Hyskoa's garden   作:マネ

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No.048 灼遁×ブルーメラ

 逃げの一手しかねえ。ほかに手はない。

 

 餓鬼ひとりでも手に負えねえっつーのに、餓鬼以上の新手が現れちゃ、もうどうにもなんねえよ。しかも、新手はオレの念能力との相性が最悪の風属性使い。

 

 こりゃ、勝てねえわ。

 

 逃げるしかない。オレたちなら逃げられる。ヤツらは天空闘技場から離れらんねえんだから。ヨークシンで幻影旅団に捕まったときとは逃げられる条件がちがう。ヤツらは追ってこない。いや、追ってこれない。

 

 追えない鬼は怖くない。

 

 キルアはチラッとゴンをみた。

 

 ゴン……?

 

 ゴンのオーラがほとばしった。

 

 ゴンのオーラは逃げる気がないようだった。

 

 

 ――オヤジに会いに行くんだ。

 

 ――ここで引いたら、もう会えない気がするんだ。だから、引かない。

 

 

 キルアはハンター試験で言っていたゴンの言葉を思い出していた。

 

 たぶん、ネテロ会長(じいさん)を助けられるのはオレたちしかいない。ここでオレたちがあきらめたら、じいさんは処刑される。引けねえわな。

 

 ったくよ……ホントに……。

 

 キルアは溜め息をついた。

 

 キルアは自分のバカさにすこし笑った。

 

「ゴン!」

 

 キルアはゴンの肩にふれる。キルアはゴンのオーラを直に感じる。

 

 やっぱ、アノ技はできる気がしねぇ。

 

 オーラの周波数調整。

 

「本当にわかりやすいぜ」

 

 餓鬼はゴンのほうをみる。

 

「おまえ、奥の手を隠しているという顔をしているぜ?」

 

 餓鬼は楽しそうに言う。

 

 さっきの餓鬼の攻撃をゴンはギリギリで凌いでいた。しかし、それは凌がされていただけのこと。餓鬼がゴンの防御に合わせて攻撃していただけ。硬はダブルで使えない。だから餓鬼は二つの炎を同時に放てばゴンを倒すことができた。造作もなく。それをあえてしなかったのは……楽しんでいたから。

 

 そして、もうひとり。

 

 キッドと呼ばれた新手。

 

 念能力の相性のせいだろう。こいつにオレの電撃は通じない。

 

 ゴンに逃げる気はない。

 

 最悪の状況だ。

 

「この時代では到底考えられないことだろうが、むかし念に系統は存在しなかったそうだ。淘汰されたのだ。系統別念のコンビネーション攻撃によって。能力の相性やコンビネーション攻撃は個人の能力を容易に凌駕する」

 

 突然、キッドは語りはじめた。

 

「おまえ、ナニ言ってんだ?」

 

「相手が自分たちより格下だったら、バラけさせて戦え、だ。火は水に弱い。電気は空気に弱い。というように属性には相性がある。おまえの電気は僕の空気(風)にかなわない」

 

 キッドはそう言ってニヤリと笑った。

 

 キルアはイルミを思い出していた。

 

 キッドから殺意が感じられなかった。暗殺の極意。本能まで染みついた暗殺者の性質。息を吸うように人を殺す。真の暗殺者は殺気を放たない。殺意を振りまかない。キルアはまだその領域まで到達していなかった。

 

 

「バギ!」

 

 

 竜巻がキルアとゴンに迫る。キルアとゴンは左右に別れて、避けた。

 

 通常戦闘においてはそれがセオリー。

 

 だが――。

 

「別れたな?」

 

 キッドは冷ややかな目をした。

 

「念なしの戦闘と念での戦闘のセオリーはちがう。さっきも言ったろう? バラけるべきじゃない」

 

「ダンシングドール!」

 

 キッドの後ろで餓鬼が青い炎を発現させる。後ろ手にキッドが餓鬼の青い炎に手を伸ばす。

 

「バギ」

 

 青い炎とキッドのバギが混ざり合う。

 

「灼遁ブルーメラ!」

 

 キルアにブルーメラが放たれた。キルアは回避するもブルーメラが弧を描いてキルアを追跡してくる。まるでブーメランのように。餓鬼の操作系能力だ。

 

 キルアはこれまでより格段に早い反応速度をみせる。

 

「動きがよくなった。さすがの回避力だ。暗殺の奥義は殺すことにはない。逃げること。それこそが暗殺の奥義」

 

 こいつはだれだ?

 

 キルアには記憶が曖昧なところがいくつもあった。特にゼノに暗殺の修業を受けたときの記憶が曖昧だった。ぼんやりしていて思い出せないところが多い。人間の記憶なんてそんなものだと思っていた。だけど、そうじゃない。

 

 オレはアニキになんらかの操作をされている……?

 

 キッドはオレの家族なのか? まったくそんな感じはしない。

 

 こいつはだれだ?

 

 キルアは巧みにブルーメラを回避しながら、電気設備の電線にヨーヨーを飛ばして絡ませる。

 

 キルアはもう一つのヨーヨーに自分の身体を通った設備の電気を込めて放った。放たれたヨーヨーが通った床がキルアの電撃で削れる。

 

 キルアの電撃とブルーメラが激しくぶつかり合う。

 

 ブルーメラと相殺された。

 

 キルアの頭上の照明の明かりが落ちた。

 

「ハァハァ……」

 

 この程度の電圧じゃ、ヤツは倒せねえってことか。だからといって、これ以上の電気にはオレの身体が持たねえし……打つ手なしかよ。

 

「すっげぇ」

 

 ゴンが素直に感心している。そんな状況じゃねえんだよな。この状況を打破する手は……?

 

「ふむ。荷電粒子砲か。素晴らしい破壊力だ。まさかブルーメラを相殺されるとは思わなかったよ。格上相手のコンビネーション技を単独の技で相殺できることなんて普通ないんだけど」

 

 キッドはパチパチパチと軽く拍手している。

 

「オーラを電気に変える能力ならわかる。しかし、電気をオーラに変える能力……それは仙人の領域……変化系の領域を超越している……わずかだがキミにその兆候がみえたよ。その年齢でその領域に達するとは……15歳にも満たない少年が……ありえない成長速度だ」

 

 すこしオーラ量が回復したような気がしたのはそのせいか……?

 

「で……その技はなんという?」

 

 技名なんて考えてなかったな。えっと……。

 

「き……き、麒麟……?」

 

 噛んじまった。

 

「キキキリンか」

 

 突然、キルアのすぐ横で爆発が起こった。

 

 瞬間的にガードするもキルアは前身にダメージを負う。

 

 高密度に空気を圧縮して爆発させたのか? オーラを空気に変えるだけの能力だが、応用力が高い。バトルが長引けば長引くほどこっちの手の内がさらされて、不利になる。状況は悪くなる一方だ。

 

「オーラのわずかな変化に気づいたか」

 

 接近戦ではキッドの体術に及ばない。中距離もキッドのほうが上。どうしろってえんだよ。

 

 能力の相性とか、暗殺力とか、そういう問題じゃない。単純に、こいつ自身が強い。

 

 マジで厄介な相手だぜ。

 

 人は攻撃を仕掛けるとき、わずかに殺気を放つ。キッドにはそれがなかった。根っからの暗殺者だ。なのに、オヤジやアニキとはどこかちがう雰囲気がある。

 

 ハンター。

 

「ふむふむ……キルア(キミ)は回避能力が高いというより、攻撃のときにブレーキがかかっているようだ。暗殺者としては合格だがハンターとしては失格だ。そのブレーキ……壊してやろうか?」

 

 キルアの背筋が寒くなった。

 

 なに……言ってる……?

 

「餓鬼、そっちのツンツン頭……殺せ!」

 

 友達(ゴン)を見捨てるか? 友達(ゴン)の盾になって死ぬか?

 

 キルアの前に残酷な二択が現れた。

 

「了解!」


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