俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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明日辺りから数日は小説書けないから、急いで今日中に仕上げなきゃという決意をした。
結果、書けた。


終点

 俺が魔王はそこに居るのかと辺りを見回した時、すでに魔王はそこに居た。

 居た――というか、もう既に突っ立っていた。

 何やら、目に何かの跡がついている。涙の跡なのだろうか、近くで見ないとよくわからない。

 魔王がジャガノの方を向いて、話しかけた。

 

「ジャガノ……あんた、不死身だったんだね」

「へへっ、そうだろ?多分俺は、この肉体ごと潰されてもそのうち復活すると思うぜ?」

「何で今まで言わなかったんだ?」

「敵対した時のことを考えて」

「………盟友じゃなかったか?盟友なら、秘密とかそういうのは無しじゃないのか?」

「ハッ」

 

 ジャガノは魔王を嘲るように鼻で笑った。

 

「そんなルール、誰が決めたんだ?友達なら嘘偽り一切なしとか、馬鹿馬鹿しい。絶対誰だって秘密を抱えてるってもんだ。お前だって抱えてるんだろう?秘密」

「……我は、何も秘密を抱えてない」

「嘘つけ。今だって秘密を抱えているだろうが」

「……何をだ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お前さん、正直になれって」

「煩い!!私は秘密なんて抱えてないんだ!!絶対そうだ!!」

 

 魔王は声を張り上げて反駁した。

 しかし、魔王誰かに憑かれている説とは。もしそうだったとすれば、魔王は俺の思っていた通りの魔王であり、決して血迷ったとかずっと前から野望を抱えていたなどの可能性が消え失せる…つまり、魔王悪役ルートが消える、か。その説が合ってて欲しい所だが、フウからの情報だけではいまいち信憑性に欠ける。

 ひょっとしたら彼女もグルだという可能性はある。

 

「信頼されてないなー、私」

「仕方ねえよ。この状況下、どんなものも疑わなくちゃあいけないからな」

「さっき私の頭を撫でようとした人が何か言ってらっしゃる」

「煩いな。あれはその場のノリだ」

「こっちこそ煩いな。何さっきからトークに華を咲かせてるんだ君たち。目の前のキャラクターを見なさい」

 

 キャラクター……。何かと奇妙な言い方を好むなあ、ジャガノは。

 しかし彼の言う通り、今俺らの目の前に居るのはあの魔王である。今無駄なトークしてふざけている場合ではない。

 しかしそれまで待っててくれた魔王も心が広いっちゃあ広い。

 

「それじゃあ、魔王――」

 

 俺はとりあえず声をかけてみるが、その次に何を言おうか迷ってしまった。

 俺が声をかけたせいで、無駄な沈黙が訪れる。

 

「………」

「………」

「………」

「………来いよ」

 

 そして、その沈黙を断ち切るかのように、ジャガノが魔王に向かって宣戦した。魔王は条件反射で動くがごとき反射神経でジャガノにがっつくが、上手くそれを回避してその勢いで魔王の胴体に強い拳骨を食らわせた。

 魔王は一瞬怯み、その隙を利用してジャガノは更に攻撃を叩き込む。元悪魔だからなのだろうか、胴体をパンチするたびかなりの音が響いている。

 

「……っ!!」

 

 だが、魔王もいつまでも攻撃を食らっているわけにはいかない。乱れパンチを繰り出して疲弊しかけたその隙を利用して魔王はジャガノの胴体にドリルのように回転させた腕をねじ込んだ。

 ジャガノもそれには対応できず、魔王の腕は徐々にジャガノの体にめり込んでいった。

 

「……うう…っ!」

「くらえっ!」

 

 このままだとジャガノが再び戦闘不能になってしまうとフウは確信したのか、背後から大きく硬い石で思いきり魔王の頭をかち割った。魔王は不意打ちに驚いたのは思わず腕を引き抜いてしまい、その瞬間を利用してジャガノは魔王の腕を折る。

 

「うう…っああああ…!!」

 

 先ほどまで呻いていたのはジャガノであったが、今度は魔王が苦痛に悶え始めた。ここまでくればあともうひと押しで倒せるだろう、しかし…。

 

「ねえ、見てないでフウマも早く!」

 

 フウにそう急かされてしまうが、俺は今魔王に攻撃すべきかしないべきかで迷ってしまい、棒立ちしている状態である。確かに、今攻撃すれば魔王は倒せるかもしれないが、本当にそれでいいのか?

 

「…ねえ、ねえ!フウマったら…!!」

「……無理だよ。たとえ魔王がどんな姿になろうとも、俺はそいつに攻撃なんてしたくない……」

「馬鹿お前死ねよマジで!さっきまで戦闘しようとしてたのは一体何だったんだよ!?わざわざ殺されにあそこまで行ったのか!?お前も忙しない奴だなあ!この死に急ぎ野郎!!」

 

 ジャガノ………ではなく、この辛辣な言葉を投げかけたのは、フウだった。

 マジ切れすると極端に口調が悪くなるらしい。

 

「なあオイ馬鹿兄!改めて問うが、お前は死ぬのか戦うのかどっちだ!!答えろ!!」

「……………」

「死にてえのか!?」

「生きてぇよ俺も!!死にたいなんて思った事なんてある訳ないだろ!?」

「じゃあ殴れ!!魔王に鉄拳をぶちかますんだ!!殺す気でな!!」

「そんなこと出来るわけがないだろう!?お前俺の気持ちを分かっていてそんなこと言っているのか!?」

「あーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!うるさいうるさいうるさい!!鬱陶しい!!今ここで魔王に何もしないで、その後にどうしろっていうのさ!?お前はこれだから後先考えないで行動するダメ人間なんだよ!!」

 

 ヒステリーを引き起こしたフウにこれ以上無いほど蔑ろにされ、こっちも怒りのスイッチが入ってしまう。

 ……何をやっているんだ、俺らは。魔王がまだ悶えてるからいいものの、今ここで口競り合いを興したところで何の利益にもならない。

 

「そうだよ俺はダメ人間だよ!!だからどうした!?ああわかったよ魔王を殴ればいいんだろう!?」

「早く!殴れッ!!なーぐーれッ!!」

 

 俺は怒りに任せて何の躊躇もなく魔王の頬を殴った。力強く、かつて魔王が俺に対して腹パンをした時よりも、ずっと、ずっと強い力で。

 そのまま何回も殴った。魔王は痛みに絶叫し、気絶していたが、俺はそのまま続けて殴り続けた。そして……声が出なくなるまで殴った。

 

 

 

 

「……あの、すいません」

「あぁ!?」

 

 フウが我に返った。気分が短時間でコロコロと変わる奴だ。

 

「こんな時に悪いけど、なんだか変な奴がフウマに会いたいって……」

「……あ?」

 

 フウが指した方向に、俺とフウは振り向く。そこには…。

 

「「「ヒーローは遅れてやってくるー!」

 

 ……あの懐かしき、幽霊三兄弟が居たのであった。

 

「はッはッはー、待たせたな、諸君!」

「目指すはハッピーエンド、絶望なんて振り払っちゃえー!」

「そこの迷子の子羊さん、もうこの状況はすべて把握している。そこで、我らが三銃士、あなたに力を貸そうではないか」

「帰れ」

「「「何だって!?」

 

 ………別名、シリアスブレイクの達人。

 こういう空気にこいつらに来てもらったら、今までの雰囲気が台無しになってしまう。もう手遅れかもしれないが、一刻も早く帰ってもらわなねば。

 

「違う違うって!僕達は、ただ、君達の手助けをしに来たんだって!本当だから!」

「……じゃあな、具体的にどんな手助けをするんだ。返答次第では今すぐ戻ってもらう」

「まあ、もう成仏した身としてはねー、もう5分くらいしか現世に居れないし、手助けできたか出来なかったかの違いでそんな大差ないんだけどさー」

「お前ら……そんなことしちゃあ、後悔するぜ?俺らの手を借りなかったこと、一生後悔するぜ?」

「まあどういう風に手助けするかというと、簡単に言えばレイ君に憑いている『何か』を取ってあげるんだ」

 

 ケンは、そんな風に淡々と言った。

 

「…え?取る?魔王に憑いている何かを…?」

「うん。ちょっと見ててね」

 

 ケンがそう言うとユミとシュンキが徐に魔王の口をガバッと広げ始め、その口にケンの細い腕を奥まで入れた。

 さっきまで気絶していた魔王の意識が覚醒し、同時に苦しい顔をして暴れ始めた。

 俺らはどういう対応をすればいいのか全く見当もつかず、ただただそこに棒立ちしてることしかできなかった。

 

「…お?何だかここに手ごたえあり…」

「んーーーーーっ!?」

「お、そうか。ひょっとしたらそれが憑いているものなんじゃないか?」

「かもね。よし、ちょっと引っ張り出してみるか」

 

 俺は思った。

 ひょっとすればだが、悪魔(ジャガノ)と契約したフウより、暴走している魔王より、よっぽど狂気的なのはこいつらだったのかもしれない――と。

 ケンが作物を引っこ抜くかのごとき勢いで魔王の口から何かを引っ張り出した。果たしてそれは、人…だった。

 

「よっしゃー、引っ張り出せたー。これがレイ君に憑いていた何かだったのかな」

「ふむ……人型だけど、服装とかがレイに似ているな…両親か何か?」

「ま、これで私たちの役目はおしまいだねー。そろそろ時間だし。じゃーねーフウマさん。ところで、その隣に居る女性は誰なのー?」

「妹」

「よろしくです…」

「ほへー、妹なんだーでもまあ騒ぐほどでもない情報かー」

「じゃあ、俺ら戻るからな。後始末はお前らがやれよ?」

「「「さいなら」

 

 幽霊三兄弟はそう言って消えた。美味しいとこだけ持っていって逃げやがったなアイツら…。

 でもまあしかし、魔王の口の中に手を突っ込むという俺らには絶対出来なさそうな業をやってのけたから彼らが来て正解だったのかもしれない…そうと思いたい。

 

「……うぅ…あれ?何だか…体についていた重しのようなものが…あと世にも恐ろしい三兄弟が夢の中に…」

「…あ、魔王が元に戻った!なあフウ、戻った魔王が!」

「分かってるよもう。疲れたー本当……何だか本当に訳が分からなかった」

「え!?…あ、何か戻ってる!?なんで!?」

「お前……覚えてないのか?」

 

 ひょっとしたら口の中に腕ごと突っ込まれた時のあまりの激痛に記憶を失ったのかもしれない。どうやら意識はあったみたいだが…。俺は事の顛末を魔王に説明した。

 

「……ああ、やっぱりあの幽霊三兄弟頭おかしいよ」

「同感だ。…ところで、さっきまでお前に憑いていたあれはなんだ?」

 

 俺はそう言って、あの魔王に憑いていた人型の《あれ》を指さす。魔王がそれを調べてみると、一瞬固まった後、こう叫んだ。

 

「お母さん!?」

「「「お母さん!!??」

 

 ……お母さんと。

 確か、聞いたことがある。

 何だったか、確かアドという名前で……死神で……それ以上の情報を知らないのだが。この件の黒幕が自分の母親って、もし俺だったら心拍が停止するぐらいショックだ。

 

「……あ、あ」

 

 アドの意識が段々戻り、魔王と俺らの存在に気付いた。

 

「よかった…、お母さん、目覚めた…!」

 

 魔王が飛びついてアドに抱き着く。お母さんは初めて見たが…なるほど美人だ。

 

「…い、いや、それはいいのよそれは。こうして憑依が解けちゃったけどまあいいわ。さあヘルちゃん、あの人間どもを粛清しなさい!」

「……」

 

 その口調から察するに、性格はよく金持ちの家とかによくいる厳しい性格の母親なのだろうか――分かりやすく言うとスネ夫のお母さんみたいな。そして、魔王がもう人間を殺す気がないってことを知らないということは…しかしヘルちゃんって。違和感満載だな。

 

「嫌だよ」

「…え?どうして!?あなた、私の子じゃないの!?」

「いや…」

「じゃあ…どうして嫌なのよ」

「我は…気付いたんだ。魔王とはいってもさ、必ずしも人間を殺す道理はないってことに」

「道理…?何を言ってるの?」

「魔王だから人を殺さなきゃいけないとか、世界を征服しなければいけないとか、そういうことは必ずしもしなくていいんだ」

「……あなた、あの人間達に洗脳でもされたの?」

「じゃあ、何でお母さんは――我に人間を殺させようとするんだ?」

「そ、それがあなたの役目でしょう!?そんなことも忘れたの!?」

「人間にだって、良い奴はいると思うな。悪い奴らばかりじゃないんだよ」

「…………」

「お母さん」

 

 魔王は笑顔でこう言った。

 

「大丈夫…大丈夫だから」

「……でも――」

「お母さん、ハンバーグって知ってる?」

「…え?」

 

 唐突な質問に、アドは戸惑った。魔王は、そんなお母さんの反応にお構いなしに話を続ける。

 

「ハンバーグっていうのはね…なんていうか、こう、細かく切り刻まれた肉を固めて、肉の塊を作ってさ…それて焼いて、ソースっていうかけると料理がおいしくなるやつをかけて食べるんだ…。すっごく美味しいんだ、それ。今まで食べたことなんてなかったよ…」

「………」

「あとさ、エスカレーターってわかる?」

「…何よ、それ」

「簡単に言えば、自動的に進む階段みたいなものなんだよね…それ。どういう原理で動いているのか分からないけれど、兎に角凄いんだよ…だからさ、人間も捨てたもんじゃないなって…その時思ったんだ」

「……」

「それでね、それでね!あとは…えーと」

「分かった、分かった、もういいから。お母さんはもう大丈夫だから」

 

 まだ何かを話そうとしてた魔王を止めて、アドは立ち上がってこっちを振り向いた。殺されるのではないかと思い、一瞬身構える。何せ相手は魔王の母親だ。瞬殺されてもあり得なくはない。

 だが、アドのとった行動は予想に反して――どころか、全く逆のものだった」

 

「ごめんなさい」

 

 深々とお辞儀をして、アドは続けた。

 

「私、人間を勘違いしていたみたいなんです。私は、人間はずっと悪い生き物だと考えていました。だって自分勝手だし、他人のことを優先しないんだもの。だけど、今こうして君たちはヘルが隙だらけな行動ととっているにも拘らず、何も攻撃しようとしてこない。だから人間にもいいやつはいるんですね。特に貴方は、魔王であるにもかかわらず危害を加えるどころか、保護してたではないですか。それを天から監視していた時、私はあなたがヘルを攫ったなどと勘違いし、憎悪をずっとずっと膨らませてきました。しかし、違ったんですね。純粋な意味で、貴方はヘルを保護してたのですね。改めて言います、有難うございました」

「…あ、いえ、こちらこそどうも」

「私は、何の罪もない貴方達にこうして危害を加えてしまったことを酷く後悔しています。なので、今はお好きにどうぞ。私の体を好きなだけ殴っても、好きなだけ犯してもかまいません。どうぞご自由にしてください」

 

 と言って、アドは両手を上げて完全なる無防備な状態へとなる。この場合、俺はどうするべきか分からなかった。確かに自分の勘違いで何の罪もない人間に危害を加えたってことは既成事実であるし、覆すことも出来ない。

 だが、魔王の過去のことも思うと、この人も所謂「人間による一種の被害者」であり、百パーセント悪いかと聞かれれば、そうでもないともいえる。だから、アドを許すか、しないかの葛藤が頭の中で発生しているのだ。

 

「……どうする?フウマ…」

「お前の判断に任せるぜ。俺らは本来お前だけがやるべきだった件を手伝っただけだし、お前が本来進んで解決すべき件なんだ、これは」

「……許――」

 

 長い時間言い留まったが、俺はこう言った。

 

「――許す。あんたを許す」

「……え、いいんですか?私は、このあなたの町を破壊し、幾多もの人間を殺したのですよ?そんな重罪を犯した私が許されるとでも?」

「そうだな。俺らだってフウマがそう言うと思っていたんだ。なあフウ?」

「まあね…。お兄ちゃんがここで許さないって言ってたら私たちどうしてたか」

「他の二人も同意見だってよ。という訳で、街はもう元通りにならないが、…俺はお前を許す」

「……有難うございました。でも、やはりこれはどう転んでも私の責任です。いつか、自分で罪滅ぼしをしなければならないでしょう…。でも貴方たちがそういうなら、私はもう一度こう言うことにします。謝っても済むことではないでしょうが、どうもすみませんでした。」

 

 アドは体を輝かせた。帰る前兆なのだろうか。

 

「そして、フウマと言いましたね。どうもこれからも、母親として魔王をよろしくお願いします」

 

 そう言った直後に、アドは眩い光を発して消えた。そこに残った者は、俺と、フウと、ジャガノと、魔王だけだった。

 

「……さて、これからどうしよう」

「…」

「…」

「…」

 

 ジャガノの一言で、全員が静まり返る。

 その中、俺はある方法を思いついた。

 

「よし」

 

 一旦声を発して、全員に意識を向けさせる。

 

「ん?何が『よし』なの?」

「思いついたんだ」

「なんのだ?」

「…ふっ」

「答えろフウマ」

「それは」

 

 俺は、三人から見れば俺の後ろに崩壊した町が来るように角度をうまく調整して、こう言った。

 

「この街を元に戻す方法さ」




終点と書いてあったな?あれは嘘だ。もうちょっとだけ続くんだよ
ちなみにこのシリアスを全面的に押し出したような話、ちょっとだけセリフにアニメのセリフをパロっていたんですよ。気付きましたか?

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