超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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ミズキは一体何をしていたのか。ギョウカイ墓場にはいなかったけれど、何をしているのだろうか…って話です。

それとシルヴィアの挿絵ができました。ここと、説明書に載せておきます。


【挿絵表示】



現れるミズキ

ふと、ネプギアは目を覚ます。

背中には柔らかい感覚。これは……ベッドだろうか。しばらく捕まっていたから、ひどく心地よい。

体を起こして空気を吸うと懐かしい香り。

不意にネプギアは身体の中から湧き上がるものを感じた。

 

「……っ、うくっ、ひっく……!」

 

帰ってこられたのだ、という感慨もある。懐かしさや安堵もある。

だがそれ以上にネプギアは自分が情けなくて涙を流した。

最高の場所での最高な朝なはずなのに、寝覚めは最低だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはひとしきり泣いた後、顔が赤くなっていないことを確認してイストワール達がいるであろう、教会の中心部へと進んだ。

何も変わっていない。間取りも、空気も、感覚も。全てが3年前と同じなのだ。

いや、同じではない。隣を歩く姉がいない。

元気に笑って軽やかに階段を登る姉と……姉と……?

 

ーーーーザザッーー

 

「……っ」

 

ネプギアの頭にノイズが走る。

足りない、のは……そう、ネプテューヌだけのはずだ。そのはずなのだ。

だがネプギアの記憶にはネプテューヌの隣を歩く、もう1人の姿が……。

 

ーーーーザザザザッーーザザザザーー

 

「っ、く……!」

 

思い出そうとすると頭にノイズが走る。

あまりのノイズにネプギアは頭を抑えてしゃがみこんだ。

いる、はずなのだ。ネプテューヌの隣の人物がまるで黒いペンで塗り潰されてしまったように思い出せない。

 

「っ、はぁ………」

 

ネプギアは頭を抑えながら手すりを掴んで立ち上がる。

 

「誰、なの……?お姉ちゃんの隣にいるアナタは、誰なんですか……?」

 

そう問いかけても誰も答えてはくれない。ネプギアの疑問の声は微かに反響し、次第に消えていく。

すると下から階段を登る足音がした。

 

「あ、ギアちゃん!」

「あ……コンパ、さん……」

「も、もう大丈夫なんですか⁉︎」

「は、はい。もうこうして歩けます。全然大丈夫ですよ」

「5日も寝てて心配したんですよ〜……!良かったですぅ……」

「私、5日も……」

 

そんなに寝ていたのか。

驚くネプギアにコンパが歩み寄る。

 

「ところで、何をしてたんですか?考え事してたみたいですけど」

「え……?……あれ、私何を考えてたっけ……」

 

………思い出せない。

何を考えたんだっけ。

そうだ、お姉ちゃんがいなくて寂しいなってことだ。

………うん、それだけのはず。

 

「……本当に大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!ちょっとぼーっとしてただけですから!さ、行きましょうよ。上に皆さんがいるんですよね?」

「はい、いるですぅ。足下気をつけてくださいね」

 

コンパが気遣ってくれる。

もうノイズのことなんて、忘れていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはコンパと一緒にドアの前に立つ。

ふと、ネプギアはドアを開けようとして怖気付く。

………失望、されているだろうか。

戦いには負け、1人だけおめおめと逃げ帰ってきた。逃げる時でさえ、足手まといだった。

ネプギアの胸の中に再び暗雲のような情け無さが立ち込める。

だがそんなネプギアの気持ちを知ってか知らずかコンパがドアを大きく開いた。

 

「いーすんさん!あいちゃん!ぎあちゃんが起きたですよ!」

「ネプギアが⁉︎あ、ネプギア……!」

「ネプギアさん……良かった……」

 

2人はネプギアを見ると本当に心の底から安心したような顔をしてくれた。

ネプギアもその顔を見て安心し、部屋の中へと入ることができた。

 

「もう、お体は大丈夫なんですか?」

「は、はい。あの、私……ごめんな……」

「申し訳ありませんでした」

 

イストワールが近付いて気遣ってくれる。

ネプギアは頭を下げて謝ろうとするが、それより先にイストワールが頭を下げた。

 

「全ての責任は私にあります。皆さんを無謀な戦いに行かせてしまった……。ロクに敵の戦力も調べず、杜撰にも程がある作戦を……」

「そ、そんな!いーすんさんは悪くないです!私が、私の力が足りなかったから……」

 

ネプギアが俯く。

 

「……聞かせてもらえますか?3年前、ギョウカイ墓場で何が起こったのか」

「……私は、いまでも信じられません……」

 

……3年前。

4人の女神とネプギアはマジェコンヌ四天王の1人、マジック・ザ・ハードと合間見えた。

……手加減したわけじゃない。油断したわけでもない。何か怪我をしていたわけでもない。

全員が万全で、コンビネーションも完璧だった。あの時なら何者だって敵ではないと思えた。例えシェアが足りなくても、それを覆す力があると思えた。

………甘かったのだ。

みんな倒された。5対1だったのに。

全く歯が立たなかった。あっという間に全員が倒された。

 

「私、あの時……立ち向かえなかった……!最後に、私は……!」

 

助けて、と叫んだのだ。なんと、情けない。

足がすくんだ。手が震えた。そして立ち向かうことすらできずに自分も負けた。

 

「ネプギアさん……」

「信じられない……。ネプ子達が、たった1人に……⁉︎」

「あんなに強い女神さん達でさえ……」

 

ネプテューヌ達、4人の女神を相手にして勝てる者などいるのだろうか。

……いや、知っている。今この場でネプギア以外はその男の名前を知っていた。

 

「それで、あの……ゲイムギョウ界はどうなったんですか?私、3年も捕まってたんですよね……?」

「……事態はかなり深刻です。犯罪組織マジェコンヌの脅威は世界中に広まり、その名を知らぬ者は1人もいません。やはり『マジェコン』の影響が大きいかと……」

「マジェコン……」

 

違法コピーツール、マジェコン。平たく言えば、マジェコンがあれば世界中のゲームをタダで遊べてしまうのだ。

しかしそれはクリエイターやショップの破滅を意味する。どれだけ面白いゲームを作ってもマジェコンによってコピーされてしまい、売れないのだ。

つまりマジェコンはギョウカイ墓場にシェアを集めると共にゲイムギョウ界の荒廃すら進めてしまう機械だったのだ。

 

「ですが、希望はあります。……きっと、彼が……」

「え?何か言いましたか?」

「いえ。……なんでもありませんよ」

 

ちらりとイストワールがアイエフとコンパの方を見る。

その目線を見た2人はコクリとうなづいた。

 

「兎にも角にも、まずはシェアの回復からです。ネプギアさんが帰ってきたことで、シェアを回復させることができるようになりました」

「私が、シェアを……」

「はい。ネプギアさんがシェアを回復させていけば、犯罪組織もそれに属する者達も弱体化するはずです。それに、女神候補生はネプギアさんだけではありません」

「そっか……。ユニちゃんと、ロムちゃん、ラムちゃんが……」

「はい。ネプギアさん達を助けるためのシェアを集められたのも、彼女達の尽力あってのこそです。ネプギアさんが寝ていた時も、仕事の合間を縫って1度プラネテューヌに来てくれたんですよ」

「え⁉︎ほ、本当ですか⁉︎」

「本当よ。ネプギアのことを本当に心配してたし、安心もしてたわ。……いい友達を持ったわね」

 

アイエフが温かい目でネプギアを見る。

 

「恩返しのためにも、他の国のシェア集めも手伝うですよ!」

「その前にプラネテューヌのシェアを集めてからね。プラネテューヌのシェアがなくなったら元も子もないんだから」

「そ、そうでした……」

 

えへへとコンパがばつが悪そうに苦笑いする。

 

「ネプギアさんは、今日はもう休んでください。明日から本格的にシェアを……」

「……行きます」

「え?ちょ、本気?」

「はい、本気です。みんなが頑張ってるのに、私だけ寝るなんて出来ません」

「……止めても無駄みたいね」

 

ネプギアの強い瞳にアイエフは呆れたようにやれやれと手を振る。

 

「仕方ないわね。でも、私とコンパも一緒よ」

「ギアちゃん、頑張りましょうね!」

「はい」

 

3人が部屋を出て行く。

しばらくしてその閉じられたドアがもう1度開かれた。

扉を開けたのはアブネスだった。

 

「………良かったの?『ミズキ』」

 

アブネスがその名前を呼ぶと空中に人が投影される。

立体的な映像としてその場に立っていたのは、クスキ・ミズキだった。そして隣にはジャックも像として投影される。

 

《……うん、良かったんだよ。今はまだ、ネプギアは僕に会っちゃいけない》

「どうしてですか?きっとネプギアさんなら思い出して……」

《思い出したとしてもだ。同時にネプギアは強い後悔と嫌悪感に苛まれてしまうだろう。今でもただでさえ自分を責めているのだ。……と、言いたいのだろう?》

《うん。ユニやロム、ラムに会えないのもそれが理由》

「……嘘ね。怖いだけでしょ?」

《……クス、図星》

 

ミズキはアブネスの指摘に寂しそうな顔で笑う。

 

「にしても、すっかり忘れてるのね。アナタがいないことに違和感すら感じないだなんて」

「私達もそうでした。そして……そのまま……」

 

そのままギョウカイ墓場に捕らわれてしまった。忘れてしまったまま、2度と会えないだなんて許されない。

 

《アイエフも、コンパも、イストワールも思い出す時は大変だったんだ。……本当に》

「私だって大変だったわよ。アナタに取材してなかったらどうなってたことか」

 

アブネスがミズキに取材し、残した資料。それが失った記憶を呼び起こす風となったのだ。

アブネスがその中にあるワードに違和感を感じ、それを追い求めてようやくミズキのことを思い出したのだ。

そして、その記憶をイストワール達に伝えた。

 

《それもそうだけどね。……辛かったと思う。アイエフもコンパもイストワールも今は自然に笑ってるけど……数ヶ月前はそんなことできなかったから》

「失われた記憶……それを呼び起こすことは大変な嫌悪感を催しました。何もかもが信じられなくなり、忘れていたことで自分を責めてそのまま苦しみ続ける……」

《ビフロンスが残した絶望は……まだ生きている。そして大きくなりつつある》

《早く止めなきゃ。……手遅れになる前に》

 

プツン、とミズキとジャックは消えた。




アブネスいい立ち位置。マジいい立ち位置。

それでは感想と活動報告で待ってます。

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