Hyskoa's garden   作:マネ

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No.068 シャル×ラボ=シズクの秘密

 幻影旅団は自分たちの親を知らない。家族を知らない。彼らにとって幻影旅団がそれに当たるのかもしれない。新入り団員にそれが当てはまるかどうかはわからないが。

 

 例えば、カルト=ゾルディック。

 

 そして……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 念能力実験。それは遥かな昔から細々とだが行われてきたものだった。人間の好奇心とはいつも真理へと向かう。真理、或いは神、或いは宇宙、或いは世界、或いは自分、或いは貴方、或いは刹那、或いは永久、或いは想い、或いは願い……。

 

 

 ――それが念。

 

 

「本題はこっちかな」

 

 カルトがじっとシズクをみている。

 

 カルトはシズクをじっと見ていることが多い。人種が同じだからだろうか? いや、マチには反応していなかった。それはないか。年齢も近いし、友達になりたいのかな? シャルナークは気にもとめなかった。

 

 気にとめることはなかった。

 

 シャルナークはデジカメを取り出した。二つ。もちろん、これもブラックボイスで盗ませてきたヤツだ。

 

「何をするつもりなの?」

 

「デメは生物を吸い込むことはできない。念能力でつくったものも吸い込むことはできない。最後に吸い込んだものは吐き出すことができる。つまり、デジカメは機械だから吸い込むことができて、吐き出すこともできる。それはデメの腹の中をのぞき見ることができることを示唆している。不可能なはずのね。シズクのような能力はレア。そして、さらに、これはレアな例だよ」

 

 フランクリンとカルトがデジカメをみる。

 

 二人とも、この検証に興味を持ったようだ。それも凄く。ようやく味方ができたぞ。

 

「ただ、デメの腹の中の時間はこっちよりゆっくり流れているらしい。それもかなりね。映像がとれるかどうか、それはやってみないとわからない。時間が完全に止まっているってことはないと思うから、論理的には撮れるはずなんだけど……」

 

「これが幻影旅団の活動となんか関係あるの?」とシズク。

 

 シズクは乗り気でないようだ。具現化系は自分の内面を視覚化したようなものだ。自分の心の形そのものといっていい。それも自分の最も恥ずかしいデリケートな部分。それをモルモットとして扱われるわけだから、乗り気でないのも当然といえる。十代の女の子の中には自分の具現化系能力を恥ずかしがって、見せたがらないコもいるらしい。いや、シズクはそんなタイプじゃないか。

 

 シャルナークはいつものように失礼なことばかり考えていた。

 

「自分の能力を知らないっていうのはマイナス要素でしかないよ。能力を知ればいろんな応用が効くようになるから」

 

 シャルナークはテキトーなことを言った。

 

 シズクはしぶしぶといった感じでデメを具現化する。

 

 シャルナークはデリカシーのかけらもなく、シズクの許可もとらずに、具現化されたデメの口を無理やり開けて、ライトを照らし、中をのぞき込む。

 

 中がどうなっているかはみえない。やっぱり、入れるしかないな。

 

「デメちゃんをイジメないで」

 

 デメにとって、生物は異物でしかない。苦しいのかもしれない。

 

「ギョギョギョ……」

 

「ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」

 

 まぁ、そんなつもりしかないんだけど……。

 

 フランクリンがめちゃ睨んでくる。さいきんこの二人は仲がいい。具現化系と放出系は相性が良いらしいからな。世話を焼きたがる放出系と危なっかしい具現化系は確かに相性が良いかもしれない。

 

 シャルナークはシズクのデメにデジカメを飲み込ませる。

 

 デジカメがデメの中に入っていく。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 傍生・モールは自滅した。これはベイルン卿にとって予想外の結末だった。傍生はそんなヤツではなかったから。

 

 ヒソカにそのように仕向けられたのか? 少なくとも、ベイルン卿にはヒソカがそれを望んでいたようにはみえなかった。真実の自滅だったのだろう。モールの玉砕覚悟の詰めの攻撃をヒソカは完璧に凌ぎ切ったのだ。

 

 これは考察に値する。

 

 ヒソカの能力はガムとゴムの両方の性質変化を有するデュアルスキルの変態バンジーガム。しかし、それだけでは説明がつかない現象がいくつか存在する。トランプの瞬間移動攻撃とダブルだ。前者も後者も放出系と具現化系を融合させた高等応用技。大きなメモリを食う非効率な念能力だ。しかも、ヒソカはほとんどオーラを練らずに使用していた。それは念能力の原理を超越している。念能力では説明しえない現象だった。

 

 モールが言っていた。まるで魔法だ、と。

 

 何かトリックがあるはずなんだ。モールはそれに手が届くところまで近づいたが届くことはなかった。私が見破るしかないだろう。異能力バトル。オーソドックスな現代のバトルスタイルだ。それは私も臨むところ。

 

 トランプの瞬間移動については堅で対応可能だろう。私の堅を突破できる念能力者は限られている。ダブルについても、何人に増えようが私にダメージを与えることはできない。攻撃のときに多少面倒になるが、すべて撃ち倒すだけだ。

 

 防衛線を突破してくるということは手の内をさらすということでもある。アドバンテージは私にある。

 

 ヒソカとモールの戦いから、ヒソカとのバトルをシミュレートするベイルン卿。

 

 ヒソカ戦も問題ない。私が負ける要素などない。

 

 これまでの戦いも我々が負ける要素などなかった。それでも負けた。デュアルスキル。擬似仙人モード。ヒソカはモールを自滅に追いやった。ハンターたちはベイルン卿の想像を越える攻撃を仕掛けてきた。

 

 ヒソカも何をしてくるかわからない。私の想像を越えたことをしてくるかもしれない。それが私の能力を上回るだろうか? それは想像できない。が、卓上の戦術だけでは対応しえないだろう。アドリブが必要になる。

 

 しかし、仮に、ヒソカが念能力ではなく、魔法使いだとしても、私の敵ではない。

 

 今の私の実力は全盛期のネテロに匹敵し、ZZIGG=ゾルディックも、ジン=フリークスも越えているはず。この数十年で、念能力がいかに進化したといっても、私には届かない。

 

 最強は私なのだから。

 

 破面(アランカル)のボスも倒し、いずれは私がトップに立つ。私の上には誰も立たせない。

 

 さぁ、ヒソカ、来るがいい。

 

 おまえの能力をすべて白日の下にさらけ出し、敗北の味を教えてやろう。嫌というほどに。

 

 

 

 ◆

 

 

 シズクは物忘れが激しい。団長はシズクが念能力で記憶を操作されている可能性があるといっていた。確かに、常識を逸脱した物忘れの激しさだった。シズクの過去には知られてはいけない何かがある。そう考えるのは当然の帰結だった。

 

 十代の女の子にそれほどの謎があるものだろうか?

 

 シャルナークはどこか半信半疑な部分もあった。

 

 そんな団長とのやりとりもあり、デメの謎の解明にシャルナークは乗り出したのだった。

 

「デメの腹の中はどこにつながっているのか?」

 

 団長がスタングと戦ったとき、シズクのデメで地形を変えた。たった一人の念能力で劇的に世界は変わるということを思い知らされた。この世界の形にも謎と答えがあるのだろう。オレの頭ではわからないが。

 

 シズクは過去を語りたがらない。

 

 そもそも、なんでシズクはこんな能力にしたんだろうか?

 

 流星街、世界の廃棄物処理場……シズク、デメ、掃除機……まぁ、ゴミ処理場の掃除は大切だけど……。

 

 廃棄され続けるのに、流星街がゴミであふれることはない……。

 

 デメはシズクの指示のものだけを吸い込むことができる。椅子といったら椅子だけ。毒といったら毒だけ……不要なものだけを吸い込み、必要なものだけを残すことができる。

 

 ……………………。

 

 シズクの入団後すぐに、ヨークシンのオークションを襲撃することが決まった。もしかして、逆だったんじゃないのか? ヨークシンの襲撃が決まったから、シズクを入団させることができた?

 

 ……………………。

 

 団長がシズクの幻影旅団入団を流星街の元老院と交渉していたとすれば、オークション襲撃は流星街元老院のマフィアへの報復とも考えられる。毎年開催されているオークション襲撃をあのときやる理由なんてどこにもなかった。団長が欲しがるようなものがなかったんだから。

 

 ……………………。

 

 団長が欲しがったのは……オークション襲撃の取引材料として、元老院が団長に差し出したのは……シズク??

 

 ……………………。

 

 廃棄物処理の最終処理は流星街の機密事項。すべて想像に過ぎないが、ツジツマは合う。

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

「おえぇぇぇぇぇぇぇ……」

 

 デメがデジカメを吐き出した。シャルナークはデジカメを確認する。意外なことに5分間ほどの再生時間があった。

 

 その間も、シャルナークはシズクのことを考えていた。

 

 ……………………。

 

 シズクの逆十字のネックレス……これは団長を真似たものではなくて……。

 

 ……………………。

 

「シズク、おまえって……」

 

 戦闘員はシズクのようなレア能力者を守る盾になるのも仕事のうち。

 

「再生しよ」

 

 シズクは静かに言った。


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