天空闘技場コントロールルーム。
デインの使い手。キルア=ゾルディックか。
キルアに屋上までの直通エレベータのコントロールを奪い返された。
操作系同士のバトルで、奪い合いなんて普通はないんだけど……。オレの能力のひとつは電子機械の操作。電気が止まれば操作が解除されてしまう。そういう制約がある。
エレベータが解放された今、いつでも作戦リーダーのダース・ベイルンのところへ乗り込める。
キルアもゴンもオーラを消耗しているから、今すぐに乗り込んでくる可能性は薄い。可能性があるとすれば、あるのはビスケット=クルーガーだ。おそらく、もうじき彼女がリーダーのところへたどり着くだろう。いざとなればキルアとゴンを人質にビスケットと交渉になるだろう。それはビスケットも予測しているはず。ならばビスケットが向かうのは……。
リーダーはどこまで読めているんだろう? これを読み切るのは至難だぞ。
傍生の防衛ラインはただの時間稼ぎ。彼は空では戦えない。リーダーも彼には期待していなかった。ヒソカをよく抑えているほうだ。
オレたちがここまで攻め込まれるとは……。
「修羅くん?」とアスフィーユ。
「うん。修羅だけど、なにか?」
「ボス、忙しいの?」
天空闘技場の状況を把握するには機械操作ができるオレの能力は適している。だから、リーダーはオレをマニュアルで操作することが多かった。今のオレはオート操作になっている。つまり、オレがオレの身体を操作している。
オートとマニュアルを切り換えられる能力者は意外に少ない。それだけメモリを消費するからだ。それにこの二つは似ているようで別物だ。野球で例えるなら、投手と野手をプロのトップレベルでやる二刀流のようなもの。
つまり、リーダーは念能力において、それほどの天才ということ。
「餓鬼まで倒された。キッドも抑えるので精いっぱいになるよ。戦闘員が足りなくなる。ボスはアイツを使う準備をはじめた。キミの元同僚……てか、ああいうの同僚っていうのかな?」
「彼か。でも、彼、そんなに強くないよ」
「単純な強さはね。ここまでのバトルから、単純な強さはハンターに通じないことがわかってきている。いにしえの超戦士より、アイツのほうがまだ役に立ちそうだよ。それほどまでに昔のバトルスタイルは現代に通用しない」
「パンチパンチパンチだもんね。それじゃ、カウンターで1発KOだよね」
「魔王を倒した勇者の師はハンター協会の前身をつくって、才ある者を集めて、念能力者を育成し、協力させたり、競い合わせたりした。才能あるものとないものと。さまざまな個性。それらの化学反応によって、現代の念能力は複雑化し、パワーに頼らないものとなった。破面のチカラでは彼らを凌げないのかもしれない」
「そうかもしれないけど、でも、結局、最後はボスが帳尻合わせて終わりだよね。ボスに勝てる念能力者なんていないんだからさ。ジン=フリークスでも」
現役最強と噂される念能力者ジン=フリークス。能力は神の領域に踏み込んでいるらしい。しかし、ボスはその上を行く。
「オレたちが警戒すべきはビスケット=クルーガーとヒソカ=モロー。そして、マチ=コマチネ」
あとは取るに足らないザコばかり。
「でも、餓鬼さんもやられちゃったんだよね?」
「…………あぁ」
キッドと組んでいたのに……。
「念能力に楽なバトルなんてないよ。負けちゃったのってそういうことでしょ?」
「あぁ」
予定通りにはいかない。
「気がかりなのはメシアム=ウォーカーだ。天空闘技場のどこかにいるはずなのに、どこにも見当たらない。アスフィーユ、おまえ以外に、時空間系の能力者がいるのかもしれない」
「それはないね。ここを離れる理由はないから。チャンピオンが自分の城を攻撃されて、一番最初に逃げるなんてありえない」
「たしかに。なら、どうしていない?」
実質的なこの事件の主人公。天空闘技場(天空)の王よ。
◆
天空闘技場屋上。
「まさか、ここまでとは……」
アランカル兵によって、ベイルンの元へ棺桶がひとつ運び込まれる。
「何をするつもりじゃ?」とネテロ。
「ふん」
ベイルンは棺桶に神字を書き込む。
ベイルンは両手を合わせる。それはネテロが行う祈りに似ていた。
「よみがえれ。黄泉(こうせん)!」
内側から棺桶が壊されて、大男が起き上がり、棺桶から出てくる。刈りあげられた髪。がっしりとした体型。激しい一撃を食らったのか変形した身体と焼け焦げた肌が回復していく。
「黄泉よ。侵入者を排除せよ」
「げ……えい……だん……ころ……す……」
「あぁ、殺せ」
黄泉の意識はまだ不完全のようだ。
◆
オレはもうひとつ能力を有している。それはコピーだ。
ふれた人間をコピーする。しかも、オレのステータスを上乗せして。その代わり、オレは絶の状態になる。コピーするにはかなりの時間コピー対象にふれていないといけない。戦闘中はムリだ。
「天動。ボディガードを頼む」
天動はオレと視線だけを合わせる。
オレはコピーした。
肩につかないくらいの金色の髪。黒いドレス。裾が短く、白い太股があらわになっている。黒いドレスに緋色の瞳が映える。
ダークな美しさを覚える。
アスフィーユのコーディネートである。
「修羅くん、このコの格好、カッコよくて、カワイイよね?」
アスフィーユはコピー人形に鏡に映った自分をみせてあげる。
コピーはゴシゴシと手の甲で唇をぬぐった。悔しそうに。
アスフィーユのメイクである。
「ダーク・チェーンジェイル!!」
漆黒の鎖で部屋の壁が壊される。
「ちょちょちょ……ちょっとクラピカくん?」
「凄まじい破壊力だ。これがクラピカの本来の実力なんだろう。今夜しか使わないという誓約。断ち切られたら、即命を落とすようにプログラムしてある。めちゃくちゃな誓約と制約だが……オリジナルも同様の誓約と制約をしていた。さらに、オレのステータスも上乗せしている。オリジナルより強い!」
アスフィーユは修羅をちらっとみた。
「男の子ってほんとバカ」
クラピカ・コピーのオーラが増大する。
まるで、鎖が生き物のようにうねうねとクラピカ・コピーの身体を這いずりまわり、クラピカ・コピーの身体を黒いドレスごと縛っていく。ドレスのひとつのデザインのように融合していく。
クラピカ・コピーが宙に浮かんだ。
「クラピカくん、飛べるんだ。すごっ!!」
さぁ、どうする? ヒソカ=モロー!!
クラピカ・コピーは無敵だ。