「う~ん♣ おもしろい能力だね」
「まだクラピカにもみせたことなかったのに……」
レオリオがうなだれている。
「くっくっく……♠」
レオリオはヒソカに自分の念能力のヒミツをすべて奪われてしまった。そして、レオリオはヒソカに自分をひどく汚されてしまったかのような悔しい気持ちになっていた。
そんなレオリオの反応をヒソカはおもしろそうに眺めている。
人をこういう気持ちにさせるのがヒソカは大好きなのだろう。
まちがいない。やっぱりヒソカはヘンタイ野郎だ。
「神字って知ってるかい?」
「シンジ?」
「キミは手術にその技を応用したいんだよね?」
レオリオはうなずく。
「例えば、この床に神字を書けば念能力は強く働く。つまり、ここが簡易的な手術室になるんだ♠」
「!?」
◆
レオリオは神字を書いてみた。
凄げぇ。これは念能力を自分のものにするためのトレーニングにも使えるぜ。
「殴った感触までわかるんだ。かなりの応用がきくね♣」
ヒソカは右手にオーラを集める。壁に手を当てる。離れた壁からオーラが飛び出した。
「うそ……だろ……!? なんだよ、そりゃ……こんな……ことって……」
レオリオは膝から床に崩れ落ちる。
「オレの数ヶ月の努力って……いったい……なんだったんだよ……こんなにも……差があるもんなのかよ……」
レオリオは自分に才能も実力もないことを知っていた。だから、人より努力する。しかし、努力とは天才にのみ許された行為である。凡人の努力ほど無駄なものはない。どんなに努力しても、努力では凡人は天才に勝てないのだから。
凡人が一生かかって到達できる領域に天才は一日で到達する。これが現実。勝てるわけがない。
だから、凡人は知恵を絞って、必死に工夫して、天才の努力分の差を埋める方法を編み出さなければならない。
頭を使うことこそ、凡人が天才に勝つための唯一の方法。
そんなのわかっちゃいるけど、現実を目の当たりにして、平気な顔ができるほどレオリオはあきらめがいいタイプではなかった。
悔しい。
ただ単純に悔しい。
この気持ちがレオリオをハンターにした。ハンターとは獲物を狩ることをあきらめない者のことだから。何度でも立ち上がる者のことだから。一度で成功する狩りなんて、そうそうない。あきらめない心が狩りを成功に導く。
「そんなに落ち込むことなんてないよ。キミが思っているほどの実力差はボクとキミとの間にはないよ。そもそもキミとボクとじゃ修得している基本能力がちがうんだから。キミは一からこの能力を覚えたかもしれないけれど、ボクはただ覚えている能力を組み合わせただけ。スタートラインがちがうんだから、修得までの時間もちがう。当然だろ?」
もしかして、オレはヒソカに慰められてんのか?
ヒソカという人間がなんなのか、わからなくなってくるぜ。
レオリオの中のヒソカという人物に人を慰めるというイメージがなかった。捉えどころがないという点は変わらないが。
「これからのバトルはタイマンじゃきびしくなっていくだろう。念能力バトルは相手が複数のときはこちらも複数で挑むのがセオリーだからね」
「おまえほどの実力者でもそうなのか?」
「もちろん♠ コンボ攻撃っていうのはそれほどに強力なんだよ。クロロへのデートの申込みに苦労したのもそのため◆ だから、レオリオ、ボクはキミと組みたいんだ」
「ふ~ん、そっか…………ハァアアアァアアァアアアアァアアアッ!?」
オレとヒソカが組むっ!?
「このあとクラピカと合流する。キミはクラピカに手を貸すために来たんだろう? ギブアンドテイクだよ◆」
「う~ん」
「具現化系はメリットがあれば(うわべの)感情を殺してでも交渉に乗ってくれるんだけど、放出系は最終的に感情を優先するから、結構面倒だよね?」
具現化系? クラピカのことか?
ヒソカとクラピカ、二人の関係はどこまで進んでるんだ?
「クラピカ(彼)の思考は読みやすい。次にどういう行動を取るかも手に取るようにわかる。セオリー通り動くから。彼も肩のチカラを抜いて、遊びを覚えればもっと強くなれるのに……何が言いたいかというとクラピカがピンチになる可能性が高いということ◆」
「!?」
◆
天空闘技場、屋上。
そこに磔にされたネテロとアランカル幹部・ベイルンがいた。
「闇のチカラ……それで念を極めたつもりか?」とネテロ。
ベイルンは横目にネテロをみる。
「おとぎ話の中に登場するイニシエの魔王や英雄は偉大で強い。そういう話は多い。すべての魔法を統べるなどな。しかし、現実はそうではない。すべての系統を100%引き出す。それはあくまでも念能力の原石にすぎぬ。新世代……ジンやパリストン、チードル……ヒソカ……彼らはワシの世代より念能力を進化させるじゃろう。いや、もうさせておる者もおる」
「個性の融合か?」
「そうじゃ……」
「友情パワー? 二人チカラを合わせてパワーは4倍ってヤツか? くだらん。それは甘えにすぎない。幻想だ」
「すべての系統を100%引き出すという技は一人で戦い抜く者が求める孤独のチカラじゃ。それでは打ち破れぬ」
「なにを……?」
「暗黒」
かつて、ネテロは暗黒大陸から逃げ帰ってきた。
「新世代の彼らなら、暗黒を打ち破れるやもしれん。おぬしたちには決してできぬことじゃ」
「戯言(たわごと)を」
「おぬしはこちら側の人間だ。こっちへ来い」
「戯言(ざれごと)を」
ネテロは何の根拠もなく言っているわけではない。現実に、アランカルの最強の戦士たちが破れている。アランカル最強の剣士傍生もヒソカに歯が立ちそうもない。ステータスでは圧倒的に上回っているはずなのに……。
大昔と現代とで、バトルスタイルが変化しているのは事実。発想が豊かになった。だからこそ……だからこそ、大昔の戦士が現代のバトルスタイルを学習したら……と、そういう発想に至る。
最強は我々の手の中にある。
学習する。それが人間の、いや、生命の本質だ。進化のルートはひとつじゃない。
我々は失敗しない。
◆
レオリオはヒソカとアドレスの交換をさせられてしまった。
「レオリオ、自分のカラダを意のままにあやつるっていうのは実は凄く難しいことなんだ」
ヒソカはトランプのカードを指の先でまわしてみせる。
「自分のカラダと念能力を同時にあやつるのはそれ以上に難しい。ま、あくまでも常人レベルの話だけど……♣」
ヒソカはトランプを投げる。
「くっ……」
一撃で、柱の裏に隠れていたアランカル一般兵をひとり倒した。
「ぜんぜん……気づかなかったぜ……」
「バレバレ♣」
「フォーメーション4」
レオリオとヒソカの前に、数十名のアランカル兵が銃を構えて、現れた。
「彼ら、オーラを纏っていないだろ? 絶を使っているわけじゃない。彼らはオーラを纏いながらの戦闘が苦手なんだ◆ その程度の使い手ということ♠ レオリオ、彼らはキミがすべて倒すんだ」
「あぁ、わかった……えっ!? はっ!? ハアァァァァァァァアアアアアアアッ!?」
そりゃ、いくらなんでも、ムチャだぜ。ヒソカさんよ。
助けてくれるんだよな? モチロン?
数十名のアランカル兵を前に、レオリオはビビっていた。