ネタ切れは、多分消えた。
公園
「はあぁ…友達、ほしいなぁー…。」
「え?」
もうここに住んでから二か月近く経つ魔王。大分この世界での生活に慣れ始めたが、相変わらず漆黒のローブを着続けている。この服装で数百年過ごした結果、これが一番落ち着くらしいのだ。
そして、今日。いつもの俺に指図する傲慢な態度とは異なり、アンニュイな口調で、俺の部屋の窓から見える公園で子供が遊んでいるのを見て、そう言った。
「勝手に俺の部屋に侵入して第一声がそれかよ。」
「…いや、つい。この窓の見晴らしが良いのが悪い。」
「責任転嫁が酷い方向に…。で?何だっけ?友達が欲s…えーーーーーーーーーーーーッ!!??」
「お、大きい声を出すなぁっ!!そんなことで驚かれるなんて恥ずかしいじゃないか!!」
魔王が些細な事で驚かれたことに少し顔を赤面させて俺の頬を平手打ちしてくる。
が、これは"そんなこと"ではない。
一大事だ。
「だって、最初出会った時は人間を敵対視して俺に散々命令してたのに、してたのに!!人間と友好関係を築こうだなんて!!他人の人間と肉体を貪り合う関kグア"ァッ!?」
「アホか。」
いや、今のは流石に考えすぎた。魔王は絶対にそこまでの意味を持って先程の言葉を言ったわけではないだろう。
だが逆に言うと、俺はそのレベルに達するまで魔王のその言葉に焦っているのだ。
例えるなら、自分の娘が付き合って僅か一ヶ月の彼氏と「結婚する~」って言われたぐらいに。
「我はそんな大袈裟な関係は求めてない!異性でもいいから友達以上恋人未満の人が欲しいのだ!!」
「…しかし、そんな背丈がまだ小さいのに大人計画を立てるのには無理gギャアアアアアーーーッ!!?」
「話聞いてたのか、フウマ?」
魔王に渾身の腹パンを喰らってハッと我に返る。そうか、魔王は恋人ではなく、友達を作ろうとしていたのか、と。
「だから最初からそう言ってるだろうが!?」
モノローグにまで突っ込む魔王、さすがです。
◆ 語り部:魔王
そんなフウマの考えすぎた思考は無事、我の腹パンによって彼方へ吹っ飛び、フウマは我の考えを理解、そして、フウマ曰く、我と友達になれるかもしれない人が三人いるらしく、そこへと向かった。
「ここだ。」
「ほう、ここか。」
徒歩で歩いてすぐの所に、公園があった。名前は玲佑公園らしい。しかし、読みが分からない。
そして、公園の中に、三人の子供がいる。その三人は何か、円盤を投げて、キャッチしあっていた。
「…といっても、大丈夫なのかフウマ?あそこになんか子供たちいるけど、面識はあるのか?というか、アレがフウマの言ってた子供たちか?」
「そーそー。これでも俺、子供たちとは仲が良いんだ。」
「……ショタロリコン?」
「ブチ殺してやろうか?」
ひっ。何なんだ…ただ冗談で言っただけじゃないか…。ブチ殺すとかそんな物騒な言葉使うんじゃないよ…。というかふつうそう考えるだろう。
「おーい!そこのガキ共!!」
「…お、なんですか高崎先輩。そのちっさい子を引き連れて何の用でしょう?」
どうやら子供達には名字で呼ばれてるらしい。高崎、か…。いや、前の話でフウマが言っていたけど、一応、反復。
「新しいメンバーを連れてきた。が、こいつは結構訳ありでな。友達が一人もいないんだ。だからお前ら、コイツと遊んでやってくれ。」
「お?別にいいですけど。先輩、この子誰ですか?」
「やったー、遊び仲間が増えるー。」
「ようこそ!僕らのグループへ!」
軽い。普通こういうのは警戒するものだろう。まず我は、髪は水色だし。この東洋から見て、結構変な色してるらしいし。
「じゃあ、まずお互いに自己紹介な。」
フウマが促すようにそう言う。そして、大人が近くにいると話しにくいと判断したのか、一旦その場を離れた。
「…と、僕はケン。まあこの三人グループのリーダー的存在だな。よろしく。」
結構良い顔立ちをしている。まるで少年漫画の主人公だ。運動神経もよさそうだし、これは学校でよくモテてそうだな。
「僕はシュンキ。まあ運動とかスポーツの類は苦手だが、柔
柔術…?柔道とは違くて?ふとそんな疑問が頭に浮かんだが、顔にまで浮かんでいたのかケンに察され、何故か耳打ちをされた。
「こいつは要注意人物だ。柔術っていうのは柔道の元ネタとなった術で、簡単に言えば人を殺せる技を柔道にプラスしたのが柔術だ。つまりいえば、コイツ、いざとなれば丸腰状態でも人を殺せる。」
「…!?」
…取扱注意。
シュンキ。
「ま、よろしく。」
「…よ、よろしく。」
「あ、怖がらなくていいぞ?こいつ、普段はめっちゃ人当たり良いから。」
「そうなの?じゃあよろしく、殺…シュンキ。」
「? よろしく…。」
いけない。間違ってでもコイツに殺人鬼なんて言ってしまったらこいつの逆鱗に触れ、我の体は使い物にならなくなる…。ああ怖い。
「私はー、ユミー。よろしくー。」
「…あー、お前はもうザックリし過ぎだよな…。こいつはな、無意識の塊みたいなもんだ。見ての通り、このグループの紅一点なわけだが、ちょっとあれなんだよ。フリーダム。」
ただし、見た目はかわいい。全身清純な白で統一されてるような服だが、いったい何を仕出かしているのか目を離した隙にその服がボロボロになっている。らしい。
あと語尾を伸ばしているのが何か腹立つ。
「よし、じゃあ最後に、君。」
「あ、我…違う、私は、レイ。一カ月前にあのフウマって人に引き取られて、今もまだお世話になってもらってるよ。…三人って、フウマとどういう関係なんだ?」
…フウマに自己紹介の仕方をレクチャーされたとはいえ、口調を無理矢理女らしくするのって難しいな…。
「僕らも、高崎先輩にはお世話になってるんだ。まあそんな親密な関係って訳じゃないけど、どっちかというと恩人って所かな?」
「高崎はねー。私達を助けてくれたのー。」
「え?何から?」
「そう、それこそ我らが畏怖すべき、邪知を働かせ、暴虐の限りを尽くす存在…。」
シュンキが何やら大袈裟な動きをして、しばらくタメた後にこう言った。
「…交通事故だ。」
「何があった!?」
あとその表現も大袈裟だ!
「飲酒運転。」
「轢かれたのー。」
「嘘だろ!?」
轢かれて生きているとか、人間はか弱いという知識しか知らなかった我としては度肝を抜かれた気分だ。
「後、居眠り運転にも居合わせたのさ。」
「無免許運転もー。」
「よく今生きているね!?」
渾身のツッコミが連続で入る、あまり着心地のよくない服を着て新しい友達と触れ合っている約500歳の昼下がりの我である。
「それでねー、あの時助けてくれたのがー。」
「フウマか?」
「そうだ。あの人と俺らは何も面識もない。なのに助けてくれたのさ。きっと、俺らが死んでしまうという良心が疼いて咄嗟にあの行動に移ったのか、それともこの儚くも尊き脆く憐れな生命に救いの手を差し伸べるのが人道だと考えているのか…。」
どっちもほとんど同じ意味だ、それ。
というか、シュンキ、かなり饒舌だな……。
「そこから、俺達はフウマの家へと自ら赴き、礼を言いに行ったって訳。そこから色々あって、現在は仲良くなってるよ。」
…あれ、何か突っかかる…。
いや、突っかかるというより、何か、何処かが矛盾しているような…そんな気がする。
「まあそんなわけでね。堅苦しい自己紹介もこれまでにしよう。さ、何して遊ぶ?」
ケンが、中心に穴が空いたディスクや何やら白く、黒く斑点の入った球体、そして、縦に筋の入った茶色いボールを取り出した。
「…あ、知らないかな?これはね、フリスビーっていうんだ。ほら、こうやって…。」
ケンがそのフリスビーを水平にするようにもって、何もない所に向かってびゅんと音を出しながら投げた。フリスビーは空気抵抗で滑空している。
「へー、こうやって遊ぶのか。ちょっと私も投げてみていいか?」
「…その為に態々ケンはその身を犠牲にしてディスクを投げたのではないか…。さあ、先ほどと同じように、レイもこのディスクを投げるがよい…。」
「シュンキ、表現が大袈裟だよー…。だってもうその身は―――」
「「しーーーっ!!!」
ユミが何か言いかけたところで、ケンとシュンキが慌ててユミの口を塞ぎに入った。一瞬すぎて何が起こったのかは分からないが、多分、何かしらの秘密があるのだろう…。
「…レイ。ユミは冗談をよく発する癖がある故、失言が時折ある。言うのを忘れていたが、これからそこらへんも考慮して俺らと付き合うんだ、いいな。」
「…あ、そ…うなのか。」
この三人に対する疑問がより一層、深くへとのめり込んでいった。
……遊びは、夕方まで続いた。
正直言って、我は楽しかった。フリスビーを投げてキャッチしあう遊びも、茶色く筋の入ったボールをネットの中に入れる遊び(後にバスケットボールというゲームだと知った)も。…まあ、さすがにバスケットボールのやり方を伝授するまで時間はかかったけど。
そろそろ我は帰らなくてはいけない時間だと気付き、三人とお別れをして、家へ帰った。
公園を出て、何となく振り返ったら、三人はもういなかった。急いで帰ってしまったのだろう。
「……レイ。」
「…ん?あっ、ユウキ!?」
道を歩いていると、突如、後ろからユウキに話しかけられた。
「…何の用だ。」
「俺は、お前が公園で遊んでいるのをずっと見ていた。」
「何だ、公園で遊んでいた事か。」
やけに険しい顔をしているが、きっと我が魔王だとまだちらと疑っているからに違いない。我がまた何か仕出かすのではないか、警戒をしているからだろう。
ユウキに付き合わされると少し面倒臭い。今日は早めに切り上げよう。
「今、私はフウマが家で一人寂しく我の帰還を待っている。何か言いたそうだが、それは翌日聞かせてくれ。ちなみに、私は魔王じゃないからな。」
「ちなみにで必死に自分の正体を隠そうとしているのは分かった。だがな、今回ばかりはちょっと重要―――」
帰ろう。
「…お、おーーーーーーーい!!??お前には話を最後まで聞くという寛大な心はないのか!!?」
「ありませんっっっ!!!」
「言い切った!!ついに言っちゃったよコイツ!!」
我はその物事を否定する意味を持つ言葉を大声で発しながら逃げるように帰り、フウマの家へ帰宅。
良い匂いが漂う。台所に行くと、フウマがエプロンを着ながら料理をしていた。
「お、丁度いい所に帰ってきてくれたな魔王。もうすぐ飯が出来るぞー。」
「オッケイ。今日の晩飯は何なんだ?」
「オムライスだ。ケチャップというソースを混ぜたご飯を焼いた卵で包み、そこからさらにケチャップをかけた料理だ。美味いぞ美味いぞ?ひょっとしたら、ハンバーグより美味いかもしれない。」
ほう、ケチャップの上にケチャップか…そういえば、(我にとって)最近生まれた偉い人が、「人民の人民による人民のための政策」とか言っている奴が居たな。その料理は、それをもじって「ケチャップのケチャップによるケチャップのための料理」というキャッチコピーを世に売り出すのも悪くはないな。
「ふふ、このキャッチコピーは流行る。皆から魔王版糸井重里と呼ばれるようになる日も近い…。」
「どうした。」
おっと、何か変に思考が回転して、全然我らしくないことを考えていた。なんでだろう。まだ遊んだ時の体の熱が消えてないのか、変にテンションが高いから、今みたいなことを考えてしまったのか。
「出来たぞー!」
フウマが料理をお盆に載せながら居間に現れて、テーブルの上に黄色い料理が盛られた皿を置いた。あれがオムライスという料理か……あれ?ケチャップの要素が…無い?これ、本当にケチャップを使っているのか?一応言っておくが、我だってちゃんとケチャップは知っているからな?酢酸を使った塩分の高い保存性の利くソースでしょう?昔からあったよ。
「名付けて、フウマの愛情たっぷり特製オムライスだ。召し上がれ!」
「フウマ。この料理のどこにオムライスを使っているんだ?」
「スルーですか!?」
え?今のはツッコミ待ちだったのか?
数分後、我はオムライスをスプーンですくい、口に運ぶ。何故か無意識に出してしまうフウマ曰く"子供っぽい声"を出しながら。
「はむ、はむ。んぐ…。」
「ほらほら、美味いでしょう?今回は俺もちゃんと味見をしているから、美味さは保証済m―――」
「美味いっ!!」
…うん。何かね、最初の一言が殆どワンパターンでさ。
たまには違う事も言ってみたかったけど…。
まずいと言ってみればフウマは落ち込む。普通と言えば何か気まずい空気になる。だとすると残りは、美味いというしかなくなるのだ。美味しいだって同じ意味だし。
念のため言っておくが、フウマの作る料理は本当においしいぞ?
「人の話を遮るほど美味かったかー。そうかそうか。」
「うむ。美味い。」
「どこら辺が上手い?具体的に。」
「まず、このケチャップ。何処にそれの要素があるかと思ったら、中のライスに入ってたんだな。それがもうこの卵のまろやかさに少しエキゾチックな風味を加え、かといって味がくどくなく、卵のまろやかさもちゃんと維持されたまま料理の味に美味という名の美味をプラスしまくっている。この美味しさはハンバーグにも匹敵するだろう。」
「そうかそうか!いやーまさかそこまで具体的に説明してくれるなんてね!」
フウマは照れ隠しのつもりなのか右手で後頭部を掻きながらナハハと笑っている。…。決して勘違いはしないでほしい。何かフウマが可愛く見えてきた。見えてきただけだ。
そして、その照れ隠しに、我もつられて笑ってしまう。
「はい、一口食べるか?」
我はスプーンでオムライスをすくい、フウマの口へと近づける。
「ん?魔王からこれは珍しいな。じゃ、頂くとするか?あーん。」
「…はい、パクッ!」
「美味いッ!!」
しばらく、どこかしらの夫婦みたいなやり取りが続いていた。
◆
「…レイよ…。」
ユウキが夜道を一人で歩いていた。街灯に照らされながら。車のヘッドライトにも照らされながら。
そして、こんな独り言を呟いていた。
「お前……大丈夫なのか。ずっと俺には見えない誰かと喋りながら、ひとりでに動くボールと遊んでいたが…。」
今はあとがきを書く気力が起きません。
疲れました、