小屋で準備を整え、荷物を背負って小屋を出る。
内外の温度差にロムとラムが悲鳴をあげた。
「さむい……」
「へえ、2人も寒いって言う時があるんだね」
「当たり前よ!私達をなんだと思ってるの!」
まあ、寒いで済むあたり2人の耐性は高い。
ちなみに僕は凍えそうです。
「ねえ、お姉ちゃん。何処にモモンガさんはいるの?」
「……………」
「お姉ちゃん?」
「……あ、いえ、なんでもないわ。密猟者が出没する場所はあの森のあたりよ」
ブランが指差す先には葉を落とした木々の森がある。針葉樹は辛うじて葉をつけていて、緑と白のコントラストが美しい。
「あそこにモモンガがいるの?」
「……多分」
プイッと顔を逸らされてしまった。返答も最低限の言葉だけだ。
「……まあいいか」
本当は良くないけど。さすがにこれはロムを恨んでもいいよね。
「……?どうしたの、執事さん。なんで見つめてるの?」
「……いや、なんでもない。ところでラム、ギロチンって知ってる?」
「ぎろちん……?ううん、知らないわ。なにそれ?」
「……とってもいいものだよ」
「?」
ブランの調子が悪いためにツッコミが機能しない。無垢な2人は首を傾げるだけだ。
「………待って」
森に近づいたあたりでミズキが静かに声を出す。
「どうかしたの……?」
「(シーッ)」
ミズキは口に手を当てて黙るように身振り手振りで指示する。3人はそれを見て口を閉じ、動きを止めた。
「……………」
何故ミズキがそんな指示を出したかわからなかったが、しばらく後に音が聞こえて自然と耳をすます。
まるでエンジン音のような、何かが駆動する音……。
「あっちか……!」
ミズキがバッと振り向いた先から音が大きく聞こえる。それは段々と大きさを増し、森の中から飛び出した。
「ヒャッハー!」
「いた!」
3つのスノーモービルに乗った奴ら。合計3人。
なるほど、アレがあれば足場の悪い雪山でも素早く移動できる。
「あいつらがみつりょーしてる⁉︎」
ガラの悪い顔つき。手に持った銃。さらにカゴの中には数匹の傷ついたエンジェルモモンガとあれば、密猟しかありえない。
「捕まえるよ!」
「逃さないわよ、変身!」
「変身……!」
ロムとラムが変身した。しかし……。
「さ、さむ〜い!なによこれ!上着もなくなるの〜っ⁉︎」
「お肌が……痛い……!」
「そ、それは我慢してよ……」
2人が体を震わせた。でも、そこそこ肌を覆う面積が多いスーツなのだからここは頑張ってもらいたい。
「お姉ちゃん……?お姉ちゃん……!」
「っ、え、ええ。わかってるわ。変身……!」
変身したブランも一瞬寒さに身を震わせるが、斧を振り払うのと同時にそれを振り払う。
「テメエら、逃げられると思うなよっ!」
「あいつら、女神ぃ⁉︎」
「ど、どうします兄貴!」
「どうするもこうするも逃げるしかねえだろ!金ヅルだけは落とすんじゃねえぞ!」
3人はスピードを上げて逃げていく。しかし、森を抜ければそこから先はスキー場のような見晴らしのいい斜面だ。
「見失う方が難しいぜ!」
「いくらスピードがあったって!」
「あの乗り物だけ、撃ち抜くよ……!」
ロムの杖の先に小さな氷の粒がいくつも作られてまるで雹のように密猟者に襲いかかる。
「チッ、撃て、撃て!」
「させないよ、変身!」
ミズキが変身すると……まさかの、戦闘機へと変身する。
「なんだあのオモチャは!」
現れた戦闘機に密猟者が発砲する。
しかし戦闘機は急上昇し、それを避ける。その隙に戦闘機を挟むように2つのユニットが現れた。
「な、なにぃ⁉︎」
「合体、した⁉︎」
そのユニットが戦闘機と合体し、人型になる。灰色に覆われたそのシルエットはまさしくガンダム。そう、ミズキが変身したのはインパルスガンダムだ。
《逃さない……!》
インパルスの装甲に色がつき、上半身は青を、下半身は白を基調とした色になる。
左手の盾は拡張し、右手に持ったライフルでスノーモービルを狙い撃つ。
「うおわっ!」
素早いモービル捌き、とでもいうのだろうか。間一髪のところでビームを避けたが、インパルスは接近をやめない。
《3人とも!》
「ええ!アイスコフィンっ!」
「私も、アイスコフィン……!」
ロムとラムがそれぞれ大きな氷塊を撃ち出す。
それは密猟者達の進行コース上に落ちた。
「うおおっ!」
「あ、危ね……うおわっ!」
焦ってハンドルを切った子分の密猟者2人がスリップして雪へとダイブする。空へ飛んだエンジェルモモンガが入ったカゴはロムとラムがそれぞれしっかりキャッチした。
「もう大丈夫だからね?」
「怖かったね……」
《フォースシルエットを!》
インパルスの後方から新たな戦闘機が現れた。戦闘機に装着されていたシルエットがパージされてインパルスの背中に装備される。
インパルスはストライクと同じように装備を変えることができるガンダム。
今装着したのは機動力重視のフォースシルエット。それを装備したインパルスはフォースインパルスとなって単独飛行が可能になるのだ。
《はぁぁぁっ!》
「私が行く!」
空を飛んだインパルスが低空飛行で密猟者に接近するが、その横をブランが追い越した。
《ブラン!》
「私は……!っ、心配いらねえよっ!」
加速したブランがあっという間にスノーモービルに追いついた。
「チッ!」
「大人しくしてろっ!」
ブランの斧がスノーモービルを切り裂いた。
「っ、と……」
バランスを崩したスノーモービルからモモンガが入ったカゴが飛んで行く。
ブランはそれをキャッチしたが……それに気を取られていた。
「誰が大人しく、捕まるか……」
《ブラン、危ない!》
「っ」
「食らいな、女神!」
ピンを抜いて密猟者が投げつけてきたものは、手榴弾だ。カゴを取ることに気を取られていたブランはそれを避けられない。
《ブラン!ぐあっ!》
ブランを抱きかかえて背中で手榴弾を受け止める。
「っ、ミズキ⁉︎」
《大丈夫、怪我はないよ……!》
インパルスが装備するVPS装甲は実弾では傷つかない。若干、衝撃は効いたけど……。
「この、よくもやったわね!」
「絶対許さない……!」
ロムとラムもこちらに飛んでくる。
しかし、2人は異音に体を止めた。
「なに?この音……」
「ゴゴゴ……って……」
ゴゴゴ……と腹に響き渡るような音。
「この音……!ロム、ラム、逃げろっ!」
「え?……あれ……!」
「え、え、な、なによアレは!」
腕の中でブランが声を上げる。
その声につられてインパルスも山頂の方を見る。そこには……。
《雪崩れ……だってぇ⁉︎》
粉々に崩れた雪が波のようにこちらに向かってくる。あんなの、防ぎようがない!
「おおかた、手榴弾とかが原因だろうなぁ!クソッ!」
《2人は逃げて!早く!》
「執事さん達は⁉︎」
《僕達は僕達で逃げる!モモンガの治療もしなきゃいけない、1人で山を降りられるね⁉︎》
「わかった……!行こう、ラムちゃん!」
「わ、わかったわよ!って、こいつらは⁉︎」
「た、助けてくれぇ!」
「あ〜もう!逃げ遅れたらあんたらのせいだからね!銃とか重いものは捨てなさいよ!」
ロムとラムは片手にモモンガを持ったカゴ、もう片手に大人を1人持ち上げて重そうにしながらも雪崩れの範囲から逃げるべく飛び上がる。
「オラ、テメエも逃げるぞ!」
「う、うるせえ!誰が騙されるか!」
「生きるか死ぬかの瀬戸際だぞ⁉︎死にてえのかっ!」
「捕まりたくもねえ!」
《あ〜もう、うるさいよ!》
ガチンと頭を殴ると密猟者のリーダー分は気絶してしまった。
ブランが密猟者の手を持って飛翔するが、その時にはもう目の前にまで雪崩が迫っていた。
《ブランっ!》
「ぬあっ、クソがァッ!」
ブランが渾身の力で密猟者を横へとぶん投げる。あの勢いなら雪崩の範囲の外まで行ってくれるだろう。生死は知ったこっちゃないが。多分、雪がクッションをしてくれる。
しかし、それは即ち逃げる暇がなかったということ。
「っ………!」
《くおおおあっ!》
盾とライフルを捨て身軽になったインパルスがブランを抱きしめ、せめて離れないように力を込める。
その瞬間、2人は雪の中へと飲み込まれた。
ーーーーーーーー
(……ン……ラ……ラン……ブラン……)
「ん……」
「ブラン!」
「ん、あ……?」
目を開けるとミズキの心配そうな顔が覗き込んでいた。
「………一緒に寝た覚えはないのだけれど……」
一瞬困惑した。危ない危ない、ミズキが旦那になった的なアレかと思った。
確か私達は雪崩に飲み込まれたはず。真っ暗い中で身体中を打ち付けるような痛みがあって……生きているらしい。
「ここは……痛っ」
「寝てて、ブラン。あちこち怪我してるはずだから」
変身は解けていて、身体中に痛みを感じた。
自分の体を見渡すと着ていたはずのコートがない。
「コートは……?」
「びしょ濡れだから脱がした。濡れてる場所はひとしきり拭いといたけど……不味いよ」
「……そういえば、ここは?私達はどんな状況?」
あの後、揺れが収まった後でミズキは雪の中を脱出した。
場所は土地勘のないミズキがわかるはずもなく、周りはなぎ倒された木々で溢れていた。
とりあえず気絶したブランの具合を見れるところに行きたかったのと、その時ちょうど天候が変わり始めたのもあって近くにあった洞窟の中に身を隠す。すると……。
「吹雪いた、のね……」
「うん。これじゃ1m前方のこともわからない。だから、吹雪が止むまでここにいようと思ってるんだけど……」
「……それは、いいわ。けど……本当に……マズい……」
ブランの体がガクガク震えている。
「ブラン?具合が悪いの?」
「違う……。けど……寒い……」
「…………」
身を縮こませているブランだが、焼け石に水だろう。雪で服も濡れてしまい、完全に雪で体温を奪われた上に火を起こすほどの木もない。
「ブラン、僕のコートを着て」
「でも……」
「いいから。僕は体が濡れてない、大丈夫だよ」
体育座りをするブランを着ていたコートで包み込む。少しだけだが人肌の温もりもある、寒さくらいは防げるはずだ。
「多分、雪崩の時にブランの物資は全部持ってかれたから持っているのは僕の物資だけ。あるのは……予備に持って来た少しの保存食だね」
「大切にしましょう……。他には何かないの?」
「時計、コンパス、レインコート、懐中電灯、タオル……使えそうなのは……ナイフ、応急キットと、杖とか?」
「上着のようなものは……ないのね……」
「うん。レインコートは……気休めくらいにしかならないだろうし」
「動けば、暖かくなるかしら……」
「ダメだよ。汗をかいたら凍傷になってしまう。そうだ、怪我はどう?」
「大丈夫……骨を折ったとかはないと思うわ。アザくらいだと思う」
「わかった。無理はしないでね」
「ええ……」
ブランが小さく縮こまって震えている。唇は真っ青だ。
「具合はどう?」
「……あまり、よくないわ」
「寒い、よね」
「指先の感覚が、なくなりそうよ……」
「………」
凍傷にかかってしまってはダメだ。
洞窟の奥、そこは暗闇になっていてまだ探索もしていないが……。
「洞窟の奥を探してくるよ。ブランはここで待ってて」
「で、も。アナタはコートも着ていないわ……」
「なんとかなる。僕は体も冷えてない、心配しないで」
「私の方こそ、心配しないで……。この程度、私は女神なんだから……」
「僕だってそうさ。別に死にに行くわけじゃない、すぐ帰ってくるよ」
ミズキはナイフと杖、懐中電灯を持って洞窟の奥へと向かう。
「そこで待っててね」
すぐにミズキは暗闇の中へと消えて行く。
それを見届けるが、正直ブランはあまり長くもちそうになかった。
「寒、い……」
こんな寒さだと……あの時を思い出す。
マジェコンヌに捕らわれ、死にかけた時。アンチクリスタルの寒さも、こんな感じだった。体の先から感覚が消え、飲み込まれ、意識が奪われる。
このままではそうなってしまうのもそう遠くない未来に思えた。
「…………」
体が空気の冷たさとは違う寒さに震える。抱きしめられるものは自分の膝だけ。精一杯縮こまってコートで自分の体を覆った。
小さく鼻で息を吸うと、体の中にコートに染み付いたミズキの香りが溢れた。
「………そう、よね」
凍えてしまうことがそう遠くない未来なら。ミズキが助けに来てくれるのもそう遠くない未来なのだろう。
そうだ。あの時、既に心の中に踏み込まれていたのだった。私とミズキの距離は、もうとっくに近い。
後は、お互いに認め合うだけなのだ。そうすれば、その距離に名前がつく。名付けたのはプルルートが先だっただけだ。
……もっとも、近付いたのは私が先だったわけだが。
「ふふ、ふ………」
眠るわけには、いかない。みんなに惚気話の1つもしていないのだ。眠れるわけがない。
そう思っているのに、コテンと視界が横に倒れた。ゆっくりと目蓋が閉じられていくのがわかる。ダメだとはわかっているのに、抗えない。
でも、きっと大丈夫。助けに来てくれるから。
またあの時と同じように、暖かな、光、で……包み、こん………で……。
ーーーーーーーー
意識が覚醒した。
目が開かない。だが、体の感覚は感じている。身体中が暖かい何かに包まれている……これは、なんだろう。
ここが現実なのか夢なのかわからないが……多分夢だろう。さっきまで雪山にいたのに、体がこんなに暖かいなんてあり得ない。
けれど目は開いた。
ここは何処なのだろうか。地獄の釜の中なら鬼を蹴飛ばして帰ろう。天国の雲の中なら天使の翼を引きちぎって降りようと心構えをして、それからここはそのどちらでもないことに気づく。
「あ………?」
体が何かに包まれていた。
目線の先には、天井。無数の水滴がポツンポツンと落ちて、ところどころにツララが生えている。
ツララ、漢字では氷柱。つまり、ここは雪山……?
そこでようやく体を包み込んでいる者に気づく。
お湯と、ミズキだ。
「ミズ、キ………?」
「……死ぬかと、思った」
「………ごめ……ううん、ありがとう……」
謝らないでほしいと言ったのはミズキだ。だから、こういう時は感謝の言葉を述べるべきなのだろう。
「……で、その……どういう状況なのかしら。私、その、少し……いや、だいぶ、恥ずかしいのだけど……」
肌の感覚でわかる。2人とも、裸だ。密着しているから見られてはいないものの、頭と頭が隣にあるように抱きしめられているために恥ずかしい。
少しでも身動ぎすればミズキの肌と自分の肌が擦れ合う。
「洞窟の奥、地底湖があったんだ。冷たくて、とても浸かれるような場所じゃなかったけど、それしかなかったから帰って来たんだ」
「そしたら……私、寝てたのね……」
「焦ったよ。いくら呼んでも起きないんだ。体も冷たいし、息も荒かった。……怖かった」
「うん、うん………」
「だから、ここを暖めたんだ。巨大なビームサーベルならこの程度の地底湖、すぐにお湯になる」
「それで……即興の温泉を……」
「うん。人肌があったほうがいいかと思って、今こうしてる」
「それで、あの……裸に、したのよね……」
「………そんなことは、今どうでもいいんだ」
温泉のように濁っているわけではない。お湯の中を見つめればもれなく体が見えるだろう。
そんな状況で密着して、その上今裸ということは服を脱がされたということ。全部見られたということ。
「ねえ、ブラン。遠いところに行って欲しくないんだ」
ミズキが腕を緩めると隣り合っていた顔が向かい合う。
見つめたミズキの目の周りは赤く腫れていた。
「…………」
そっとお湯から右手を出してミズキの目の周りを撫でた。そのまま頬でその手は止まる。
もう、怖くはない。このまま、暖かさに包まれているのなら、何もーーー。
「好きだよ、だから、もう行かないでよ……?」
「っ、ひくっ……うん……うん、行かないわ……」
気付けば私も涙を流していた。ミズキが両手を私の背中から頬へと移す。
私の涙を拭くためではない。とても簡単で、わかりやすくて、尊い、愛を確かめ合うための行為をするため。
「んっ……ふぅっ………ぷはっ」
目は閉じていても、涙は止まらない。
でも、それでも、報われたと思う。
誰だったか、初恋は報われないと言ったのは。そんな人に声を大にして言いたい。今、報われたのだと。恋は実ったのだと。
長くても、2人目でも、そんな些細なことは関係ない。今通じ合っている。それだけで十分なのだから。
ただ、ほんの少し、気になると、すれば……。
「逆上せ、た……カクリ」
「ブラン?……ブラン⁉︎」
一体どれくらいの時間お湯に入っていたのかということ。逆上せた原因はもう1つ。
顔から火が出るほど恥ずかしいというが、それを言ったやつに言いたい。
全身から火が出るほど恥ずかしいわ、これ。それこそ、私で湯が沸かせそうよ。これが、逆上せた原因。
それとは別に、唇も燃えるほど熱い。その熱だけは忘れたくないと思いながら、意識を手放した。
ねぷ「んで、どうしたの?」
ミズキ「吹雪止んだ、帰った」
ねぷ「それで?」
ミズキ「それでって、何が?」
ねぷ「そんな状況でブラン脱がしたりとか触れ合ったりとか体拭いたりとかまた着せたりとかして何もなかったの?」
ミズキ「ネプテューヌ、いい?」
ねぷ「うん?」
ミズキ「この作品は、R18じゃないよ」
ねぷ「……はい」
申し訳程度のインパルス。雪山って言ったらやっぱりエクスカリバーが印象深くて、ねぇ。……ホント、なんで生きてたんだろ、キラ…。いやアスランもだけど。メイリンは可愛いからいい。っていうかアスラン×メイリンになったってマジ?カガリが可愛いでしょカガリでしょ…。
次の投稿はmk2の前の状況整理…というか、キャラ説明?になるかと。オリキャラはガンダムお得意の裏設定加えてたくさん書いて、既存キャラはWikiより抜粋()
いや、書きます書きます。それでも量は少ないですけど。話が進むにつれてそれも編集していこうと思ってます。投稿した時と編集した時とでラグはあるかもしれませんが。