Hyskoa's garden   作:マネ

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No.054 250階から脱出せよ

 念能力は使い手の人格や環境もそうだが、念を覚えた年齢(時期)にも大きく影響される。ゆえに、代々念能力を使える家系においては念能力の存在を教える時期について、過去の経験から慎重になる傾向がある。

 

 例えば、小学生は女子にモテるために、経済力や包容力を手に入れようとはしない。それよりも足が速いことのほうが効果的だからだ。だから、女子にモテるために速く走れる能力が発現してしまう。当時は良いが、多少足が速いという能力で人生を生きていくことはできない。こういう失敗が念能力ではよくおきる。

 

 いくら才能があっても、その発想が才能に追いついていなければ何の意味もない。

 

 ハンゾーの場合は18歳になってもまだ念能力を教えてもらえていなかった。暗殺や闇の職業の場合、個性の成長や精神の成長、仕事の仕方の変化なども考慮し、念を覚える年齢が高くなる傾向にある。兄弟姉妹がいる場合、それも考慮される。こと念においては覚える時期が早いほうがいいというわけではなかった。

 

 やりなおしがきかないから。

 

 念能力を発現させる時期。環境。そのときの精神状態で発現する念能力は変化する。

 

 代々念能力を扱う家系でないと、この発想に至らず、念能力の選択に失敗するケースが多い。

 

 

 ネテロもまたその一人だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 十代後半、ビスケット=クルーガーはハンターになった。ハンター試験でネテロに気に入られたこともあり、裏ハンター試験で、当時すでに会長であったネテロの弟子になった。

 

 ビスケはネテロと山にこもり、朝から早朝まで筋トレばかりの日々を送っていた。

 

 オーラの異常な影響により、身長は2メートルを越えて、まだ成長を続けていた。

 

 そして、ビスケは男以上の男になっていた。

 

「もう何ヶ月も男をみてないわさ。もう限界だわさ。山を降りるわさ」

 

 修行の限界ではなく、男がいないことに限界を感じていた。

 

「ならん」

「もう、こんな生活耐えられないわさ」

 

「もし、この修行に耐えたら、ワシの息子に合わせよう」

「ジジイの息子なんて、もうジジイださわ」

「ちょうどおまえくらいだったかな。十代後半」

「え?」

 

「ビヨンドという……ワシがいうのもなんだがなかなかの男だぞ」

「さっ、修業の続きをするわさ」

 

 ビスケはネテロの三年にも及ぶきびしい修行を完遂した。

 

 そして、見事なオスゴリラとなった。

 

「こんな姿じゃ、山を降りられないわさ」

 

 ネテロは協会の会長をしているので、いつもビスケについているわけではなかった。桜髪のルーラなどがビスケの修業をみることもあった。

 

「ビスケット、能力が決まったんだな」

「はい! 変化系に具現化系を融合させたバランスの良い能力です」

「ほほう。これは期待できそうじゃのう。では、みせてみよ」

 

 ネテロはウキウキしている。誰かの念能力を初めてみるとき、誰もがワクワクする。

 

 念能力は心を映す鏡。

 

 ビスケはクッキーちゃんを具現化した。

 

「スーパーマジカルエステティシャンのクッキーちゃんです」

 

 ウホウホ。

 

 ビスケは能力の説明を嬉々としてした。

 

「才能の無駄遣いじゃないかああああああああああああああああああああいっ!」

「こんなに素晴らしい能力はないだわさ! 理想の能力だわさ! この肌と髪のツヤをみるわさ。この山の中での生活で、この肌と髪のツヤ。まさに奇跡だわさ」

 

 ウホウホ。

 

「ワシはどこで育て方をまちがえてしまったのか……」

 

 ネテロは崩れ落ちた。

 

 ルーラ曰く。「女の子を育てるのは難しい」

 

 目をまん丸にして、何がおきたのかわからないという顔をしたネテロの表情をビスケは今でもはっきりと覚えている。

 

「さぁ、ジジイ、アタシにビヨンドを紹介するんだわさ。だわさだわさ」

 

 ウホウホ。

 

「なんの話じゃ?」

「え?」

 

 

 これより変化系にして、こんな能力なのに、ビスケは戦士系最強クラスの念能力者とよばれるようになるのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「最初に師範をみたときは驚きましたよ。まさか、そんな姿にもなれるとは思いませんでした。普通の姿とあの姿しか知りませんでしたから」

 

「さいきんはこの姿でいることが多いわさ。この姿じゃ声をかけられることもないから、気楽でいいわさ」

 

 テロリストに包囲された極限状況で、二人は日常会話をしていた。ズシは寝ていた。

 

 ド~ンっと天空闘技場が揺れる。

 

「なんでしょう。師範?」

「あの子たちよ」

 

 ゴンとキルアはマジメだから毎日の纏と練は欠かさずやっているはず。ライバル関係にある二人はお互いに相手に負けないために、誰よりも努力する。グリードアイランドでの成長スピードから察するに、この威力はビスケにとって物足りないものだった。

 

「おそらく相手に威力を殺されたようね」

「これで……ですか!?」

「えぇ」

 

 ゴンの硬を受け流せるなんて、相当手強い相手と戦っているみたいだわさ。おそらくあの子たちじゃ手に負えない。

 

「ネテロも捕まってることだし、アタシが動くしかないのかもしれないわね」

「師範が動くのですか? そうですね。会長はまだ死んでいい人じゃないですから」

 

 テロリストが良い男だったらどうしようかしら。

 

 ビスケはまったく別のことを考えていた。

 

 

 ビスケット=クルーガー。年齢は五十あwせdrftgyふじこlp……。

 

 心源流師範にして、ハンター協会戦士系最強クラスのハンター。

 

 心源流師範代のウイングなどを育て上げ、ダブルハンターの称号を持っている。

 

 次期会長候補にも名を連ねるほどの正真正銘、一流ハンターである。

 

 平常時は消費オーラ量を抑えるために、自称美少女モードになっている。本物の美少女とちがって、成長しないために、エネルギー消費量が極端に少ない。長期戦に向いているモードである。

 

 マッスルモード(通称ゴリモード)はエネルギー消費量が激しい。全開で戦える時間も限られている。そして老化が著しく激しいという欠点がある。

 

 ネテロは平常時もマッスルモードでいたために、老化が一気に進んでしまった。一般人と比べれば十分に緩やかだが。体力が衰えた後はその老いのスピードは緩やかになっていった。このネテロの経験もあり、ビスケはマッスルモードは限られた場合にのみしか使用しない。それによって、この年齢でこの若さを保っている。念能力の影響も多分にあるが。

 

 生命力(念ではない)というものは使えば使うほど死に近づいていく。

 

 ビスケは世界最高齢にもっとも近いハンターともくされている。

 

 シングルハンターになってから、裏ハンター試験でビスケの元にルーキーハンターが弟子として送られてくるようになったが、ビシバシしごきまくるために、それに耐えられず、修業途中でルーキーを他の師匠にまわされることも多かった。育てるのは大好きだが、相手に合わせて育てるという才能はそれほどなかった。それに育てがいのある弟子にも恵まれなかった。ウイングも才能はなかったが、努力の人だった。ビスケの中では出来損ないの弟子のひとり程度の認識だった。そんなウイングも弟子を取るようになったというのはビスケにとって、なかなか考え深いものだった。

 

 

 250階の会場はアランカルの一般兵で監視されている。一発の銃弾が放たれてから、会場は静まり返っていた。この会場には世界の指導者たちが集っているが、声をあげる者はいなかった。テロに立ち向かおうとする者は誰もいなかった。

 

 ビスケは辺りに気を張りめぐらせる。ビスケはアランカル一般兵をすべて掌握する。

 

 振動の震源地から、ビスケはゴンとキルアの場所はおよそ50階だと推定した。

 

「さすがです。師範」

 

「それじゃ、行ってくるわさ」

 

 ビスケは一般人にはみえない目にも止まらぬスピードで移動し会場を出た。それに気づくアランカルの一般兵はいなかった。気づいたのはノストラードファミリーのセンリツともうひとりだけだった。

 

 なぜこのレベルの使い手が一般兵をしているのかしら?

 

 一般兵ではない!?

 

 あれは……十二支ん、サイユウ=ソン……!?

 

 でも、アイツなら、アタシが逃げても大騒ぎはしないはず。自分の保身のために。

 

 アンタがアタシに気づいても、アタシがアンタに気づいていることにアンタは気づかない。

 

 ネテロはこういうのばかり十二支んにするんだから。まとまりもないから、会議はいつも大混乱。そういうふうになるようにメンバーを揃えているから当然なんだけど。ネテロはいつも、そんな大騒ぎをうれしそうに眺めていたっけ。

 

 ビスケは自分が十二支んだったころを思い出していた。

 

 ホント食えないジジイだわさ。あの頃からネテロは何も変わらない。

 

「ネテロはアタシが守る。ぜったい死なせない」

 

 ネテロのピンチ。ウイングが弟子をとったという事実。パリストンやサイユウなどの新しい十二支ん。そして、ゴン、キルアというルーキーハンターの登場。

 

 プロハンターになってからの三年間程度はルーキーとよばれる。

 

 それぞれのポジションの世代交代。

 

 自分がハンター協会の中枢にいた頃からずいぶんと変わってしまったことと、これから時代が大きく変わろうとしていることをビスケは感じていた。

 

 試されているのは新世代の実力なのかもしれない。


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