ギギギ……とクラピカのまわりでダウジングチェーンが螺旋回転しながら擦り合っている。暗闇の中、そんなダウジングチェーンにクラピカは緋色に照らし出されていた。
緋色の風にクラピカの金色の髪がなびく。凛とした緋の目が人殻を見据えた。
「ダウジングチェーン、モード・チェーンルージュ!」
緋色の炎……悪魔の鎖……緋色の鎖……。
◆
いくら攻撃力が跳ね上がろうと当たらなければ何の意味もない。その鎖のスピードではこの念弾を弾くこともできない。これで終わりだ。
浮遊している人殻のまわりには十数発の念弾が漂っている。
人殻はその中の一発の念弾をクラピカに放った。
人殻が放った念弾がクラピカの手前で逸れていった。
「ハァ!?」
人殻は思わず、声を発した。
まるで生き物みたいに、クラピカを守るように緋色の鎖が螺旋回転している。
なぜ遠隔操作(リモート)の念弾が逸れた? ありえない。凝も使っているのに。緋色の鎖の能力? そんな能力は有していないはずだ。それにあのタイプの能力は物理接触が能力発動の条件だから。そうでなくては能力を発動するのは難しい。あの若さでそれを修得しているとは到底思えない。
意味がわからない。
どうやって、オレのリモート念弾を逸らせた!?
「やはりそうか」
「なにが、やはり、なんだ?」
「貴様は歴史上の戦士……エルキュールか?」
人殻は顔の上半分を覆った仮面を外した。額に刃の傷跡があった。人殻はクラピカを見据えた。
クラピカ……こいつは何者だ?
――光のクッセツだ。それによって、おまえの念弾は逸れた。クッセツ率を読み切れば問題ない。
ベイルンからのテレパシー通信が入った。
――光のクッセツ? なんだ、それは?
ベイルンが沈黙した。
人殻はベイルンが何を言っているのか、まったく理解できなかった。光という言葉はわかる。太陽から発せられる明かりのことだ。クッセツという単語を人殻は知らなかった。
当然だが、相対性理論の影響で、凝も光のクッセツの影響を受ける。
――光は曲がるんだ。
ベイルンが応答した。
「光が曲がる? バカか。光は明るいだけのもので、まがんねぇんだよ!」
ダメだ。光が曲がるとか、バカすぎる。スカラーとベクトルの違いも理解できないバカめ。自分が何を言っているか理解できていないのだろう。ベイルンはあてにならない。
「だれと話している?」
「チッ」
――ベイルン、黙ってろ。あとはオレだけでやる。話しかけるな。
――あぁ。
人殻はクラピカに数発の念弾を放った。
ことごとく念弾がクラピカの身体から逸れていく。
どうなってんだ! なんでリモートの念弾をコントロールできないんだ! アイツがオレの念弾を操作しているっていうのか? いや、操作は早いもの勝ち。
誰かが操作しているものを操作することはできない。
クルタの法則だ。
チェーンルージュ……攻撃に使うのではなく、防御に使うとは思いもしなかった。だとしたら、オレを倒すための最後のチェックはどうするつもりなんだ?
それも準備しているのだろう? クラピカ。
人殻のまわりに浮遊していた念弾の隙間を縫って、人殻の右腕に鎖が絡んだ。ジューッと人殻の皮膚が焼ける。人殻はダウジングチェーンを引きちぎる。すぐにダウジングチェーンの先端が復元された。また緋色に染まっていく。
オレの周囲に漂わせていた念弾の裏側からの攻撃か。オレの死角を利用して……。
凝を使っても、使わなくても、通用する方法……小賢しい真似ばかりしてくれる。
人殻は額をぬぐった。
鎖で直接ふれられたのに、毒も、睡眠も、麻痺も……ステータス異常は何もなしか。ただ熱いだけ。舐めてるのか? それとも、それだけの能力しかあの鎖は有していないのか?
くそぉ。
こんなガキに!! このオレ様が翻弄されている? こんなはずでは……。
「凝は使えるようだな」
誰に口をきいている。
「テメェ……ぶっ殺す!」
人殻は次々に手のひらから念弾を飛ばした。
連続念弾!!
クラピカは天空闘技場の壁面でひらりひらりとダンスを舞う。クラピカのダンスに合わせるように念弾のほうから避けていく。
念弾は天空闘技場の壁を破壊していく。骨組は特殊な念の加工をしているようで、破壊されていない。
「くそぉおおおおおおおおおおっ!!」
連続念弾は激しさを増していく。
いったい何がどうなっているんだ!?
これが魔術!? 悪魔の能力なのか!?
だいじょうぶだ。クラピカは視界にとらえている。アイツには何もできない。凝も使っている。隠を使っての奇襲も不可能。もうオレに攻撃することはできない。念弾の死角もない。
クラピカの緋色の目が碧眼に戻った。
ダウジングチェーンが消えた。
クラピカのオーラ量が一気に減った。
クラピカの横で念弾同士がぶつかった。爆発した。
そうだ! そうなんだ! 防戦一方ではオレには勝てないんだよ。
「緋の目、限界だな。結局、圧倒的なパワーの前に、小手先の技など通用しない」
クラピカは左手を使って、天空闘技場の壁面にボロボロの身体で捕まっている。
それでも凛とした表情のクラピカ。
天空闘技場……上層の風がクラピカの髪を揺さぶる。
ジャリン……!?
クラピカから人殻の間に鎖は伸びていない。
なのに、なぜか人殻の身体にはダウジングチェーンが巻きついていた。
凝でも鎖がみえない。人殻に絡みついている部分の鎖しかみえない。
そして、人殻はなす術なく焼かれる。
一瞬だった。
焼かれたのはほんの一瞬だけ。
「ぐわぁあああああああああああああああああっ――」
威厳も感じられない最期の断末魔を人殻は上げた。
この攻撃力は……!? 人知を越えている……もはや……あの方クラス……。
「さすがの貴様もここまでは読み切れなかったようだな」
クラピカの耳のイヤリングが揺れた。
「永久に眠れ……闘神エルキュール!」
人殻は鎖を解かれ、地上へと落ちていった。
No.042 出題編
問1 どうやってクラピカは人殻に鎖を巻きつけたのか?
どうして凝を使っているのにクラピカの鎖がみえなかったのか?
問2 どうやってクラピカは人殻を一瞬で焼いたのか?
No.043 解答編へつづく