Hyskoa's garden   作:マネ

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No.005 バンジーガム×百式の零

 凝を維持して、試合を観戦って……もう修業だよな。だが苦痛はない。むしろ凝をさせてもらえないほうが苦痛だ。一瞬足りとも見逃したくないから。

 

 ヒソカは壁に向かって隠でみえにくくしたバンジーガムを放った。覚醒の百式観音が無造作にそれを撃ち落とす。さっきより早い。そして、速い。あきらかにネテロは強くなっている。この試合を組んだネテロの意図が透けてみえたような気がした。

 

「六乃掌」

 

 ネテロは左手で数字の六の字をつくっている。

 

 百式観音のコブシに付着したバンジーガムが縮んで、トランプが百式観音のコブシめがけて飛んでいく。百式観音が消滅した。トランプが明後日の方向に飛んでいった。

 

「へぇ♣」

「させんよ。これがおまえの生命線じゃろ? おまえはもう詰んでおるよ」

「どうかな?」

 

 百一式は回避したがヒソカの戦術はすでにネテロに見切られている。もう使えない。押しているようにみえていたが意外にもヒソカは追い詰められているのか? ネテロマジックか?

 

『ネテロ師範から、おまえはもう詰んでいる、発言出ましたッ!! 解説のウイングさん、振ってもよろしいですか?』

 

 ウイングが若干イラッとした空気が音声でもわかった。

 

『ヒソカ優勢に試合が運んでいたのはバンジーガムによる高速移動のためです。これが封じられればヒソカは百式観音に対して無力にも等しいといえるでしょう。ヒソカに百式観音の攻撃を回避する術はありません。改めて思いましたね。ヒソカも恐ろしいが、それ以上に師範はもっと恐ろしい。ここまでずっと攻められつづけていたのに、気づけば師範に都合のいい形になっている。追い込んでいると思っていたら、追い込まれていたという典型的なパターンですね』

 

『まともな解説ありがとうございます』

『私はいつもまともです。常識人ですよ。師範と一緒にしないでください……フアッッ!! 口が滑っ……』

 

「ウイング、後で殺すッ」

 

『冗談ですよぉーーぉぉーーッ、師範ぁ~~~ん』

 

 おわった? と小声でヒソカ。待っていてくれたようだ。ヒソカはこういう形を大事にする。

 

「それじゃぁ……仕方ないけどやるか……」

 

 ―――――――――― 練♣ ――――――――――

 

 いつものヒソカよりは大きなオーラを纏う。だがそれは僕にすら及ばない。これだけのオーラで何ができるというんだ。

 

「ここまでボクがやる気になったのはいつ以来かなぁ?」

「それがおまえの全力か?」

「さてね♠」

 

 ヒソカの手のまわりがバンジーガムで包まれている。ヒソカの全身から禍々しいオーラが立ちのぼる。

 

 最終局面か? もうじき決する。

 

「全力できなよ◆」

「王者気取りかよ」

「最強はボクだ」

「あぁん? 調子ん乗んなよ、クソガキが」

 

 会場はしんと静まり出した。

 

「みせてやるぜ。百式の奥義ってヤツをよ」

「あぁ、みせてよ。ボクにあなたのすべてをさらけ出してよ❤」

 

 ヒソカが高揚しているのがわかる。

 

 ネテロは手を合わせた。あれだけの傷だ。手を合わせるだけでも相当の痛みがともなうはずだ。ネテロはそれを微塵も表情に出さない。

 

「百式観音、零乃掌ッ!!」

 

 ヒソカの背後に百式観音が現れた。百式観音の両の掌がヒソカを包み込む。速い。

 

 百式の零からは逃れられない。メシアムがつぶいやいたような気がした。

 

 ゴォオオオーーーーーーーォォーーーーーーーーオオオオオオオオオッッ!!

 

 百式観音の口から無慈悲の咆哮が放たれた。

 

 無慈悲の咆哮の衝撃で粉塵が立ち込めて、二人のようすがわからない。

 

『戦いはいったいどうなったんでしょう? 疲労困憊のようすのネテロ師範。ですが、ネテロ師範の渾身の一撃が決まりました。ヒソカ選手は生きているんでしょうか?』

 

 試合場にある影はたった一つだけだった。あとはない。みつからないのではない。ない。

 

『人影は一つしか見当たりません。ヒソカ選手は消し飛んだのでしょうか?』

 

 勝負は決したようだ。

 

 そこにはネテロの頭に右手を置いているヒソカがいた。いや、自分の頭にふれることを許しているネテロがいた。これは事実上のネテロの敗北宣言といえた。

 

 ヒソカはネテロの頭を撫でまわしながら、ズキュウウウンしていた。完全にイッている。ネテロは「こんなハズでは……」といった表情をしている。ネテロの頭と身体はヒソカのバンジーガムでひどいことになっていた。

 

 僕はドン引きしていた。

 

 ヒソカ、ここでそれはねぇよ。

 

 

 ◆

 

 

「いったい何があったんだ?」

「オルガ、みえていなかったのか?」

「何を?」

「ヒソカ、やりやがった」

 

 メシアムとエデンにはみえていたらしい。

 

「百式の零は百式観音の零の両手で対象者を包み込んで、百式の零の手ごと無慈悲の咆哮を放つという技だ。だが百式観音はヒソカを包み込めなかった」

「ウナギのぬめりだよ。バンジーガムで身体を包みこんでうなぎの表面のようにぬめらせて、零の掌からにゅろんと抜け出したのさ」

「百式の零の掌はヒソカを捕えるためにバンジーガムを押しつぶすような形になった。その圧力は想像を絶する。ヒソカはその力を利用して、弾丸のように飛び出して、ネテロを急襲。一気に勝負を決めた」

 

 アンは蒟蒻ゼリーをにゅろんと容器から出し食べていた。

 

「つまり、こんな感じ?」

 

 アンは蒟蒻ゼリーの容器を潰す。するとゼリーが空中に飛び出した。落ちてきたゼリーをパクリと食べて、ニコリと笑った。アンの育ちの悪さが伺える仕草だった。

 

 こんな手を隠していたなんて……ヒソカはいつでもネテロを倒すことができたのか? ネテロ相手に遊んでいたのか?

 

 オルガは笑ってしまった。

 

 アンは小首を傾げた。

 

 

 ◆

 

 

「百式観音の弱点その5。百式観音は二つの攻撃を同時に放つことができない。つまり、カウンター攻撃に対応できない◆」

 

 ハッとした。言われてみればその通りだ。

 

 百式観音が百式の零の無慈悲の咆哮を放っている間に無防備なネテロを攻撃する。

 

 百式観音は攻撃中がもっとも無防備となる。これは致命的といえるほどの百式観音の欠陥だ。だからこそ最強の必殺技となるのかもしれないが。

 

 なぜ、こんな単純なことに気づかなかったんだろう。

 

 いや、百式観音にカウンターを合わせるなんて普通は考えない。百式観音は世界最速だ。ヒソカのスピードがおかしいだけで。あんな圧倒的な能力をみせつけられたら思考が停止してしまう。気づこうと思って気づけるものじゃない。あの次元で闘えるものだけが到達しうる領域。

 

 ヒソカの領域。

 

 僕は闘う前にネテロ師範に負けていたんだ。

 

 いま、確信した。最強はヒソカだ。やはり、ヒソカは僕が倒す。僕の獲物だ。

 

「ギブじゃよ」

「ん~、91点◆」

「まいったわ。さすがにまいったわい」

 

 ネテロは負けを宣言した。ぐったりしているがすこし笑っている。スッキリした表情だ。べとついた顔がなんかヤだけど……。

 

『なななんと、ネテロ師範、ギブアップを宣言しました!! 勝者はヒソカ選手ゥウウーーーゥゥーーーーウウウウウッッ!! 難攻にして不落。ネテロ師範陥落です!! ついに新時代の幕開けだァアアーーーーァァーーーーアアアッッ!!!』

 

『師範が……そんな……ありえない……』

 

 

 ◆

 

 

「あんなバケモンに勝てるのはメシアム、おまえだけだぜ」

 

 エデンは席を立って、メシアムの左肩を叩く。

 

「勝てる気がしねぇー」

 

 メシアムの心の声が漏れた。

 

「あんなのが次のバトルオリンピアに出てくんのかよ。出場するか考えちゃうよなぁ~」

 

 エデンはバトルオリンピア欠席を匂わせた。

 

 それにしてもヒソカは強すぎる。

 

 3年前、ヒソカに訊いたことがある。

 

『ヒソカはどうしてそんなに強いの? どんな修業をしてきたの? 教えてよ、ねぇ? ねぇねぇ?』

 

 僕はヒソカの服を引っ張りながら、駄々をこねるように訊いた。今思えばヒソカのそのときの表情は変態顔だったかもしれない。当時の僕には好青年にみえていた。

 

『やりたくないことをやっても強くはなれない。念は感情に強く反応する。快感を求めるのさ♣ 快感がボクを強くした♠』

『快感ってなに?』

 

 思い出すとなんか恥ずかしい……。

 

 過酷な修行をすれば当然強くなれる。でも、それでは最強には届かない。

 

 僕は追いかけつづける。ヒソカの影を。追い越すその日まで。

 

「ヒソカは……彼は僕が狩るよ」

 

 僕はそう宣言した。

 

「ふ~ん、狩れば」

 

 アンは残りの蒟蒻ゼリーを食べた。

 

 このときの僕はヒソカとネテロがあんなことやこんなことになるなんて夢にも思っていなかった。

 

 

 ◆

 

 

 ヒョォオオオーーーーーォォーーーーーーオオオオオオッッ。

 

 山積みのゴミ。ゴミ。ゴミ。辺り一面にゴミしかない。

 

「この風だ」

 

 その男は感傷に浸っていたようだとサンドラは思った。

 

「サザンピースのオークションで離れたとき以来だな。ずいぶんと懐かしい」

 

 男のまわりにマントをはおった人たちが集まってくる。サンドラもそこに混じる。

 

「何の用じゃ。クロロよ」

 

 流星街の長老のひとりアジン。

 

「久しぶりだね。クロロ……マチは一緒じゃないの?」

「あいつは天空闘技場にいる」

「なんで?」

「サンドラ、黙っておれ」

 

「アイツはいるか?」

 

 クロロは手術前の医師のように手の甲をみせるように両手を上げて質問した。

 

「おまえは相変わらずじゃのう。アヤツにまで手をだすか? どうなっても知らんぞ」

 

 またクロロの交渉という名の脅迫がはじまるんだろう。




 ここでヒソカ×ネテロ戦は完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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