俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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どうも、三倍でございます。
今回も一万文字越えするという、無駄に長い話となりました。


告白

 ……来るべき日が、訪れた。

 

 「じゃあフウマ、しばらくの間、留守番をさせることになってしまうが、それでいいか?」

 「いいぜ。だがその代わりに、タイムスリップ中に起きた話、全部聞かせろよ。」

 「分かってるって。じゃあね。」

 

 我は時間逆行(タイムスリップの魔法。詳しくは前回参照)を唱え時空を超え、まだレンの生きている過去へと飛んだ。

 場所は、フウマと同じレンの通勤する会社、時間はまだ会社に誰も来ないような早朝に設定した。ここでこっそりと手紙をフウマに教えてもらったレンのデスク(どうやら十字架のマグネットがパソコンについているらしい。祈祷師と関係あるのか?)の引き出しの中に入れて、かなり手持ち無沙汰になってしまうがそこから屋上で待つ。……あ、これだと時間逆行の制限時間を超えてしまうから、少しズルくさいけれども時間逆行を一回無効にして、そしてしばらくしてもう一回行こう。と言っても、外出用の服でも会社でスーツではないのは不自然らしいので、サイズはあってなくてもフウマのスーツを貸してもらった。かなりダボダボ。そしてそこから物陰からレンが来たのかどうかの様子を監視し、レンが来たら告白。よしこれでいい。あとはレンが来るかどうかだ。

 まとめると、レンの引き出しの中にラブレターを入れて、そして屋上に誘導して告白って感じだ。

 

 「………。」

 

 無事、時間逆行に成功した。ちゃんとフウマに教えてもらった通り、レンの通勤する会社にワープできた。

 ええと……レンのデスクはっと……これか。十字架がついている。よし、じゃあここに手紙を入れよう……と、思ったその時。

 

 「……あら?一番乗りだったかな?」

 

 声から女性と思われる社員が乱入してきた。……まだ、誰も来ないはずなのだが。

 我は咄嗟の判断でデスクの陰に隠れ、上手く女性社員の目を欺こうとする。

 

 「…あー、そういえば今日は私来なくていい日だったんだっけなー?」

 

 …じゃあ来るなよ!!

 と、心の中で突っ込んでおいた。口に出したらバレる。

 

 「でもまあいっか。せっかく来ちゃったしお仕事しよっと♪」

 「…………。」

 

 この女め……レンの隣のデスクに座りやがって……手紙が入れれないじゃないか……。わざわざ音符記号までつけやがって。この状況、どうやって打破しよう。物音を立てて誘導?いやいや、リスクが高い。もっと別の方法があるはずだ。席を離れるまで待つ?……待っている間にほかの社員が来てしまったらさらに我がばれてしまう確率が高まる。

 と、そんな思考を重ねていたら—――

 

 「………あ、フウ、お前もういたのか?」

 「あ、レン。」

 

 レンがこの空間に入ってきた。……今、この女の名前をフウといったのか?…フウマと少し名前が似てるがそれはともかくとして、本命の相手が入ったのはいいのに邪魔者がいるな…。何とかして突破できないものなのか……。

 

 「……フウ。」

 「何?」

 「今日の弁当は作ってきてるのか?」

 「え?ああ、うん。そーだよ。はい、どーぞ。」

 

 「……!?」

 

 …二人は、どういう関係なんだ!?

 もしかして、もう既にレンには恋人がいたというのか!?……いや、そんなの絶対にありえない。だって、自殺した動機が恋人がいなかったから…なんだろう?だとすれば、この二人は恋人関係ではない……だとすれば、何だ!?

 謎が謎を生む。

 

 「今日の献立は、最近視力が悪くなってきてるみたいだからブルーベリーを混ぜ込んだパイに、あと最近痩せぼそってて不健康みたいだから、ビタミンとカルシウムが豊富なかぼちゃと牛乳のスープに隠し味としてオリーブオイルを垂らしてみたよ。どうかな?」

 「…別に、俺はそれでいいけど。」

 「もー、いっつもレンは答え方がハッキリしないよね。せっかく君のためにお弁当作ってるんだから、本当はもっと感謝しなきゃダメなんだよー?」

 「はいはい、感謝感激感無量。」

 「何その棒読み!?」

 

 …うーむ。本当にどういう関係なのか気になって仕方がない。単にお弁当を作らせてもらっている関係……ではなさそうだな。妙にお喋りだしまずお弁当を作らせてもらっているという関係がすでにおかしい。仲がいいってだけでそんな関係に至るのはあり得ないし、恋人か、何か《《特別な関係》》を持っているというのが適切な考えだ。

 というか、時間逆行のタイムリミットのせいでちょっと眠くなってきたのだが…。早く手紙を入れなければ。

 

 「……ふー、ちょっと書類コピーしに行ってくる。」

 「………あ、俺もちょっと…。」

 「……………。」

 

 ラッキー!!

 まさかの二人とも席を離れて別の空間に行くと!これは運がいい!今のうちに手紙を入れて戻らないと!!

 善は急げという。我は急いで手紙を吹き出しの中に投入し、時間逆行を無効にし、元の時間軸に戻った。

 

 

 「ただいま。」

 「おかえり。」

 

 無事帰還成功。ここで一先ず休憩を挟むとする。あまり連続で時間逆行を発動してしまうと2時間経たなくとも過労で死に至る危険性が出るからだ。

 フウマは昼食を作っていた。この匂いからして、たぶん炒飯だろう。

 そして5分後、炒飯がテーブルに並べられて、我とフウマは向かい合わせに座ったのだった。

 

 「いやーお疲れ。どうだった?ラブレターは入れれた?」

 「うむ。ちゃんとレンの引き出しにラブレターを入れることに成功した。」

 「おお、それは良かったじゃん。順調順調。あ、そうだ、途中で何かあった?」

 「…ああ、それはえーと…。」

 

 我は考えて、途中でレンが同じ部屋に乱入してきたこと、そしてさらにフウという名の女性がレンとやけに親しいという旨の出来事を話した。一つ目のほうはフウマも相槌を打ちながら聞いていたのだが、二つ目のほうで少し顔をしかめた。

 

 「…どうした?」

 「……あ?いや、何でもないさ。」

 「いや、何かあるだろ。」

 「ないったらない。俺が今までお前に嘘をついたことあったか?」

 「ない。」

 「じゃあ今も俺は本当のことを言っているんだ。違うか?」

 「違う。」

 「断言した……。」

 

 言わせてもらうが、はっきりいってそんなセリフの信用性なんて全くない。今までフウマが正直者を演じて我を何度も誑かした可能性だって否定できない。だってそうだろう。そんなセリフいくらでも口から出るからだ。そして、その例として最たるものが詐欺師。

 …しかし、そんなことを言ってしまえばフウマが嘘をついているという証拠も一つもないのだが。

 

 「とにかく、俺は嘘はついていない。フウとは会社が同じっていうだけの赤の他人なんだ。分かったか?」

 「あーはいはい。分かりましたよ。」

 

 これ以上話が激化するのも体力を消耗して逆に面倒くさいので無理やり終わらせることにした。もし嘘だったらいずれバレると思うし。

 ……しかし、フウは誰なんだろうか…?

 

 「ふー、ご馳走様。」

 「お、今日はなんか食べ終わるのが早いな。」

 「なんかちょっと張り切っちゃってる気がするんだよね。自分でも分からないけど。」

 「いやー本当にお前はレンのことが好きなんだな。はっはっは。」

 

 フウマはそう言ってわざとらしく、かつ快活に笑う。

 

 「あ、そうだ。もしレンが屋上に来なかったとしたら、どうするの?」

 「そしたら屋上から飛び降りて帰ろうとしているレンを追いかける。」

 「スタイリッシュだな!下手したら死ぬじゃんそれ!?」

 「大丈夫大丈夫、仮に死んだとしてもさ―――」

 

 我は露骨に声のトーンを下げて、こう言った。

 

 「―――我は、本当はこの世界にいてはいけないんだから大丈夫だって。」

 「……。」

 「だって、今まで我慢してきたんだが、どう考えてもこの現代に魔王という存在は不自然極まりないと思うんだ。だから、死んだら死んだでいいんだよそれで。むしろ、死んだほうがいいんだろうけれども。」

 「まあ確かに、今は魔王なんてそんな古臭い存在は要らないよな。」

 「…否定しないんだな。」

 「んあ?だって本当のことだろ?」

 

 腹が立った。

 我は怒りの勢いに身を任せて席をがたっという音を鳴らしながら立ち、フウマに近づいて徐に殴る。

 

 「ちょ、ちょっと魔王!?何をしているんだ!?」

 

 フウマも腕をクロスさせてガードをするが、それでも何発が食らってしまっているようだった。

 ごめん我も何してるか分からない。

 

 「テメェ私の言いたいことが…全く分かっていないようだなァ!!」

 「え?何が!?何が逆鱗に触れたの!?」

 「謝れよ!!謝らないとチンコもぎ取るぞ!!」

 「いくら怒りで我を忘れているとはいえそんな卑猥な言葉を使うんじゃないよ!?」

 

 普通はここはシリアスなシーンのはずなのに我のセリフで台無しになっているの図。

 たぶん、今我は情緒不安定になっている。

 何故だろう。

 

 「魔王!北斗百裂拳はケンシロウ特有の技なんだぞ!?お前が使ったらケンシロウの心が折れてしまう!!」

 「違う!これはケンシロウなどではない!スタープラチナだッ!」

 「ごめん俺ジョジョネタ分からない!」

 

 やっぱり我のセリフでシリアスシーンのシの字すらもなくなっていると思う。なんてことをしているんだ我は。馬鹿か。というかフウマを殴っている理由が最早腹立ったからではなく無理やりシリアスシーンを作るために変わっている。情けなし。

 

 「…ちょ、ちょっと……このっ!落ち着け!」

 「ぎゃ!」

 

 あまりにも長く乱れパンチを続けていた我は疲労が溜まって無意識のうちにスピードが遅くなっていたようで、ついにフウマからの渾身のパンチを食らってしまった。どうやら肋骨の間に入ったようで、ダメージが普通よりも倍近い。RPGでいう、痛恨の一撃というやつか。

 

 「…げほっ!!ごほっ、ごほっ!」

 「あぁ…すまん。」

 

 謝らなくていいよ。と言いたいのだが、拳が呼吸器に直撃して息を吸って吐くという簡単なことすらままならない。

 それでも我の場合は、酸欠で死ぬというのはあり得ないんだけど。

 

 「……いやでもまあ、さっきの発言はいくらなんでも失礼過ぎたな。ごめん、それは謝る。反省する。」

 「ぜーはー…あ、いや、でも、我もちょっと、さっきのはあれだったかななんて…。」

 「まああれも俺が魔王に失言をしなければこんな事にならなかったんだ。全部俺のせいさ。」

 「……うん。」

 

 我は、小さくうなずいた。

 

 「さて!」

 

 フウマはこの気まずい雰囲気を切り替えるべく、そろそろと言って呼吸をまともにできるようになった我に話しかける。

 

 「そろそろ、行くその時だ。」

 「…え?」

 「分からないのか?今、お前のその能力やら魔法やらで時間逆行(タイムスリップ)を発動し、レンがまだ生きている過去へ向かうべきなんだ。」

 「…ああ、そういうことか。」

 

 我は座っていたソファから重い腰を持ち上げ、そしてリビングの一番開けている、つまりは家具が置かれてない広いスペースのセンターに立つ。

 

 「…よし、じゃあ、飛ぶ時間をレンの仕事が終わる時間に設定して、そして告白しに。」

 「ああ、頑張って来いよ。俺は信用しているからな。お前のことを。」

 「……フウマにそう言われると、何だか嬉しいという感情が湧いてくるよ。」

 「そりゃあどうも。」

 

 「じゃあ、行ってくる。」

 「おう!頑張れよ!!」

 

 時間逆行、発動。

 ここからが、本番の時である。

 

 

 ………………。

 ここは…会社の屋上だな。そして、時刻設定に誤りはなかったようだ。

 

 「……………。」

 

 できるだけ足音を立てず、人目につかないような場所に逃げ込む。もし会社員などに我が見つかったら、大ごとになってしまう。それは面倒臭いから、できるだけ避けたい事態である。

 

 「……………そして。」

 

 レンはいない…か。

 しかし、この時刻設定はフウマのレンの帰宅時間から大体予想で求めたもの。レンは気まぐれな性格でもあるらしく、帰る時間は日によってまちまちらしい。

 ……時刻は平均帰宅時刻よりちょっと早めに設定したし、この時点でレンが帰ってしまっているということは流石にあり得ないだろう。

 それに、タイムリミットは2時間だが、それまでにレンが来ないということは100%あり得ない。我が計算したのだから、間違いない。

 

 「…さて。」

 

 待つか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………来ない……。」

 

 あれから一時間ぐらい一人しりとりやエアーあやとりなどをして待っていたが、レンは全く来る気配を見せなかった。

 何故だろう。

 手紙もちゃんと入れたはず。

 引き出しをチェックしていないなんてそんなこと、会社員としてあり得ない。

 …………。

 またネガティブな性格が災いし?

 

 

 「……!!!」

 

 屋上にある塀に寄りかかってレンの姿を確認しようとしたが、さすがに高いというのがあり全く見えない。しかも暗いため、難視状態である。

 しかし、その状態でも、レンが帰ったという確証を裏付ける出来事があった。

 会社のビルの電源が落ちたのだ。

 

 

 「よいしょっ…!!」

 

 決死の覚悟で塀を飛び越え、そのまま屋上から落ちて一回へと一気に降りる。理由なんて、言わなくても分かるであろう。我は、何としてでもレンに告白をしたいのだ。

 そして、そのまま落下によってスピードが上昇し、地面に着地したころには足に重いなんて程度ではない、最早体全体に激しく強い衝撃が渡った。足の骨が折れるなんてそんな生易しい表現はできずに、粉々になったという表現が正しいかもしれない。

 普通の人間なら即死の高さである。

 

 「…………。」

 

 どこ…!?レン、どこにいるの!?

 そんな言葉を出そうとして口をパクパクさせたが、足の反動でまたもやうまく声が出せなくなってしまったらしい。体全体に響き渡ったのだから、当然か。

 ……とりあえず、走る。探すためには、走るしかない。

 もしかしたら、家に帰っているかもしれない。

 もしかしたら、もうこの通路にはいないかもしれない。

 もしかしたら、いくら探しても無駄かもしれない。

 それでも。

 その、良いほうの可能性に、我は賭けてみたい。

 それがもし一般的な魔王としてのイメージを損なったとしても。

 

 「……あぁっ……!!…うっ……!!」

 

 走るたびに、足が痛む。知らず知らずのうちに出るようになった声が、もう痛みで漏れる漏れる。

 今まで見ないようにしていたが、ちょっと、足、見てみよう。

 ……………意外と無傷だった。

 

 「…私の足つよっ…!」

 

 じゃなくて。

 そんな自分の足に対する自画自賛をするわけに、わざわざ時間逆行を発動して屋上から飛び降りたのではない。

 それに、痛くなさそうに見えるのは外側だけで、内側はもしかしたら中身がぐっちゃぐちゃになっている可能性すらある。

 もしそうであっても、外側からは内出血というカタチで見えるはずだが。

 いや、でも、しかし、世の中にはすぐ近くで爆撃を受けても全身に包帯を巻いて安静にしていたらすぐ直った警官もいるらしい。人間がそのレベルなら、魔王である我はもっと高レベルということか。

 足が無事なのも頷ける。

 じゃなくて!

 

 「早くレンを探さないと、一生後悔する羽目になる!一生使えない奴という烙印を押されてしまう!!」

 

 我は、足に激痛が走ってるのにもかかわらず、傍から見れば遅くても走り出した。

 そして、そこから、我は、いや私は、奔走した。

 もう、この地域の隅という隅を駆け回りながら。

 途中で、フウマも見た。どうやら、ふらふらした足取りで帰っているようだった。

 しかし、我の目当てはフウマではなくレンだ。…まさか、本当に、もう帰って行ってしまったのだろうか?いや、もうそんなことは考えたくない。

 足が壊れそうなのに、足が朽ちそうなのに、足がもう使えなくなってしまいそうだったのに、そんな結末なんて嫌だ。

 それこそフウマの言葉を借りるなら、誰も望まないし、望みたくもない。

 だから、例え足が取れてしまっても、我はレンを探す。

 この真っ暗闇の中で。

 

 ……しかし。

 

 「…うっ、があっ!!」

 

 とうとう足が動かなくなってしまった。いや、正確に言うと、まだ動きはするのだが、走れはしなくなってしまったのだ。我は疲労と激痛でペンチプレスに上から押されているかのように、地べたに横たわってしまう。

 空気に圧し潰されそうだ。

 

 「……。」

 

 …失敗か。

 いや、ここで時間逆行は無効にして助かることはできるのだけれども…。

 そんなことをしたら、我は自分を生涯恥じる。

 そして、フウマの思いにもこたえられなくなってしまう。

 裏切ってしまう。

 嫌だ。

 そんなの…嫌だ。

 

 「………レン……。」

 

 全身が痛い。

 

 「………助けて……。」

 

 死んでしまいそうだ。

 いや、魔王だから死なないのだけれど。

 心が。

 痛い、苦しい、痛い。

 

 「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」

 「お、おい!?大丈夫か!?」

 「……え?」

 

 うつぶせになっている我に向かって声がかかってきたみたいなので、そこに視線をちらっと向けると、そこにはレンがいた。

 ……やっと、見つけた。

 

 「レンーーー!!!」

 「…え?おい!?ちょっと待てよ誰なんだよお前は!?」

 

 我は足が動かないのにも関わらず、なぜはその場で飛び上がってしまうレンに抱き着いてしまう。言っておくが、この時のレンは我の存在を知らない。レン目線から見れば、わけもわからず見知らぬ人に急に抱き着かれたのである。

 

 「ああ、ごめんね。」

 「…たく。いったい誰なんだお前?何で俺の名前を知っているんだよ?」

 

 ……薄々気づいてはいたのだが。

 よくよく考えてみたら、いやどう考えても、この告白する方法はおかしい。よく考えてみろ。される側から見たら急に知らない奴に抱き着かれて(しかも名前を知っているから気味が悪い)さらに告白もされるんだぞ?不条理以外の何物でもない。馬鹿らしい発想だった。

 急遽計画変更だ。

 

 「え、えへへ…。あのさ、私の存在はすぐに忘れてくれて構わないんだけどさ…。ちょっとだけ話を聞いてくれないかなって……。」

 「……。」スタスタ

 「ま、待て!話を聞け!!」

 

 気が付いたらレンが我のことを無視して行こうとしていた。我は即座に追いかける。

 何だろう、この既視感は。

 

 「……何故、付いてくる。」

 「ごめん!本当に話をちょっとだけでも聞いてくれないか!?」

 「…ああ、分かった。」

 「…うん!」

 「3秒以内な。」

 「短っ!?」

 「ほら、さっさと話せよ。」

 「あ、ああ、うん!」

 

 我は一呼吸置いて、レンに話しかけた。

 

 「…えーとさ。あのー…。きっ君を大切にしてくれるって人が、どこかにいる……とお、思うんだ。」

 「は?俺を大切にしてくれるなんて世界のどこにもいない。俺を大切にするくらいなら、もっと他の奴を大事にすべきなんだ。今度ユウキでも紹介してやろうか?」

 「……い、いや。そういうことじゃなくてさ。今君はね?あのー、……自殺しようとか、考えてないよね?」

 「…あ?ああ……まあ、そうだな。」

 「嘘。」

 「え?」

 「嘘だよ。」

 「嘘じゃない。」

 「嘘だよ!」

 「嘘じゃない!」

 「嘘なんだよ!」

 「どういうことだ!?」

 

 知らず知らずのうちに声を荒げてしまっていたようなので、レンは我のことを不審者を見るような目で見つめてくる。

 

 「……それは、ともかくとして。」

 「……はぁ。」

 「兎に角!!どんなに死にたいとか思っても、どんなに自殺したいなんて思っても、それをぜっっっったいに行動には移さないで欲しいんだ!だって、君のことを好きだって思う人はいると思うし、君のことを一生、一生大切にしたいなんて思ってる人が、どこかにいるはずなんだから!!」

 「……そんな言葉、いくらでも作り出せるだろ。」

 「…え?」

 

 レンは何も分かっていないような我に呆れを感じたのか、背を向けて歩き出した。我は慌ててついていくが、それでもその歩みを止めようとはしない。

 むしろ、どんどん早くなっていった。

 

 「………ついてくるな。この陽キャが。」

 「嫌だよ。だって君には、私の言いたいことを—――」

 「ああ、分かってるよッ!!」

 「!?」

 

 途中で我の言葉を遮って、レンは叫びだした。我は驚いて尻もちをついてしまい、しばらく足がすくんで立てなくなってしまった。恐るべしレンの咆哮。

 

 「俺はな……もう、人が信じれなくなってしまったんだ……。」

 「…人が、信じれないって。」

 「だから、Yahoo知恵袋で、その旨の発言を何回もしたんだ……。そして返ってきた言葉は、俺の気持ちをこれぽっちも理解していないような根拠のない発言を繰り返すやつらばかり…!!」

 「……な、何が言いたいのか―――」

 「まだ理解できないのかよ!!要するに俺は、もうお前らなんか信用できないっていうことなんだよ!!そんな根拠のないポジティブ論を繰り広げられたって、そんなの正しいなんて限らないだろうが!?」

 「……逆に言えばネガティブ論だって正しいとは限らないじゃん。」

 

 体中から恐怖の感情が消え、ようやく立てるようになる。

 そういえば、足の痛みが無くなっている。もう治ったのか?

 

 「それは俺の気持ちを知らないからそんなこと抜け抜けと言えるんだよ!俺はもう、誰も好きになれないんだ…。誰も俺の味方はいないんだ…。なって欲しくないし、…好きになるならほかの奴を好きになれ。ぼろ雑巾みたいな価値でしかない俺なんか好きになられても困るんだ。罪悪感と嫌悪感で押し潰されそうだ。」

 「……。」

 

 これは、かえって悪化させてしまったかもしれない。ここからどうするべきなのか……。いやもう、あとはこの方法しかない…。かくなる上は…!

 

 「…レン。」

 「あ?」

 

 背を向けて帰ろうとしたレンが振り向いたその瞬間、我はレンの唇に自分の唇を合わせた。

 キスである。

 

 「……!?」

 

 レンは一瞬驚いたようだったが、我の意を察したのかやがて我の体に抱き着いて、ぽろぽろと涙を流し始めた。

 

 「………ごめん。本当にごめん。」

 

 ―――ごめんという言葉を連呼しながら。

 

 「分かった?君が死んじゃったら、この世界のどこかで誰かがとっても悲しんでしまうんだ。」

 

 我は子供に物事を教える口調で、最初に言ったセリフをもう一回反復する。背中で、抱き着いている手をポンポンとたたきながら。

 

 「一生後悔して、一生落ち込むんだ。ひょっとしたら、後を追う可能性だってある。それほどに、君は………。」

 「……何だ?」

 

 目標は達成した。この結末ならば、確実にレンは自殺をしないで済むだろう。我は時間逆行を無効にする準備をして、そして言う。

 

 「………幸せな存在なのだから。」

 

 そう言って、我は、今現時点で出来るだけのとびっきりの笑顔を見せた。その笑顔を見て、普段笑わなさそうなレンも思わず表情筋が綻び、笑顔になっていた。

 言っておくが、今の時間帯は深夜である。この時間に少女と成人男性が二人で笑いあっているシーンとか、普通あり得ないだろう。

 ……そういえば、なんか疲れてきた。タイムリミットがそろそろ近づいてきているようだった。

 

 「さてと、じゃあ私はそろそろ居るべき時間に戻るとするよ。じゃあ何か、最後に聞きたいこととかある?」

 「……あ、そうだ。名前を教えてくれ。」

 「あっ、忘れてた忘れてた。」

 

 一旦時間逆行を無効にする作業を無効にして(つまりは止めて)、一呼吸置いてからレンにこう言った。

 

 「私の名前はヘル。魔王であり、人間の味方だ。」

 

 作業再開。時間逆行、無効。

 我はレンに軽く手を振って、過去の時間軸から脱出した。

 

 語り部:フウマ

 

 深夜の12時。

 何かリビングのほうから物音がしたのでそこへ行ってみると、そこで魔王が倒れていた。

 

 「魔王!?」

 

 俺は一瞬で先ほどの眠気が吹き飛び、魔王の体を持ち上げるが、どうやら寝ているだけのようだった。

 ホッと胸を撫で下ろして、俺はできるだけ魔王の眠気を覚めさせないように、寝室へと運んで、そして俺のベッドで寝かせる。

 

 「ん~、むにゃむにゃ…。」

 

 硬い床から柔らかいベッドへと移動したからなのだろう、魔王は気持ちよさそうな声を上げて笑顔で熟睡し始めた。この調子からして、多分成功したのだろう。俺はリビングのソファへ行って、そこで再び就寝した。

 

 

 ―――翌日。

 

 

 「……ふ、フウマ…。」

 「ん?」

 「本当にこれで大丈夫なのか?」

 「ああ、大丈夫だとも。」

 

 これまでの経緯は大体割愛するが、ざっくり説明しておく。あれから魔王から時間逆行で起きた事情を聞き、レンが魔王の行いによって復活したことを電話によって確認し、それからあいつを公園で待たせ、魔王に告白させることにした。

 最初は時間逆行の時に告白させようと考えていたが、どう考えてもこっちのほうがより適切だった。

 そして、魔王。俺は告白用にまた衣装を新調し、これまでのとは打って変わりかなり派手な配色へと変わった。

 そして魔王はそれを着た姿を全身鏡で見て、ちょっと顔を赤らめている。可愛いです。

 

 「…まあ、よし、じゃあ、玲友公園に行ってくるよ。」

 「おう、行って来いよ!」

 

 最近、玲友のルビがれいゆうであることが判明した。名前の由来は流石に分からない。

 ……さて!

 俺はここで待っているという約束のはずだったが、心配なものは心配。コッソリ後をつけてついていこうと思う。バレたら怒られるだろうから、本当に忍みたいな抜き足差し足で後をつけていく。道中視線を集めたりしているが、そんなのより魔王の様子の観察のほうが先だ。

 そして公園。予定通り、レンがその公園でベンチに座って待っていた。俺は出来るだけ至近距離で、声がギリギリ聞こえるくらいの位置で見つからないようにそーっと、魔王の行動を観察する。

 ―――というのは流石にストーカー行為にしか見られないので、やはり離れた場所から見るようにする。今こんなところこんな時にで職務質問を受けてしまったらこれまでの雰囲気が台無しになってしまいかねない。

 

 ……えーと、観察している限り、問題とかは特に起きてはいないようだ。魔王はレンのベンチと同じ場所に座って、しばらく談笑している。

 そういえば、あいつ、本当にビルから飛び降りたんだな…。アイツの足丈夫すぎるだろ。普通骨とか複雑骨折っていうレベルじゃないほどに砕かれるだろ。何故普通に歩いている。それほど魔王というものは人智を超えた存在だったのか。

 

 …うーむ、特に進展がないな。

 魔王もレンとは大分打ち解けた様子なんだけど、告白は全然してないんだよなー…。

 いや、もしやこのままデートに持ち込むとか、そういうことなのか…?まあ俺は恋愛経験とか殆どないから説得力は皆無だが、親密度をより深めるにはデートが一番なんだよな。

 ………お、魔王が立ち上がった。これは、もうすぐで告白をすると思われる。ああ、どうやらみんなは俺とのカップリングを望まれているようだったが、残念ながら俺と魔王は飽くまでも恋愛的な感情は持ち合わせていないんだ。俺は魔王のことを友情的に好きだとみているし、向こうからもそう見ている。

 ……ここまで言っておいて、何だか矛盾が生じているような気がするのは俺だけでいい。何かしら、嘘をついている感覚を覚えたのは俺だけでいい。

 ―――と、そんなこんな考えていたら、魔王がレンにお辞儀をした。

 多分、今魔王は、レンに向かって「お願いします、私と付き合ってください!」とでも言っているのだろう、要するに、これは告白だ。まぎれもない、告白だ。

 あとは、レンが承諾するか―――おっと、レンが魔王に手を差し出した!

 これは恋仲成立か!おお!ついに!道中何回も心が折れたこともあったが、ついに!魔王が告白に成功した!今までのトレーニングが報われた!やったーっ!!

 …と、心の中ではしゃいでおいて、俺は魔王が先に家に帰る前に即座に、即急に、家に帰宅したのだった。

 

 

 「たっだいまー!」

 

 俺が家に帰ってから2時間後、魔王が家に帰ってきた。今までにない以上に、ご機嫌になりながら。

 

 「おっ、魔王。その調子、成功したみたいだな?」

 「当ったり前じゃん!いやーもう、本当に嬉しいんだけど!今までの努力が報われたっていうのは本当に嬉しいっていうか、もう言葉では言い表せない位に達成感がすごい!」

 

 相当嬉しいのだろう。魔王なのに口調が完全にお喋りな女子高生のそれになっていた。勝手なイメージだけど。

 

 「どこに行ってたんだ?俺の予想ではもうちょっと早く帰ってくるんだと思ったけど。」

 「んー、告白成功記念に、ちょっとデートしてきた!」

 「へえ、どこ行ったんだ?」

 「喫茶店だよ!我は初めて来たんだけど、あそこはいい場所だったな。あーでも、猫カフェにちょっと似てたような気がしたなぁ。」

 「まあな。喫茶店は猫カフェから猫要素を取り除いたもんだからな。」

 「ああ、そういえばフウマに一つ聞いてあげたいことがあったんだけどさぁ。」

 「え?なんだ?」

 

 魔王は俺に近づいた後、俺の頬を平手打ちした。

 そして先ほどのぱぁっとした笑顔から一変、まるで魔王としても禍々しさを取り戻したかのように、俺の事をにらみつける。もし俺がマンボウだったら、これだけで死んでいただろう。それほどに冷たく、鋭く、恐ろしい視線だった。

 そして、俺に低い声で、ゆっくりとした口調で、こう質問してきた。

 

 「フウって女とは、お前とどういう関係なんだ?」

 

 …ああ。

 もう、誤魔化しは効かないようだな。




~初恋編 終~







 次回予告!


 時間逆行中に乱入してきた女性、フウ。この話ではレンにお弁当をあげるなどの魔王にとって謎の行動をとっていたが、この女性の正体とは一体誰なのだろうか?
 次回、その正体が余すことなく暴かれる(はず)
 近日公開(だと思う)、兄妹編、お楽しみに!!

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