最初の念能力に系統は存在していなかった。
個性(系統)は念能力の進化の過程で生まれたもの。そして、個性(系統)によって、すべての系統を100%引き出せる能力は淘汰されていった。すべての系統を100%引き出せるほうが系統別よりあきらかに強いのにも関わらず。
すべての系統を100%引き出すのは念能力の退化だったのかもしれない。
それは恐竜と人間の戦いのようなもの。
◆
「よう!」
どっから湧いて出た!?
いきなり空中から現れたような感じだ。
なんらかの能力か? 瞬間移動系!? 具現化系能力者か?
さっきのスタングほどじゃないけど、凄まじいオーラだぜ。
時々、バチバチと放電のようにオーラが身体からほとばしっている。
自分のオーラを制御し切れていないのか? それはない。オレたちとはオーラの極め方がちがうんだろう。
柱が削られた。
尻尾だ。尻尾が生えている。その尻尾のうねりで柱を削ったんだ。
「俺は餓鬼。おまえたちを排除する!」
痩身の長身。年齢はクラピカと同じくらいだろうか?
「キルア、来るよ!」
「おお!」
「ダンシングドールッ!」
餓鬼の両手から人魂のような青い炎が現れる。
オーラを炎に変える変化系能力者か?
餓鬼は青い炎をゴンに投げつけた。ゴンは後退しながら避けていく。青い炎が床に残って燃えている。
キルアは餓鬼の後方にまわる。前後での挟み打ち。セオリーだ。
「雷掌(イズツシ)!」
背後からのキルアの攻撃を餓鬼の尻尾のダンシングドールで相殺された。
読まれた!
攻撃を読まれたというより気配まで読まれたという感じだ。
「いいねぇ! いいねぇ!」
この尻尾には気をつけねえとな。
餓鬼のコブシがキルアを攻撃する。餓鬼のコブシには金属の武器がついている。キルアは攻撃時とは比べ物にならない反応速度でそれを回避する。ヒットアンドアウェイ。キルアの基本戦法だ。
気のせいか? この攻撃は……ゾルディック式暗殺術……!?
「挟み打ちか。教科書通り……優等生の対応だな。まぁ、実戦で教科書通りできるやつは稀だが」
「おまえ……ナニモンだ?」
「見事な暗歩だ」
答える気はないようだ。
試してみるか。餓鬼(こいつ)がゾルディック(うち)の関係者かどうか。
餓鬼の両手に青い炎が発生する。
「肢曲!」
「肢曲!」
キルアが肢曲を使うと餓鬼も肢曲を使った。
「肢曲……目の錯覚を利用した闇の技。訓練により、この技は容易に破ることができる。事前の十分な訓練が必要だがな」
まちがいない。
「おまえはゾルディックの……」
肢曲を使っている餓鬼の両手から青い炎(ダンシングドール)が放たれた。キルアに。
肢曲を使っているキルアは肢曲を使っている餓鬼のダンシングドールをギリギリで全弾回避し、ダンシングドールは床にぶつかる。本物のダンシングドールがぶつかった床だけに青い炎が残って燃えている。
横からエレベータの扉が飛んできた。餓鬼に向けて。
餓鬼はそれをダンシングドールで吹っ飛ばす。青い炎が拡散する。
「最初はグーッ!」
青い炎の影にゴンが隠れていた。絶で。
「雷掌!!」
キルアの電撃が餓鬼を背後から襲う。
ゴンに気を取られてる間に、キルアは餓鬼の後ろにまわっていた。音もなく。暗殺の基本技術だ。
「ジャンケン……グーッ!!!」
餓鬼は壁まで吹っ飛ばされる。壁にひびが入った。
「やったか?」
ゴンの表情はすぐれない。倒した手ごたえはなかったらしい。オレとちがって、ゴンのカンは当たる。
「すげえパワーだな。ガキの割にはだけど」
餓鬼はゆっくりと立ち上がった。
ゴンの必殺技の硬を食らって、ノーダメージかよ。
青い炎は手元から放して使っているから、放出系? だけど、性質変化させているから、変化系か? ゴンの必殺技を食らって、耐えられるってことは強化系?
強化系、変化系、放出系を高いレベルで使いこなしている。
あぁ、わけわかんねえ。
「アイツ、強化系だね。キルア」
「ちがうぜ。ゴン。こいつは強化系、変化系、放出系を100%、引き出してやがる。どんな手品を使ったかわからねえけど」
ゴンはまだ数%のオーラの機微まではわからないからな。
強化系、変化系、放出系で攻撃力防御力が変わらない。恐ろしい能力だ。
ゴンの背後の床で燃えていた青い炎がゴンに向かって飛んだ。一度使った青い炎も使えるのか?
「ゴン!! 後ろだ!!」
今度は操作系かよ!? こいつは……?
ゴンはダンシングドールを両手で受け止める。ダンシングドールが回転をはじめて、ゴンの両手を焼く。爆発した。ゴンは両手を凝で守ったようだった。
床で燃えていた他の青い炎がキルアに向かって飛んできた。
読んでいたキルアは距離をとっていて余裕で避ける。
餓鬼はゴンに突っ込んでいった。ゴンの足をつかんで、ゴンが壊したエレベータ内に投げ飛ばした。
オレに青い炎を飛ばしたのはゴンを攻撃する邪魔をオレにさせないため?
これはそれ以前の話だ。
こいつ、戦いの組み立て方を知っている! 想像以上に手強い。
キルアはすべてのダンシングドールを回避する。そのダンシングドールもエレベータ内に飛んでいく。餓鬼も一緒に。
狭いエレベータの通り道……ゴンに逃げ場所はない。
ゴンは硬で飛んできた青い炎を次々にぶん殴っていく。一つでもまちがえれば即死につながる。驚異的な集中力と勇気が必要になる。並みの精神力ではできない芸当だ。
それをみて、餓鬼が笑った。
「気に入ったぜ! そのイカレ具合!!」
キルアは天空闘技場のギド戦を思い出していた。ゴンにはこういうところがある。すぐ隣りに死があっても恐れない。
「おまえが屈する姿がみたくなった」
どうする?
新技を使うか?
バチバチとキルアの指先から電気が放電した。