俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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これで、幽霊編終了でございます。
最後辺りから文章力が崩壊していきました。


浄化

 「…あのー…。」

 「?」

 

 翌日。

 俺の家に三人兄弟の亡霊も住み着きました。

 何かと不思議な生物ばっかが住み着く家である。最早恐怖。最早戦慄。

 そして、俺が朝ごはんを食っている時に疑問を投げかけた理由は、この亡霊兄弟。全員ゲッソリしているのである。そして魔王はつやつやしてるのである。

 

 「ああ、それはだな。」

 

 話によると、魔王パワーとか何とかで亡霊たちの精気を限界まで吸い取って、あまり激しい運動が出来なくなるようにされたらしい。これで我が家の家計が即火の車になることは未然に防げたが、どっちかと言うと一番おっかないのはこの魔王である。

 まずアンデッドの亡霊から精気を吸い取れたということすらに魔王への畏怖を感じるが。

 

 「…レイ君、さすがにやり過ぎ…では?」

 「…フ、何だか常に空腹の気分だよ…。幽霊だけど餓死しそう。」

 「気分じゃなくて現実を見てよ…レイちゃん、これはちょっとひどくない?」

 「え?亡霊なら肉体が無いから何食べなくても平気じゃないの?」

 「「「平気じゃないよ!?」

 

 むしろもう死なないのが仇となって永遠に飢餓で苦しむ生活を送るのだそうだ。

 可哀想と言っちゃあ可哀想だが、俺には何もやれることが無いのがとても悔しくて、とても申し訳ない。まあ、霊と言う存在の限り、そんなことをする必要はないんだろうけど。

 

 …そういえば、魔王と亡霊って存在が似てるな…。

 

 「ふー、ご馳走様。お前らだってそこで寝っ転がってないでこっち来れば飯食わしてやったのに。」

 「ドSだった!レイちゃんドSだった!」

 「ある意味ツンデレを通り越してツンドラだな…。」

 「ツンデレすらないと思うよ!?」

 

 飢餓状態で動く事すらままならない亡霊兄弟たちにそんな振りを…。魔王、お前、いや、お前も、ドSだったのか。

 

 

 

 

 「そんでさ、フウマ、あの亡霊たち、どうする?」

 「どうするって、お前…。」

 

 魔王の質問に対し、そんな意味深な返しをしたのは、つい数分前の出来事からによる。

 魔王は、自分が吸い取ったエネルギーを返す条件に、一人につき10回「私たちを早く浄化してください」と言ってくれたら返すというハートマン軍曹とか鬼畜王とかを彷彿とさせる行為をやらかしたからな…。何かもう、こいつ最初会った時の魔王とは違う。こんなサディストだったっけ?

 

 「成仏させるしかないだろうに。」

 「やはりそう答えるか。で、どうやって?」

 「んー…あ、そうだ。」

 「なんだ、心当たりのある人がいるのか?」

 「レンに頼もう。」

 「…レン?」

 

 ああ、知らなかったっけか、こいつ。だとすれば、ちょっと説明をせにゃならんな…。

 

 

 俺は携帯を取り出し、電話帳からレンのを見つけ出し、通話を試みる。

 

 TELLLLLLLLLLL

 

 「はい…。どうm―――って、お前…フウマか?」

 「まだ声も発していないのによく相手がわかったな…。お前はエスパーも使えるのか?」

 

 そういえば、レンと会話するのは久しぶりだな。最近出番…いや、会う機会が少なかったし。

 

 「あ、あのな、レン。久しぶりついでに唐突で申し訳ないんだが、頼みがある。」

 「……あ?何だよ頼みって。祈祷か?」

 「ああ、その類だ。俺の家に幽霊が住み()いてるから、浄化してほしいんだ。」

 「……あい。じゃあこれからゆっくりお前の家に向かうとするわ。」

 「おっけい。できるだけ早く頼むよ?」

 

 俺はそう言って、携帯電話を切った。……あー、やっぱりアイツとは会話がし辛いな…。ちょっとだけ間をあけて返してくるし、何よりも声がかぼそくてすごく聞き取りづらい。

 俺は携帯電話の電源を切って、向こうで魔王と戯れている(仲良くなったようだ。様子を見る限り、先ほどのあれはなかったことにされている)亡霊トリオに話しかける。

 

 「おい、亡霊。」

 「おっと、僕たちのことをまとめて亡霊呼ばわりしないでくれませんか?できればそれぞれの名前で呼んでくれると嬉しいですね。」

 「亡霊。」

 「…こいつ、ケンの忠告を無視しやがった…何たる猛者だ、いや、何たる…猛々しい男だろう。」

 「なあおい、ケンの忠告にはどんな力があったんだシュンキ?」

 「ケンの一言には世界を物理的に揺るがす能力があるんだよ!」

 「おいユミ物理的にってどういうことだ!?」

 

 これ以上話がそれたらグダるので、さっさと本題を言おう。

 

 「お前らを成仏させることにした。」

 「「「えー!?」

 「えー!?」

 

 何で三人とタイミングが遅れて魔王も愚痴るんだよ。というか愚痴るなよ。仲良くなるなよお前ら。

 

 「やだやだー!まだここにいたいー!!」

 「……天国、か…。どういう場所かが不安過ぎて、行くという行動を拒否せざるを得ない…。」

 「…まあ、フウマさんの気持ちも分かります。僕ら亡霊が、普通の人の民家に住んでいたらおかしいですもんね。」

 「おっ、ケン。やっぱお前だけだよ一番の常識人…いや、常識霊は。」

 

 …シュンキとユミと比べて、こいつが一番しっかりしている。きちんと霊としての常識も弁えてるし、何よりコミュ力が高いのか接しやすい。

 

 「では、常識霊として、もう一つ質問がありまーす。」

 「何だ、聞いてみろ。」

 

 ケンは一つ、咳払いをしてこう言った。

 

 「なぜ、亡霊が住み着くのはおかしいのに、魔王が住み着くのはおかしくないんですか?」

 「………!」

 

 俺と魔王は、何も答えなかった。否、答えることができなかった。俺が魔王や今後の自分の生活を考えて今までずっと気にしないできた質問を、こいつは平然と言いやがった。常識人というより、ゲスである。

 …うんこれは嘘、言い過ぎた。

 

 「…あ、えっと。」

 「あー、そういえば私も気になってた。ねえレイちゃん、レイちゃんって確か魔王でしょ?何で一般人の家に住み着いてるの?」

 「…そ、それは、フウマに拾われてさ……。」

 「いやでも違和感があるな。魔王ってどっちかというと人間の敵だよな。何故人間に味方している?なぜ人間と共に行動をしている?」

 「…だって、フウマは…ちょっとした恩人みたいなものだし…。」

 「だったら他の人類に牙をむこうとはしないんですか?」

 「しないよ!」

 

 質問攻めする三人に対して、魔王は少し声を張り上げた。

 

 「我は、魔王になりたくてなったわけじゃないし!」

 「…え、そうなのレイちゃん。」

 「うん。」

 

 魔王は、ちょっと焦り気味の声でそのまま続ける。…いや、焦りじゃなくて、震え気味か。

 

 「魔王ってのは、決して我が選んで呼ばれた名前じゃないんだ。正直言って我は魔王ではないに等しい。ちょっと強い力を持ったただの人間なんだ。…まあ、厳密に言えばその他少々人間とは違うけど。」

 「は?じゃあなんだ?魔王ってのは名前だけで、本当は人間に危害を加える気はないってことを言いたいのか?」

 「そう!そうそうシュンキ!」

 

 激しく肯定する魔王に対して、シュンキはため息をついてやれやれと呟いた。そして次にゆっくりと立ち上がって、魔王の所へ歩く。

 

 「…な、何さ。」

 「…なあ、レイ。」

 

 シュンキは魔王を嘲るような声と顔で、こう言った。

 

 「お前は実に馬鹿だなぁ。」

 

 「…何だと?」

 「…だってさ、お前は魔王だから自負はしてるよな?()()()()()()()ってやつをさぁ。」

 「…存在意義?」

 

 魔王がシュンキの言った言葉の一部を反復すれば、シュンキはさっきより深く、ため息をつく。そして突如、シュンキは魔王を突き飛ばした。

 魔王は突然のことに対応できなかったのか、そのまま尻餅をついて倒れてしまう。

 そのまま、シュンキは倒れた魔王の上に乗り、胸を触ったり、股間の部分を撫でまわしたりした。

 

 「れ、レイちゃん!?」

 「魔王!?おいシュンキ何をするんだ!!」

 

 俺は上に乗ったシュンキを横から突き飛ばしそのまま一喝するが、その嘲るような目線は一切変わらなかった。むしろ、より、その思いが強くなっている気がする。

 …魔王が触れることが出来れば、俺も触れることが出来るのか?

 

 「なあ魔王さん。例え亡霊であれ、こんなことをされたら殺したくならないか?」

 「……。」

 「悔しくないか?殺意が芽生えないか?憎らしくないか?」

 「………いや、芽生えない…し。」

 「何?」

 

 予想外の返答が返ってきたようで、シュンキはもう一回聞いてしまう。

 魔王は少し涙目になっていて、そのままゆっくりと立ち上がって……何もしなかった。ただ、その場に立っているだけだった。

 

 「だって……我…は……殺したくないんだ……。」

 「殺したくない?」

 「これ以上…生き物を傷付けたくない。殺したくない。命を絶たせたくない。」

 「…ああ、そうか。」

 

 シュンキは魔王の意を察したようで、ゆっくりと後退して、ケンとユミの居る場所へ戻る。

 

 「すまない。少し勘違いをしていた。お前は後悔しているんだな。」

 「……あ、うん。」

 「すまない、先ほどの非礼を許してくれ。」

 「…分かった。」

 「あー…良かった。このまま血祭りになったらどうしようかと思ってた。」

 「他人の家で血祭りなんて死んでも嫌だけどね…もう死んでるけど。」

 

 こんな雰囲気の中でもサラッとジョーク入れてしまうケン先輩本当に憧れます。僕が主人公の座を投げ出してしまいそうなぐらいです。

 …冗談だけど、こういう雰囲気の切り替え方は本当に上手い。

 

 「でもさ、レイ。お前ってそんなに胸大きかったんだな。」

 「…そんなこと言うな!!このデリカシー皆無セクシャルハラスメント亡霊ども!!」

 「私達も巻き込まないでくれるかな!?」

 「いや巻き込むだろ!?何でフウマの様に止めようとしなかったんだ!?」

 「…いやだってさ、私らぶっちゃけ言ってシュンキの事が怖いし。あれだよ?いざとなれば人も殺せちゃうような奴と同じ屋根の上で暮らして怖くない人がいると思う?」

 「……あー、確かに…。納得したわ。」

 「フウマも納得しないで!!うわーん!!」

 

 そんなやり取りをかわしている内、インターフォンが鳴った。どうやらレンが到着したようだった。

 俺はドアを開ける。

 

 「…よ。」

 「よぅお!?」

 

 レンの姿を見て思わず変な声を上げてしまった。いつものネガティブな性格からは考えられない程の真っ白な装束を身に着けていたのだ。

 

 「…フフ。今何で驚いたんだろうな。分かってるぞ。ひょっとして俺の見た目のあまりの醜さに驚いてしまったんだろう。」

 「いや、その衣装が凄いなーって思って。」

 「…ああ、これか。どうだ?似合ってないだろう?ダサいだろ?これだから、まだ俺が二足の草鞋を履いているってことはお前にしかばらしてないんだ。」

 「へー。それはなんか認められた感があって嬉しいな。」

 

 ちなみにレンの顔は結構なイケメン具合である。ネガティブな性格さえなければ幅広い女子にウケていたと思う。

 

 「フウマー早くー。」

 「……あ。」

 

 玄関で話をしていたら、横から魔王がひょっこりと顔を出してきた。そして、レンを見た瞬間戻る。

 

 「何故戻った。ほら、俺の友達なんだから自己紹介しろ魔…レイ。」

 「………あ?お前、あの幼女とどういう関係なんだ?いつからここに居る?」

 「…えーとな。それはちょっと話すと長くなるんだよな。まあ孤児院で拾った。そう解釈してくれ。」

 「………お前、孤独なのか?」

 「そりゃまあ。」

 

 ホントはそんなこと思ったことないけど。ここでそうでも言っておかないとただの子供欲しさに子供を引き取ったロリコンだと思われてしまう。

 暫くして、魔王が今度はそーっと壁から顔を出した。

 

 「お、レイ。自己紹介。」

 「……は、初めまして、レイと言います。まだ彼氏はいません。よろしくお願いします。」

 「……よろしくお嬢ちゃん。」

 

 …んー?何で今コイツ彼氏はいませんなんて言ったんだ?そんなの俺がレクチャーした自己紹介の仕方には含まれていなかったぞ?あと妙に顔が赤いし。

 …いや、まさか、な。

 

 「ま、いっか。じゃあレン。早速依頼の件おねがーい。」

 「あいよ。……あー、そういえば一つ質問があるんだが。」

 「何だ?」

 「その亡霊って獰猛な奴か?」

 「いや。寧ろ友好的。だけど、自分らが成仏するのに一抹の不安を感じているらしい。」

 「…はあん。そういうタイプね。」

 「どういうタイプだったかってことは知らんが、とりあえず手っ取り早くお願いな。」

 

 レンは亡霊三人が佇むリビングへと向かって、俺らを廊下で待たせた。

 

 「「「いやーーーーーーーーーーー!!まだ成仏したくないよーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 亡霊三人のよく響き渡るそんな断末魔が聞こえたが、俺は聞いていないから分からない。

 魔王もただ無表情で耳を塞いでいたから多分聞こえてない。

 

 「はい、完了。」

 「お疲れー。いくら払えば良い?」

 「……まあ、お前は俺の友だから、特別に安くしておいてやろう。3000円だ。」

 「おう。」

 

 俺は財布から5000円を取り出して渡す。レンはそれを受け取って財布から2000円を渡してきた。何も言わずともお釣りを渡す人は接客業としても一人前だって本に書いてあった。

 

 「…すいません。レンさん。」

 「…あ?」

 

 レンが靴を履いて帰ろうとした時、魔王が凄い礼儀正しい口調で呼び止めた。レンが振り返ると、魔王は意味深な感じで額に少し汗を流し始めた。

 

 「…いや、何でもありません。」

 「? …あっそ。じゃあなフウマとレイ嬢。なんつって。」

 「じゃーなー。」

 

 レンは軽く笑顔を見せて手を振り、ドアを閉めた。

 

 「……。」

 「………なあ、魔王。」

 「…何だ。」

 

 俺は恐る恐るとある質問をする。

 

 「お前、もしかして一目惚れしたか?」

 「………………………はい。」

 

 永い沈黙の末、魔王は超小さい声で肯定した。




~幽霊編 終~

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