超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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喧嘩の始まり始まり。味噌汁とか食べるんですかね。ネプギアの背中に鬼の顔とか普通に嫌です。


1vs1

百式はトリロバイトの戦法に苦戦していた。いわゆるヒットアンドアウェイというやつだ。

魚雷を撃ちながら突進、すれ違いざまにクローで挟もうとしてくる。

百式はギリギリ魚雷を撃ち落とし、間一髪でクローを避けているに過ぎなかった。

 

(いつやられても不思議じゃない……なら……!)

 

覚悟を決め、ビームサーベルを握り直す。

いざとなれば相打ちになっても倒す。

ヴァイエイトは首を切断すると沈黙した。ならおそらく弱点は頭部。そこを狙って捨て身で攻撃する。

 

牽制でビームライフルを撃つ。

しかし水中だということもあり、高機動であるトリロバイトには掠りもしない。

じきにトリロバイトが焦れて魚雷を撃ちながらこちらに向かってくる。

覚悟を決めて魚雷を撃ち落としていると、

 

《っ、これは……⁉︎》

 

水面から撃ち込まれる弾丸。

めちゃくちゃに乱射されるビームは幸運にも魚雷を撃ち落としてくれる。

いや、これは幸運なんかじゃない。

 

《ネプギア、ユニ……!》

 

トリロバイトがそのビームに狼狽え、百式とすれ違うのをやめようとする。

しかし、そうはいかない。

 

《モビルアーマーの、弱点は!》

 

百式が少し右に近寄れば逸れようとしたトリロバイトの軌道に重なれる。

 

《そんな勢いじゃ、ネズミが追えないんだ!》

 

小回りがきかないモビルアーマーは後退や急旋回することができない。できるのはせめて軌道をそらすことだけ。

その軌道上に百式は重なったのだ。

 

《!》

 

下手な鉄砲もなんとやら。

めちゃくちゃな射撃がトリロバイトに当たり、トリロバイトが体勢を崩す。

その隙を百式は逃さない。

 

《助かる……!やっぱり記憶がなくても、彼女らは……!》

 

ケミカルジェリーボムで機動力が落ちていても、前進することは出来る。

百式は素早くEパックをリロード、ビームを放ちながらトリロバイトに突進する。

ビームは何発もトリロバイトに直撃するが、それでも最後の足掻きとばかりにクローを伸ばしてくる。

それが百式に当たる寸前、

 

《頼りになる!みんなとなら、きっと!》

 

百式が跳ねた。

クローは空振りし、百式はビームサーベルを自分の下にいるトリロバイトに振る。

すれ違う勢いで勝手にトリロバイトのモニターが切り裂かれた。

 

《擬似太陽炉、3機。いただいていくよ》

 

トリロバイトが沈んでいく。

回収は後にするとして、百式は浮上した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《っ、ふぅ。あ、いたいた》

 

百式が水面から頭を出すとネプギアとユニと目が合う。

手を振るとネプギアが振り返してくれるが、ユニは手を振り返してくれない。

それにほんの少し苦笑しながら百式は大ジャンプして陸地に降り立った。

 

《はあ、手間かかるなあ……。海水浴びた上にこれじゃ》

「わ、なんですかこれ。カチカチですぅ」

《剥がすのには手間がかかりそうだよ。ったく、厄介なことしてくれたなあ……》

 

コンパとアイエフが先に寄ってくる。

それからネプギアとユニが戻ってきた。

 

「スミキさん、大丈夫ですか⁉︎」

《もちろん。擬似太陽炉もゲットだよ》

「敵は擬似太陽炉持ちだったの?」

《うん。後で回収してもらおう》

 

ネプギアとユニは地面に立つ。

 

《それと、ユニ。怪我はない?》

「え、私?そりゃ、私は何もしてないし……」

《違う違う。乱暴に投げちゃったでしょ》

「あ、それは、別に……」

 

少し膝を擦りむいた程度だ。

こんなの我慢できるしすぐ治る。こんな怪我でへこたれてはいられないのだ。

しかし百式は固まった足でぎこちなく歩いて近寄り、ユニの頭を撫でた。

 

《それでも、ごめんね。それともう1つ》

 

次の言葉がユニの胸を包む。

 

《助かったよ。とても》

「っ、そんなこと、は……」

《助かった。これは紛れもない、事実だ》

 

鉄の仮面なのに、温かく見える。

なんだか微笑んでくれている気がして、ユニはその景色に不思議なデジャブを感じる。

 

(………何か、を……)

 

何か大切にしていたものを失くしてしまったような気がした。

あるいはそれは物で。あるいはそれは人で。もしくは……言葉?

 

それと同時にユニの胸に湧き上がるのは、劣等感。

目の前の優しい男とネプギアに対して。

その強さを羨ましいと思う。

そしてスミキに褒められたこと。それがユニの中に疑問を生じさせる。

頼りになったのなら、私は、上なのだろうか。負けていないのだろうか。私が今までしてきたことの努力は実っているのだろうか。私が羨むその強さに届いているのだろうか。

 

「……勝負」

《え?》

「勝負、して。私と。今じゃなくていいけど、私……」

《僕と?……クス、そっか、わからないよね》

 

全て見透かしたようにスミキが笑う。

 

《じゃあ、ネプギアと勝負してみたらどう?》

「え、私ですか?」

《僕はこの通り、万全に戦えそうにないから。それに、ネプギアは君の友達でしょ?》

「ネプギア、と、勝負……」

 

ユニがネプギアを見つめる。

ネプギアもユニを見つめた。

 

「……わかった。やるわ。やりましょう。……本気で」

「……うん、わかった。手加減はナシだよ」

 

ネプギアが変身した。

ユニも自分の武器ーーX.M.Bーーを握り直して空を飛ぼうとする。

そのユニにスミキが声をかけた。

 

《ユニ、君のその気持ちを振り切る魔法の言葉を教えてあげる》

 

ふと、ユニの中で何かが脈動した。

 

《ひたむきな心と負けん気。……今度こそ、忘れないでいて》

「わかりました。……え……?」

 

自然に敬語が出た。

さっきまでタメ口で話してたはずなのに。しかも何だか、敬語の方が心地よい。

しかも、何故かこの言葉を聞くと……。

 

《行ってらっしゃい、ユニ。頑張って》

 

ユニはそんなことを言うスミキを見ながら空へ舞い上がった。

胸の中に広がるのはさっきまでの嫉妬とか焦燥などを全て消し去るような安心感。

全てのわだかまりを捨てた真っ白な気持ちでユニはネプギアと対峙できる気がした。

 

「行くわよ、ネプギア」

「うん、負けないから!」

 

 

 

「で、どういうつもり?」

《何も考えてないよ。ただ……ネプギアが相手した方がいいと思っただけだよ》

「みずみずはどっちが勝つと思うですか?」

《さあね。けど、間違いなく2人は強い。それに気付けるかだと思うんだ》

「なにそれ。ナルシストになれとでも言ってるの?」

《クスクス、そんな極端な話じゃないよ。でも、頑張った自分は認めてあげなきゃ》

「自分にご褒美ってことですか?」

「学生のテスト明けじゃあるまいし」

《クスクス、じゃあ僕は帰るね。これ、剥がさないとだし》

 

百式が光になって消えていく。

百式は最後にぶつかり合う2人の弾丸を見た。

 

「っ!」

「まだ……!」

 

2人が放ったビームがぶつかり合ったのだ。

お互いにビームは弾け、2人とも動き出す。

 

「誰が相手でも、弱点を突けば!」

「そこを補ってこそでしょ!」

 

ネプギアがM.P.B.Lを連射するが、全てユニにかわされる。

ユニは一発必中の心意気でX.M.Bを向ける。

 

「私は近接武器を持ってない……。ネプギアほど連射もできない、けど!」

 

ユニが放ったビームはネプギアへと真っ直ぐに向かう。ネプギアの動きを読んだのだ。

 

「っ、くっ!」

 

咄嗟に防御魔法で受ける。

しかしX.M.Bの威力が高く、ネプギアはガードしたものの後退してしまう。

再びネプギアが攻勢に出ようとした瞬間、背筋が凍るような危機感を感じる。

 

「っ!」

 

その危機感に従い頭を逸らすとこめかみをビームが掠めていった。動き損ねたネプギアの数本の髪が消える。

 

「単発の威力と……なにより、私の狙撃の腕が!」

「仕切り直して、好き勝手撃たせちゃダメだ……!」

 

ネプギアが大きく回り込むように移動してビームを放つ。当てようとしなくていい、当てなくていい。牽制になれば、狙撃の邪魔になれば。

しかしユニも牽制の射撃程度で狙撃ができなくなるほど臆病なわけではない。

虚と実の見分け。

動かなくてもいい射撃と動かなければならない射撃を見分ける。フェイントと本命を見分けるのだ。

そして自分は……!

 

「狙い撃つわよっ!」

「っ、く……!見越し射撃……!単純な動きじゃ読まれる!」

 

本命を撃ち続ける。それこそがネプギアへの牽制となる。ネプギアが近寄りたくなくなる。

ユニは完全にネプギアの動きを読んでいた。

それは一朝一夕で身につくものではないし、ましてや計算によるものでもない。

熟練のスナイパーだからこその感覚。それがユニに一瞬先の敵の動きを読ませるのだ。

 

「やっぱり、強い!あの威力は、手強い!」

 

やはり、脅威はX.M.Bの威力。

やっぱり……あれ?

私、ユニちゃんが変身したところ、見たことあったっけ……?

 

「そこッ!」

「っ、今は……!」

 

この違和感は捨てる。後で考えればいい。

この戦いに迷いはいらない。迷いや戸惑いがあれば、負ける!

 

「負けられない!なら……!」

 

X.M.Bとユニの狙撃の腕。

この2つをかわし、いなせるほどの機動力がなければ……!

 

「今度こそ!」

「プロセッサユニット、出力あげて!」

 

ネプギアはプロセッサユニットの出力を上げる。

ユニが放ったビームはネプギアを射止めるかと思われたが、ネプギアが急加速したために予測を外れ、虚空へ吸い込まれてしまう。

 

「この加速は、使えこなせるか、私次第!」

 

唸るプロセッサユニットの勢いのままネプギアがユニに向かう。

虚を突かれたユニが辛うじて狙いをつけてビームを撃つが体を逸らしたネプギアに避けられる。

 

「今!」

「しまっ……!」

 

その瞬間、ネプギアはユニの目の前に迫っていた。

反射的にX.M.Bを構えたが、多分それごと切り裂かれる。そうすれば攻撃の手段を失ったユニの負けになる。

届かない。自分の強さは誰にも届いていない。

1番身近な友達にも敵わない。こんなことではノワールを超えるなんて夢のまた夢だ。

 

悔しさにユニは切られる前から歯を軋ませる。

涙が滲む暇もない。切られる、そう思った時。

頭の中をノイズが駆け抜ける。知覚するのも遅れ、何よりも早く言葉が響く。

 

『ひたむきな心と負けん気』

 

「ーーーー!」

 

「っ、え⁉︎」

 

ネプギアが驚愕した。

ネプギアももらったと思った。これで勝ちだと思った。

真っ二つに切り裂かれるはずのX.M.B。その銃底にビームの刃が発振し、M.P.B.Lを受け止めている。

ビーム・ジュッテ。それがその装備の名だ。

 

「私が、勝つの……!」

 

歯軋りは力を込めるために使え。

涙は勝った時に流せ。

諦めるのは……もうナシだ!

 

「負けてたまるもんですか!アンタに勝つ!勝ってみせる!勝ちたいの!」

 





個人的に無茶苦茶便利だと思うんですよ、ビームジュッテ。正しくはジッテだとか銃につけるものじゃないとかいうツッコミはなし。
ちょっとした疑問なんですけど、ビームジュッテって斜めにも枝みたいにビームが突き出してるじゃないですか。あれ普通のビームサーベルじゃやらないんですかね。中世の剣みたいでカッコ良さそうですけど。

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