俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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過去編 ※ギャグ要素消失
魔王


 我は1500年に生まれた。しかし、詳しい年数は覚えていないので、大体1500年ととらえてもらって構わない。

 我は、母のアドと、父のロキの間で生まれた。母のほうは死神、父は魔王だったらしい。

 その時から、ここは地獄だった。

 我が少し大きくなって物心も付き始めたころ、ロキからこんな話を聞いた。

 

 ――お前が次期魔王になる時、大変な苦労があるだろう。

  何故なら、基本的に我ら魔王は忌み嫌われるべき存在であり、決して人間と仲良くしてはならない――まあ、眷属を作る場合は別だが。

  それどころか、人間は我らを倒そうとこの城に押し寄せてくる。もし我が死んでしまった場合、お前にそのことが出来るのか?

 

 ………。

 正直言って、したくなかった。そこで我は、首を横に振りたかった。

 しかし、我は父の恐ろしさを知っている。たぶん、お母さん――アドの2番目くらいには。

 だから、我は首を縦に振ってしまった。その質問に対して肯定してしまった。

 

 多分、我は普通の魔王が持つ精神とは違う構造をしていたのかもしれない。

 魔王とは、先ほども話した通り忌み嫌われるべき存在。だから、人間が襲い掛かってくるし、それを感知したら自分で殺すなどの対処をしなければならない。

 それは魔王にとって当たり前のこと。

 

 ある日、我は父に呼び出されてある部屋へと連れていかれた。

 そこは城の地下室と言える場所で、薄暗くじめじめしている。まるで拷問部屋のようだった。

 そしてその壁際には、手錠で両手を拘束されている人間達が何人もいた。何日も前からそこに居たのか、痩せ細っている奴もいれば、新しく捕まえたばかりなのであろう、元気に動き回って必死に手錠をほどこうとしている奴もいた。

 我はその光景に少し吐き気を覚えてしまった。なぜなら、我は――生き物の苦しむ姿を見たくなかったからだ。

 

「さあ、娘よ」と、ロキが我の肩を叩いて人間の近くへと寄せられる。

 そして――殺せと命令された。

 相手の人間はまだ10代半ば。顔も綺麗で、その腕などの肉付きからにしてきっと運動神経は抜群であろう。

 そんな――未来があったようなこの子を殺すなんて――惨たらしい事、したくない。

 しかし、それが魔王として生まれたうえでの宿命――はたまたは逃れることの叶わぬ道ということだったのだろうか。

 我は声に出さずに口だけ動かして「ごめんなさい」と言い、今使える中で一番弱い魔法でなるべく苦しまずに息の根を止めさせた。

 ロキは自分の娘の成長による感慨により気付かなかったのかもしれない。だが、この牢屋の同じ空間に居た人間全員が、多分我のことをこう思っていた。

「あ、多分コイツ、良い奴だな」――と。

 それからは、ロキが新たな人間を捕らえては、我に殺せと命令するようになった日々が続いた。

 我は他の誰と何が違ったのか、生き物を殺したくないという心を持っていた。だから、人間を殺した晩、我は無駄だと分かっていても殺した人数分合掌し、「ごめんなさい」と何回も言ったり、泣いて枕を濡らしたりした。

 その行為が父にバレてしまった時、我は酷い説教を食らった。

 

「次期魔王がそんなので面目を保てるのか!」

 

 この言葉は今でもはっきりと、心の片隅に言葉として残っている。

 そして我は、そのときにこう思った。

 まったくもってその通りだ、と。

 我は自分の考えを改めなければならない。そう考えるだけでも辛かった。

 生き物は殺されるために生まれた物――それがいわゆる、魔王としてのモットーというべきか、座右の銘というべきか。その考えを最初に聞いた時、我は気分が暗く落ち込んだ。そしてこんなことも思った。

 自分たちだって、生き物じゃないか。なのに、自分たちだけ永遠に殺されず、他の生き物だけ惨殺されていくなんて。

 矛盾しているにも程がある。

 理不尽というにも程がある。

 

 我が生まれて早20年。明くる日、父と母が100年間ハワイに旅行へ行くと我に言ってきた。

 父と母がこの城を離れてしまえば、もうここには我しか居なくなってしまう。

 そうなれば、我がこの城の主となり、侵略してくる人間を倒さなければならない。

 父は、大丈夫だ、お前なら出来ると我に言ってきた。

 そんな――そんな無責任なこと言われても困るのに。

 我は一生懸命止めようとしたが、ロキとアドは実力行使で我と黙らせてまで旅行に出発してしまった。

 ギャグか。

 

 城に残されて我がただ一人。魔王という存在なのだから仕方がない、その情報が紙面となって幅広くばら撒かれ、様々な人間にそのことを知られてしまった。

 それだけならまだいい、そしてここぞとばかりに、人間が大量に我の城に押し寄せてきた。

 今のうちに魔王という存在を根絶やしにでも来たのだろうか。いや、今のは憶測にすぎないが、実際にそうだったかもしれない。

 いずれにせよ、我はこの地位を守りたかった。理由としては、やはり責任というのもあるし、このまま人間に捕らえられて殺されてしまうのも遺憾だったからだ。

 だけど、殺したくはない。

 そこで我は、人間と言葉で説得しようとした。

 我は自ら人間の前へ出て自分は魔王とはいえど悪ではない、誤解しないで欲しいと説得したが人間は聞く耳を持たず、お構いなしに我に向かって武器を突き出してきた。

 我は何とかしてでも人間どもは殺さまいと城の中を逃げ回った。

 その次はどうしたかだって?

 全く考えてもいなかった。

 ただただ、人間を殺すか殺さないかという葛藤が頭の中で発生し、体の方は脳じゃなくて脊椎が命令を送っているのではないかというぐらい何も考えずに動いていた。

 そして、気が付けば、我は複数の人間に壁際に追い込まれていたのだった。

 我は、手を挙げて必死に無害を主張した。

 しかし当然、それで人間どもは戦闘態勢を解こうともせず、そのまま近づいてくる。

 そして人間の持っていた剣が我に振り下ろそうとされた、その瞬間。

 我は魔法を乱射していた。

 

「あはははははははは!!!死ね!!死ね!!お前ら全員死ね!!生きる価値なんてねえよ!!今まで私はお前らに散々攻撃してこなかったのに!!!何で攻撃やめなかったのさ!?この屑め!!ゴミ屑め!!あははははは!!あっははははは!!!」

 

 精神が狂っていた。

 我は狂気に満ちた笑顔で、人間どもを主に魔法で殺戮していたのだった。

 無害を主張していたとはいえ、魔王は魔王。ちゃんと魔法にも精通しており、そしてその威力も強かった。

 一分も経たずに、我は大量の人間をすべて、魔法で蹴散らしていたのであった。

 ……いや、厳密には一人撃ち漏らしていたのかもしれない。なんと我のその行為がまたもや人々に伝わり(しかも悪い部分だけしか載せていない)、むしろ我への悪いイメージが強くなっていったのだった。

 もう、ここまでくればいくら説得しようとしても無駄だと踏んで、我はもう無心で、感情を一切込めずに人間を殺していくことを決めたのだった。

 そうでもしないと、自分のことが嫌いになりそうだった。

 人間のことも。

 世界のことも。

 

 だから、未だ我はこの罪を背負って生きている。

 この嘆きを永遠に背負って生きている。

 

 そして、その体制が続いて10年後。

 我が、第2話あたりで話した時系列に至る。


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