前編と後編のような関係になっています。
「No.042 出題編」から読むことを推奨します。
チェーンジェイルが使えないクラピカはどうやって人殻を倒そうとしたのか……?
「ダウジングチェーン、モード・ライトニング!」
天空闘技場上層部の電気が一斉に消えた。
漏電によりブレーカーが落ちたのだった。もちろん漏電させたのはクラピカ。
辺りが薄暗くなる。
ダウジングチェーンが帯電していた電気をバチバチと放電させた。闇の中に黒焦げになった人殻の姿を浮かび上がらせる。圧倒的な防御力を誇る人殻をたった一撃で完全に仕留めているようにみえる。人殻の身体は崩れかかっている。もう動くことはないだろう。
そして、クラピカと人殻の間にダウジングチェーンは存在しない。
ダウジングチェーンはクラピカから切り離して使用することはできない。
「さすがの貴様もここまでは読み切れなかったようだな」
ダウジングチェーンに捕えられて、辛うじて空中に浮かんでいる黒焦げの人殻にクラピカは語りかける。意識がまだ残っているのかどうか、クラピカにはわからない。
「貴様がパワーバトルに持ち込もうとしていたように、私もまた読み合いの勝負に持ち込もうとしていたのだよ」
ジャリン……。
クラピカはダウジングチェーンで天空闘技場上層部の電気を人殻だけに流れるように、クラピカには流れないように回路をつくって、人殻だけを焼き切った。
問題は人殻の裏をかいて、どうやってダウジングチェーンを人殻に接触させるか?
人殻の想像が及ばない攻撃方法でなければならない。
読み合いの勝負。
超高速戦闘において、攻撃を読む能力は必要スキル。相手の攻撃をみてから、対処していては到底間に合わない。攻撃を読む能力が超高速戦闘を可能にする。読みちがえれば攻撃をくらう。
人殻を捕えていたダウジングチェーンが緩む。
ジャリン……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
クラピカの薬指からダウジングチェーンが伸びている。
ずぅっっと伸びている。
まだ、ずぅっと伸びている。
そのダウジングチェーンは天空闘技場を巻いていた。
一周分。
「黄泉へ帰れ」
ダウジングチェーンが消えて、人殻は地上へと落ちていった。
◆
天空闘技場をぐるっと一周させて、人殻の死角となる背後から鎖で攻撃する。
天空闘技場の壁面バトルという特異なフィールドの特性を最大限使った戦術だ。
世界に、この攻撃を回避できる使い手が何人いるだろう?
ここまでのバトルの組み立て方。すべて計算していたというのか? おそらくそうだろう。そうでなければ最後の一撃はありえない。
念能力者としては未熟だが、クラピカ……恐ろしい使い手だ。
戦術だけではない。
周囲の環境エネルギーを利用する能力。自然エネルギーを利用する念能力者もいるが、これはそれに匹敵する。仙人(聖獣)クラスの攻撃力。
我々すら凌駕する。
バトル特化の人殻が特別な能力も付加していないたかが具現化系に破れるとはまったく想定していなかった。
これもベイルンの計算通りなのだろうな。
人殻をイケニエにクラピカの手の内がさらされた。これは初見殺しでしかない。一度さらされた戦術はタネが割れて二度は通じない。これで容易にクラピカを捕えることができる。
仲間と合流されて、クラピカに指揮されるのもおもしろくない。早めに抑え込む必要がある。
天動はクラピカを見下ろした。その遥か下に誰かいることに気づく。
彼もクラピカに匹敵するような使い手なのだろう。厄介だな。
我々の元にたどり着くためのルートはこの壁面ルートしかない。それに気づくのはクラピカだけではないはず。クラピカのほかにもいるだろう。そして、そのルートには私のような刺客が配されているのも当然。
それともコントロールルームに向かったのは途中で仲間と合流するため?
「こんな気持ち良さそうなところをみせられたら、さすがに、したくなっちゃうよね? もう我慢できそうにないよ。キミもそうだろう?」
そういって、変態男は天動を見据える。
「隠れてみてたな?」とクラピカ。
「もちろん♣」
◆(人殻が黒焦げになった直後)
ヒソカは他人のバトルに乱入するタイプではない。ヒソカはバトルに対して、どこまでも真摯だ。もちろん、自分とデートの約束している人がヒソカに無断で勝手に誰かとデートしていたら、ヒソカは乱入して、止めに入るかもしれないが。
だから、クラピカと人殻のバトルに参戦しなかった。
ヒソカが誰かに負けるとしたら、その純粋さに付け込まれたときだろう。逆にいえば、ヒソカを殺すことはヒソカの本質を理解すれば案外容易いのかもしれない。
「大気の温度差を利用した人工蜃気楼か。あの鎖は現実の鎖をほぼ再現している。かなりのメモリを費やしているはずだ。普通はこんなことはしない。現実の鎖っぽいものを具現化する。そのほうがメモリが少なくてすむから。だけど、あえてそれをしなかった。それが通電するという応用力を生んだ。ムダにみえていたものがムダではなかった。おもしろいね♣」
ヒソカは笑みを浮かべている自分に気づく。
「さらに、一周、天空闘技場に鎖をぐるっとまわして、相手の死角(背後)からの高電圧攻撃」
具現化したものは触覚(円の効果)を持つことがある。クラピカの鎖はそういうタイプの具現化の鎖だ。電源の場所を事前に把握していれば高電圧の回路をつくることは難しくない。
「奇想天外。まさに視覚と思考の盲点を突いた奇襲。あの鎖がこんなに射程距離が長いなんて普通は思わないからね」
あぁ、やっぱり、いいよ♠ ジュル……もう、いっそ、ここで彼のことをボクの思うがままに楽しんでしまいたい。でも、ダメダメ……ガマンしなくちゃ。事を終えたばかりの彼じゃ、彼を味わい尽くすことはできない。お互いに万全の体調でのぞまなくちゃね❤
ダウジングチェーンが消えて、人殻が地上に落ちていく。ヒソカのすぐ横を通って……。
ヒソカはそれにまったく関心を示さなかった。ゴミとしてすらみていなかった。
クラピカの顔に身体に汗がみえる。激しいバトルの直後だから息を切らせている。スーツは辛うじて胸と右腕のまわりだけ残っている。
ズキューン。
「タイマンでお互いに出し尽くしたあとの表情……興奮しちゃうね♠」
◆
ドクン……ドクン……。
クラピカは自分の心臓の鼓動を意識していた。それほど、緊張していた。
「やっぱり大昔(過去)の戦士は強いといってもこんなものなのかな」
ヒソカはゆっくりと天空闘技場の壁面を徒歩で普通に上へ歩いていく。
「キミはいつの時代の戦士なのかな?」
「さぁな」
金色の髪で、見慣れた民族衣装を着た小柄な青年。まるで女性のような顔つきをしている。女性なのかもしれない。
クラピカはそんなテロリストから目が離せなくなっていた。
「で◆」
ヒソカは自分の髪をかきあげる。
ドクン……ドクン……。
「キミもクルタ族なのかい?」
天動……緋色の瞳がヒソカをみつめていた。