No.045 少年魔王×少年勇者
人を……。
人を殺してきた……。
オレは人を殺すために生まれてきた。
そして、人を殺す人間を育てるために生まれてきた。
殺す。人を殺す。殺させる。人を殺させる。そんな時間がずっと続くと思った。
それが嫌になって、家を出た。
そして、ゴンに出会った。
◆
キルアとゴンはスタングによって、50階まで落とされてしまった。ネテロを助け出すためには150階以上登らなければならない。
「オレたち二人で、スタング(ヤツ)を倒そう」
「はぁ!?」
ゴンはいつもキルアを驚かせる。
自分たちだけでスタングを倒す。キルアにはない発想だった。
「なにムチャなこと言ってんだよ。ムリに決まってんだろ? ビスケやヒソカに力、借りんじゃなかったのかよ?」
「そんなこと言ってないよ」
ゴンは小首を傾げる。
この天然ヤロウが……。
「ゴン? 正気か?」
いくらなんでも、オレたちだけであんなバケモンを倒すのはムリだぜ。
「オレたちはビスケの修業を受けて強くなった。カイトと会ってからも修業をつづけてかなり強くなったと思うんだ」
「そりゃ、まぁな」
「ヨークシンで、オレたちが手も足もでなかった旅団相手にクラピカは無敵の力を手に入れていたよね。念を覚えたのはオレたちと変わらないのに……」
「誓約と制約でな。オレたちはそんなムチャなことはできないぜ」
「それって、オレたちの中にもそういう力が眠っているってことだと思うんだ。旅団を無傷で倒せるような……。その力を引き出せていないだけで」
「引き出したら、もう二度と念を使えなくなるんだぜ? それくらいのリスクがあるんだよ。念には」
「ノーリスクで引き出せないかな?」
「できっこねえよ!」
誓約と制約を使わずに、ノーリスクで念の潜在能力を引き出す方法……なんて、ねえな。
プスプス……ボン。
ゴンの頭が爆発した。
「スタング(アイツ)を倒すなんてムリだよ」
「今のキミたちでも十分特別な力を持っていますよ」とゴンが言った。
「ん?」
「ウイングさんなら、こんなときなんていうかなって。たぶん、そういうと思うんだ」
今のオレたちの力……?
ゴンのコブシにオーラが集まる。凝だ。
ゴンは自分のコブシをじっとみつめている。
「ねぇ、キルア……あのときから、ずっと考えていたことがあるんだ」
「あのとき……?」
「キルアだけなんだ」
ゴンの横顔をみる。
何かを思いついた顔だ。
「キルアだけだから……オレのムチャに付き合ってくれるのは」
「つーか、おめえのムチャに付き合えるのはオレしかいねえだろ」
ゴンの無理難題にこたえられる。
そんなこと、オレ以外の誰にできる? 誰にもできない。
ゴンのとなりにいられるのはオレだけだ。
ゴンのコブシから指先一点にオーラが集まっていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
ゴンが口を開いた。
◆
黒髪の少年の発想はどこまでも魔王的だった。まるで、不可能という言葉を知らないかのように。自分が願えばすべての願いは叶えられるかのように。努力すればどんな困難も成し遂げられるかのように。
彼らは凡人ではなく、紛れもない天才だった。それも才能のリミッターが外れたかのような……。
これは圧倒的パワーと頭脳の戦いではない。
圧倒的パワーと才能の戦い。
◆
ゴンの言葉にキルアは言葉を失った。
「オレたちは天空闘技場で四大行を覚えた。グリードアイランドで発(必殺技)を覚えた。今のオレたちなら、できると思うんだ」
キルアはゴンが何を言っているのか理解できなかった。
時々、ゴンはキルアの想像を遥かに越えることを言ってくることがあった。今回がまさにそれだ。そして、それはたいていが無理難題。そして、それを実現させるのがキルアの仕事。
ゴンだけでもできない。
キルアだけでもできない。
二人がいて初めてできること。
キルアはゴンと二人なら、なんでもできるような気がしていた。
まるで、キルアとゴンは魔王と勇者。本来敵対するはずだった二人が力を合わせる。たぶん、この先、二人でいれば人類の歴史上、だれも到達しえなかったところまで行けそうな気がする。
どんな伝説のハンターもキルアとゴンの二人にはかなわないはずだ。
ゴンがキルアと一緒にいる理由……。それは一人ではたどり着けない場所へ行くために……!? それはこの世界への挑戦なのかもしれない。
ゴンはオヤジさんをさがす旅をしている。
それがゴンの人生の第一歩。
オレは……。
キルアはハンター。
ハントすべきものは……。
キルアはぼんやりとだが自分のやりたいことが見えはじめていた。
「ちょっと自信ねぇな」
キルアはゴンに要求されたことが自分にできるかどうか、確信が持てなかった。並みのハンターなら、一生かけてもできないと即座に確信できるようなレベルの要求だった。
「キルアならできるよ!」
ゴンは曇りのない瞳でキルアをみつめた。
「オレはキルアを信じてる!」
「バ……なにハズいこと言ってんだよ」
「えへへ……」
そんなことが今のオレにできるか?
できるイメージはある。
はっきりと。
それだけの時間をオレはゴンと過ごしてきた。
「ったくよ。おめえってヤツは」
ド~~ンと突如、床が割れた。
巨大なケモノが落ちてきた。人の殻を被ったケモノだ。キルアの直感だった。
「侵入者、発見!」
凄まじいオーラを纏っていた。
それはキルアやゴンでは到底太刀打ちできるレベルではなかった。
キルアは無意識にソイツから距離を取っていた。
キルアの右手がバチバチと放電した。