No.067 シャル×ラボ=ベイルンの秘密
流星街。
幻影旅団アジト。
シャルナークは頑丈そうな時計を盗ってきた。2個。もちろん念能力(ブラックボイス)を使って。シャルナークは直接自分の手は汚さない。盗んだ2個の時計のそばに高級時計もあったが盗らなかった。きっと警察も犯人も混乱していることだろう。
アジトにシズクがいた。
「シズク、ちょっといいかな?」
「なに?」
シズクと一緒にいたフランクリンがじろりとシャルナークをみる。
フランクリンも「なんだなんだ」というカタチでついてくる。遠くで、カルトもこっちをみている。
「何をするの?」
「実験だよ。念のね」
シズクは首を傾げる。
「念能力は細部まで設定を決めていなくても発動する。シズクのデメがその典型だ」
「ちゃんと決めてるよ」
シズクが怒る。
「生き物は吸い込めない。念能力で作りだしたものも吸い込めない」
「そうだよ」
「吸い込んだものはどこに行くの?」
「それはわからない」
「ほら」
「……………………」
シズクは口を尖らせる。フランクリンもじろりとにらんでくる。
オレ、何か悪いことしたか? なんか理不尽だ。
「吸い込めるか吸い込まないかで、念能力の罠を見抜くことができる。そして、最後に吸い込んだものだけは吐き出すこともできる」
シャルナークはニヤリと笑ってみせた。シャルナークは2個の時計をみせる。
「?」
シズクは小首を傾げる。
◆
天空闘技場屋上。
天空闘技場にヘリが3機、遅れて1機、飛んでくる。前の3機が武装したヘリで、後方の1機がマスコミのようだ。
練ッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「何をする気じゃ? やめるんじゃ!」
「言葉とは力ある者が発し、初めて意味を成す。今の貴様の言葉は瑣末にすぎない」
「…………」
天空闘技場が揺れていた。
「このオーラの波長は……おぬしの正体は……いや、ありえん……たしかに死んだはずじゃ……」
ベイルンはネテロをみた。
オーラはさまざまな波長のオーラが混じり合って、ひとつのオーラとなっている。その混じり合い方は人それぞれで、指紋のように識別できる。霊紋と呼べるかもしれない。成長すると波長に変化が生じるために、識別が難しくなり、別人に感じることがある。達人はその成長を読み切って識別する。
◆
250階。控室。
サイユウ=ソンがユダだとしたら、まずは彼をとらえる必要がありそうだ。
わずかな情報で、アンはサイユウにたどり着いた。この推理力は頼りになる。仲間のうちは。
アンには謎が多い。出身地は不明。どこから天空闘技場にやってきたのかわからない。言葉の訛りから考えてこの大陸の人間ではない。ならば、どうやってこの大陸にやってきたというのだろう。渡航履歴もないのに。
海を泳いできたとでもいうのだろうか?
船を空に舞い上げるような、この荒れ狂う海を。
オレでも無理だ。
250階の会場の空気が変わった。しんと静まりかえった。銃声がきこえた。泣きわめく声。それもなくなった。
「力も覚悟もないのに刃向かったみたいね。カッコつけたいってだけで」
アンの聴力はオレ以上のようだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
アンがびくんとする。
上からだ。天空闘技場屋上からだ。凄まじいオーラの波動を感じる。人間離れしている。並みのオーラではない。ヒソカとのバトルで感じたネテロ以上だ。その倍以上ある。
まちがいない。
テロリストのボスだ。
「ジン=フリークス級」
アンが呟いた。
ジン? 誰だ?
練を使っているということは誰かと交戦しようとしているんだ。それとも何かを壊そうとしているんだ。身体が震えている。これは恐れだ。オレはビビってるんだ。
「ヤツはオレが止める」
「…………は? なに言ってんの?」
「オルガ君?」とクミング。
「天空闘技場はオレの家のようなものだ。天空闘技場のスタッフたちが危険にさらされてる。みんなの名前も知ってる。家族みたいなもんだ。そんなスタッフたちが危険にさらされていて、見過ごせるわけないだろ。オレはフロアマスタ-なんだ」
「あの議員(撃たれた人)のようにやられるかもしれない。死ぬかもしれないんだよ」
「ここで逃げたら、オレはオレを許せない。天空闘技場はオレが守る」
「なに強化系みたいなこと言ってんの。具現化系のくせに」
アンがまっすぐ睨んでくる。
「しがらみってのは面倒だな」
「面倒なら……」
「天空闘技場が好きなんだ。ここを守れるなら、命を投げ出しても構わない」
「バッカじゃないの!」
初めて、アンとケンカをしたような気がする。
◆
天空闘技場屋上。
「V5の特殊部隊か。空からの奇襲。もっとも愚かな作戦を選択したものだ」
土遁で地下通路をつくるのが城攻めのセオリー。ゆえに、その防御もまたセオリー。我々が防衛線を張ったのはそのため。ネテロのハンターたちに我々の陣形が崩されつつある。虚空はともかくとして、人殻、餓鬼、傍生とハンターに破れた。ステータスだけでみれば我々のほうが段違いで上だ。それでも負けるのはなぜか?
頭脳の差? 友情パワー?
現代のハンターを舐めていた。形勢は不利。こちらが態勢を整える前に、ネテロのハンターたちがそれをクリアするのは時間の問題だろう。
この特殊部隊には私が出るしかあるまい。最強のこの私が。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」
「ううううううううううううう」
「百鬼羅刹ッ!!」
ベイルンは今、百鬼羅刹を全開で使えない。百鬼羅刹の腕だけが具現化し、伸びて、飛行船を攻撃する。引きちぎる。念弾をヘリにぶつける。
得意げな顔をみせるベイルン。
「やはり、おぬしは……シスイ=ウォーカーじゃったか」
ベイルンは赤と黒の仮面を外す。
「かつての怨念の化身かとも思ったが、この世に残した怨みが深すぎるゆえに、成仏できず、行き場を失った怨念が魂だけではなく、その肉体をもよみがえらせよったか。そのようなすがたのおぬしに再び会うことになろうとはな……シスイよ」
クズめ。
「破面に飲まれた人間のむなしいことよ。おぬしはいまわしい悪魔に魂を売ったのよ」
「なにを言っている。ネテロ? かつての弟子に対し、そんな言葉を吐くとはな。自分で言っていて、むなしくはならないのか? 私のことを言っているようだが、それはすべて貴様自身が犯した罪ではないか」
「……………………」
ネテロは顔をゆがめ、むずかしい顔をしている。
「私はあの戦いで死んではいない」
「ありえん」
「それが強化系の限界」
「なぜ、おぬしは歳をとっておらぬ?」
「私の怒りが歳をとっていないからじゃないのか?」
ヘリが落ちる。天空闘技場周辺の人の避難はすでに完了している頃合いだろう。それも踏まえてのこのタイミングでのヘリの攻撃。
◆
「ギョギョギョ……おえぇぇっ……」
デメちゃんはシャルナークが盗ってきた時計を1個吐き出した。
シャルナークは時計を2個並べる。
「あれ……時間がズレてる」
「つーか、飲み込んでた時計は時間が……」とフランクリン。
「動いてない?」とカルト。
「どういうこと?」
「まさか、ここまで2個の時計にズレが出るなんて思ってなかった」
フランクリンがボリボリと頭をかいた。
「もうひとつ、いや、ふたつかな。試したいことがあるんだ。こっちが本題かな」