俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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比較的早く更新。
毎回こんぐらいのペースで更新できたらいいのに。


初恋編
初恋


 前回のあらすじ。

 魔王がレン(ネガティブ先生)に恋をした。

 ……。

 ああ。

 こんな日が来るとは十分覚悟していた。

 魔王が恋をするという日が。

 だけど、その恋をした相手がちょっと覚悟してもしきれなかった。

 

 「レンて。」

 

 かなり癖というか、話しにくい扱いにくい奴に恋をしたなぁって思う。正直言って、面食らったもん。

 …まあ、ファンがたくさんいる超絶モテ男に恋しようが、見た目的な意味で救い様の無いブサイクに恋しようがそれは人それぞれだから、俺は魔王がレンに恋したことを非難する気は毛頭ない。

 むしろ応援してやろうと思う。

 

 「よしじゃあ、魔王。」

 「ん?」

 「トレーニングをしよう。」

 「はい?」

 

 魔王は俺の言った事が一瞬理解できず、首を傾げた。

 

 「あのな。お前レンの事が好きなんだよな?」

 「…ん、まあ、そうだけど?」

 「じゃあ、次に、お前の立場をよく考えてみろ。」

 「………魔王、と答えては駄目か?」

 「甘いな魔王!!!」

 「ちょっと急に叫ぶな!」

 

 俺は今から言うことの重大さを伝えるべく、顔を魔王に近づける。キスしたらできてしまいそうな距離だ。

 

 「あのな、魔王というニュアンス上、お前は公衆の面前でお前の正体をばらすのは命知らずがとる行動だ。だから、お前は人間という事にして告白せにゃならん。」

 「……どういう―――」

 「だからお前は背が低いのに学校に行ってないでいつもボーっとして過ごしているし、普通の人から見ればお前は学校にも行かないでまともな教育受けず人の家で何もしないで過ごしているニートなんだってことだよ!!」

 「……なっ!!?そ、それは流石に言い過ぎなんじゃないかー!?」

 「だから、お前はせめてルックスをよく見られるように努力をしてもらうんだ。」

 「…成程、フウマの言いたいことは十分わかった。しかし!」

 「……何だ?魔王。」

 「………最高のトレーニングを宜しく頼もうではないか。」

 「おうとも!!」

 

 かくして、魔王ルックス向上トレーニング(by魔王)というものが始まった。ちなみに、トレーニングの内容と言うものはあらかじめ決めてある。どれも基本的に魔王を鍛えて、印象を良くするためのトレーニングだ。

 

 「…えーと、じゃあまず、滝修行―――」

 「おい!?」

 

 一番目のトレーニングから早速、苦情が来たようだ。まだ実行に移してすらいないというのに。

 

 「…何だ魔王。何か不満でも?」

 「いやいやいや、ルックス向上トレーニングに滝修行って!?何かコレだけ太くて男らしい文字で書かれてるし!?場違いだし意味無さそうなんだけど!?」

 「バカ野郎魔王っ!!滝修行をすることによって心身を引き締め、鋼の精神を作り出すことによってこれからするトレーニングに耐えきれるようになれるんだぞ!?」

 「滝修行をしないと耐えられないトレーニングなんてやりたくないわっ!!」

 

 魔王の強い要望により、滝修行は変更することとなってしまった。

 

 「よしじゃあ、滝修行は仕方なく変更して、一ヶ月ライザップに通うってことでいいか?」

 「期間が長いしそれだったらまだ滝修行の方がマシだわ。」

 「えー?じゃあお前が何がいいんだって話だよ。」

 「…仕方ないな。そんならそれは飛ばして、次のに進めてくれ。」

 「……えーと、次の予定は一時間正座をして微動だにしないだけど。」

 「確かに滝修行しないとできないトレーニングだな!!」

 

 閑話休題。

 実は、微動だに動かないというのにも鍛えられるものがある。

 集中力。

 バランス力。

 精神力。

 この三つが強化されるのだ。

 ただし、あまり長く続けてしまうとそれはもはや仏教でいう苦行だし、最悪筋肉が衰弱してしまう可能性もあるので適度にやるのが吉と言われている。

 では、話を元に戻そう。

 

 「………まあ、実は、我にもそのルックス向上トレーニング方法については大体見当はつけていてね。」

 「えっ、それは本当か!?」

 「ああ、本当さ、フウマ。」

 「それはどんな方法なんだ?」

 「……○○○。」

 

 ……!!??

 こいつ…今……女として、いや、人として絶対に言ってはならない言葉を堂々と言いやがった!!

 一回お前サブタイトル見直して来いよ!?

 

 「…○○○の○○○○を自分の○○○に○○してそのまま○○○○して○○に至る…。これはなかなかいい運動になるんだぞフウマ。」

 「確かにいい運動になるんだがそれはちょっと絶対にしてはいけない運動だから!!」

 「何だ。じゃあ××××は?」

 「それはまずルックス向上トレーニングには繋がらない!!あとそれさっきの奴と別の言い方に変えただけだろうが!?」

 「じゃあファックスで。」

 「どういう意味なんだそれ!?」

 

 長い口論の末、結局のところこれまでのトレーニングの予定は全部白紙に戻し、また一から決めることとなった。

 そしてそこからさらに数十分にも渡る検討の末、結果的に完成したスケジュールはルックス向上の意が一切含まれていない、ただのトレーニングのスケジュールとなっていたのであった。

 

 「えーとまず、今は10時00分だから……10時20分から……どうしようフウマ。」

 「腕立て伏せ20回だ。」

 「それなら楽勝だな。」

 「じゃあ背中に重し乗せてもいい?」

 「どうしてぇ!?」

 

 その他にもいろいろあったけど、書くのが面倒くさいから割愛する。

 

 「……よし、完成。じゃあさっそく、実行に移すぞ。」

 「おっけい。」

 

 

 「………ちょっとタンマ。」

 「えー!?まだ一分しか経ってないじゃないか!?こんなんじゃ魔王の風上にも置けんな。」

 「…いやだって、我は普段トレーニングとかしたことないし……ぜーぜー…。」

 

 トレーニング開始から10分後。魔王はもうバテていた。

 内容は、玲佑公園にて30分間走り続けるというもの。最初は調子よくスタートしていたものの、少ししたら体力の底が見えてきたようで、地面に四つん這いになって呼吸をしていた。

 

 「フウマぁぁ……お水ちょうだいよ……。」

 「水分を摂取したら体の動きが鈍るんだ。だから十分にのどを潤せないかもしれないが、これだけな。」

 

 と言って俺は水の入ったペットボトルと紙コップを取り出し、水をコップに少しだけ注いだ。具体的な量を言えば、一口飲めばもうなくなってしまうぐらいの量。

 

 「こんだけなのか!?」

 「いつまでも水があるなんて平和ボケしているんじゃねえぞ魔王!!ごくごく……。」

 「お前が一番平和ボケしてるじゃねぇかよ!!」

 

 俺ものどが渇いてきたみたいなのでペットボトルの水を飲む。

 

 「世の中にはな……食べ物なんて食べたくても食べられない奴がいるんだ……飲み物なんて飲みたくても飲めない奴だっているんだ!……ごくごく……お前はその人の気持ちを考えたことがあるのか!?」

 「まずお前いっぺん死んで来いよ!!!」

 「ぷはーっ、やっぱり暑い日の水は体全体に染み渡る!」

 「…うぐっ…!の、飲ませろーぉぉ!!」

 

 魔王がすごい形相でペットボトルの水を奪いに来た。だが所詮背丈は中学生程度、こんなの大人の俺が上げられるだけ天高くペットボトルを持ち上げれば届きはしない!

 

 「ぴぎゃーーーーーーーー!!!(裏声)

 「金切り声を上げるな魔王!!」

 「お願いだから!本当にお願いします!!」

 「そんな丁寧にお願いをされてもなぁ…。まあ渡したいところだけどケジメをつけなきゃダメだな。よし魔王、本当はもっと走ってもらうが、今回だけは特別だ、あと一周してこい。」

 「うわあああああああああああああああうおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 叫びながら走るな。そう言いたいところだったが、大声を張り上げながら走る魔王にそんなこと言っても結局聞こえないだろうから、無駄だと踏んで言わなかった。

 ……自分もこんな事態になったらあんな全力で走るかな…。大声は発さないとしても。

 

 「はい一周!!」

 

 本当に一周してきやがった。なんかさっきより元気になってる。アドレナリンでも放出されてたのだろうか。……ん?何か魔王の口元が…赤い?

 

 「…あ!?魔王口から血ィ出てるぞ!?何があった!?」

 「のどの粘膜破けた!」

 「…え゙!?あー分かった分かった水飲ませるから!」

 

 俺は急いでペットボトルのキャップを取り、魔王にうっかり渡してしまった。魔王はバキュームのごとき勢いでその残った水をあっという間に飲みほしてしまった。

 のどの粘膜って乾燥しすぎると破れちゃうのか。しかし、その時の血液でのどの渇きは薄れそうな気もするけど。

 

 「………。」

 「げふー!」

 

 ………。

 可愛い。可愛いんだけどさ。

 今まで女子が言うと萌えるけど絶対に言わなさそうなセリフベスト10に入ってたセリフの一つ「げふー」をまさか実際に言葉で言う人がいるとは思わなかった。

 ちなみに一位は「ふえぇ」。

 

 「……フウマ。」

 「あい?」

 「お前も走れ。」

 「…何故に?」

 「我の今の苦労を知ってもらいたいからだ。」

 「ふーん。」

 

 ……こいつ、もしかして俺の能力を忘れてるからそう言っているのか?

 

 「それでは、よーいどん!」

 

 魔王がスタートコールを鳴らす。そして、それが鳴ったと同時のタイミングで、俺は走った。

 

 ビュン!!

 

 「……あ!?」

 

 あの反応…やはり忘れていたようだ。最近使っていなかったが、俺は何故か普通の人間とは天と地の差ぐらいに、数秒間だけ超速で走れるのだ。過去にこれを活用して囮になり、テロリストを鎮静化したことがある。

 ……スタートから6秒。俺は公園2週を完走した。

 

 「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああフウマの神速忘れてたー!!!」

 

 魔王は自分の頭を押さえてのけ反り返っている。

 

 「ふっふっふ、完走したぜ。」

 「よくもそんな清々しい顔で言えたものだな!!」

 

 俺の能力を使って何が悪い。別に神速などを使ってはいけないなどという束縛ルールなんてなかったはずだ。

 

 「時に魔王。」

 「何だ。」

 

 そして、神速の件から話をすり替える。

 

 「今回のトレーニングで、何がわかった?」

 「水の大切さがわかった。」

 「趣旨が変わっている!?」

 

 

 その後も、色々なトレーニングを行った。まあ抽象的に説明をさせてもらうと、走って、ストレッチして、休憩して、走っての繰り返しになったわけなのだが。

 その結果、何とか功を奏し、痩せたのか魔王は全身が程よく引き締まり、妙のその表情にも凛々しい雰囲気を醸し出していた。

 

 「…おおー!魔王、随分と女らしくなったじゃないか。」

 「本当か!?……っておいおい、それってもともとは女らしくないみたいな言い方じゃないか?」

 「ああそっかごめんごめん、魔王キレイになったじゃないか。」

 「トレーニングする前の自分は汚かったのか!?」

 「馬鹿だなー魔王は。あのな、この場合のキレイは見た目じゃなくて性格のことなんだ。」

 「我は汚い性格だったのか!?」

 「まあそうだな。」

 「即答するな!」

 

 

 

 ―――翌日。

 

 「……ああ、ついにこの日が来たようだな。」

 「……うむ。」

 

 俺らは、得も知れぬワクワク感で体中を満たされていた。

 この日とは、魔王がレンに告白をする日のことだ。このことは全然レンには伝えてないし、あいつもあいつで彼女がほしいなどと喚いていたものだから、この件はサプライズという意味も含めている。あいつも心が天に昇るほどうれしいはずだ。

 レンの願いも叶い、魔王の願いも叶う。

 何たる一石二鳥だろうか!!

 ……ああ、ちなみに告白する時間帯、場所などはあらかじめ決めてある。中途半端に計画を決めてしまっては、途中で思わぬハプニングが遅い、台無しになってしまう可能性があるのだ。

 だから、もし急に悪天候になった時を考慮して告白する場所は何と俺の家の中!

 360度東西南北上下が壁や床に覆われている場所なら、決して邪魔も入らないし、上手くいけば雰囲気を作ることもできる!!ああ、なんていい場所なんだろう、家。

 まず電話で俺の家に来てくれないかと伝え、仕事が終わる時にレンは俺の家に来る。そしてすでに面識がある魔王といろいろな会話を交わし、親密度を深めていく。この時、俺は外から望遠鏡で中を観察して雰囲気を見守ることにする。そしてそのままことが順調に進んで告白に成功したら仕事から帰ったふりをして、そしてそのまま祝う。

 なんて完璧な計画何だろうか…!!

 

 「よし!じゃあ、今からレンに電話をかけまーす!!」

 「おう!…いやー、何かワクワクと同時に、ちょっと緊張するなぁ。」

 「まあ、出会って数日の奴に告白されるのはあれだよな、ちょっとびっくりするかもしれないけど、アイツはアイツでいい奴だし、承諾してくれると思うぜ。」

 

 俺はそう言い、携帯電話で通話を試みた。

 

 TELLLLLLLLLLLLL

 

 「…はい、もしもし。」

 

 出た。

 けど。

 その声は、どこかレンとは違う声だった。

 若々しくて、ショタっ気が漂う、この声―――。

 

 「ユウキです。」

 

 なんと、ユウキが出てきたのだ。

 なぜレンの電話に。もしかして、兄弟関係なのか?

 

 「……お前ユウキか?」

 「あ、フウマか。何故電話をかけてきた。」

 「いや、ちょっとレンに用があってだな。代わってくれないか。」

 

 …まあ兄弟だという根拠があるわけじゃないが、この場合高確率でそうだろう。

 

 「…………。」

 「お、おいどうした?レンだよ、レン。」

 「………フウマ。これはかなり申し上げにくいことなのだが―――。」

 「?」

 「―――レンは自殺したんだ。」

 「………は?」

 「レンは、昨日、自殺した。」

 

 妙に文節ごとに間隔を空けて、ユウキは小さい声で言った。

 俺は、一回魔王の顔をちらっと見てみる。

 魔王は、この世に終末が訪れたかのような、絶望的な顔をしていた。


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