No.061 トリプル×ハンター
ハンター。
それはこの世界において、もっともなりたい職業であり、憧れでもある。
ハンター協会とは、アイザック=ネテロとは、その象徴である。
ゆえに、この発想にいたる者が現れるわけである。
「幻影旅団(クモ)の次は……なにを狩ろうかな♠」
◆
天空闘技場250階。観客は全員、テロリストに銃を向けられて、人質に取られていた。そんな中で、一人の太った男がのっそりと立ち上がった。
「キミたち! もう、こんなことはやめたまえ!」
偉そうな発声だった。なんか、こいつ、むかつくな。
「私はサヘルタ合衆国の元老院議員だ」
元老院議員を名乗る太った男は腕を組んで、胸を張った。
「テロで世界は変えられはしない!」
「あ?」
「さぁ、銃を置きたまえ。もう、こんなことはやめるんだ! 人質を解放しなさい!」
そうだ! という声が上がりはじめる。男は満足そうな顔をしている。
暴動がおきると面倒だな。
オレは男に銃を向ける。男の表情が変わる。男に賛同していたまわりの声がやむ。
「世界は変えられないが、おまえの表情は変えられたな。これが銃の力ってヤツか。便利なもんだ」
「お、おい。やめろ……」
バン。
オレは無造作に男の左足を撃った。男がうめきだした。
「静かにしろよ」
オレはあざけるようにいった。
「あぁ……そうだ!」
銃口を男の頭に当ててやった。
「オレが静かに……させてやろうか?」
オレは太った男の耳元でそっと囁いた。男はしんと黙った。必死で口をふさいでいる。痛みのせいか、ボロボロと涙を流している。オレは男を蹴り飛ばした。
「だったら、最初から騒ぐな」
銃口を男の傷口に当てる。
男は声にならない悲鳴をあげる。
「どんだけ偉いのか知らないが、この場では皆平等なんだ。命は平等だ。これがおまえらが議会で語り合っている命の重さってヤツだ。どうだ? 理解したか?」
男はコクコクと首を縦に振っている。
「こういうのは自分の命で経験しないとなぁ。良い勉強になったな」
くだらない男だ。
「声をあげても構わねえ。ただし、覚悟は決めろ」
プルルルルルルルル……。
突然ケータイが鳴る。近くにいた観客の肩がびくんとなる。
だれだ? 知らねえ番号だな。このクソ忙しいときに……。
「サイユウさん、お元気ですかー?」
何もしていないのに、勝手にケータイが通話状態になった。
「なにか変わったことはありませんかー?」
!?
パリストンッ!?
なんで、このケータイ番号を知ってんだ? ありえねえぞ。いや、そんなことより……なぜ、このタイミングでかけてきたんだ?
まさか……それこそ、ありえねぇ。
「お元気そうでなによりですー」
まるでいつもの日常のような、そんなやり取りに、サイユウの背筋が凍りついていく。
パリストンはすべてを把握しているんだ。天空闘技場のことも……オレの立場も状況も……推理によって。カキンをめぐる世界情勢から。オレの金の流れから。わかりにくくするために、いろんな国の銀行口座を経由させたというのに……。
ダーク・レコードを読もうっていうんだ。前段取りは隠そうとしても隠し切れるもんじゃない。
カキンのV5入りの水面下の交渉……ブラックホエール号の建造……。
しかし、だからといって、そこから、サイユウ(オレ)までたどり着くか?
「おまえ、バケモンかよ?」
「アハハ……」
やばいな。
オレは最もヤバいヤツを敵にまわしているのかもしれない。トリプルハンターはダテじゃない。認めたくねえが、パリストンはネテロ(ジイさん)にも匹敵するハンターだ。
「サイユウさん。ボクと取引をしませんか?」
「脅迫の間違いだろ?」
「アハ……暗黒大陸、行きたいですよね? サンゾーさんと」
パリストンのヤツ、どこまで知っているんだ?
「ボクが行かせてあげますよ」
念能力者としての腕は大したことないが、組織の統率力(リーダーシップ)やマネージメント能力は別格だ。ハンターの資質とは念能力だけでは決まらない。求心力や組織の経営能力も含まれる。
「そろそろ狩ろうかと思ってるんですよ」
「何を?」
「邪魔でしょ……ハンター協会?」
「…………」
ハンター協会の中にパリストンがいるんじゃない。パリストンの中にハンター協会があるんだ。
どうりで、ジイさんに気に入られるわけだ。常人の発想の外にいる。そして、そんなパリストンを抱え込むことを選んだジイさん。会長(ジイさん)も十分変態だ。
「ボクとアランカル、どちらが怖いですか? さぁ、ヒーローになってください。サイユウ=ソンさん」
これがパリストン=ヒルというハンター。
たった一本の電話で、このオレを封じ込めやがった。