Hyskoa's garden   作:マネ

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No.052 勇者の剣×魔王の名前

 キッドはキルアのヨーヨーの特殊ワイヤーを切断する。

 

 宣言通り。

 

 これを狙っていたんだろう? キルア。これで僕は一手遅れを取らされるわけだ。

 

 あえてそれに乗ってあげるよ。

 

 メラゾーマ・ブルーはオートでゴンを狙う。もう逃げられない。

 

 キルアは身体に帯電させていた電気をオーラに還元していく。スピードは早いとはいえないが遅くはない。

 

 すばらしいよ。キルア。キミはすばらしい。

 

 だが、還元するのがタイミングが早すぎる。メラゾーマが着弾する前に、オーラが多少なりとも霧散してしまうだろう。だからこそ、ギリギリまで還元は控えなければならなかったし、還元スピードが重要になってくる。

 

 ギリギリのバトルの戦闘経験値がまだまだ足りていない。

 

「纏ッ!」

 

 !?

 

 ゴンがキルアの後ろから纏を行う。キルアのオーラがとどまった。

 

 なんという……。

 

 いつこんな打合せを行った? いや阿吽の呼吸か。キルアの還元のタイミングが早いと感じた瞬間、キルアの意図を把握したゴン。ふつうならキルアのミスだと判断する。キルアもゴンが自分の意図を理解してくれると判断し、還元のタイミングを早めた。

 

 なんという信頼感だ。

 

 ネテロ、これがおまえのシナリオなのか?

 

 ゼノを使って、キルアにハンター試験を受けさせた。ゴンのタイミングに合わせて。キルアには難しい試験があるとでもいえば受けたいと言い出すだろう。

 

 そして、いま、二人はコンビで、僕たちの前に立っている。

 

 ここまで読んでいたのか? ならば僕が彼らと戦うことも読んでいるのか? 僕が本気を出せば彼らを殺すことなんて……造作もない。

 

 

 

 ――カルマ、おまえの本質は暗殺にある。ハンターではない。資質でアイツに劣る。

 

 

 

 あの日、ネテロが弟を選んだ日、僕はゾルディック家を抜けた。

 

 

 

 ――おまえたちはハンターじゃない! おまえたちがやってることは密猟と一緒だ。

 

 

 

 ゴン、キミはネテロと同じことを言うんだな。

 

 キルア、キミは弟に似ている。

 

 暗黒大陸へ行くのはキミたちか、僕たちか。もうそういう段階か。

 

 キルア、ゴンの纏でキミのオーラをとどめたとしても、このままだとメラゾーマがキミたちを焼きつくすぞ。

 

 キルアとメラゾーマが接触した。

 

 じゅわぁ~っという音を立てて、白い煙が立ち上った。フロア中に。何もみえなくなる。

 

 円。

 

 キッドは半径10メートルほどの円を張る。

 

 一瞬だけ誰かの円がキッドの円にふれる。鋭い円だった。

 

 バトルで円を使ってはいけない。

 

 念能力バトルのセオリーだ。円は自分がここにいると大声で教えるようなもの。標的にしかならない。

 

 円は守りに使うものではない。攻めに使うものだ。

 

 彼らを僕が恐れている……?

 

 キッドはおかしくなって、笑いそうになった。

 

 立ち上った白い煙が天空闘技場に開いた穴から出ていく。瓦礫の山。その山が動く。瓦礫の下にキルアとゴンがいた。

 

 天井から水が滝のように落ちていた。

 

 スプリンクラーの水だ。

 

 火遁は水遁に弱い。

 

 ヨーヨーでスプリンクラーのタンクを破壊し、その水でメラゾーマから熱を奪って、自分たちは瓦礫の下に隠れて、瓦礫ごとオーラでガードする。瓦礫が断熱材の役割をしたわけだ。

 

 念能力でかなわないなら、物理で上回ればいい。現代の念能力バトルのセオリーだな。

 

 よく導き出した。

 

「正解だ」

 

 キルアは水で身体に張りついた服をつまむ。びしょびしょに濡れている。

 

 バチバチ……。

 

「さすがにメラゾーマ・ブルー(この技)を連続で放つのはキツイかな……とでもいうと思ったか? 僕たちは死人だ。生命エネルギーを必要としない身体。エネルギー効率が生者より遥かに高い」

 

 キッドはバギクロスを使う。餓鬼のダンシングドールと混ざり合っていく。

 

「さぁ、2発目(コレ)はどうする? もう水もないぞ」

 

 キルアの身体からバチバチと電気が放電した。床の水を伝って十数メートルも放電する。

 

 僕の円にふれた電気か。

 

 キルアの髪が静電気で逆立った。

 

 キルアのオーラ量が増えている!? フィールドが水属性に変化したことで、電気のオーラ効率が跳ね上がったためか? 逆に、僕たちのオーラ効率は下がった。

 

 だから、どうした?

 

 その程度のことで、形勢がひっくり返るほど、僕たちは弱くない。

 

 キルアから電気が放電している。

 

「まるで、生まれ変わったような感じだ。身体の中のように身体の外のオーラも自在にあやつれる感覚だぜ。今ならこのフロア全体に円を展開できそうだ。まぁ、そんなんできねえけどな。この状態が長くつづくのはよくねぇかもしんねえな」

 

 念能力にはある特定の状況下で爆発的にオーラ量が増大する能力者がいる。

 

「驚きだよ。まさか、これほどとは……才能とは恐ろしいな」

 

「キルア……?」

 

「ゴン、もうなんも問題ねえよ」

 

 ゴンは練をする。

 

「キルアでよかった。キルアじゃなかったら、この技はできなかったよ」

「そういうハズいこと言うなって」

「そぉ!? キルア! やるよ!」

 

 ゴンがキルアを見ずに、手のひらを向けた。

 

「あぁ」

 

 何をするつもりだ?

 

「行くぜ!」」

 

 キルアはゴンの手のひらに自分の手のひらを合わせた。ゴンはキルアの手を握る。

 

 キルアとゴンのオーラが同調し、収束していく。

 

 ゴンの身体も電気を纏っていく。

 

「電位差がないところで、電気は流れない。疑似デュアルスキル。いや、これは……本物のデュアルスキル!? まさか、ありえない」

 

 キルアがヨーヨーで壊した天井の破片がキルアの頭上に落ちてきた。

 

 キルアにふれる瞬間、破片は真っ二つになった。

 

 キルアは得意げに少年のような(少年だけど)無邪気な笑みを浮かべた。

 

 何をしたんだ? 何をしている?

 

 オーラがシンクロしようとしている。

 

 こいつら……。

 

 偽物じゃない。本物だ。

 

「さぁ、決めようぜ。どっちの必殺技が強いかをさ」とキルア。

 

 餓鬼がキッドの肩に手を置いた。ヤバいという顔をしていると思う。

 

 格上の僕が小手先の技に逃げるわけにもいかない。かといって、デュアルスキルとまともに向き合うにはリスクが高すぎる。

 

 この僕がこんなこどもに……。

 

「硬!」

 

 ゴンの右手にオーラが集まる。

 

「すべてを焼き尽くし、沈黙の灰にせよ! メラゾーマ・ブルー!」

 

 メラゾーマの不死鳥がキルアとゴンに迫る。

 

 ゴンがメラゾーマに突っ込んだ。

 

 そして、一閃。

 

 メラゾーマ・ブルーは上下に斬り裂かれた。

 

 餓鬼も。

 

 まるで、誓約と制約をつけたような圧倒的な攻撃力。

 

 変化系の刃と変化系の電気の完全な融合(デュアルスキル)。運命に勝利を約束された一撃。

 

「やったか!?」

 

 キルアはキッドと餓鬼のようすをさぐっている。餓鬼は倒れているがキッドはみつけられないようだ。瓦礫(死角)がたくさんあるから。

 

「ぶっつけ本番でこのクオリティ……さすがはキキョウの息子だな」

「おフクロの名前をどうして……?」

 

 キルアがキッドに疑問を投げかける。キッドは笑みを浮かべるだけ。

 

「なんで? たしかに斬ったはずなのに……」

「肢曲だよ」

 

 この僕が逃げるしかなかったとは……。

 

「ゴメン、キルア」

「いや、アイツが一枚上手だっただけだ」

 

 キルア、次の一手を考えているという顔だな。ゴンは今のでオーラはほぼゼロ。

 

「その技はなんという?」

 

「えっと……」

 

 ゴンが答えようとする。

 

「その技にはすでに名前があるんだよ」

 

 

 

 ――天剣ギガスラッシュ

 

 

 

「魔王クルタを倒した伝説の勇者の剣だ」

 

「クルタ……!?」

 

 キルアが驚きの声を漏らす。

 

 ゴンは一瞬目を見開いてから、じっとキッドをみつめ返した。キッドは明後日のほうをみた。

 

「残念……どうやら時間が来たようだ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 天空闘技場のとあるフロアマスターの寝室。

 

「このコがあの……」とアスフィーユ。

「あぁ」と天動。

 

 アスフィーユに新しい服を着せられて、金髪のそのコは柔らかなベッドにそっと寝かされていた。

 

「魔王の血を引く最後の生き残りだ」

 

「緋の一族……」

 

 そう言いながら、修羅がベッドに近づく。

 

「ねぇ、彼女、もらってもいいかな?」

 

 修羅はその金色の髪にふれた。




 ダブルスバトルの「キルア&ゴン VS キッド&餓鬼編」はここまでです。バトルばかりの話をここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 夜明けまで、まだ遠く……。

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