俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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書くの面倒臭いです。
elonaにどっぷりハマりながらも小説を書き終えた私をほめて。


混沌

 私は耳を疑ったりは、特にしなかった。

 お兄ちゃんがブチギレてしまったら言葉遣いが極端に物騒になるのもさほど珍しい事ではない。そういう性格なのだ、仕方がない。

 しかし、今回ばかりは違った。

 お兄ちゃんは、魔王に対して明確な殺意を持ってそう言っていた。

 あの目は憤怒の感情に満ちていた。

 そのことに遅れはせながらも気づいたのが、今から数分後。

 フウマが神速を使い、私たちを置いてって崩れ去る街の方角へ全力疾走した時である。

 

「……ねえ、ジャガノさん」

「なんだ」

「お兄ちゃん……本気?」

「だな」

 

 感情を表現するのが苦手なのだろうか、ジャガノは淡々とそう告げた。

 私はその言葉を聞いて、激しく落胆する。

 というか、もう何もかも理解できていない。魔王は街を破壊し、フウマは殺意に任せてどこかへ走って消えて。

 ああ、本当に、なんだろう。

 

「………追いかけないのか?」

「自転車だからと言って、お兄ちゃんに追いつけるわけないでしょ…。私だって、出来るものならそうしたいよ…」

「しっかしまあ、大したものだ。魔王だってこの町に住み着いていたくせに、こうやって破壊して、拾った親を敵に回し。……正直もう、俺は逃げたい。この混沌に満ちた街から、逃げたい」

「逃げたら許さないよ…。私がいる限り、あんたは逃げられない……」

「おー、怖い怖い」

 

 舐め腐ったような態度に切れそうになったが、今この状況じゃあそれも無意味だ。

 というか、一旦状況を整理するとしよう。そうでもしないと頭がこんがらがってしまう。

 

 まず、魔王が失踪し、それをフウマとレンとジャガノが探していた。そして、無事見つけたと思っていたら、何故かダークサイドに堕落していた。さらに、目を覚まさせようとしたレンを殺害。そのまま最後に殺すと言われたフウマとジャガノが一旦山へ避難。電話で私を呼び出し、今に至る。

 …あれ?

 私を呼び出した理由って、なんだっけ?

 えっと……。

 

「ジャガノ!!」

「うおっ、どうした?」

「魔王の体調を探らなければ!」

「あぁ…。そういえば、お前を呼び出した理由って、そうだったか」

「よし、今すぐ向かおう!ジャガノ、私の自転車の後ろに乗って!」

「おうよ。振り落とされないようなスピードで頼むぜ」

「そんなの気にしていられるかっての!」

 

 ジャガノは私の自転車の後ろに乗り、私は新幹線の速さのごとく猛スピードで山を降りた。木にぶつかってしまうのではないかと懸念されるかもしれないが、安心してほしい。反射神経だけはフウマに勝る。

 その後、私は猛スピードで山を下山し、フウマと魔王のふたりだけの戦場へと足を踏み入れた。

 ……もう、フウマは魔王と戦っていた。

 そして、私はそこから頑張って魔王に目を凝らし、魔王の体調を探ることにした。近くに居なくとも目視すれば大体わかる。

 

「……ん?……え、これは……何?」

「どうした?」

 

 そして、ひょっとしたらこの絶望的な状況をちょっとだけ揺るがすことができるぐらいの情報を掴むことに成功したのだった。

 

 語り部:フウマ

 

 俺は今、途轍もなく怒っている。

 誰に向かってだって?言うまでもない、魔王にしか矛先を向けられる奴は誰もいないだろう?それとも、実の妹に八つ当たりしろと?

 大体、半年近く面倒見てあげた結果が、俺の親友を殺害し、俺の住んでいた街を壊すということになるなんて、恩を仇で返すという言葉があるが、それをも逸している。

 だから、この件は自分でケリをつけなければならないのだ。

 

 そして、俺はそのうち魔王の暴れている場所を特定し、そのまま目を合わせるのだった。

 

「………まだ、フウマ以外殺し終わってないんだけど。何?死に急いでるの?」

「今日がお前の命日だ。覚悟しろ」

「話を合わせる所から努力をしようよ。それだから君は我が本当はどういう存在なのかも知らずに、我がどんな野望を抱えているかも知らずに保護してしまったんだ」

「……お前、まだ本当はいいやつなんじゃないのか?」

 

 さっき途轍もなく怒っているなどといったが、実は心のどこかでまだ魔王のやさしさにかけているような気がする自分もいる。

 まあ……ここまでやっておいてあっさり今までやったことを挽回する奴なんて、いるわけないか。

 

「馬鹿みたい。ねえ…、我って、魔王だよ?魔の王だよ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()あのさ…我に期待なんてするだけ無駄さ。そんなの無価値さ。ゴミ以下だ。だからさ、とりあえず死んでよ、ねえ」

「……」

 

 だから、で続けた言葉にしてはちょっと意味があってなかったような気がしたが、この状況下そんなことで一々突っ込んでいたらそれこそ愚かで、馬鹿だ。

 今は――どう転んでも、戦うしかあるまい。

 

「さあ、来い――グフッ!?」

「そんなこと言っている暇があったら、早く神速を使ってこっちに近づいてもらいたかったものだ。隙だらけだし丸腰だし全くバカバカしい。いいよ、一撃で楽にしてあげるよ」

 

 俺が声を上げようとしたら、まだそのセリフの途中で魔王から腹パンを食らってしまった。懐かしの腹パンではあるが、意味合いも強さも慈悲の度合いも全然違う。容赦のないパンチで、胃の中身を一瞬吐瀉しそうになった。

 耐えたけど。

 さらに、俺が腹パンで吹っ飛んでいるその隙を利用し、俺が地面に仰向けになって背中を激突して着地した時とほぼ同時のタイミングで魔王も俺の上に乗った。それも脛の上のあたりで、何故か手が動かない、足は押さえつけられて動かないで全く身動きが取れない状態である。

 最早絶体絶命、魔王が手に訳の分からないオーラを集めて(多分魔法を放とうとしている)、俺に向かってその手を突き付けようとした。

 

 ――その時。

 

「うわあああああああああアアアアアアっっ!!」

 

 耳に劈く絶叫と共に魔王の頭に鉄パイプが強くたたきつけられた。

 そのおかげで魔王のその魔法を打つ標準がずれ、俺のかなり横で属性が何なのか分からないレーザーを発射した。

 ………こんなのが俺の体に直撃したらと思うと、体が竦む。一体どうなっていたんだろうか。

 

「あああ……やっぱり、お前は魔王だったのかあぁあ…!!最初から見つけた時に倒せば正解だったんだあああ…!!俺の兄を殺したのもお前かアアアアアア!!!」

「…………」

 

 鉄パイプで魔王の頭を殴打したのは誰か魔王の背後を見てみると、そこには狂気に満ちた状態のユウキがいた。

 ああ、そういえば居たなあ。最近影薄かったからなあ。

 どうやら兄の遺体を発見し、そこから俺と魔王のやり取りを見てすべてを察したご様子。

 

「っああ!!っああ!!ああああああああああッッ!!!」

 

 その後のユウキは狂ったように(実際狂っているが)鉄パイプで魔王の頭を叩きまくった。魔王の反応はというと、ちょっと怯んでいるみたいだ。いくら本来の力を取り戻したとはいえ、魔王もこの鈍重な衝撃には耐えられないのか。

 

「……はあ……はああっ……」

 

 その後も休まずユウキは魔王の頭を殴り続け、魔王が完全に動かなくなるまでに殴り続けた。

 死んだのだろうか。

 いや、そんなはずはないだろう。脈がある。

 

「……おい、大丈夫か?」

「フウマ………ごめん、ちょっと見苦しいところを見せてしまったようで」

「別にいいさ。何故こんなところに」

「今日も今日とてレイの監視をしようとしたら……こんなことに」

 

 ………。

 やっぱり、な。

 

「魔王は…死んだのか?」

「いや、分からない。体は力が抜けたように重いが脈がある。気絶してるのだろう。早くここから逃げよう」

 

 とりあえず、だ。少なくとも、激昂していた心は落ち着いた。今は冷静に物事を考えることも出来る。よってその冷静さによって導かれたこれからとるべき行動は、一旦魔王から距離を置くことだ。これが一番英断だろう。

 

「了解。じゃあ、早く逃げっ」

 

 ……………。

 俺が撤収しようとしてユウキから目を離して走ろうとした瞬間、ユウキからの声が途絶えた。

 恐る恐る後ろを振り向いてみると――

 

「油断大敵という言葉を知っているかい?」

 

 ――拳でユウキの心臓を貫いた魔王がそこに立っていた。

 

「………え」

 

 言葉すら出なかった。

 気絶から意識が覚醒するのが速すぎる。

 

「ゴフッ…!!」

 

 ユウキは口から大量の血を吐き出し、地面に激しく体を叩きつけて倒れた。

 …………。

 

「……狂気だよ、お前…」

「全く、あんな鉄くずで我を倒せるとでも思ってたのかな、馬鹿だねー」

 

 ……とりあえず、逃げよう。そしてフウやジャガノと合流して、今の現状の説明をしなければいけない…。

 ……勢いで魔王のもとに向かってしまったが、フウやジャガノは一体何をしているんだろう…。変な行動してなければいいんだけど…。

 しかし、幾ら足が超人的に早い俺だって魔王から逃げきることができるのだろうか…?

 

「もちろん、我だって今の体でも死なないことはないけど、流石にあんな軟弱な素材で我を倒すことなんてできないでしょ。何だろう、ユウキは我の力を見くびっていたのかな?――――私を」

 

 ……謎の語りが始まっている。今の隙に逃げれるかもしれない。

 その後も何か言っていたようだったが、どうせ大したことない話だろう、俺は一目散に山へと戻った。

 

 ……そういえば、街が破壊され、こんなにも死者が出ているというのに、どうして警官や軍隊が一人もいないのだろうか?さすがに物音で気付くだろ、こんなの…。

 ――とか考えていたのだが、走りながら辺りを見回した結果、警察のユニフォームを着た死体があったので、それだけで全てを察した。

 さすが魔王、対応が速い。感心している場合ではないが。

 

 …数分後、何とか撒けたのか?アイツ、追ってこない様子だけど…。もう走らなくても十分か。

 

「とりあえず…今すべきことは、フウとジャガノに現状を伝える…か」

 

 またあの山に向かえばいいのかなー…あいつらそれまで待っているかなー…。

 まあ今更のんびりなんて出来ないし、さっさと行くしかあるまい。

 

 

 

 

 居なかった。

 俺が死ぬ気で神速を使って山を登山していったのに、アイツら居ねえ。どこ行きやがった。変なところ突っ込んでねえだろうな…。

 降りるか。

 

 

 

 

 居た。

 山のふもとのところでフウだけが寝ていた。

 何暢気に寝てやがるんだコイツ。ジャガノはどこ行きやがったんだコノヤロー。

 

「おい、起きろ」

「……んあ?あ、フウマ…ふぁ~~」

「何で寝てるんだよ。今そういう状況じゃないでしょうに」

「ごめん、疲れたから」

「ジャガノはどこ行った?」

「なんか魔王の様子を見てるって。そっちこそ、あの戦いどうやって終わらせたんだい?」

「撤退した。戦略的撤退だ。」

「ふーん、あ!そうそう、私ね、魔王についての新情報を掴むことに成功したんだ。この、私の能力を使って魔王の体調とかを探ってね」

「ほう、どうだった?」

「……うーんとね、まあハッキリとは言えないんだけど……というか曖昧なんだけど」

「なんだよ、自信がなくてもいいからはっきりと言え」

 

 フウは、少し口籠りながらこう言った。

 

「誰かに憑かれているような感じがした」

「……そうか。それは大きな情報だな。よくやったフウ、それでこそ、俺の妹だな」

「えっへへー」

 

 ………可愛いなあ、コイツ。何でそう素直に照れることができるの。

 …今、頭を撫でまわしてみたら従順な犬みたいになるだろうか……。

 

「大変だーっ!!」

「!? ど、どうしたの?」

「魔王に居場所がバレた!!こっちに来てしまう!!」

 

 ……頭を撫でるのは、また今度にするしかあるまい…。


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