Hyskoa's garden   作:マネ

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No.071 マチ×フェアリーダンス

 念能力で人間を表現するのは想像している以上にハードルが高い。どのくらい高いかというと、その能力を覚えてしまうと、他の能力を覚えられなくなってしまうくらい。他の生物とは比較にならない。人間の動き、表情、声は見慣れているから、誤魔化しがきかない。

 

 人間をみなれていないなら、誤魔化しもきくが……。

 

 そして、それは人間の五感でのこと。円でそれを察知することはむずかしい。

 

 彼の狙いはその裏側にあった。

 

 逆転の発想だ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 マチは念糸を絡めて、ワイヤー状にする。飛躍的に頑丈になる。

 

 

 

 

 ――天女の組紐(フェアリーテイル)

 

 

 

 

「なるほど。念糸の状態なら、強度はおよそ1トン。その負荷で糸は切れてしまう。が、そのワイヤーなら30トンは吊れるだろう。本来そのワイヤーは対象者に二ヶ所つけて、両側からひっぱり切り裂く技。30トンの超パワー。しかし、それには重りが必要だ」

 

 えぇ。だから、アタシとコルトピは組まされることが多い。

 

 重量物を具現化することは地下以外なら、コルトピはどこでもできる。

 

 念能力を物理で補うのは現代の念能力のセオリー。

 

 マチのフェアリーテイルは速い。黄泉がうだうだしゃべっているときに、マチのフェアリーテイルが14人の悪魔たちの首をとらえた。

 

 もう逃れられない。

 

 黄泉の口元がニヤリと笑った。アンデッドだからか、黄泉の表情は硬い。

 

 14人の悪魔たちが合体する。

 

 合体するとき、14人の悪魔たちはゲル状になる。フェアリーテイルをすり抜ける。

 

「こういう交わし方もある。そして、今の14人の悪魔たちをそのワイヤーで切断することはできない。試してみるといい」

 

「もうやってる」

 

 マチは隠で14人の悪魔たちの首をフェアリーテイルで締めていた。

 

 切れない!?

 

「合体することで14人の悪魔たちの強度は増す。それでは14人の悪魔たちは切れん」

 

 14人の悪魔たちが苦しみ出す。

 

「なぜだ?」

 

 マチは周を使ったベッドの足(棒)でフェアリーテイルをねじっていく。

 

「テコの原理か?」

「正解」

 

 ヒソカから教えてもらった。フェアリーテイルと物理を合わせた応用技。

 

「グリードアイランド時代にダッシュアイランドというテレビ番組でみたことがある。細い鉄線をシノという尖った棒を使って、きつくものを縛る方法だ」

 

 14人の悪魔たちの一体が消し飛ぶ。

 

 黄泉に吸収される。

 

 黄泉のまわりをフェアリーテイルが取り囲む。黄泉は逃げられそうにない。

 

 黄泉は慌てた。

 

 自分のまわりに14人の悪魔たちを具現化し、クッションにして、ぬるっとフェアリーテイルの締め技から逃れた。

 

「フェアリーテイルは見切れないみたいだね。それにこれでアンタの首を切断することもできることがわかった」

 

「これが幻影旅団か」

 

 マチはフェアリーテイルを二本出す。

 

「フォーメーション!」

 

 黄泉は四方向からマチを取り囲む。

 

 黄泉の手から念弾が出る。

 

 念弾をマチに投げ放つ。

 

 投球フォームからカーブをかけていることがわかった。ほぼ直角。想像以上に鋭い。マチは柱にワイヤーを引っかけ、それを利用してバランスを立て直して、かろうじて念弾を回避する。

 

 14人の悪魔たちはその念弾を受け取り、マチに投げた。マチの背中に当たる。衣服が飛び散る。

 

 カーブはわかっても、どっちに曲がるか、軌道が読めない。

 

 厄介だね。

 

「その服装(姿)では戦えないんじゃないか?」

 

「べつに」

 

 マチは念糸で服を縫い合わせる。

 

「…………」

 

 黄泉の両手から、念弾が浮かんだ。二つ。

 

「次はこれで行く。いくつまで耐えられるかな?」

 

「好きにしな。こっちもこれで行くから」

 

 マチはさらにフェアリーテイルを二本出す。合計四本だ。

 

 黄泉のパスする相手を限定させるために、フェアリーテイルを柱を経由して、14人の悪魔たちに伸ばす。

 

 黄泉は14人の悪魔たちにパスを出す。

 

 この数、さばき切れない。

 

 出し惜しみはしていられないみたいだね。

 

 マチの指先から念糸が伸びていく。するすると絡まっていく。まるで、それは布だった。

 

 黄泉は隠し持っていた三つ目と四つ目の念弾をマチに投げた。

 

 わかってたよ!

 

 

 

 ――天女の羽衣!

 

 

 

 マチは舞った。

 

 

 

 ――天女の舞!

 

 

 

 念弾が弾かれた。弾かれた念弾はフロアの床で爆発し、床を焦がす。

 

 二体の14人の悪魔たちがフェアリーテイルに切り裂かれて消し飛んだ。オーラと化した14人の悪魔たちの残骸を天女の羽衣が捕獲する。

 

「これでアンタは全力が使えない。放出系能力者は放出したオーラを捕獲されると途端に弱くなる」

 

 放出系能力者の弱点だ。放ったオーラを劣化させず、回収できるというのは強みでもあるが。

 

 マチの指先から糸が伸びている。

 

「だが、これでおまえを捕獲したぜ」

 

 最後の14人の悪魔たちがマチを後ろから羽交い絞めにする。

 

「いいえ。それはこっちのセリフ」

 

 黄泉の首にフェアリーテイルが絡んでいる。

 

「隠か!?」

 

「アンタは実戦から遠ざかりすぎた。それが敗因」

 

「うおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおっ」

 

 黄泉は全力の念弾を放った。

 

 マチは持っていたベッドの足(棒)をクルクルクルクルと高速回転させた。黄泉の首が締まり、切り落とされた。

 

 黄泉が放った念弾はマチの横を通って、柱にぶつかった。

 

 マチを羽交い絞めにしていた最後の14人の悪魔たちが消えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ねぇ、あなたなら、この戦いどうする。クラピカ君?」

 

「隠を使う」

 

「ん? それって……どういうことかな? お姉さん、教えてほしいな」

 

「死を偽装するという意味なのだよ」

 

「……?」

 

 アスフィーユは小首をかしげた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 バレーはジンに教えてもらった。バレーはレイザーにとって、特別なものになった。

 

 レイザーの得意な技は大柄な体型とは裏腹に速攻スパイク。レイザーが使う速攻はジンに変人速攻と名づけられた。

 

 グリードアイランドの「一坪の海岸線」を賭けたバトルでも、通常はドッジボールではなく、バレーの試合を行う。だが、バレーでもらえる勝ち星は6つ。それではゴンたちに勝つことはできなかった。レイザーがバックアッププランのドッジボールを選択したのはゴンたちが初めてだった。

 

 

「持ってぇ来ぉぉぉぉぉぉぉい!」

 

「!?」

 

 突如、マチの背後に巨大なオーラの気配が出現した。隠で隠れていたことに気づかなかったらしい。

 

 マチは構えをとっていない。

 

 棒立ち。

 

 動けない。

 

 レイザーのスパイクがマチに炸裂した。

 

 

 具現化系……フルカウンター!! 発動!!

 

 超至近距離レシーブ!!

 

 

 マチの天女の羽衣がレイザーのスパイクを跳ね返した。マチの超至近距離レシーブがレイザーの身体を貫通した。マチのオーラが激減する。念糸でつなげていた服が念糸が解けたことでボロボロになり、マチは半裸の状態になる。

 

 レイザーはそのまま倒れた。灰になった。

 

「アタシが戦っていたのは……レイザー(アンタ)じゃなくて……アンタに似せた14人の悪魔の一体だった!?」

 

 黄泉の表情がおかしかったのはアンデッドだからじゃなく、14人の悪魔たちだったから……?

 

 

 

 ――14人の悪魔の一体にアンデッドメイク?

 

 

 

「あぁ、一体の念獣にメイクを施したのだよ」

 

 マチは振り返る。

 

 マチはその人物に衝撃を受ける。

 

 漆黒のドレス。女装していたからではない。

 

 マチの素肌に鎖が絡みついていく。チェーンジェイル。捕らえた相手を絶にする追加効果がある。幻影旅団にしか使えない能力。もちろん、チェーンジェイルには触覚の効果もある。マチの身体の感触が彼に伝わっていることだろう。

 

 ここまで占い通りだとわね。

 

 占いは占った相手の幸せが何なのかをどうやって計算しているんだろう? 自分でさえ、自分の幸せがなんなのかなんてわからないのに。自問自答し続ける。それが人生でもある。だから、死なないことが幸せだとは限らない。

 

 占い通りなら、ここで足掻けば、アタシは確実に死ぬ。普段のアタシなら、絶対に足掻いていた。

 

「右手の中指の鎖(オリジナル・チェーンジェイル)!」

 

 チェーンジェイルが衣装のように、マチに絡みついてくる。

 

 正しい選択がなんなのかなんてわからない。でも、パクノダは願った。弾丸にすべてを込めて……。

 

 

 

 ――お願い。

 

   私で、おわりに……。

 

 

 

 パクノダ……。

 

 奪う。盗む。アタシたちはこんな生き方しかできない。

 

「一緒に来てもらおうか」

 

 鎖野郎は左手で上を指さす。

 

 左手にも鎖が絡んでいた。

 

 鎖野郎はなぜか、両手に、合計10本の鎖を装備していた。


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