されてるでしょ?」
「ああ。それなら聞いたことあるよ」
「それをこれからはEX種って呼称することにしたの」
各国に出没する赤黒い個体。赤黒くなった個体は通常種よりも凶暴さ、獰猛さが増してその一帯を荒らしまわる。
雑魚モンスターが赤黒くなっているうちはまだいい。EX種は誰彼構わず戦いを挑むので、さらに強いモンスターに倒されるからだ。
だが、中級や上級モンスターがEX化するととんでもないことになる。会ったモンスターを倒して捕食し、行動範囲を広げる。するとその一帯の生態系は破壊され、最悪街にも被害が出る。そうなる前に、女神達はEX種を倒すようにしていた。
「パワフルコングって中級モンスターだよね?」
スピードは遅いが非常にタフでパワーがある。基本的に数匹の群れで行動するモンスターだが、EX種ともなると1匹で行動している可能性が高い。
「そうね。でもEX種だから、上級モンスター並みの強さだと思うわ。気をつけましょう」
「うん」
上級モンスターってことは、それなりに危険。油断すれば、女神だとしてもただでは済まないだろう。
そんなモンスターに私が……私が……私が倒すんだ!そう、そう考えるのよ、ユニ!これはチャンスなの。お姉ちゃんに認めてもらうための!
「よーし!頑張ろうねお姉ちゃん!」
「え?う、うん?」
最近妹の様子がちょっとおかしいんだが。
ノワールはやたらとハッスルしているユニを冷や汗を垂らしながら見ていた。
ーーーーーーーー
「EXパワフルコングはラステイションの東の遺跡で発見されたらしいわ」
「結構、入り組んでるね……」
「そうね。まとまって、常に周りを警戒しながら行くわよ。変身」
ノワールが変身する。ユニと背中合わせに周りを警戒しながらゆっくりと進んでいく。
「ガルルル………!」
「⁉︎」
「どこ⁉︎」
モンスターが喉を鳴らす音が聞こえた。確実に、近くにいる。
「ユニ!上!」
「え⁉︎」
ノワールにつられて上を見るとこちらに向かってくる影が見えた。
「きゃあっ!」
「ユニ⁉︎」
「だ、大丈夫!」
間一髪で避けられた。
落ちてきた影は遺跡の地面に深くめり込んで周囲に振動を起こした。
「来たわね!」
「これが、EXパワフルコング……?」
「ゴアアアアッ!」
赤黒く変色したパワフルコングは雄叫びをあげる。周りには仲間がいる気配もないし、肉体もなんだかパンプアップしている。
そして何より、そのパワー。
「ゴアッ!」
EXパワフルコングが地面に拳を打ち付けるとまるで地震のような揺れが起こる。
「きゃあっ!」
ふらついてユニは倒れてしまった。
「ユニは後方支援を!早く!」
「わ、わかった!」
ふらついた体勢を必死に直して背を向けて遺跡の陰に隠れる。
(あそこ!)
そして遺跡の建物の1つにまで駆け上がった。
ノワールとパワフルコングが戦っているのが見える。
ノワールは飛べるために地震を気にする必要はないがパワフルコングも負けてはいない。強靭な筋力で飛びかかり、殴りかかる。
ノワールも既に何度か切りつけているが、全く効いている気配がない。
「くっ……いい子だから……動かないで……!」
スコープを覗いて照準を合わせてようとするが上手くいかない。パワフルコングは飛んだり跳ねたりして動きが落ち着かない。ノワールもそれでは狙撃がし辛いのをわかって低空を飛行し始めた。
(少し、危ない賭けだけど……)
チラリとユニを見る。
大丈夫。最近のユニは見違えるようになった。まだまだ頼りないが、心が強くなってきている。
「任せたわよ、ユニ!」
「ゴアアッ!」
パワフルコングの渾身の拳をノワールは大剣で受け止めた!
「くっ!」
「今だ!」
パワフルコングの動きが止まった、その隙!
「当たってっ!」
ライフルを3連射!
弾は全てパワフルコングに命中した、が。
「ゴア?」
「効いてない⁉︎そんな!」
パワフルコングの注意がユニに寄った。
パワフルコングはユニのいる遺跡に向かって飛びかかった!
「ユニ!」
「きゃあっ!」
ユニに向かって拳を打ち付けるパワフルコング。ユニはそれも間一髪で避けたが、追い詰められてしまった。
「こ、来ないで!来ないで!」
ライフルを連射するが全く効いていない。弾かれてしまっている。
後ずさりながらライフルを撃つが急に後ろの床の感覚がなくなる。
「行き止まり⁉︎そんな⁉︎」
下は硬い地面。空を飛べないユニでは、降りられない。
さらにライフルがカチ、カチと音を立てるだけになった。弾切れだ。
「あ………!」
「ユニから離れなさいよッ!」
「ゴアッ⁉︎」
パワフルコングが拳を振り上げた直後、飛び込んだノワールの大剣がパワフルコングの脇腹にめり込む。
「この……っ、ケダモノが!」
「ゴアアッ!」
そのまま吹き飛ばす。
パワフルコングは隣の建物の壁にめり込んだ。
「大丈夫、ユニ⁉︎」
「う、うん。ありがとお姉ちゃん……」
そうだ、パワフルコングは⁉︎
めり込んだ壁のあたりを見るとそこには確かに動く影があった。
「そんな、効いてない⁉︎」
「…………っ」
ノワールのいつもの剣なら倒していた。いや、少なくとも大ダメージは与えていたはずだ。だがさっき、パワフルコングの拳を受け止めた時。
(手首、が……っ)
ジンジンと痛む。捻挫しているのかもしれない。これでは……。
「ゴアッ!」
「お姉ちゃん、こっち来る!」
「くっ!」
仕方なく大剣を構えるノワール。
パワフルコングが今まさに飛び込んで来ようとした瞬間、その遺跡は巨大な足によって踏みつけられた!
「えっ⁉︎」
「なに⁉︎」
パワフルコングはその足に踏みつけられ光の粒子になって消える。その足の正体は……!
「赤黒い、エンシェントドラゴン……⁉︎」
「ウソ、でしょ……⁉︎」
さらにその悪夢は加速する。
そのエンシェントドラゴンの脇に、さらにもう1頭、エンシェントドラゴンが降り立った。
「お姉ちゃん、これって……!」
「EXエンシェントドラゴンの、つがい……!」
『ーーーーーーーーーー!』
「きゃあっ!」
「っ、く!」
その咆哮だけで吹っ飛んでしまいそうだ。
だが、2匹の様子がおかしい。
「こっちに、気付いてない……?」
「お姉ちゃん?」
「と、とりあえず隠れるわよ。まずは作戦を練るの」
「わ、わかった」
岩陰に隠れようとした2人。だが、その遺跡に声が響いた。
《待てっ!》
「グアッ‼︎」
「グアアアッ!」
「な、なに?」
どうやら、2匹のエンシェントドラゴンはその声に注意をしていたようだ。
ノワールは振り返って2匹を見る。そこには、威嚇しているエンシェントドラゴンと空を滑空する機人がいた。
赤、青、白のトリコロール。手には大きな赤の中に黄のラインが入った盾を持っている。もう片方の手には無骨な鉄色のライフル。背中には羽をX字に伸ばしたような赤いブースターがあった。
ーーーー『ガンダム 出撃』
「あ、あれは⁉︎」
「なに、あのロボット……」
ライフルの引き金を4回引く。放たれた緑色のビームは全弾エンシェントドラゴンに当たる。だが、全く効いていない。
「ゴアアッ!」
エンシェントドラゴンAが炎のブレスを吐く。その機人は盾で受け止めた。
そして着地、着地点に振り下ろされる爪を避けてまた空を滑空する。
「あんの、バカ……っ!」
どこの誰かもわからない民間人がこんな強力なモンスターに手を出して!このままじゃ死ぬに決まってるじゃない!
「お姉ちゃん、何するの⁉︎」
「あいつを助けて離脱するわ。ユニは先に逃げてなさい!」
「でも!」
「ライフルが効かないんだから、ユニがいても意味ないでしょ⁉︎」
「っ!」
「………いい?逃げるのよ」
ノワールはそう言って飛んでいく。ユニはそこから動くことができなかった。
(私……は………)
「そこのアンタ!援護するから、逃げなさい!」
《ノワール⁉︎ダメだ、離れろ!》
「なんで私の名前………っ⁉︎」
エンシェントドラゴンBがこちらを向いている。
口からブレスを吐く寸前だ。
《ノワール!》
その間に機人が入り込んで盾で庇う。
だが、機人は炎ブレスで視界がふさがれていた。
エンシェントドラゴンAの振り下ろす爪に吹き飛ばされてしまう。
《うわあっ⁉︎》
「アンタ⁉︎くっ!」
機人は吹き飛んでユニのいた遺跡の床に転がった。
「………っ、だ、大丈夫ですか⁉︎」
《あ、うん。全然無傷だよ》
「そ、そんなわけ………!」
だが確かにその装甲は土や砂で汚れているものの、傷は見受けられなかった。
PS装甲。それがその機人ーーストライクガンダムーーの防御力の秘密。
そしてストライクガンダム、もう1つの特徴は。
「くっ、こいつら!」
ノワールは空に飛び上がって間合いを取ろうとする。だが2匹のエンシェントドラゴンも翼を広げて空に飛び上がった。
《マズい、ノワール………!》
背中の巨大なブースターがパージされた。
ゴトンと音を立てて床にブースターが落ちる。
《ユニ、手伝って!》
「え、は、はい………え?」
なぜ、私の名前を?
だがそれを聞く前にストライクはライフルと盾も床に捨てた。
《換装!》
右肩と背中に新しい装備が追加された。緑色をしたミサイルポッドとバルカン砲が右肩に。そして何より、背中にマウントされた2mほどもある巨大な砲の存在が目を引く。
そう、ストライクの特徴はストライカーパックシステムと呼ばれる換装システム。その時の状況に応じて装備を変え、対応する。
この装備は砲撃戦用の装備、ランチャーだ。
《僕は奥のをやる!ユニは手前のエンシェントドラゴンを狙撃して!》
「そ、そんな……。私のライフルじゃ、効きません。多分、ちっとも……」
《だからってノワールが危ないってのに何もしないのか⁉︎》
「で、でも……」
《言ったはずだよ、負けん気を見せろ!》
「負けん気………」
その言葉を言ってくれたのはただ1人。まさか、その機人は………!
ーーーー『INVOKE』
「ミズキさん……⁉︎」
《行くよ、ユニ!》
「………っ、くっ!」
スコープを覗く。的はでかい、外すわけがない。だが、ただ撃っても蚊に刺されるほどしかないだろう。
硬い甲羅の合間を狙うしかない。そしてその中で1番ダメージの大きい場所!
(目を………!)
そう、目だ。どんな強靭な甲羅や鱗を持つ生物でも目だけは硬くない。そして、目は間違いなく急所の1つだ!
(落ち着いて………。大丈夫、ミズキさんが隣にいる……!)
手の震えを必死に押さえる。
そして唱えるんだ。ひたむきな心と、負けん気!
「そこっ!」
《いっけええええええッ!》
まず、ミズキのビーム砲からとんでもない太さのビームが発射される。赤い光を白で包んだような陽電子砲の照射がエンシェントドラゴンBを襲う!
「グアアアッ⁉︎」
「なに⁉︎」
《そこだああっ!》
さらに照射が続く。そしてエンシェントドラゴンBは光になって消えた!
ユニの撃った弾は真っ直ぐ飛んで行き、エンシェントドラゴンAの軌道を完全に読んだ。
まるで吸い寄せられるようにユニのライフルの弾はエンシェントドラゴンAの左目に命中した!
「グアッ⁉︎ゴッ、ガアアッ!」
エンシェントドラゴンAはたまらず地面に落下する。
「やった!」
《よし!ユニ、後は任せて!》
また装備を換装するストライク。ストライクはランチャー装備をパージして水色の装備を左肩と背中に装備する。その背中には大きな刀が装備された。ノワールが振るっている物よりも遥かに大きい大剣。
その装備はソード。近接戦用のストライカーパックだ。
「グアアアアアアッ‼︎」
こちらに向かって怒りの咆哮を浴びせるエンシェントドラゴン。だがソードストライクはそれに怯まず突進していく。
ブースターを吹かしながらジャンプするように移動する。
《ノワール、下がって!後は僕がやる!》
頭のバルカン砲を撃ちながらエンシェントドラゴンに向かう。
エンシェントドラゴンが吐いた炎ブレスを飛び上がって避け、左肩に装備された武器を引き抜いた。
ビームブーメラン、『マイダスメッサー』!
《てやっ!》
「グアアアッ!」
マイダスメッサーを投げる。それはエンシェントドラゴンの右の翼に切れ込みを入れた。
そしてブーメランは帰ってくる。それはエンシェントドラゴンの背中に突き刺さった。
「グアアアアアアッ‼︎」
「なんなの、あいつ……強い……」
ノワールはあっけにとられてその戦闘を見ていた。
EX化したエンシェントドラゴン2頭なんて私でも倒せるかわからない。それを、あの機人は簡単にやってのける。
ソードストライクは肩に対艦刀『シュベルトゲベール』を担いで急接近する。
エンシェントドラゴンはそこめがけて爪を振り下ろそうとするが………不意に。
ミズキの中で、何かが弾けた。
パリィィ……………ン………!
《ッ!》
ブースターで急接近しながらロケットアンカー『パンツァーアイゼン』を射出する。
アンカー先端のクローが振り下ろす前の爪に食いついた。
そしてアンカーが引き戻る力を利用してソードストライクは空へと高く飛び上がった。
《やあああッ!》
シュベルトゲベールを引き抜いて一閃!
エンシェントドラゴンの右腕が断ち切られた。
「グアアアアアアッ⁉︎」
「なんて、威力………!」
「すごい、ミズキさん……」
「グアッ!」
《うわっ!》
エンシェントドラゴンはボロボロの翼で羽ばたく。
その風圧をソードストライクはシュベルトゲベールを地面に突き刺して耐える。
《くっ、待てっ!》
「グアア!」
エンシェントドラゴンはフラフラと飛び上がって逃げてしまう。
唯一追えるのは空を飛べるノワールだが、あまり得策ではない。それに、ノワールはその場から動けなかった。
《逃したか………くそっ》
光に包まれてソードストライクへの変身が解ける。
そこにはミズキが立っていた。
「やっぱり、ミズキさんだ……」
「アナタ……ミズキ?」
2人がミズキに近づいてくる。ノワールは空から降りて、ユニは遺跡から駆け寄って。
「………うん、3日ぶり、かな。ユニ、ノワール」
ミズキはそう言って“くすり”と笑った。
アニメではオープニングの後は式典の1ヶ月後の話です。
今は式典からまだ3日しか経ってません()
ランチャーのアグニが2mなのはもともとの大きさが20mだからです。ガンダムは全長が大体18mなのでミズキの身長も計算しやすい180cmにしました。
もちろん、ラステイションに行ってストライクを出した理由は……ね?