超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

107 / 212
何故こうなったのかっていう話。終わり方がグッドエンドとは違います。


ビフロンスの残した絶望

3年と、少し前。

ネプテューヌ達が記憶を失ったままギョウカイ墓場に突入した数ヶ月前の話。

そう、ビフロンスが世界を絶望に包み込もうとしていた時だ。

 

「みんな、力を貸して!」

「……もちろんよ!ミズキ、私の力を貸すから!」

 

ネプテューヌは自らのシェアのほとんどをミズキに預けた。ミズキの力は跳ね上がったが、その分ネプテューヌがガクンと力を失って飛ぶこともままならなくなる。

 

「ネプテューヌ、君は……!」

「いいの、ミズキ。信じてるから、私は!」

「ネプテューヌ……!」

「ネプギアも、いいわよね?」

「はい!ミズキさんなら、信じられます!」

 

ネプギアもフラフラと頼りなく空を漂うだけになっていたが、それでも笑顔でミズキを見る。

 

「ネプテューヌのシェアだけじゃ足りないんじゃない?私のシェアも使いなさいよ」

「ノワール……!」

「だったら、私も預けないわけにはいかねえな」

「私も、託しますわよ」

「ブラン、ベール……!」

 

本当は力を失って苦しいはずなのに満面の笑みで信頼を伝えてくれる。それは女神候補生も同じだった。

 

「任せました、ミズキさん!」

「執事さん、頑張って……!」

「あんなやつ、ぎちょんぎちょんにしちゃって!」

「みんな……。…………!」

 

ミズキはビフロンスを見据え、体からシェアを漲らせた。

 

「ミズキ!あいつはシェアを形にした剣で倒せるわ!きっと、アナタにも出来るはずよ!」

「シェアの……剣を……!」

「げっ、私それ苦手〜。でも、私だって作っちゃうんだから!作ってワクワク!」

 

ミズキは空中にシェアを形にした虹色の剣を作り出す。

だがビフロンスも空中に赤黒い禍々しい刀を作り出した。

 

「微塵切りで……ゾクゾク!」

「みんなの力が溢れる……!お前に、負けるもんかぁぁーっ!」

 

2人の戦いは一瞬だった。

切り結んだ瞬間、ビフロンスの刀が砕けたことで勝負がついたのだ。

 

「うっそ、呆気なさ過ぎない?」

「やぁぁぁっ!」

 

ミズキはビフロンスの胸に剣を突き刺し、そのまま空中に浮いた地球破壊爆弾に突き刺した。

それでビフロンスは消えるはずだった。

しかし……。

 

「く、ククク……!ヒッヒッヒ……!私が……タダで死ぬと思う?」

「っ⁉︎」

「それともう1つ。……私がこの程度で終わると思う?」

 

地球破壊爆弾が突如として落ち始めた。

方角は4国の中心のあたりに向かってだ。

 

「地球破壊爆弾なんてウソ!私がそんな似たような手段使うと思う⁉︎私が仕掛けたのは……これ!」

 

ビフロンスの体の中に埋まっていたのは小さな小さなサッカーボールくらいの黒い球体だった。

 

「まず、アナタを別の次元に閉じ込める……」

「っ、まさか!」

「この爆弾ね……?世界中からここ数ヶ月の記憶に鍵をかけちゃう爆弾なの……」

「っ、ビフロンス、お前!」

「バイバイ?アナタの記憶は世界中から消える……それが真の絶望!自分は覚えているのに皆は知らない絶望!悪意のない言葉が切り裂く!悪意のない行動が辛い!ヒッヒッヒ!ヒーッヒッヒッヒッヒ!」

 

ミズキは別次元……本当に何もない空間に閉じ込められた。

それは今も同じだ。今もまだその次元から脱出できずにいる。

ジャックはビフロンスが植え付けたウイルスのせいで死にかけた。自分の周りに強力なロックをかけて周りの世界から一切を遮断することで生き永らえた。

しかしジャックは幸か不幸かデータになったおかげで爆弾の被害を受けずにいたのだ。引き換えに自分でかけたロックを解除するのに数年の時を要したのだが。

そして世界中から数ヶ月の記憶は消え去った。

その爆弾の恐ろしいところは記憶を消し去ることでもなければ、範囲が世界中に渡ることでもない。

数ヶ月もの記憶を消す以上、必ず違和感が残る。いなかった子供が生まれたり、いたはずの人が死んでいたり。

その違和感を違和感にせず受け入れさせてしまうのがその爆弾の最も恐ろしい効果であった。

4国の中心に落ちたビフロンスが浮かべた大陸はギョウカイ墓場となった。

 

そして、ビフロンスの残した絶望は、それだけではなかった……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌ、バーチャフォレスト。

そこをネプギアとアイエフ、コンパがテクテクと歩いていた。

 

「……あ、いたですぅ!」

「ぬら⁉︎」

「逃がさないわよ!」

 

コンパが指差した先にいたスライヌをアイエフが両断する。

 

「よし。あと何匹?」

「あと……1匹です!」

「よし、もう1歩ね」

 

3人はギルドで依頼を受け、スライヌの討伐をしていた。大量発生したスライヌを減らして欲しいとのこと。

スライヌは雑魚中の雑魚、シェアが万全でないネプギアでも心配はない難易度だろうとこのクエストを受注したのだ。

そしてそれももう終わろうとしていた。

 

「結構動けるじゃない、ネプギア」

「そうですか?でも、まだまだ……」

 

ネプギアが先に歩いていく。

アイエフとコンパはそれを見て目を見合わせた。

 

「……やっぱり、怖がってるですぅ」

「表面じゃ勇んでても、心の奥底は素直ね……」

 

ネプギアの戦闘に恐れが見える。

昔の……ミズキが一緒にいた頃のネプギアを覚えている2人から見れば、今のネプギアの戦い方は臆病にも程があった。

 

「……あ、いました!」

「え⁉︎ど、どこですか⁉︎」

 

と言っても、これは一朝一夕でどうにかなるものではあるまい。

怖がっているのなら克服するしかないのだ。ネプギアが何を恐れているのかはわからないが、そこから逃げるわけにはいかない。

 

「ぬら⁉︎ぬ、ぬら〜!」

「あ、逃げました!」

「追いかけるわよ!こら〜、待ちなさい!」

 

一目散に逃げるスライヌを追いかける。

案外スライヌのくせして足が速く追いかけるのに手間取ったが、それでも人間に敵うはずもなく追い詰める。

 

「手間かけさせてくれたわね。それじゃ、こいつでラスーーー」

「ぬら!」

「ぬら?」

「ぬらぬら〜!」

「ぬ〜ら〜!」

「へっ?」

 

追い詰められたスライヌが号令をかけると周りから何匹ものスライヌが出てきた。

 

「こいつら、こんなに増えてたの⁉︎」

「か、囲まれちゃったですぅ!」

「誘き出された……?あのスライヌに⁉︎」

「ぬぅららぬらら(計算通り)」

「悔しい!なんか悔しい!スライヌごときにハメられるって腹立つわね!」

 

アイエフが憤慨するが冗談じゃないくらい数が多い。

3人は背中を合わせてそれぞれ相手の方を向く。

 

「いい?落ち着いて闘えば所詮スライヌ。余裕のはずよ」

「わかったです」

「……………」

「ネプギア?」

「あ、は、はい!わかってます!」

 

ネプギアはこの状況に強烈なデジャヴを覚えていた。

前も似たようなことが、あった、ような……。

 

ーーーーザザザザッーーーー

 

「っ、う……!」

 

またノイズと頭痛がネプギアを襲う。

 

(いつ……⁉︎私、こんなにたくさんのモンスターを相手にしたことなんて、1度も……!)

 

「ネプギア?」

「な、なんでもありません……っ」

 

その疑問は2の次だ。今は目の前のスライヌを倒すことが先。

そう思ってノイズを追い出そうとすると、案外そのノイズはすぐに消えてくれる。

そしてネプギアはその違和感すら完全に忘れた。違和感があったことすら忘れたのだ。

 

「行くわよ!」

 

アイエフの号令で3人が一斉に飛び出した。

次々とスライヌが3人の攻撃で倒されていく。

ネプギアの動きは危なっかしいものだったが、それを抜きにしてもアイエフとコンパの動きはネプギアと一線を画していた。

 

「ふっ、はっ、ふっ、そこ……っ!」

「っ、えいっ!やっ、やあっ!」

「凄い……」

「3年間、遊んでたわけじゃないのよ!」

「私達だって、強くなったんですぅ!」

 

そう、3年間遊んでいたわけではなかったのだ。

ミズキに稽古をつけてもらっていた。ミズキが直接相手をすることはできなかったが、それでも口でアドバイスをしてくれた。

そして習得したのだ。ミズキの間近で光を3度浴びてようやく、2人の体の中にもガンダムの力が宿った。

 

「こんなんで手こずってたら……ミズキに笑われちゃうのよね……!」

 

ネプギアにはその名前が聞こえないようにポツリと呟く。

スライヌの数は減ってきていた。

 

「ぬ、ぬら……!」

「ざっとこんなもんよ」

「ぬ、ぬららら〜!」

 

スライヌが号令をかけると散らばっていたスライヌが1箇所に集まった。

そしてお互いにくっつき合い、融合して大きさを増していく。

 

「ぬぅらぁ〜」

「お、大きくなっちゃった!です!」

「耳を大きくしてる場合じゃないの。チッ、ちょっとこれは面倒ね……」

 

ビッグスライヌへと合体したスライヌがこちらに向かって突進してくる。

3人は横に飛んでそれを避けた。

 

「そうだ、ネプギア。変身してパパッとやっつけちゃなさいよ。リハビリ代わりよ」

「変、身……?」

「そうよ、女神化よ。できるでしょ?」

 

ふと、ネプギアの頭に浮かぶのは3年前の記憶。マジックの恐怖。

 

「い、いや………」

 

全然敵わなかった。強すぎた。

襲いかかる、痛み、苦しみ、辛さ……。

 

「いや……!怖い……!」

 

ネプギアが体を抱え込んでしゃがみこんでしまう。

あの時の記憶が頭から消えない。マジックの恐怖の前では他の女神候補生への感謝など微塵も残らず吹き飛んでいた。

 

「私、戦えない……!」

「ぬぅらぁ!」

「っ、ネプギア……!コンパ!」

「はいですぅ!」

 

コンパがネプギアの前に立ちはだかってビッグスライヌの攻撃を受ける。

コンパが発動させたのはチョバム・アーマーのスキル。強度に限界はあるものの、物理攻撃のダメージを0にできる。

しかしその質量までは受け止められず、コンパは吹き飛んでしまう。

 

「きゃあっ!」

「コンパ!」

「っ、コンパさんっ……!」

「だ、大丈夫です!それより……!」

 

尻餅をついたコンパだったが素早く立ち上がる。目の前にはこちらを見下すビッグスライヌ。

 

「くっ、もう!本当はこんなシステム使いたくないのよ⁉︎毎回毎回暴走の危険があったら危なっかしくてたまらないじゃない……!」

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

「うあっ、くっ……!さっさと倒れてよ……⁉︎」

 

アイエフの目が赤く光り、コートの中から自動拳銃を2丁引き抜く。そして回り込みながら銃を撃ち、ビッグスライヌに接近して行く。

アイエフのスキルはEXAMシステム。人やモンスターの持つ殺気を感じ取り、そこから位置の特定や攻撃の回避をさせるシステムである。

しかしこのシステムは使うと自動的に敵を殲滅しようとする。そのためアイエフがこのシステムを抑え込まなければ暴走して周りの人間すら傷つける恐れのあるシステムでもある。

 

「そんなでかい図体で!私の攻撃が避けられるかしらッ⁉︎」

 

1度アイエフはこのシステムの殲滅衝動に屈して暴走したことがある。その時はやっとの思いでコンパが麻酔を打ち込んで止めたのだ。

2度とそんなことはしないという責任も覚悟もある。

しかし、それでも……!

 

「早く倒さなきゃ、早く……!」

 

アイエフは袖口からカタールを抜いて銃を撃ちながらビッグスライヌに迫る。

 

「ぬらぁ!」

「遅い!」

 

ビッグスライヌが突進を仕掛けようとした瞬間には数撃の攻撃が入っており、そして既に回避行動に移っている。

 

「ぬらぁ!ぬぅぅらぁぁ!」

「そうやってアナタは!全てのスライヌを見下すのね⁉︎」

「ぬらぁぁ!」

「その傲慢さと!ついでに私達をバカにした罪!償いなさい!」

「ぬらぁぁぁぁぁぁ!」

 

アイエフがカタールで何十本もの斬撃を浴びせた。

 

「オマケの、お注射ですよ!」

「ぬらっ⁉︎」

 

悲鳴をあげるスライヌにコンパが大きな大きな注射器をドスリと突き刺す。

すると……。

 

「ぬ"ら"ぁ"ぁ"……」

(だから!マジでアレ何の薬品よ!王水だってこんなことにならないわよ!)

 

ドロッドロの液体に溶けて地面へと吸い込まれて行く。

トドメをさせてご機嫌な笑顔のコンパを冷や汗を垂らしながら見る。

もし、暴走した時。アイエフに注入されるのがあの液体だとしたら。

 

「…………………」

 

暴走はしまい。自分のために。うん。

アイエフがEXAMシステムを切ると瞳の色が元に戻る。

 

「ふぅ、なんとかなったわね」

「………あ、あの……ごめんなさ、私……」

 

叱られるとでも思ったのだろうか。

ネプギアが座ったまま首をすくめている。

そんなネプギアをアイエフは優しい瞳で見つめた。

 

「何言ってんのよ。怪我はない?」

「は、はい……」

「ならいいのよ。さ、帰りましょう。クエスト達成の報告もしないといけないし」

「………はい」

「本当に、怪我はないですか?」

「はい。本当です。本当に……」

(心の方は致命傷みたいだけどね……)

 

アイエフは心の中だけでそう呟く。

 

(こんな時、ミズキがいたらね……。でも、今は会えないのか)

 




チョバムアーマーでした。ジャッジの斧を受け止めるレベル。何それやばくない?って自分で思ってます。まあ、ほら、ジャッジの時は1発でチョバムアーマーの耐久値が0になったってことで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。