今回、クロロはシャルナークと行動を共にしていた。
No.008 六系統×シャッフル効果
――――流星街。
この世の何を捨てても許される場所。1500年以上前から廃棄物の処分場となっている地域。政治的空白地域で公式には無人とされているが、実際は多数の住人が暮らしている。人口は推定で800万人。
十三使途により魔王の指輪が捨てられたとされるのもこの流星街である。ここには未来や幻想、悪夢すらも廃棄される。
廃棄物とは人類の歴史に他ならない。ここは人類の真実が捨てられた場所。人類が目を背けた場所。幻影旅団を生み出した場所。
◆
「疲れたぁ」
「悪いな、サンドラ。いろいろ連れ回して」
「いいよ、いいよ」
なんかオレ蚊帳の外っぽくないか? サンドラにはオレがみえてないよね? 絶対これみえてないよね?
「クロロ、今日はオールバックなんだね」
「ヘンか?」
格好についてふれるのは団長NGなんだよ。ダサいとか言われるの団長精神的に弱いから。落ち込んだら、交渉どころじゃなくなっちゃうから。
予定詰まってるし、交渉が一日遅れると結構面倒なことになるんだよ、オレがね。アイツら、外交の仕事、ぜんぶオレに押しつけて。てか、できるやつ他にいないし。フランクリンはあの外見だからなぁ。オレがいなくなったら、大変だぞ。
「ううん、ぜんぜん変じゃないよ。なんか新鮮でいいよ」
ドキドキドキ……。
「そうか」
クロロの表情に変化なし。
ふいぃー。セーフ。ギリセーフ。評価されて団長ちょっとドヤ顔だぞ、自信ついた感じだぞ。あっ、オレのほうみてきた。なんのアピールだ?
団長、服のセンスをイジると面白いんだよな。すぐ怒って。「団員同士のマジギレ禁止」というシズクに対して「オレは団員じゃないから、ルール違反にはならない」とか言い出して。逆十字とかないよなぁ。十三使途を意識してんだろうな。
プルルル……。
ケータイが鳴った。コルトピだ。
「はい。オレだけど」
「いま、ヒソカとハンター協会の会長が戦ってるみたい」
「あのジジイが? ヒソカ死にそう?」
「あのおじいさんじゃムリっぽいよ。ヒソカのほうが数段上らしい。あんなおじいさんが倒せるなら団長もこんな大掛かりなことしないよ」
「だよねぇ。っぽいとか、らしいって、なに?」
「あぁ。観戦してる女の人から電話できいてるんだよ」
「…………あっ、そう」
電話ってことはつまり……なんかムカツク。
「ヒソカが天空闘技場を出たら、予定通り、作戦を開始するよ」
「わかった。コルトピ、いまどこ?」
「トイレだよ」
「ウンコか?」
「ちがうって」
「コルトピ……気をつけてね」
「わかってる」
まさかヒソカのフロアマスター挑戦の対戦相手が会長だとは思わなかった。暇なのか?
オレはケータイを切った。
「なにかあったか?」
「ヒソカがネテロと戦ってるって、コルトピから」
「老いぼれジイさんか。メシアムと戦ってほしかった。メシアムの性格からいってバトルオリンピア以外では強者とやらないだろうけど」
ネテロは団長の評価も低いな。ハンター協会最強とか言われてるけど、実際のところかなり盛ってるよな。十二支んのジンやボトバイのほうが強そう。会ったことないけど。
「クロロ、あそこだよ」
サンドラが一軒の家を指差した。
この辺りは整理されたエリアだった。一般的に街の風景とそれほど変わらない。遠くにゴミの山がみえる以外は。
「ありがとう。あとはオレたちでやる」
家の中からオーラを感じる。こっちのオーラを感じ取られているのがわかる。強いな。交渉すること自体、オレは反対したんだけどな。
「またね、クロロ」
やっぱりサンドラにはオレがみえていない。なんでだ? きっと団長のオーラがまぶしすぎるんだ。
団長が練をした。
◆
しばらくして、家からウェーブのかかった髪の長い男が頭をかきながら出てきた。相変わらず、なんかいろいろとだらしなさそうだった。オレは一歩引いた。改めてみると、フェイタンやフィンクスより強いよな?
「久しぶりだな。スタング」
「やっぱりクロロか」
スタング、ひげを剃れ。
「シャル、まだ生きてたんだ」
「生きてるよ。勝手に殺すなっ」
スタングはニヒルに笑った。
「旅団には入らないぜ」
スタングは耳をほじりながら気だるそうに言う。
彼は団長に旅団加入を勧められたそうだが、そのときは断ったらしい。今も断ったけど。
「おまえの能力を貸してくれ」
「断る。話はそれだけか?」
「ならば力ずくでもらう」
「ハァ? おまえが? そりゃ無理だよ」
スタングはオレに視線を向ける。オレがアンテナ(針)を使うことは知らないが、操作系であることは推測がつくはずだ。オレからにじみ出るインテリジェンスが憎いね。……近くにマチいないよね?
「クロロ、おまえ相当焦ってるな? この俺の能力にまで手を出そうなんて、誰と闘おうとしてる?」
「ヒソカ」
スタングは天を仰いだ。
「なるほどね。それで貸してくれってわけか。でも、おまえら約束守んないじゃん。こういうとき信頼ってヤツがないと損だよな。クロロ? ゾルディックはいいぜ。取引で嘘をつかない。ああいうのがプロってもんだよ。おまえらのやってるのはアマチュアなんだよ」
盗賊にプロもアマチュアもないんだけど。
「俺がヒソカを狩ってやろうか?」
「ふん」
「なんだ?」
「おまえじゃ勝てない」
「いいぜ。やろうぜ」
スタングからオーラが立ちのぼる。
「返り討ちにしてやんよ」
「オレが勝ったら、シャルの能力をおまえに使わせてもらう。おまえが勝ったら、幻影旅団をやろう」
打合せ通りの条件だ。これはスタングを逃走させないための条件。
「本気かよ」
オレはスタングにうなずいた。
「オレを殺って、おまえが団長になる意思があるのなら、幻影旅団のルール通り、入れ替わりで、おまえが団長だ」
「おもしれぇ」
食いついた。
まぁ、オレはスタングの下につくつもりなんてないんだけどね。どうせ団長が勝つ。問題は……。
今回は知り合いだからいいけど、パクノダがいないのは辛いよな。幻影旅団で捕まえて、パクノダが相手の能力をさぐって、オレが操作して、クロロに能力を盗ませる。これがパターンだったから。
「いくぜ、クロロッ!!」
スタングが飛びかかった。両手を凝にしている。クロロは上半身を動かして、スタングの鋭い突きを機敏に交わしていく。
スタングの右手にオーラが集まる。クロロは後ろに飛んで距離を取った。スタングは手を手刀の形にして、手術前の医師がするように手の甲をみせる。
これは……来る。
スタングは中距離から光線のように火柱をクロロに放った。
「灼炎銃(レッドレイ)!」
◆
――スタング。
氷紋流の門下生。変化系と放出系の複数系統の能力を100%引き出せる特質系能力者。さらに六系統のシャッフル効果によって、強化系、具現化系が80%。操作系が60%になっている。通常、放出系能力者は操作系が80%だが、シャッフル効果によって60%になっている。つまり、強化系と放出系の位置が交換した形になる。ちなみに変化系と具現化系も入れ替わっているとスタング本人は言っている。心源流の外のセオリーの中に存在する使い手である。
もともとは変化系だったが後天的に特質系になった。
能力:オーラを炎に変化させる。
オーラを炎に変化させるためにはオーラを纏って炎にふれる修業を数年程度する必要がある。オーラを炎に変化させられるようにはなるがゲンスルーのリトルフラワーのようにリトルであり、GI編のゴンを圧倒する程度の能力しか得られない。クロロにダメージを与えることは到底不可能である。
スタングの炎は修得方法が異なった。
◆
スタングの火柱がクロロの服を貫通した。
「団長ォオオーーーーーーーーォォーーーーーーーオオオオオッッ!!」
そんな……まさか……ありえない……。
「ふん」
スタングが吐き捨てるように笑った。