Hyskoa's garden   作:マネ

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No.051 友達のカタチ

 物心ついたときにはすでに人の殺し方を知っていた。

 

 5歳になって、仕事をこなすようになった。

 

 何も考えずに淡々と仕事をこなした。

 

 それが日常になっていった。

 

 他人(ターゲット)と自分を殺す日々だった。

 

 6歳になって、オレはターゲットにも自分と同じように家族がいることに思い至った。いや、思い至らなかったのはオレがそこから目を背けていただけなのかもしれない。

 

 

 

 そして、オレは人を殺せなくなった。

 

 

 

 そんなオレは仕事で大失敗して、オヤジから天空闘技場へ行くように言われた。

 

 オレは天空闘技場に放り出された。

 

 アレは孤独な2年間だった。

 

 天空闘技場の200階に行って、家に戻ることができた。それから記憶に曖昧なところが多くなった。

 

 念を覚えた今ならある程度のことを推測することはできる。

 

 

 ――アニキだ

 

 

 おそらく、オレの中に念の知識が眠っている。そして、家族の念能力(ヒミツ)も。

 

 オレはおフクロの顔を知らない。ホントに知らないのか? それとも、眠らされているのか?

 

 キッド……おまえは……オレはおまえを知っているのか……?

 

 おまえは誰だ!?

 

 

 ◆

 

 

「とこしえの闇に、吹き荒べ……バギクロス!」

 

 餓鬼のダンシングドールとバギクロスが混ざり合っていく。

 

「火遁と風遁を合わせて灼遁。マルチスキル型コンボ。今のキミたちが防ぎ切れる技ではない」

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 うるせえ

 

 

 

「我々の元に来い! ハンターなんだろう? 共に世界を手に入れよう!」

 

 それは加入ではなく、もはや脅迫にも等しい。

 

「おまえたちはハンターじゃない!」

 

 ゴンが叫んだ。

 

「おまえたちがやってることは密漁と一緒だ。オレたちはそういう狩りはしない!」

 

「そうか。選ばないのか。あの日、ネテロが選んだのも弟だった」

 

 なんの話だ?

 

「知ってるか? ネテロがこの世界の外を知っていることを。ネテロがこの世界の外から逃げ帰ってきたことを。あの世界を手に入れて、僕はネテロを完全に越える。僕はそのためによみがえった。この身体ならネテロすら越えられる」

 

「おまえなんかにネテロさんは越えられない!」

 

 キッドは一瞬沈黙した。

 

「引け! もう十分だろう?」

「引かない」

 

「キミたちは十分に戦った。及第だ」

 

「ここは引かない!」

 

「実力差がわからないわけじゃないだろう?」

 

「オレたちが引くわけにはいかない! ハンターだから!」

 

 ネテロ救出クエスト。

 

「これは実戦だ。どちらかが屈するまでつづく」

「だから、引かないんだ!」

 

「ネテロにそれだけの価値があるとは思えない。キミたちにこそ価値がある。……そうか。ここで引かないからこそ、キミに価値があるわけだな。ダイヤの精神。だが、それがキミを殺す」

 

「オレはおまえなんかに殺されはしない」

 

「念能力のバトルに奇跡はない。どこまでも現実があるだけだ。弱者が強者に勝ることはない」

 

 キッドは右腕を横に伸ばした。

 

「地獄の火炎を纏いし魔人……岩に刻まれし千年の嘆き……遥かなイニシエより、いま、よみがえれ!」

 

 バギクロスと青いダンシングドールが巨大な鳥の形を形成していく。

 

 灼遁の青い不死鳥が天井に向かって雄たけびを上げた。

 

 この技はやべぇ。

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 うるせえよ。

 

 おまえなんかに

 

 何がわかるっつーんだよ

 

 

 

 ◆

 

 

 

 初めてのハンター試験の最終試験。

 

 アニキから、自分と戦わなかったら、ゴンを殺すと言われた。オレは心がすくんで、身体が動かなくて、怖くて、ゴンを見捨てた。ゴンを見捨てたんだ。初めて、友達ができるかもしれないと思ったのに、足元からすべて崩れ去っていくような気がした。どこまでも落ちていくような気がした。

 

 オレはゴンを切り捨てたんだ。

 

 切り捨てて、オレはゴンの前から去った。ゴンの前にいられるわけがなかった。

 

 ……………………。

 

 そんなオレをゴンは迎えに来てくれた。ボロボロになってまで。

 

 オレはうれしくて……。

 

 あやまりたくて……。

 

 どんな顔していいかわからなくて……。

 

 言いたいことはいっぱいあったのに……。

 

 なんも言えなくて……。

 

 オレは笑った。

 

 笑えた。

 

 また笑えるなんて思ってもみなかったんだ。

 

 ゴンじゃなきゃダメだったと思う。

 

 出会ったのがゴンじゃなかったら、オレはまたあの日々にかえっていたと思う。

 

 ゴンだから、オレはオレでいられる。

 

 人形なんかじゃない。

 

 オレとして。

 

 

 だから――

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 うるせえってのっ!!

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 絶対に失いたくない! 失いたくないんだ!

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 ゴンは……オレがオレのままでいられる……オレの……大切な……。

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

「オレは負けない! だって、オレにはキルアがいるから!」

 

 キルアはゴンをみた。

 

「キルアがついているから!」

 

 

 

 ――キルアじゃなきゃダメなんだ。

 

 

 

 ゴンはオレの大切な友達だ!!

 

 ゴンはオレが守る!!

 

 

 

「ゴン、悪りぃ。今さらだけどさ、決まったぜ」

 

「何が?」

 

「アイツを倒す覚悟ってヤツがさ」

 

「バカが」

 

 キッドは吐き捨てた。

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 アニキ、オレはもう逃げねえよ

 

 

 

「ゴン、まずは青い不死鳥(アレ)を止めるぜ!」

「うん!」

 

「暗殺術の基本は回避と逃走。攻撃も防御も奥義ではない。キミの防御力ではコレは止められない」

 

 ゴンの防御は頭に入っていねえのか?

 

 やっぱ、思った通り。

 

 もうゴンのオーラ量は残されてないんだ。あれだけ必殺技を連発すれば当然。

 

 ゴンはわかってねえだろうな。

 

 ゴンはもう必殺技を使えない。使ったら、発動せずに、そのまま気絶……。

 

「ゴン、もう必殺技は使うな」

「なんで?」

 

「たぶん、もう使えねえから」

 

「見落としているぞ。疑似仙人モードももう使えない」

 

 あぁ……知ってるよ。

 

「アレは電気制御盤を使うもの。だから、それを使わせなければいいだけのこと。必殺技はそう何度も使うものじゃない。使えば使うほど、その対応策を準備されてしまう。今後、キミがヨーヨーを使ったら、即時切断する」

 

 オレも超必殺技が使えない。落雷も雷炎流も鬼気麒麟も。

 

 追い詰められたかな。

 

 長期戦ほど地力が求められる。番狂わせ、奇跡が起きにくくなる。暗殺に長期戦はない。長期戦の戦い方をオレは知らない。

 

 オレはハンターだ。暗殺者じゃない。

 

 しゃーねーな。

 

 アレを使うか。

 

 全力の練なんて、実戦じゃ初めてだな。

 

「練ッ!」

 

 オレの中に潜んでいるもう一人のアニキ、みていろ。これがオレだ。

 

 キッドの口がすこし開く。驚いているようだ。

 

 疑似仙人モードのおかげで、オーラはほとんど減ってない。

 

「なるほど……疑似的なコンデンサ……帯電か……通常の纏より遥かに大きいオーラをとどめることができる。…………これが天才というものなのか。だが、できるのか? 防御の瞬間のオーラと電気の高速可逆変換。できたとしても、そのオーラ量ではこの技を止めるに不十分」

 

 やってやるさ。

 

 冒険しなきゃハンターじゃない。

 

「対象者(ターゲット)ゴン。自動追尾(ロックオン)完了! さぁ、これを防いでみせろ」

 

 キッドはどこか楽しそうだ。

 

 左腕を失ったキッド。顔の下半分を失った餓鬼。

 

 すがただけをみれば向こうのほうが満身創痍なのに、圧倒的にオレたちのほうが不利。絶望的なほどに。

 

 キルアはゴンの前に立った。

 

「来いよ。鳥ヤロウ!」

 

「灼遁メラゾーマ・ブルー!」

 

 完全には融合できていない。力が制御できていない。暴発気味のメラゾーマが放たれた。

 

 キルアはヨーヨー全弾四発を発射した。




 落雷(ナルカミ):中空から地面への雷の攻撃。ヨーヨー(電線)を使って電源(外部)から電気を引っ張って来ないとまだ発動できない。未完成の必殺技。

 雷炎流:地面に立ったまま放つ電撃系の技。ヨーヨー(電線)を使って電源(外部)から電気を引っ張って来ないと発動できない。

 鬼気麒麟:ヨーヨー(電線)で相手の身体にヨーヨーを巻きつけて、電源(外部)から取り込んだ電気を流す一撃必殺の超必殺技。


 いずれも、電源設備がある特殊な環境条件が揃わないと使えない(落雷は除く)今回(The LAST MISSION編)限りの超必殺技。

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