Hyskoa's garden   作:マネ

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No.049 ノーハート×ノーガード

 心を持たぬ暗殺人形。

 

 それは暗殺者の理想像。

 

 背後より音もなく忍びより、ターゲットに自分が死んだことすら気づかせない。

 

 それこそが真の暗殺。

 

 暗殺者も心を持つ。だからこそ、心を持たないことが理想となる。理想ゆえ、それが何より難しい。

 

 心とは――。

 

 

 

 ――ゴンと友達になりたい。

 

 

 

 友達とは――。

 

 

 

 ◆

 

 

「どちらかを殺せばもう一方がレベルアップするだろう。怒り、哀しみ……それが破面の力……心のあり様。それが念能力の本質だ」

 

 キッドからどす黒い殺意が漏れ出した。

 

「餓鬼、そっちのツンツン頭を殺せ!」

 

 吐き捨てるような物言い。

 

「了解!」

 

 ゴンが身構える。

 

 ここでオレたちが逃げればネテロ(ジイさん)が死ぬ。

 

 ゴンは逃げない。

 

 それがゴンだから。

 

 

 

 ゴンは。

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 守るんだ。

 

 

 オレが。

 

 

 ゴンを。

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 どんなことをしても。

 

 

 

 ――逃ゲロ。早ク

 

 

 

 守る。

 

 

 ゴンは。

 

 

 オレが守る。

 

 

 だって、友達だもん。

 

 

 オレの大事な友達だもん。

 

 

 

「もったいないが……」

 

 餓鬼がつぶやいた。

 

「うおおおおおおおおおっ」

 

 叫ぶキルア。

 

 キッドがキルアの前に立ちはだかる。

 

 キルアがキッドに接近する。キッドがキルアに手を伸ばす。すり抜ける。キルアが消えた……ようにキッドにはみえたはずだ。

 

「視覚の錯覚を利用した肢曲……だが、円を使えば肢曲も意味がない」

 

 円が展開された。

 

「念のみの知覚に錯覚は生じない!」

 

 ヒソカ――。

 

 キルアの中でキッドとヒソカが重なった。

 

 やっぱ、コイツ、オレたちより遥かに念を知っている。念の研究も知識も桁違いだ。だけど、だからこそ、それが付け入る隙になるんだ。

 

「捕まえた」

 

 キルアは服の中に隠していた手元のヨーヨーを飛ばして、キッドが伸ばした手を弾く。

 

「!?」

 

 気のせいかもしれない。でも、キルアにはキッドが笑みを浮かべたようにみえた。

 

 円は神経を削る。戦闘中に使うのは愚策。だから、戦闘中に円を使う者はいない。それに円の精度はそんなに高くない。透視ができるわけじゃない。シルエットがわかるくらいだ。

 

 キルアはキッドの心臓をえぐった。

 

 瞬間、違和感に気づいた。

 

「…………!?」

 

 どういうことだ?

 

「多彩な攻撃バリエーション。それは暗殺者の必須要件だ。初手で暗殺が失敗しても、二手目で初手と同様のインパクトを与えることができる。初見殺しは暗殺の基本。しっかりと暗殺の基本ができている。キミがイルミ(師匠)に大切にされていることがよく伝わってくるよ」

 

 

 

 キッドの心臓はすでに止まっていた。

 

 

 最初から止まっていた。

 

 

 

 心臓はえぐらされただけなのかもしれない。

 

「この身体は血液でエネルギーを行き渡らせているわけではない。ゆえに、心臓はいらない」

 

 なんだ!?

 

 なんだ、コイツは!?

 

 クラピカがそうだった。強化系、変化系、放出系、複数の系統能力を100%引き出したりしたら、それに身体は耐え切れなくなる。それは命を削るような行為のはずだ。

 

 なのに、なんでコイツらは平気な顔で使えてんだ?

 

 息一つ切らさずに。

 

 まるで……。

 

 それはまるで……。

 

 ……………………。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 そういうことか。

 

 いま、わかった。

 

 

「僕たちは死人だ」

 

 

 コイツらの能力なのか? それとも、べつに死人をあやつる能力者がいるのか?

 

「死人の身体こそが最強。生命活動という無駄なエネルギーを消費せずにすむからね。生きてるっていうのはそれだけで膨大なエネルギーを必要とするんだ。死人の身体は長時間の戦闘に向いている。複数系統の能力を100%引き出すとか、ムチャな念能力の使用にもね。今の僕は生前より遥かに強い!」

 

 嘘だ!

 

 

 

 ――敵ハ未知数

 

 

 

 ――確実ニ勝テナイトキハ引ケ

 

 

 

 キルアの頭に鋭い痛みが走った。キルアは頭を押さえる。

 

 

 

 黙れ!

 

 

 

 黙れ!

 

 黙れ!

 

 黙れ!

 

 キルアはヨーヨーを飛ばして攻撃する。バギでヨーヨーは明後日のほうに飛ばされる。

 

「どうした? 攻撃が単調だぞ。ここで冷静さを欠いたか? 底がみえたな。もう黙ってみていろ。ゴン(彼)が死ぬところを。その底を抜いてやるから」

 

 

 

 ――逃ゲロ

 

 

 

 嫌だ!

 

 

 

 ――逃ゲろ。早ク

 

 

 

 切れねえから、友達なんだ!

 

 

 

 明後日の方向に飛ばされたヨーヨーがフロアの分電盤の電線に絡まる。

 

 もちろん、偶然ではない。

 

「雷炎流!」

 

 キッドの前に風のバリアが現れる。風のバリアに雷炎流がかき消される。

 

 キッドの腕に隠し持っていたもう一つのヨーヨーが絡まる。キルアはキッドの身体を狙っていた。しかし、左腕を盾に回避された。だが、左腕は捕えられた。

 

 十分だぜ。

 

 オレの勝ちだ。

 

「雷炎流で死角をつくったか。素晴らしい。これほどの大技を陽動に使うとは……いや、陽動に使えるとは、といったほうがいいかな?」

 

「これで風のバリアは意味がない」

 

「ああ」

 

 キッドは狂気の笑みを浮かべている。楽しそうにもみえる。

 

「鬼気麒麟!」

 

 閃光。

 

 手ごたえが……。

 

 軽かった。

 

 まるで紙コップを握りつぶすくらいに。

 

 まさか、ノーダメージ!?

 

 鬼気麒麟の攻撃はキッドに対してノーダメージだった!?

 

「なん……で?」

 

 いつの間にかに、キルアはキッドに頭を押さえられていた。

 

 疑問を口にしている暇なんてねえぞ。オレ。

 

「見事だ」

 

 キルアは床に這いつくばらせられた。

 

「キミの攻撃は練が必要ない。ゆえに連続攻撃を可能とした。それに対して、僕の攻防は練が必要。キミの雷炎流と鬼気麒麟の連続攻撃を一度の練で回避するのは、上級のハンターでも難しいだろうね。というか、できないはずだよ。この僕でさえ難しいのだから。つまり、キミのこの連続攻撃とまともにやり合うことはできない」

 

 勝者の口ぶり。

 

 

 嘘だろ!?

 

 

「だから」

 

 

「僕は」

 

 

「左腕を捨てた」

 

 

 キッドの左腕が切断されていた。


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