俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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話数調整のため、今回は文章量少なめにしてあります。
別に手抜きとかじゃないし。


逆行

 俺はもう少し、情報を得ようとする。

 

 「………詳しく話を聞かせてくれ。」

 「…フウマ。レンが自殺をしたのは、自分の会社の屋上らしい。遺書が遺されていて、その内容は、『彼氏いない歴=年齢に耐え切れず、一回人生をリセットしてくる。俺を止めても無駄だ。決めるって決意したんだからな。でも、フウマ、すまない。』と、かなり簡潔に書かれていたんだ……。」

 「…あー、分かった。じゃあな。」

 

 俺はそう言って、通話を切断した。

 

 「………魔王。」

 「…………。」

 

 放心状態になっている。

 そりゃそうだ。

 計画が頓挫したどころか、その目的すら失せたのだから。

 

 「………なあ、フウマ。」

 「…何だ?」

 「失恋って、こんな気持ちかな…?」

 「………。」

 

 俺は何も言わなかった。

 断じて違う。

 この場合、失恋よりも、喪失感や悲哀の感情が限りなく多い。

 というか、俺だってどういう風に表現すればいいのか、すごく悩む。まず表現するのが普通憚られる場面かもしれない可能性だってある。

 

 「……どうするんだ魔王。」

 「……何…が?」

 「お前は、レン(アイツ)に対して何かしてやりたかったとは、思わないのか?」

 「……ふっ、くぅぅぅぅ…。」

 

 あー、泣いちゃったよ。

 そりゃまあ無理もない。

 だけど、俺だってこんな結末迎えたくない。

 こんな釈然としなくて後味の悪い結末なんて、誰も望まない。望みたくもない

 

 「……………………………………。」

 「ひっ……く、ぁう…すっ、く……。」

 「…………魔王。」

 「…?」

 「お前だって、こんな結末嫌だよな?」

 「……当たり前じゃん!!」

 「…まあな。」

 「何なのそのあたかも他人事のような口調は!?お前は私の気持ちを全く理解していないんだな!?そうなんだな!?」

 「何を言っているんだお前は。ちゃんと理解してるよ。」

 「嘘つきぃ!!!あぅ……フウマの…馬鹿ぁあああああ!!!」

 

 一瞬だけぐずった後に、魔王は家のどこかへ逃げ出した。俺は先ほどのショックもあって、その場から動く気が出なかった。

 普段ならさっきのセリフで反論しようと怒鳴るところだが、今回そうしなかったのはそのため。

 俺だって、豊富な絶望感と無力感に包まれている。

 

 「………ああ、ここからどうしようかな…。」

 

 残念ながら、この出来事は魔王の心にかなりのショックというか、ダメージを刻んだと思う。

 今まで、悪夢とか、一瞬攫われかけたりだとか、そんな災難な出来事が多かったけれども。

 この出来事は、はっきり言ってそれを凌駕している。

 それくらいの出来事なのだ。

 ネガティヴな性格が、マイナスに働いた。働きまくった。

 普通の人間なら、そんな彼女ができないからって死のうとはしない。現に、俺が死のうとはしていないのだから。

 

 …………。

 

 「こんな結末受け入れてたまるものか。」

 

 俺は先ほど魔王の逃げた道をたどって、追いかける。

 魔王は、俺の部屋で枕を濡らしていた。

 

 「……魔王。」

 「……。」

 「………お前は、そんなのでいいのか?」

 「…へ?」

 「お前はこんな結末でこの計画を終わりにしていいのかと聞いているんだ。」

 「……だって、一度亡くなった命は、もう戻らないんだろう?」

 

 パシーン!

 

 ビンタした。自分でも何故かはちょっとわからない。

 

 「…!?……え!?」

 

 あまりにも突然の平手打ちで、魔王は軽く混乱してしまう。

 …あー、これはちょっとどうしようか。今ので魔王の涙は引いたみたいだけどな……。

 もういいヤケクソだ。

 

 「お前は、レンのこのままにしていいのか!?」

 「…このままって、もう戻らないんじゃ…。」

 「それは人間の常識だ。だがお前は魔王だ。その常識を覆すことはできないのか!?」

 「…。」

 

 魔王はしばらく思考した。そしてある方法を思いついたようで、先ほどの泣きそうになっていた顔とは一変、ちょっと凛々しいような緊張しているような顔で俺にこう言う。

 

 「…………一つ、方法があるんだ。」

 「おお!それは本当か!!」

 「……私が過去に行って、レンに愛を伝える。」

 「……タイムスリップ!?」

 

 かくして、魔王がせっかく頑張ったルックス向上トレーニングも、俺があらかじめ決めた計画もほとんどパーになり、なんとタイムスリップをしてレンに告白するという、前代未聞の告白イベントが始まったのであった。

 

 語り部:魔王

 

 ……時空逆行(タイムスリップ)

 我はそう呼んでいる。

 時空逆行は、まあその名の通り、過去に行ける魔法。今までは封印されていた後遺症であまり大それた魔法は使えなかった。しかし、近頃その後遺症が薄れてきたのか一部の魔法が使用可能になり、その中の一つに時間逆行があるのだ。

 だけど、時間逆行でタイムスリップしている間はかなり体力を消耗する。大体時間逆行を発動してから12時間ぐらい経つと体中の生気を無くし、死に至る場合もある。だから、それまでに魔法を無効にし、元の時空に戻る必要があるのだ。

 

 「……なるほど。」

 「これが時空逆行。これを使ってまだレンが生きている時空に向かい、告白をする必要がある。」

 「し、しかし。よくSFでタイムスリップは見かけるが、大丈夫なのか?…その、タイムパラドックスとか。」

 「タイムパラドックスは……問題ないといえば問題ないが、無闇に過去の人間にべたべた触れてしまうと、自分の存在が消失する可能性がある。あと、時空逆行で過去の自分に会ってしまった場合、その瞬間自分の記憶の中で様々な追憶が塗り替えられ、精神のバイパスがめちゃくちゃになってしまう。」

 「…なるほど。デメリットあればメリットありか…。」

 「ううん、どっちかというとメリットあればデメリットありだな。」

 「でさ。タイムスリップは今出来るのか?」

 「いや、タイムスリップしてどこに飛ぶか、いつ頃の時代に飛ぶかというのを脳内で設定する必要がある。そして、その時に時間逆行を発動すればいい。」

 「なるほどな。」

 

 というわけなので、我は告白する方法と場所を考えた。

 タイムスリップして告白する以上絶対に他人にバレてはいけないし、レンに変な誤解を与えぬよう告白しないといけない。そのためには、誰にも人目に付きにくい場所—――建物の屋上というのが妥当だろう。

 フウマからレンの通勤する会社を教えてもらい、そこに時間逆行でワープし、そして手紙でレンを屋上に呼び出す―――そして、告白。という計画を策定した。ちょっとレンにとっては不条理な計画になっているが、これで十分かな。

 

 計画実行は翌日だ。じゃあ手紙を書いて、今日はもう寝て明日に備えるとするか。

 

 『好きです。仕事の終わり時、屋上で待っててください。』


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