by レーガン=レイガン(天体ハンター)
時の差より。
ビスカレア=トリンクが劣勢で、マック=ド=ランプがサヘルタ合衆国大統領に当選するかもというニュースが世界を駆け巡っている頃――。
ジャポンの首都エドシティ。
「大勢に問題はありません。引き続き、ランプ氏と交渉を進めておきます。また予定通り、このあと次期大統領と電話対談をする予定となっておりますので、よろしくお願いいたします」
「あぁ、わかった」
ジャポン首相のアヴェンは秘書のスケジュールを了承した。
「サヘルタも一枚岩ではない。トーラス=トリンクの支配力も求心力も落ちてきた。ランプが当選すればここから1年2年で世界は大きく動いていくだろう」
「水面下でのカキンのV5入りの調整も最終段階に入りました」
「トリンクもランプもカキンのV5入りに賛成だからな。あとはネテロが失脚すれば障害はほぼクリアされるわけだ。ここでハンター協会がミスを犯してくれればいいのだが……」
コンコン。
突然秘書の一人が入ってきた。
「誰が入っていいと言った?」
「天空闘技場がテロリストにより占拠されました」
「なん……だと!?」
一度は大きく開かれたアヴェンの口角がゆっくりと上がっていく。
「いや良いタイミングだ。あそこにはネテロがいる」
「ネテロ会長も捕えられています」
くく……ハンター協会を解体する絶好の機会がやってきた。あそこには各国の要人が多数いる。人質が死ねばハンター協会は中枢から崩壊していくだろう。ハンター協会は世界の中心から外れていく。そして、V5が世界の中心にすわる。カキンがV5に入り、我がジャポンも。
V5はV6を経て、V7となる。
道はみえた。
「要求はなんでしょう?」と秘書のシンジ=クラマルが問う。
「不明です。交渉はハンター協会が行っているという情報があります」
なぜ天空闘技場ではなく、ハンター協会が交渉をしているんだ? 天空闘技場と直接交渉したほうが話は早いはずだが……。何かがズレている。しっくりこない。情報が不足しているためだろう。
「犯行グループは自分たちをアランカルと名乗っています」
「アランカル?」
「クラマル、知ってるのか?」
「はい。大昔のハンターグループの名称です。闇の宝を専門で狙っていたそうです」
「その闇のお宝を狙う集団がなぜ天空闘技場を襲う? あそこには各界の要人しかいないだろう」
「引き続き、この件に関する情報を集めてください。逐一報告を」
「はい」
「おかしいですね」
「どこがだ?」とアヴェン。
「占拠という点です。攻撃ならまだ理解できます。しかし、あそこは占拠できるような場所ではありません。この手際の良さは……内通者がいるとしか考えられません。毎日数千人が訪れるという闘士参加者の中に……? セキュリティ上、上層階へは上がれなかったはず……ということは……!?」
…………。
「まさか、内通者は……テロリストは……フロアマスターの中に……いる!?」
「フロアマスターか……なるほど……クラマル、天空闘技場について、ずいぶんと詳しいようだな?」
「以前、父……元総理と行ったことがありまして。元総理の秘書として」
やはりコイツは使える。
元首相の息子にしてプロハンター。
秘書クラマルはノートパソコンのキーボードを叩く。モニターに天空闘技場のホームページが現れた。フロアマスターが写真付きで表示される。フロアマスターの個人データが出てくる。他にもいくつかデータを表示させる。アヴェンはコンピュータが苦手で、クラマルが何をしているのか、よくわからなかった。
クラマルは何かを考えているようだ。
「何を考えている?」
「そうか。そういうことか。おそらく裏切り者の内通者はサイユウ=ソン、彼でしょう」
「なぜ、そう思う?」
「ゲスト……天空闘技場来場者の要人リストです」
「それがなんだ? カキンと関係ありそうな人物なんていないぞ」
「えぇ。そうです」
「…………」
「その通りです」
アヴェンはハッとした。
コイツは……コイツもダテにプロハンターに合格したわけじゃない。
「カキンと関係ある人間がいない。サイユウをバックアップしているはずのパトロンすら……ということか」
「はい。ゆえに、内通者はサイユウ=ソンとなります。これだけの状況証拠があれば確定とみてまちがいないでしょう」
「これはカキン主導のテロの可能性すらあるわけか。メンバーをみるとどいつもこいつも確かに各界の要人には変わりないが、面倒なメンバーばかりのようだ。ここで死んでもかまわない……むしろ消えてほしいというような……」
「…………」
シンジ=クラマル。
いつもデスクで両手を組んでいるだけのアイツとちがって、おもしろいヤツだ。
みつけにくいものをみつける。それは努力すれば誰にだってできる。同列に考えられがちだが、みつけにくいものをみつける能力とみえないものをみつける能力はまるで別物。みえないもの、存在しないものをみつけること、気づくことは誰にでもできることじゃない。知識やアビリティが必要になる。プロの領域だ。
コネでハンター試験に合格したとか言われているそうだが、そう言っている者は人を見る目がないとしか言いようがないな。人を評価するもまたプロの領域。人を評価することなんて簡単だと思われがちだがこれが何より難しい。
私はコイツを取り込もうとしているが、取り込まれているのはこの私なのかもしれない。
この国のトップである私を取り込むか? シンジ=クラマル……?
◆
「サイユウがテロリスト!?」とオルガ。
サイユウ=ソン。騎士のコスプレをしたサーベル使いのフロアマスターだ。マントを羽織ってる。騎士なのに、暗器使いの卑きょう者だというウワサが流れている。なんだか、よくわからない闘士だ。
おそらく手の内を隠しているのだろう。それもあからさまに。自分では賢いと思っているタイプのバカなのかもしれない。
とオルガは思っている。
「サイユウをさがそう」
「それはムリ」とアン。
「どうして?」
「アンタってホントーにバカだよね」
ムカツクぞ。
「私がサイユウ(彼)なら、人混みの中に隠れる。彼がやるべき仕事はテロリストの手引き。目的は達せられたのだから、余計なことはしないはず。私たちにみつかったら、私たちに同行して、テロリストと戦うハメになるかもしれない。つまり、仲間同士で戦うかもしれなくなるってこと。メリットがないのよ。それにサイユウがユダだとわかれば、そこからテロリストの足がつくし、リスクしかない。なら、隠れるのが必然(セオリー)」
言われてみれば……。
「そりゃ、そうだな」
「サイユウのお金の動き、渡航歴、通信記録から、テロリストの核心に近づくことは可能……調べればこっちが気づいていることに気づかれるリスクもあるから、まだヘタなことはできない。サイユウもそこで罠を張っている可能性もあるし」
ときどき、アンの思考についていけなくなるときがある。アンはどこまで先を読んでいるんだ?
「彼はテロリストの中に隠れている。観客の中では有名人の彼はすぐにみつかってしまうから。テロリストなら、顔を隠していても平気。つまり、サイユウはいま、このフロアにいる。観客を監視するモブの一人として」
アンのこの推理力は……?
「だから、彼をさがすんじゃない。おびき出す。それがセオリー」
ハンターは二つのタイプに分けられる。
狩りに行くタイプと罠を張るタイプ。後者のタイプは具現化系や操作系に多い。
自分では否定しているが、彼女はまちがいなく、ハンターだ。
クミングがじっとアンをみつめている。
「なに?」
「アンタ、何者なの?」
「私はアン=……ファンです」
自分の名前を考えながらいうって、絶対偽名だろ。演技はそんなにうまくないようだ。
「アン、これからどうする?」
「何も出てこないと思うけど、とりあえずは……アレしかないでしょう」
「アレ?」
「アレ!」
アンは人差し指を立てて、視線とともに床を指した。
「?」
アンは溜め息をついた。