超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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先言っておきます。
自分はビジネスとか知らんです!


神宮寺ケイのビジネス術

逃げるように……いや、実際ネプギアから逃げてしまったユニは1人頭を抱えて俯いていた。

最低なことをしてしまった。いや、あんなことを考えていた時点で最低だ。

しかしユニの頭の中には自分を責める声とは別にもう1つ、不可思議な違和感とデジャブがあった。

それはこの気持ちに気付いてからだ。私は1度似たようなことを体験したことがあるようなデジャブ。私が声を荒げてネプギアを糾弾するとネプギアが何も言い返さずに黙って悲しそうに俯くのだ。

私がネプギアを糾弾すればどうなるだろう、ということをシミュレーションすればするほどその風景は確実に思えてくる。まるで迎える未来のような。あるいは、既に迎えた過去のような。

だから言えばネプギアがどうなるかわかっていたのに。凄く悲しむであろうことはわかっていたのに。未来がわかるからこそ、我慢しなければならなかった。未来が見えていたからこそ、言っちゃダメだと自分を律していたはずなのに。

 

「今度会った時……謝れるかな……」

 

本気でネプギアが嫌いなわけがない。むしろ好きだ。だからこそ仲直りしたい。ネプギアに非はないのだから。

でもネプギアも怒っているかもしれない。許してくれるかわからない。

自分が謝れるかどうかも心配だったが、ネプギアが許してくれるかどうかもわからない。

 

「ネプギア……」

 

ユニは深い溜息をついてトボトボと歩いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《ネプギア、大丈夫?》

「……はい、多分……」

 

ミズキが声をかけるがネプギアは俯いて歩くだけだ。時折通行人とぶつかりそうになって危なっかしい。

 

「いつまでもうじうじと引き摺らないの。今度会った時に謝ればいい話でしょ?聞いた話だと、ネプギアには非はないみたいだけど」

「ユニちゃんもギアちゃんのこと嫌いじゃないって言ってたです。きっと許してくれるですよ」

「はい……」

 

アイエフとコンパが励ますがネプギアは下を向いたままだ。

アイエフとコンパは似たような状況を知っている。マジェコンヌに女神達が捕まった時、ユニがネプギアに声を荒げたことがある。姉の代わりにネプギアが捕まれば良かったと。

 

(あの時の同じ……。でも、それなら簡単なはずなのに……)

 

一言ごめんなさいと謝れば済む話なのに。でもそうもいかないのだ。いろんな何かが邪魔をする。

 

ネプギアも不可思議な違和感を感じていた。頭の中にはさっきから微弱なノイズが走っている。

なぜだろう、私は似たようなことを言われたことがある。……ような気がする。

あの時も私は何も言えずに俯いていたのだろうか。だとしたら私は、何も変わっていない……。

 

「情報、集まらないですね」

「そうね。そもそもこんなに人が少ないんじゃ、集めろっていう方が無理よ」

《じゃあ、教祖のところに行けばいいんじゃない?ケイのところ》

「あ、あ〜……。あまり行きたくはないんだけど……仕方ないわね」

《なんで?悪い人ではないと思うけど……》

「いい噂も聞かないのよ。どっちかというと悪い噂を聞くわ。悪い人ではないってのはわかるけどね」

 

だいぶ前、ネプテューヌと別れて各国を回っていた時にミズキはラステイションに滞在したことがある。

その時にケイとは数度話したが、悪い人ではないはずだ。それにビフロンスとの決戦の時には力を貸してくれた。

それはアイエフもわかっているのか微妙は表情をしている。

 

「3人とも、ここの教祖さんを知ってるんですか?」

「ギアちゃんは知らないですか?」

「会ったことないんです。ユニちゃんとは話すけど、教祖さんとは1度も……」

 

だったら知らないのは当然か。

それにネプギアの記憶は3年以上前の記憶。会っていなくても不思議ではない。むしろ友好条約を結ぶ前まで記憶が遡っているのだから会っていない方が自然だ。

 

《ここの教祖は神宮寺ケイ。少し理屈っぽいけど、良い人だと思うよ》

「その理屈っぽいところが問題なのよ」

《あはは、手厳しいね》

「教会に行ったらユニちゃんもいるかもしれないです。その時は仲直りしましょうね」

「……はい」

 

4人は回れ右をしてラステイションの教会へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そこそこ歩いたところに教会はあった。

ネプギアが扉を開いて中へ入る。

 

「失礼しま〜す……」

《神宮寺ケイさんは、いらっしゃいますか?》

 

控えめにそろ〜っと入るネプギアの懐からミズキが教会中に響くぐらいの声で言う。

するとちょうど目の前にいる後ろを向いていた男……いや女の子が……女の子?うん、女の子が振り向く。

 

「やあ、待っていたよ。アイエフさんにコンパさんにネプギアさん。それに、スミキさん」

「え⁉︎ど、どうして私達のこと……!」

「君達のラステイションに来てからの行動は大体把握させてもらってるよ。プラネテューヌの行動もね」

「はあ、さすがの情報収集能力ね……」

《クスクス、それもビジネスの基本だもんね》

「ああ。そういうこと、だ」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ狼狽えたように喋るリズムが狂う。

何故自分の信条を知っていた?スミキという男とケイは会ったことがない。なら、ケイという人物を噂として知れても自分の信条など知るはずもないはずだ。

確かにこの言葉は使い古されたものかも知れないが……こういうことに鋭敏になっていて損はない。イストワールが事情を聞けと言ったほどの男なのだから。

 

「それじゃ、なんで私達がここに来たかも知ってるですか?」

「もちろん。世界中に散らばったシェアクリスタルを探している……合ってるかな?」

「す、凄いです!」

 

まあ、情報源はイストワールなのだけれど。もっと言うならラステイションに来てからの動きを把握してるなんて嘘だ。ハッタリだ。

これもビジネスの基本のうちの1つだ。

 

「じゃあシェアクリスタルのある場所を知ってるの?」

「もちろん」

「じゃあシェアクリスタルのある場所、教えていただけませんか⁉︎」

「まあ待ちたまえ。僕ばかり情報を提供するのはーーーー」

 

『フェアじゃない』

 

《だよね?クスクス……》

 

ケイの声とミズキの声が重なる。ミズキはクスクスと笑っているが、顔の見えない上にミズキの人格も知らないケイにはその笑いが全てを見透かされているような笑いに聞こえた。

まるで計算も思考も何もかも先回りされているようで、それを嘲笑われているようだ。

 

「……そういうことだ。こっちの持って来てもらいたいものを持って来てくれれば、シェアクリスタルのある場所を教えてあげるよ」

 

実はミズキは普通に会話が面白くて笑っているだけなのだが……。

ビジネスにおける失敗その1、深読みのし過ぎ。逆に言えば深読みさせるのがビジネスとも言えるかもしれない。ハッタリも深読みさせる手段の1つだろう。

 

「その、持って来てもらいたいものってなんですか?」

「擬似太陽炉とガンダニュウム合金」

《………!》

 

ミズキが息を飲む。顔が見えていたなら動揺は隠し切れなかっただろう。

 

「擬似太陽炉と、ガンダニュウム合金……?聞いたことない素材です」

「今、犯罪組織マジェコンヌが自立稼働しているロボットを使っているのは知っているね?君達も既に対峙したはずだ」

《ロボットじゃないよ、ケイ。あれはモビルスーツっていうんだ》

「ふむ、モビルスーツね。覚えておくよ」

 

ミズキは何故ケイが擬似太陽炉とガンダニュウム合金を知っているのか察しがついた。

おそらく、リンダ以外にもモビルスーツを使って悪事をしている者がいるのだろう。その中には擬似太陽炉とガンダニュウム合金を使った機体もあるはずだ。そこから奪い取った、ということか……。

 

「その中に擬似太陽炉という動力炉を使った機体とガンダニュウム合金の装甲を使った機体があるはずだ。その機体から奪い取って欲しい」

「なるほどね……。スミキ、それってどれくらいレアなの?」

《そうだね……。まだそれらを使った機体と遭遇してないからなんとも言えないけど、少なくともそれらの素材を使った機体は強力だよ》

 

ガンダニュウム合金を使った機体なら『ビルゴ』や『ビルゴⅡ』。擬似太陽炉を使ったのなら『GN-X』や『GN-XⅢ』、『アヘッド』などだろう。

何れにしても性能は相当高い。自動操縦とはいっても手強いだろうし、こんな高性能機を扱う構成員もそうそういるものではないだろう。

 

(やはり、素材を使った機体を知っている……。僕ですら大した情報は持っていないのに……)

 

「スミキが手強いっていうのなら本当に手強いんでしょうね。それ以前に見つかるかも怪しい、か……」

 

アイエフが深い溜息を吐く。

 

「無理ならいい。その時は僕もおとなしく諦めよう」

「く……足元を見て……!」

「……わかりました。私達、その素材を探してきます!」

「……ほう」

「それと、私、教えて欲しいことがあるんですけど……いいですか?」

「構わない。僕ももう1つだけ頼みがある。それと等価交換ということで」

「ちょっと待ちなさいよ。先にそっちの条件を聞かせてくれる?」

「しばらくの間、スミキさんと話したい」

《…………!》

 

再びミズキが息を飲む。今回ばかりは他の3人も息を飲んだ。

 

「別にどうこうしようってわけじゃない。本当にただ話したいだけなんだ」

「待ちなさいよ、スミキがいないと依頼の品を抱えた機体だって……」

《話そう、ケイ》

「そうよ、できるわけ……ってええ⁉︎」

 

アイエフがテンプレな驚き方をする。

 

《アイエフの携帯に素材を持っている機体のデータを送るよ。くれぐれも気をつけて》

「あの、せめて私達も……」

《ケイは2人で話がしたいみたいだから。大丈夫、たとえNギアが壊されるとしたって僕が死ぬわけじゃないんだ。それに、ケイがそんなことするわけないよ》

「でも……」

《ビジネスの基本……》

 

『信頼関係』

 

「かな?」

《クスクス、当たり》

「なんだか、意気投合してるです?」

「はあ、仕方ないわね……。話が終わったら連絡入れて?迎えに行くから」

《ありがと。それじゃ、くれぐれも気をつけてね》

「はいはい、せいぜい気をつけるわ」

《代わりに、ネプギアのお願いを聞いてくれるかな?》

「僕ができる全力を尽くそう」

「あの、私……ユニちゃんに会いたいんです。今どこにいるかわかりますか?」

 

多分、スミキさんは私の依頼がわかって了承してくれたのだと思う。私が依頼したい内容がわかっていたから周りの反対も押しのけて、快く引き受けた。

なら、私だって一刻も早く……。

 

「ユニかい?ユニなら、クエストを受けに行ってからまだ帰ってきていない。教会に帰ってきたら伝えよう。彼女に会えるまで、僕が全力を尽くすよ」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃ、その携帯を渡してくれないかな?がっつくみたいで悪いけど……」

「いえ、構いません。それじゃ、これ……」

 

ネプギアの手からケイにNギアが渡る。

 

「ありがとう。責任を持って管理するよ」

「はい。それじゃあ……」

 

3人が振り返って出口へと歩いて行く。

最後にネプギアは振り返って少しだけNギアを見てから去る。

部屋にはケイだけが残された。

 

「さて、それじゃあいいかな?」

《その前に、ここにはプロジェクターはあるかな?……顔を合わせて話をする必要があるかもしれない》

「……わかった」

 

ケイはNギアを大事そうに抱えて教会の奥へと消えた。




宝玉と血晶なら周回すればなんとかなる気がしないでもない。
擬似太陽炉は30機くらいしか配られそうにないし、ガンダニュウム合金があればガンダムが作れる。これ集めろって言われたらなんとかならない気しかしない。いや、擬似太陽炉があってもガンダム作れちゃいますけど。

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