「ん〜、着いた〜!」
ネプギアが両手を振り上げて歓声を上げる。
それはやっとラステイションに到着したという喜びもあるだろうし、ユニに会えるという喜びもあるだろうが……。
「さすがラステイション!機械がいっぱい!」
《やっぱり判断基準はそこなんだね……》
機械>ユニ。ユニが不憫だ。
「そ、そんなことないですよ?ユニちゃんに会えることも嬉しいです」
《ユニに“も”だよね、“も”なんだよね》
「いやあのそのっ!そういうわけじゃ……!」
「はいはい、そこらへんにしときなさい。ネプギアも機械はまた今度。私達はやることが山積みなんだから」
「は、はい……」
《クスクス、ごめんね》
歩き出してラステイションの街の中に入る。
(この街も変わらないな……。ノワールさえ、帰って来て……)
みんなの記憶が戻れば元通り。そうするためにもシェアクリスタルをなんとしても集めないと。
「まずは、どうするんですか?」
「とりあえず、ギルドかしらね。シェアを集めなきゃいけないし」
「シェアクリスタルに頼るんじゃなくて、地道にも集めなきゃいけないです」
「そうですね。情報も集められますし……まずはクエストをこなさなきゃ」
それ即ちネプギアの戦闘技術の向上にも繋がる。
恐れは振り切ったとはいえ、記憶が消えてしまったのはやはり大きい。今まで教えてしまったこと全て忘れてしまったのだから。体で覚えている部分もあるっぽいが、同行している身として逐一教えてあげるべきだろう。
「スミキさんは戦うんですか?」
《ううん。僕が戦うのは本当に危ない時だけにしておこうと思う。そう何度も使える代物じゃないしね》
「そうですか……。スミキさんが戦ってくれたら心強かったんですけど」
《アイエフとコンパがいるから大丈夫だよ》
「そうです!任せてくださいです!」
「そうやっておだてないの」
「え、おだててたですか?」
《クスクスクス……》
「ええ⁉︎そんな〜!」
そんな話をしているうちにギルドに着く。
だがギルドはほとんどがらんどうだ。閑古鳥が鳴いている。
「人がいない……」
「それだけこの国もマジェコンヌの支配を受けてるってことでしょうね」
(ユニは……無事、なんだろうか……)
ユニも自分の記憶は忘れているだろうが、どの程度なのだろう。もしかしたら思い出してくれるかもという期待を抱いてしまう。
「情報、集まるといいですね」
「そうね。ま、あんまり期待はできないけど……」
「あ、じゃあその間にお仕事もらって来ますね」
ネプギアが2人と別れて受付へと向かう。受付には奥の方に行くと数人は依頼を受けている人はいるらしく、ちらほらと人影が見える。それでも大分少ないが。少なくとも自分が1人でギルドに行った時は……?
「うっ……!」
あれ、私……1人でギルドに行ったことなんてあったっけ……?ずっとお姉ちゃんと一緒で……仕事の貰い方も知らなかったはず、なのに……。
待って?私、そもそもいつ変身できるようになったの?ギョウカイ墓場に行く時には既に変身できていたけど……あれ?
私は、変身できなかったはずじゃ……?
「ううっ、うっ……!」
頭を鳴らすノイズが激しくなる。
頭を抑えようと手を伸ばした矢先、ネプギアの目が誰かに覆われた。
「えっ、ええっ⁉︎」
ネプギアは目の前が真っ暗になってしまった!
ネプギアが所持金を半分ほど落としてしまいそうなところに聞き覚えのある声が聞こえた。
「ふふっ、だ〜れだ?」
「あっ、その声!」
手がネプギアの目から離れる。
ネプギアが後ろを振り向くとそこにいたのは……。
「ユニちゃん!」
「久しぶり、ネプギア。元気だった?」
「ユニちゃ〜ん!」
「きゃっ、ちょ、もう……」
嬉しさ余ってネプギアがユニに抱きつく。というか飛びつく。ユニは呆れたような顔をしてそれを受け止めた。
「会いたかった……会いたかったよ、ユニちゃん……!」
「ネプギア……」
ユニの胸に顔を埋めたネプギアが背を震わせる。ユニは優しい顔でそれを見たが、次にネプギアが顔を上げた時にはもうネプギアの顔に暗さはなくなっていた。
「ねえ、せっかくだから一緒にクエストに行こうよ!ユニちゃんが一緒なら心強いし!」
「もちろん。でも、私が受けたいクエストに行くわよ?ネプギアにレベルは合わせないから」
「うん、うん、大丈夫だよ!」
ネプギアがユニの手を取ってぴょんぴょん跳ねる。
ネプギアはアイエフとコンパを呼びに行く途中でふと、思いだす。ユニが来て思考が中断されたが……私はいつ変身できるようになったのだろう?確か、ユニも変身できなかった気がする……。
ネプギアの中に芽生えた違和感はもう消えなかった。
ーーーーーーーー
ラステイションの海の上に丸い点と点を繋いだような橋がいくつも架かる場所、そこがリピートリゾートだ。
そこを4人はさくさくモンスターを倒して進んでいた。
「やっぱり凄いね、ユニちゃん。強い……」
「まあ、それほどもあるかしら。努力の賜物よね」
2人が離れながら前を歩いている。
その後ろをアイエフとコンパが歩いていた。
「はあ、3年経っても性格は変わらないわね」
「いつも通りのユニちゃんです」
「ところで、ユニ様にもバラす気はないのよね?」
《うん、ないよ。あの頃に逆戻りしちゃったのなら、きっとユニは……》
また無理をしているはずだ。向かうべき目標であるノワールが近くにいない3年間だっただろうが……きっとユニならノワールを超えようと思うはずだ。
「ねえ、さっきからブツブツ話してるけど……通話してる人って誰?」
「え?ああ、クスノキ・スミキって言います。まあなんていうか……プラネテューヌの強い人とでも覚えてくだされば」
「ふぅん」
《よろしくね、ユニ》
ミズキがユニに挨拶をする。
ユニは肩にかかった髪を払って得意げに言った。
「まあ、強いって言っても私には敵わないでしょうね。なにせ、女神候補生だもの」
《クスクス、確かにユニは強いね。さっきから見てるけど、凄い射撃制度だと思う》
「でしょう?」
《でも僕だって負けられないな。男は女の子を守るものだし》
「私だって負けられないわよ。超えなきゃいけないんだから……」
「え?誰を?」
「え、あ、いや、なんでもない。こっちの話」
ユニは笑って誤魔化す。
(やっぱりノワールを追いかけてるんだ……)
多分、1人で。
この強さは大変な努力の賜物だろうけど、それでも……。
(僕も、みんなを守りたいから……。次は守り抜くから、だから1度だって……)
ユニに言えなかったもう1つの理由。
僕だって1度きりでも負けることは許されない。みんなを守り抜かなきゃいけない。取り戻さなきゃいけない。
「にしても、広いわね〜ここも。見晴らしがいいから迷いはしないもの、の……?」
「ですね。バーチャフォレストみたいに木が生えてたら迷ってたで、すぅ……?」
「アイエフさん?コンパさん?どうかしましたか?」
「なによ、そんなにピッタリ固まって」
2人がまるで金縛りにでもあったように固まる。
2人の目線の先を見るとそこには行き止まりの円に座っているフードを被った女の子がいた。
「……?なんか、見覚えがあるような……」
「知ってるの?誰よ、あれ」
「……下っ端……!」
「え、あ、ああ!」
「下っ端?」
アイエフの絞り出すような声にネプギアがそのシルエットを思い出す。ユニは訝しむように下っ端と呼ばれた女の子を見た。
するとネプギアの声に気付いたのかリンダが振り返った。
「あ〜あ、ったく退屈だぜ……って、あ!お前らあの時の!」
「し、下っ端さんですぅ!今度は逃さないですよ!」
「だから下っ端って誰よ」
「下っ端さんは下っ端さんだよ!マジェコンヌの下っ端!」
「マジェコンヌの……?」
「ええい、だから下っ端下っ端うるせえ!ちょうどいいぜ、退屈してたとこだ。出てこい、トリック様より預かったモビルスーツ達よ!」
「スミキ、ちょっと通話切るわよ」
《うん、危なくなったら呼んで》
プツリとミズキとの通話が切れる。
リンダが右手に持った鉄パイプを振り回すと4機のモビルスーツが舞い降りてきた。
モビルスーツとは言ってもその姿は人よりもむしろドラゴンに近い。首は長く、羽が生えて左右対称の手。ダークブルーの塗装が施されたその機体の名前はガフランだ。
「やっちまえ!あいつらをボコボコにしちまえ〜!」
リンダの号令で4機のガフランは一斉に空へ飛び上がった。
「あいつら、空に⁉︎」
「ユニちゃん、空なら私達が!」
「ええ、行くわよネプギア!変身!」
空を飛べるのは女神候補生2人だけだ。
ネプギアとユニは変身して飛翔し、アイエフとコンパはリンダの前に立ちはだかった。
「今度こそ、逃さないわよ!」
「逃げたかったら、私達を倒してからですぅ!」
4機のガフランは掌からビームバルカンを発射する。
2人はそれを軽々と避けてガフランに接近する。
「ええい、当たって!」
「アンタ達がマジェコンヌに属するっていうなら……!」
ネプギアが前に出てM.P.B.Lを撃つ。
それはしっかりとガフランに命中したがガフランの装甲に当たった途端弾けてしまった。
「ビームが、効かない⁉︎」
「倒す!私が倒して、追いつくの!」
入れ替わってユニが前に出た。
そして自分の身の丈ほどもあるX.M.Bを構えた。
「エクスマルチブラスタァァッ!」
X.M.Bから放たれたビームは装甲に弾かれることなく、ガフランを貫いた。ガフランの1機が爆発する。
「大したことないのね、マジェコンヌも!」
「私も、負けられない……!」
ユニがまたX.M.Bを撃つと正確な狙いで再びガフランに命中し、爆散させる。
ネプギアはM.P.B.Lを構えてガフランに接近した。
ガフランはビームバルカンの発射口からビームサーベルを展開したが、ネプギアはガフランが切りつけるよりも早く近付いていた。
「接近戦なら!」
「自動操縦って、癖があるのよね!」
ネプギアがガフランを切りつけて倒す。それと同時にユニは見越し射撃でさらに1機のガフランを倒していた。
「……どうよ!これが私の力!」
「ユニちゃん、凄い……」
地上ではアイエフとコンパがリンダを端に追い詰めていた。
「へっ、へへっ……お前らを倒す必要なんかねえんだぜ」
「はあ?何を言ってるのよアンタは。追い詰められて気でも狂った?」
「今はまだその時じゃねえ……。じゃあな!」
「あっ!」
「う、海の中に飛び込んじゃったですぅ!」
リンダはピョンと飛んで海の中へダイブしてしまう。コンパとアイエフが海の中を見るが、リンダの姿は何処にもない。息継ぎに出てくる様子もない。
「逃したか……」
「うぅ、また逃げられたですぅ……」
溜息を吐くと空からネプギアとユニが降りてきた。2人とも変身を解く。
「凄いね、ユニちゃん!3機も落としちゃうなんて!」
「まあまあね。ネプギアもそこそこやるんじゃない?」
「うん、本当に凄い……。私が捕まってる間も、頑張ってたんでしょ?」
「………っ……」
チクリとユニの胸に痛みが走る。
「ユニちゃん?」
「そ、そりゃそうよ。私は……頑張ってる」
ネプギアが帰ってきたことは素直に嬉しい。本当に嬉しい。この気持ちは嘘じゃない。けど、それでも、この胸に湧き上がってくるこのドス黒い感情も嘘じゃない。
「ユニちゃん、一緒に来てくれない?私達、先代女神が遺したっていうシェアクリスタルを探してるの。一緒に、お姉ちゃん達を助けるのを手伝って欲しいの」
「……ごめん、ネプギア」
「え……?」
当然来てくれると思ったのか、ユニの否定にネプギアが面食らう。
「どうして……?もしかして、用事があるとか?別に今じゃなくったって……」
「あのね、ネプギアのことが嫌いなわけじゃないの。……それでもね、私ね……?」
3年前、連れて行ってもらえなかった。
ネプギアは連れて行ってもらった。
そして今、ネプギアは帰って来た。
ノワールは、未だに帰ってこない。
「なんで、なんでお姉ちゃんじゃなくてネプギアなのって、思っちゃうの……っ!ネプギアよりもお姉ちゃんが帰って来てくれたらなって思うのっ……!ネプギアが帰って来たことは嬉しいのに、嬉しくないの……!」
「ユニちゃん……」
ユニは涙を流す。自分の気持ちがバカみたいで……情けない。ネプギアが帰って来てからずっとこの気持ちを抱いてた。自己中心的過ぎると思う。ネプギアだって姉と会いたいだろうに、私だけこんな気持ちになっている。
だけど、それでも自分の気持ちに嘘がつけない。それがひどく情けない。
「ごめんね、ネプギア……。私、こんな気持ちでネプギアと一緒に行けない……!」
「ユニちゃん!」
ユニは後ろを向いて走って行ってしまった。
ネプギアは追いかけようと、引き止めようと手を伸ばすが唐突に頭の中にノイズが走る。
「あうっ、あ……!」
私は似たようなことを、言われたことがある……?
違和感が消えてないですね。ほんの少しだけ記憶が戻る希望が見えて来た?
ガフランの咬ませ犬。むしろ咬ませ竜?