ゴンと餓鬼がエレベータの昇降空間で戦っている。ゴンは防戦一方だった。
ゴンのことだ。ムチャな反撃方法を考えているところだろう。どんな方法かわからないけど、そんな手段は使わせられない。それとも、アノ方法を使って、アイツを倒そうとオレを待ってるのか?
それこそムチャだ。
仮にアレをやったら、ゴンの身体は大きなダメージを負うだろう。オレはやるほうだからどうってことないけど、やられるほうのゴンは……。
――キルアならできるよ。オレはキルアを信じてる!
ダメだ。アレはできない。ゴンがたどり着いた必殺技はどんくらいの破壊力を出せるのかもわからない。リスクがありすぎる。誓約と制約がないのはいいけれど。
ほかに決め手がほしい。
ゴンのジャジャン拳すら通じない相手を倒せるような決め手が。
キルアは辺りを見回す。アレの場所を確認していた。
あった。
キルアの考案中の奥の手を出すために必要な装置。
それにしても……。
この中、なんでエレベータのワイヤーがないんだ? 電磁石……リニア式か。
なら。
「お遊びはここまでだ」と餓鬼。
ゴンは息を切らしている。餓鬼の連続攻撃に防御が追いつかなくなってきているようだ。
キルアは餓鬼に向かって、エレベータを動かした。エレベータのカゴが餓鬼に激突して、餓鬼は上へと飛ばされる。
「おいおい、苦戦してんな、ゴン」
「どうやって動かしてんの?」
「これさ」
キルアは右手をバチバチと放電してみせる。
誰かに念能力で操作されていたエレベータの操作を電線を切り、開放。念能力での操作を強制解除し、電線をつなぎなおし、エレベータをキルアの操作下に置いた。
操作は早い者勝ち。
それは能力のレベルに関係しない。いったんキルアの操作下に置けば奪われることはない。
そして、これでネテロ救出へのルートは確保されたことになる。
上から青い炎が降ってきた。いくつも。キルアとゴンは避ける。
「ゴン! オレがヤツの動きを一瞬止めて、新必殺技で纏のガードを薄くする。そこをジャジャン拳で討て!」
「うん!」
「オラオラオラァ~~~っ!」と餓鬼。
キルアは青い炎をギリギリで交わしていく。交わした炎の警戒も怠らない。
餓鬼はゾルディック式暗殺術の使い手。オレの手の内は知られている。単純な体術じゃ、オレに勝ち目はねえな。
キルアは餓鬼のコブシをガードするが、そのコブシの圧力でキルアは壁際に追い詰められていく。
「回避に関してはさすがの反応だ。だがこれで終わりだ」
「どっちが?」
餓鬼の右腕が壁にくっつく。
餓鬼はもがくが右腕が壁から剥がれない。
「バカな!? なんで動かねえんだ?」
キルアのヨーヨーが餓鬼の首に巻きつく。
この攻撃を防御するためにはオーラを首に集めなければならない。当然、他の部分のオーラが薄くなる。
キルアは左手で高電圧のケーブルに触れる。
「食らえッ! 雷炎流(ライエンリュウ)!!」
キルアの電撃が餓鬼を感電させる。
それはキルアの想像を遥かに越えた電撃だった。キルア自身に衝撃を与えるほどの。
この力は……なんだ!?
餓鬼の動きが止まった。
もしかして……やったか!? いや、まだだ。
これだけの攻撃を食らっても、まだ倒せねえのかよ。バケモンだな。
「最初はグー!」
ゴンはすでに動き出していた。ゴンのコブシにオーラが集まる。
行け! ゴンッ!!
雷炎流が効いているようだ。ガラ空きだぜ。
「ジャンケン、グーッッ!!」
餓鬼のオーラが復活した。
ゴンのグーで餓鬼は壁に思いっきり叩きつけられる。壁がひどくゆがむ。
天空闘技場が揺れるほどの大衝撃。
これで終わりだ。
普通なら……。
ゴンのジャジャン拳をまともに食らって、ノーダメージはない。
普通なら……。
「まさか……こんなこどもに堅まで使わされるとは思いもしなかったよ」
餓鬼が口を開いた。餓鬼の意識ははっきりと残っている。切り取れなかったか。
「オーラの復活があと一瞬遅ければ……危なかったぜ」
身体の身動きを封じられたのに冷静沈着に防御しやがった。オーラの攻防力移動だけで。
なんつぅー精神力だ。
「ハハ……」キルアは笑った。
雷炎流とジャジャン拳の完璧にハマったコンボ……なのに通じなかった。
こいつはいよいよ……本気でやっべぇな。これ以上ない攻撃パターンだったのに……コイツに勝てる気がしない。
「なぜだ? どうやって俺の動きは止めた?」
「電磁石でくっつけただけだよ」
「おまえら、バトルオリンピアの出場者か?」
「ううん」とゴン。
「強いじゃないか」
褒められてる時点で、オレたちのが遥か格下。
それにヤツはまだ全力を出していない。
「おまえの電撃、なかなかだったよ。その年齢で電気をあやつるとは……」
おいおい。まだ戦いは終わってねえよ。なに感想言ってんだよ。評価下してんだよ。
「そんなことよりも……おまえのそれは仙人の技だな?」
「仙人?」
「外部(自然)エネルギーと自身のオーラを融合させたオーラ。それをあやつる使い手の名称だ。その技を仙術という。おまえのそれは疑似仙術といったところだ。仙術を使えるものはほとんどいない。歴史上も数人しか。一生物の領域を越えた力だ。全盛期のネテロの百式観音すら超越するだろう。おまえのそれはそういう類いの能力だ」
疑似仙術……?
「器用なヤツだな。俺も炎のオーラの使い手だからわかる。炎のオーラの使い手だからといって、実在の炎をあやつれるわけではない。オーラを電気に変える能力。その能力に電気操作を付加しているのか……? その年齢でその領域に達するとはな。才能とは恐ろしいものだな」
「なに勝手に締めようとしてんだよ。まだなんも終わっちゃねえよ」
今の雷炎流でだいたいの感覚はつかめた。
今ならできる。
あの技を。
キルアは再び電線にふれる。
「落雷(ナルカミ)!!」
◆
落雷(ナルカミ)がかき消えた。餓鬼に直撃しなかった。
何かに封殺されてしまった。
何がおきた!?
誰かがいる。餓鬼の盾になっている。気配がまるで感じられない。
それはまるでアニキ(イルミ)のようだった。
暗殺者の気配。
キルアの心臓の音が聞こえそうなほど響いている。
銀色のくせっ毛。青いつり目。長身の青年。
その青年の手のひらの上で風がうずまいている。
操作系能力者か?
「キルア……?」
ゴンがつぶやく。
たしかにオレに似ている……ような気がする。
青年がキルアをみつめる。
「ずいぶんともたついているようだな。餓鬼」
「暇つぶしです」
餓鬼の言葉づかいが変わった。こいつはあきらかに餓鬼の格上だ。
「なぜここへ来たのです……キッド?」
「念の戦いは相手が複数ならこっちも複数。複数相手に一人で戦いを臨んではならない。それが大原則。セオリーだ」
2対2。
この絶望的な状況で、ゴンは狂気の笑みを浮かべた。
ダーク・ボーイズ - ダブルスゲーム -