Hyskoa's garden   作:マネ

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No.042 悪魔の鎖×モード・チェーンルージュ

 ギギギ……とクラピカのまわりでダウジングチェーンが螺旋回転しながら擦り合っている。暗闇の中、そんなダウジングチェーンにクラピカは緋色に照らし出されていた。

 

 緋色の風にクラピカの金色の髪がなびく。凛とした緋の目が人殻を見据えた。

 

 

「ダウジングチェーン、モード・チェーンルージュ!」

 

 

 緋色の炎……悪魔の鎖……緋色の鎖……。

 

 

 ◆

 

 

 いくら攻撃力が跳ね上がろうと当たらなければ何の意味もない。その鎖のスピードではこの念弾を弾くこともできない。これで終わりだ。

 

 浮遊している人殻のまわりには十数発の念弾が漂っている。

 

 人殻はその中の一発の念弾をクラピカに放った。

 

 人殻が放った念弾がクラピカの手前で逸れていった。

 

「ハァ!?」

 

 人殻は思わず、声を発した。

 

 まるで生き物みたいに、クラピカを守るように緋色の鎖が螺旋回転している。

 

 なぜ遠隔操作(リモート)の念弾が逸れた? ありえない。凝も使っているのに。緋色の鎖の能力? そんな能力は有していないはずだ。それにあのタイプの能力は物理接触が能力発動の条件だから。そうでなくては能力を発動するのは難しい。あの若さでそれを修得しているとは到底思えない。

 

 意味がわからない。

 

 どうやって、オレのリモート念弾を逸らせた!?

 

「やはりそうか」

「なにが、やはり、なんだ?」

 

「貴様は歴史上の戦士……エルキュールか?」

 

 人殻は顔の上半分を覆った仮面を外した。額に刃の傷跡があった。人殻はクラピカを見据えた。

 

 クラピカ……こいつは何者だ?

 

 

 ――光のクッセツだ。それによって、おまえの念弾は逸れた。クッセツ率を読み切れば問題ない。

 

 

 ベイルンからのテレパシー通信が入った。

 

 

 ――光のクッセツ? なんだ、それは?

 

 

 ベイルンが沈黙した。

 

 人殻はベイルンが何を言っているのか、まったく理解できなかった。光という言葉はわかる。太陽から発せられる明かりのことだ。クッセツという単語を人殻は知らなかった。

 

 当然だが、相対性理論の影響で、凝も光のクッセツの影響を受ける。

 

 

 ――光は曲がるんだ。

 

 

 ベイルンが応答した。

 

「光が曲がる? バカか。光は明るいだけのもので、まがんねぇんだよ!」

 

 ダメだ。光が曲がるとか、バカすぎる。スカラーとベクトルの違いも理解できないバカめ。自分が何を言っているか理解できていないのだろう。ベイルンはあてにならない。

 

「だれと話している?」

「チッ」

 

 

 ――ベイルン、黙ってろ。あとはオレだけでやる。話しかけるな。

 

 ――あぁ。

 

 

 人殻はクラピカに数発の念弾を放った。

 

 ことごとく念弾がクラピカの身体から逸れていく。

 

 どうなってんだ! なんでリモートの念弾をコントロールできないんだ! アイツがオレの念弾を操作しているっていうのか? いや、操作は早いもの勝ち。

 

 誰かが操作しているものを操作することはできない。

 

 クルタの法則だ。

 

 チェーンルージュ……攻撃に使うのではなく、防御に使うとは思いもしなかった。だとしたら、オレを倒すための最後のチェックはどうするつもりなんだ?

 

 それも準備しているのだろう? クラピカ。

 

 人殻のまわりに浮遊していた念弾の隙間を縫って、人殻の右腕に鎖が絡んだ。ジューッと人殻の皮膚が焼ける。人殻はダウジングチェーンを引きちぎる。すぐにダウジングチェーンの先端が復元された。また緋色に染まっていく。

 

 オレの周囲に漂わせていた念弾の裏側からの攻撃か。オレの死角を利用して……。

 

 凝を使っても、使わなくても、通用する方法……小賢しい真似ばかりしてくれる。

 

 人殻は額をぬぐった。

 

 鎖で直接ふれられたのに、毒も、睡眠も、麻痺も……ステータス異常は何もなしか。ただ熱いだけ。舐めてるのか? それとも、それだけの能力しかあの鎖は有していないのか?

 

 くそぉ。

 

 こんなガキに!! このオレ様が翻弄されている? こんなはずでは……。

 

「凝は使えるようだな」

 

 誰に口をきいている。

 

「テメェ……ぶっ殺す!」

 

 人殻は次々に手のひらから念弾を飛ばした。

 

 連続念弾!!

 

 クラピカは天空闘技場の壁面でひらりひらりとダンスを舞う。クラピカのダンスに合わせるように念弾のほうから避けていく。

 

 念弾は天空闘技場の壁を破壊していく。骨組は特殊な念の加工をしているようで、破壊されていない。

 

「くそぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

 連続念弾は激しさを増していく。

 

 いったい何がどうなっているんだ!?

 

 これが魔術!? 悪魔の能力なのか!?

 

 だいじょうぶだ。クラピカは視界にとらえている。アイツには何もできない。凝も使っている。隠を使っての奇襲も不可能。もうオレに攻撃することはできない。念弾の死角もない。

 

 クラピカの緋色の目が碧眼に戻った。

 

 ダウジングチェーンが消えた。

 

 クラピカのオーラ量が一気に減った。

 

 クラピカの横で念弾同士がぶつかった。爆発した。

 

 そうだ! そうなんだ! 防戦一方ではオレには勝てないんだよ。

 

「緋の目、限界だな。結局、圧倒的なパワーの前に、小手先の技など通用しない」

 

 クラピカは左手を使って、天空闘技場の壁面にボロボロの身体で捕まっている。

 

 それでも凛とした表情のクラピカ。

 

 天空闘技場……上層の風がクラピカの髪を揺さぶる。

 

 

 ジャリン……!?

 

 

 クラピカから人殻の間に鎖は伸びていない。

 

 なのに、なぜか人殻の身体にはダウジングチェーンが巻きついていた。

 

 凝でも鎖がみえない。人殻に絡みついている部分の鎖しかみえない。

 

 そして、人殻はなす術なく焼かれる。

 

 一瞬だった。

 

 焼かれたのはほんの一瞬だけ。

 

「ぐわぁあああああああああああああああああっ――」

 

 威厳も感じられない最期の断末魔を人殻は上げた。

 

 この攻撃力は……!? 人知を越えている……もはや……あの方クラス……。

 

「さすがの貴様もここまでは読み切れなかったようだな」

 

 クラピカの耳のイヤリングが揺れた。

 

「永久に眠れ……闘神エルキュール!」

 

 人殻は鎖を解かれ、地上へと落ちていった。




No.042 出題編


問1 どうやってクラピカは人殻に鎖を巻きつけたのか?
   どうして凝を使っているのにクラピカの鎖がみえなかったのか?

問2 どうやってクラピカは人殻を一瞬で焼いたのか?


No.043 解答編へつづく

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