Hyskoa's garden   作:マネ

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No.074 破面卿×指導者(マスター)

「鏡よ鏡よ、世界で一番強い人は誰?」

 

 サンゾーはアランカルマスター謁見の間で、具現化した鏡に問いかける。

 

 

 

 ――ヒソカ=モロウ

 

 

 

「ん?」

 

 ダース・シギアスは小首を傾げる。自分の名前を答えてもらえると思っていたようだ。

 

 サンゾーのひたいから、滝のように、冗談のように、汗がダラダラと流れ落ちている。

 

「不良品を献上するとは、おまえはこのオレをコケにしているのか?」

 

「そのようなことは一切ございません」

 

「おまえみたいなゴミが、このオレの言葉を否定するのか?」

 

「いえ」

 

 サンゾーはシギアスの機嫌をそこねたようだ。

 

 これは死んだな、とベイルンは思った。

 

「ヒソカの能力を答えさせろ」とシギアス。

 

「はっ!」

 

 

 

 ――ヒソカの能力はバンジーガムとドッキリテクスチャー。

 

 ――前者はオーラをガムとゴムの性質に変える能力。後者は薄っぺらなものにオリジナルのイタズラシールを張りつける能力。それ以外の能力は不明。

 

 

 

「バンジーガムとドッキリテクスチャーか。そんなゴミ能力に、このオレの時を止める能力が負けるというのか?」

 

 

 

 ――はい。負けます。

 

 ――あなたはアホなので、負けます。

 

 ――バンジーガムの前にあなたの時を止める能力は無力です。

 

 ――あなたはアホな

 

 

 

 シギアスは鏡を叩き割った。

 

「サンゾー? おまえ、オレにケンカ売ってんのか?」

 

「いい……いえ」

 

「またオレを否定したな。舐めてんだろ? 時を止める能力がゴムに負けるわけねェだろ? ちょっと考えればわかんだろ? どうやって、オレに勝つっていうんだよ? 言ってみろよ? あぁん?」

 

 シギアス、態度悪いな。

 

「おっしゃる通りです」

 

「オレは答えろって、つってんだよ? どうやって、オレの時を止める能力をバンジーガムで破るんだ? おい? なぁ?」

 

 

 

 ――アホのあなたには思いつかないだけで、いくらでもありま

 

 

 

 シギアスは割れた鏡を何度も何度も踏みつけた。

 

「ふっっざけんなぁあああああああああああああああっ! オレを何度コケにすれば気がすむんだ? あああああああああっ!!!」

 

 サンゾーはひたいから、汗をボトボト流して、平謝りするのみ。

 

 聞いていた以上に、シギアス卿はアホのようだな。

 

 シギアスは時を止める能力を完全無欠の能力だと思っているようだが、そんなことはない。全然そんなことはない。念能力には長所と短所が存在している。完全無欠の能力なんて存在しない。必ず、弱点は存在する。そこに気づいていない時点で、シギアスの底が知れる。

 

 単純に、シギアスはアホなんだ。新人ハンターにも劣るほどに。

 

 とても、アランカルの指導者とは思えない。

 

 ヒソカが時を止める能力をどう破るかは知らないが、私なら、破ることは造作もない。念人形羅刹によって。

 

 そもそも、私の前で能力をバラすなんて愚の骨頂だ。

 

「なんなんだ? これは? ふざけんのもいい加減にしろよ。アランカルまでコケにしてんのか?」

 

「滅相もございません」

 

「じゃあ、オレがまちがってるってことか?」

 

「いえ」

 

「じゃあ、アランカルをコケにしたわけだ」

 

 シギアスはサンゾーの頭を踏みつける。サンゾーの頭の下から血が床に広がった。

 

「いえ」

 

 シギアスはサンゾーの右肩に剣を突き刺す。

 

「っぐ……シギアス卿、どうかお慈悲を」

 

「このオレに指図するか?」

 

 シギアスは剣をグリグリとまわす。

 

「……そ、そのような……」

 

 シギアスはサンゾーの頭もグリグリと踏みにじる。

 

「死に値する」

 

「シギアス卿、その辺にしませんか?」

 

「ベイルン、おまえもオレに指図するのか?」

 

「えぇ。そうですよ。彼は有用です。彼を失うのは損失です」

 

 シギアスの顔が引きつる。その直後、笑みが浮かんだ。

 

 

 

 次の瞬間、サンゾーの首に剣が刺さっていた。首の傷口は荒い。グリグリとして、剣を無理やり刺したような感じだ。サンゾーの口から血が噴き出した。

 

 

 

 時を止めたのか?

 

「なんてことを」愚かな。

 

 バンと誰かが殴られて、床に押さえつけられた音がする。

 

「失礼……いたし……ました……」

 

 唇を噛みしめながら、両目にバンダナを巻いた男が言った。眼を見ずともわかる。

 

 殺す。100%殺す。

 

 彼はそう言っている。

 

 たしか、サンゾーの仲間の、サトルとか言ったか。サトルは床に小柄な少年を押さえつけている。少年のほうは名前を何と言ったかな。お茶っぽい名前だったような気がする。

 

 少年は憎しみのこもった目で、シギアスを睨みつけている。

 

「次、オレに指図したら、おまえもこうするぞ」とシギアスは私に言ってくる。

 

 やれるものなら、やってみろよ。受けて立つぜ。

 

 私はシギアスに殺気を放つ。

 

「ふん。サンゾー(それ)、処理しておけ」

 

「はっ」

 

 破面兵たちが返事をする。

 

 シギアスが謁見の間から出ていく。

 

 

 

 ――ヒソカか

 

 

 

 シギアスは謁見の間から出ていくとき、小さく呟いた。

 

 サンゾーの息は途絶えていた。

 

 時を止めた直後、シギアスの剣はオーラを纏っていなかった。時を止める前は微弱だがオーラを纏っていたのに。もしかしたら、時を止めている間、絶の状態になるのかもしれない。なんらかの制約があるのかもしれない。それとも、私に対するフェイクか? いずれにせよ、能力をみせた時点でバカ確定。フェイクでなかったら大バカ確定。

 

 バトルにおいて、相手の能力を知っていることは大きなアドバンテージになる。そんなチート能力を持っているサンゾーをこうもあっさり殺るとは。せっかく、ハンター協会の中枢にコネクションを持つサンゾーたちを引き入れたというのに。反旗を翻す恐れすらある。この損失とそのリスクをどうリカバリーしたものか。

 

「さわるなっ!」

 

 少年が叫んだ。

 

「おっしょー様!!!」

 

 少年がサンゾーだったものに抱きついて、泣きじゃくった。

 

「許さねェ! 絶対許さねェ!」

 

 サトルが私の前で止まる。横を向いている。バンダナで両眼を隠していてもわかる。サトルの眼は私をみている。

 

「サンゾーにもう一度会いたいか?」

 

 私はサトルに問いかける。

 

 サトルの眼が見開いたような気がした。

 

 少年が私に抱きつかんばかりに飛びついてきた。

 

「生き返るのか?」

 

「可能性はゼロではない。私の話に乗るか?」

 

 二人はハンター協会の十二支んのサイユウ=ソンとつながりがある。十分に利用価値がある。そのために、アランカルに引き入れたのだから。

 

「乗るよ! なぁ、サトル!」

「あぁ・・・・・・どうしたら、いい?」

 

 サトルと少年はサンゾーの遺体を慎重に運び出す。

 

 

 

 それにしても、ヒソカ、聞いたことのない名前だ。

 

 正直、『真実の鏡』へのあの質問で、私の名前が呼ばれると思っていた。

 

 ハンター協会で最強候補と言われているのはボトバイとビスケット。この二人のうちのどちらかがハンター協会最強だろう。どちらも、全盛期のネテロには及ばないが。現在のネテロ自身も全盛期の実力からは半減している。

 

 ネテロが困ったときに使っているゾルディックの暗殺者たちは所詮、暗殺者。逃げ足だけ。単純な強さでは論外だ。

 

 私は全盛期のネテロと互角だった。

 

 ならば、なぜ、鏡は私ではなく、ヒソカという人物の名前を口にしたんだろう?

 

 ヒソカは全盛期のネテロ以上・・・・・・!?

 

 まぁ、いい。

 

 この道の先で出会ったのなら、倒すだけだ。


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