俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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……これは、あるしがない若いリーマンが経験した、なんかすごくありえない出来事である―—―。

水曜日



日常編
解放


 おはよう。いつもの朝はこの一言から始まる。

 自分で朝ご飯を作って食べて、会社に行って帰る。これが普通の毎日だ。じゃあ、なぜこんなことを話したのかって?

 

 …それは、何か俺の家に()()()が住み着いてしまったからなんだよ……。

 

 

 ジリリリリリリリリリ!!!

 

 「……るせーな、クソッ。」

 

 俺は忙しなく鳴り続ける目覚まし時計を叩き、音を鳴らなくする。それが、朝の目覚めの瞬間。決して気持ちいいとは言えないが、時間通りに起きられない事には代えられない。いや、代えることが出来ない。だって今どきの目覚まし時計って全部この音なんだもん。

 

 俺は階段を下ってまず台所に行き、朝飯を作る。今回はまあ普通に、目玉焼きに味噌汁で十分だろう。

 そしてリビングに行き、テレビをつけてニュースを確認しながら黙々と朝飯を食べる。こういう時は何か話し相手が欲しい所だが、生憎俺は誰かと一緒に住むのが苦手なのだ。なので、一人で食事をすることを強いられているのだ。

 

 朝ごはんを食べ終わった後は、会社に出勤すべく歯磨きと着替えを行う。相変わらず歯磨き粉はクソ不味いが、良薬は口に苦しとか言うもので効果は折り紙付きと保証されている。それに安いし。

 次に、衣服を着る。スーツを着て、ネクタイを締め、荷物をまとめ、準備万端。

 

 「いってきまーす。」

 

 誰もいないと分かりつつも、そう言ってドアをバタンと閉める。もし誰かが俺ん家に同棲した時のために、今のうちに練習しておくのだ。

 

 

 「よお……フウマ。」

 「…あ、ああ、レン。」

 

 会社に着くと、必ずレンが挨拶をしてくれる。こいつの性格は超絶に根暗で、なにごともマジメにやらずにいつも下向いて呪詛を吐いてたり、話しかけても凄く低い声で「よぉ…」としか返してくれない、気味悪いやつだ。何故か俺とよく話すが…正直勘違いされるので離れてもらいたいという事は言わないでおくか。

 

 「フフ…見ろよ、俺の引き出しに手紙が入ってあったんだぞ……。」

 「お、おう…。どんな内容なんだ?」

 

 レンはどんな感情がこもってるか分からないニヒルな声を出しながら一枚の封筒を取り出した。どうやら、この中に手紙が入っているらしい。

 

 「辞表だろうよ……。だが俺読むのも怖いから、代わりに呼んでくれよぉ…。」

 「お、オッケイ。じゃあ、読ませていただきますよ…。」

 

 まだ読んでいないようだ。本当、物事を何でもかんでも悪い方向にしかとらえない奴だ…。何故か成績だけは人一倍良いってのに…ん?

 

 「…こ、これはーッ!?」

 「…何だ?何が書いてあった?」

 

 思わず叫ばずにはいられない内容だった。その手紙には、何と……

 

 『好きです。仕事の終わり時、屋上で待っていてください』

 

 と書かれていたのだ!!

 

 「…やったなお前。これ見ろよ。」

 「……あ?ラブレターか?ヘッ、今更俺を好きになってくれる奴なんかいねえって。」

 「いや、やったじゃん!良かったなお前!誰だが知らないけど、お前を好きになってくれる奴がいたってことだろ!?」

 

 だが、依然としてレンの闇のオーラの強さは微力たりとも変わらず…。

 

 「どーせ偽物だろ、こんなん…。屋上に行ったって、騙されて馬鹿にされるのがオチだ…。」

 「いや、信じようよ!俺が保証するよ!」

 「…ヤダね。どーせお前が保証するよとか言ったって、もし偽物だったら何も気に掛けてくれなくなるんだろ…?」

 「…う、うぐっ…!」

 

 腹立つことにこいつは一々人の心を奥深くまで読んできやがる。そうとも俺はお前が屋上へ行って騙されても何かしてやるつもりなんて無かったさ。

 

 「やっぱね。じゃ、俺は資料でも読んどくから、精々頑張れよ。ブツブツ…」

 「……お、おう!お互いガンバロー…!」

 

 俺は後ろを向いてまた呪詛を吐き続けているレンに向かってそう言った。何でコイツと同期になっちゃったのかな…。

 

 

 

 「…はぁぁーっ……仕事辛すぎだろ笑えねえ……。」

 

 俺は無理に多く出された仕事を光速ですべてこなし、今世紀最大の疲労が襲い掛かってくる。んだよあの上司…俺ら社員を散々こき使いやがって…。こっちの立場にもなってみろってんだ…。気がつけば深夜だ。幸い家が近いので、終電は気にせず家に帰れる。

 だが、結局レンは屋上に行かずに家に帰るし、だるさで体が全然動かないし…。とりあえず、後5分したら帰るか…。あー疲れた…。

 

 

 …夜の暗い道を一人で歩く。何処かの家でわいわい騒いでる声も聞こえず、辺り一帯静寂に包まれている。

 だが、そのおかげだろう。俺が()()()に気付いてしまったのは。

 

 

 …ゴト…。

 

 「?」

 

 突然、ゴミ捨て場から物音が聞こえたのだ。何かとの中で何かが動いた時に鳴る、あの音。こんな夜中に突然聞こえると、ホラー以外の何物でもない。

 

 「何なんだ?」

 

 正直近寄りたくなかったが、悲しいかな俺の癖で、こういう時は絶対に調べないと気が済まないのだよ…。

 音がしたゴミ捨て場に行ってみるが、暗くて何も見えない。

 …あ、そうだ、携帯のライト使えばいいじゃん。よし…。

 

 携帯のライトで照らした先には、何とそこには小さくも禍々しいオーラを放っている風変わりなデザインの壺があったのだ!

 …え?嘘だろ?まさかこんな生きていないモノが動くわけ―—―

 

 …ゴトゴト…。

 

 …どういうことなのか誰か説明してください。確実に自分から動いていますよこの壺。何、覗いてほしいの?この壺覗いてほしいの?割るぞコラ。

 

 …ゴト…ゴトゴト!ゴトゴト!

 

 あーもう腹立った。こいつを割ってストレス解消するか。割ったらそれでもう音とかしなくなるだろうしな。

 とか思って、俺は壺を持ち上げ、そのまま適当な床に投げつけた。

 

 そぉい!!

 

 パリーン!!

 

 ……あ。俺は何をやっているんだ…。ゴミ捨て場に捨ててあったからいいが、この壺骨董屋にでも売れば高くつくんじゃなかったかなぁ…。我ながら苛立ちに身を回せて勿体ないことをした。帰ろ帰ろ。

 

 「…待て…。」

 

 やばいなー、お腹減ってきてしまったな…。今日の夜食はカップラーメンで済ませるか。体力のない今料理とか作れないし。

 

 「…待てと言っている…。」

 

 …いや、ちょっと待てよ?…あ、まだ今週小説更新できてないままだな。これはちょっと無理して執筆する必要があるかなー…。

 

 「…待て!」

 「ッるっせえな誰だ―――って…。」

 

 さっきから聞こえる女性の声。幻聴だと思っていたので無視を続けていたが、遂に耐えきれず怒鳴ってしまった。そしてそこには、漆黒のローブを身にまとった水色の髪の中学生ぐらいの小柄な女性が居ましたとさ。

 

 「……。」

 「やっと気づいたか。我をこの封印から解き放った愚かな人間は―—―」

 「……。」スタスタ

 「ま、待て!!話を最後まで聞け!!」

 

 そう言われても、振り向く気などない。何かめんどくさそうな長話に付き合わされそうな予感しかしないのだ。だが、無視された彼女がそのままどこか行くという筈もなく―—―

 

 「おい!!こっち向け!!」

 

 ―――なんかついてきてるし。無駄にローブが長いせいで結構歩きにくそうなんだけど。

 …これ以上ついてこられると迷惑だから話しかけてみるか……。

 

 「おいおい、何なんださっきから付いてきて。」

 「…フッ、その理由が知りたいか?」

 

 なんか…やっと返事が返ってきたみたいでちょっと嬉しそうだ…。

 

 「その理由とはな。お前、さっきあの壺を割っただろう?」

 「…あ、あの高そうな壺か?」

 「あれはな、実は我こと魔王を封印していたつb―――」

 「……。」すたすた

 「最後まで聞けーーーーー!!」

 

 嫌だ。なんかもう呆れた。これ以上聞く気も失せた。大体、魔王が存在するのってファンタジーとかゲームぐらいだろう。なんでこの現在に居るんだよ。寧ろ何で今まで発見されなかった。

 

 「ちょっと、本当我の話を聞かんかい!呪うぞ!!」

 「呪えるもんなら呪ってみろ中二病。」

 「な"ッ……!!…クソッ、封印されてた後遺症で呪術が使えないのだ…。いいか!?我は絶対n―――」

 「……。」

 「だから聞いてーーーーー!!!」

 

 だから嫌だ。こいつ完全に偽物じゃねぇか。壺を割って出てきたはともかく、知らない人についていくとか話を聞いてほしいとか今どきのガキか?ガキなのか?

 

 「だったら、魔王だっていう証拠を見せればいいじゃん。」

 「……世界の半分を貴様にやることならできるぞ。」

 「それ竜王だろ。俺が言ってるのは魔王だ魔王。」

 「…大体、何で私が見ず知らずの人について言ってるのか、教えてやろうか?」

 「ああ、頼む頼む。」

 「…逃げるなよ?」

 「分かったって。」

 

 だが、本当にこれ以上寒すぎて聞き苦しくなったら逃げるか。それでいい。

 

 「…まず、あの壺は封印の壺だったのだ。私は数百年前、この惑星に魔王として君臨していたのだが、そこにある若者が現れた。名前は覚えてないが、そいつが異様に強くて、私は壺の中に封印されてしまったのだ。」

 「…テンプレRPGのそれといっしょだな。」

 「話を聞け!!…それで、今まであの壺の中で窮屈に暮らしていた時、その壺は災厄の壺として忌み嫌われた。まあ立場上当たり前のことだが。そこで色んな人の手の元について、そこでゴミ捨て場に捨てられてしまったのだよ。」

 「…あそこか。」

 「そうそう。まあ貴様の手に渡ったおかげで、私は数百年ぶりに封印から脱することに成功したわけだが…。」

 「余計なことをしてしまったようだな。」

 「まあな。そこで、貴様には我のしもべとなってもらう!!」

 「嫌です。」

 

 まあ即答は誰だって確実だ。中には、『こんな可愛い女性のしもべになれるなんて、僕感激です!』なんて奴がいるのだろうが、俺はそんなのには全然興味はない。大体、魔王と自称している奴のしもべに成れとか言われたらとか誰だって断りたくなる。

 

 「拒否権はない。さあ、我を貴様の家に連れてゆくのだー!!」

 

 …どうせ断っても勝手についてくるに違いないな。よし、居候されるのは嫌だが、条件を掲示すればいいだろう。

 

 「いいだろう。だが、条件がある。」

 「…む。魔王である我に条件を付けるとは、おこがましい…。」

 「勝手に居候するお前の方がよっぽどおこがましいわ!!」

 「…まあいい。で?その条件は?」

 

「一、決して家の備品などを壊したりしないように。

 二、俺の家を改造したり、迷惑をかけることをしないように。

 三、居候させてもらってるんだから、常に俺に感謝する事。」

 

 「……。」

 

 自称魔王は黙ってうなずいた。

 

 「交渉成立だな。じゃあさっさと来いよ。俺の名前はフウマ。お前の名前は何だ?」

 「…ヘルだ。」

 「ふーん、地獄(ヘル)か。縁起の悪い名前だが、まあいい。今更質問するのもあれだが、お前家は何処なんだ?」

 「そんなのもう没落したに決まっておるだろう!」

 「はいはい、そうですか…。あ、そうそう。俺はお前が魔王ってこと信じてないから。よしんばお前が魔王だとしても、俺は普通に扱うからな。」

 「…分かった。ならば、我が魔王だと知った瞬間これまでの行いを自首し、反省するのだな?」

 「分かったよ。それでいいだろそれで。」

 

 俺はまだそいつが魔王ということを信じ切れてなくそのまま適当に聞き流してしまってたのだが、どうやら俺は本当にとんでもない奴を拾ってしまったらしいということが、あとで十分すぎるほどに分かったのだった。


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