Hyskoa's garden   作:マネ

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No.041 導く薬指の鎖の謎

 妙だ。

 

 あのダウジングチェーン(薬指の鎖)はおかしい。

 

 人殻には念能力の容量(メモリ)を測る能力があった。

 

 発動条件は相手の念能力を凝を使ってみること。もしくは相手の念能力にふれること。

 

 人殻のこの能力(スカウター)は相手の容量を数値化し、相手に出し抜かれないために有効な能力だった。

 

 数値の高さと破壊力はまったく関係ない。

 

 スカウターを使って測ったダウジングチェーンの容量はチェーンジェイル(中指の鎖)に匹敵するものだった。

 

 ここまではなんらふしぎなことではない。

 

 それは百式観音のように、変身能力を付加しているタイプの具現化能力にはよくあることだったからだ。

 

 ふしぎなのは現時点のダウジングチェーンがすべての能力を引き出してる点にあった。これ以上の変身(変化)はない。

 

 人殻はクラピカのダウジングチェーンのプログラムに疑問を抱く。無駄が多い。遊びが多い。意味のわからないプログラムが数多く組み込まれている。そんな雰囲気を感じる鎖だった。

 

 基本、念能力者は念能力の容量の無駄を省こうとする。それが現在の念能力のセオリー。しかし、クラピカはその逆を行っていた。異質。通常の発想とは異なるもの。これまでの念能力の常識を逸脱した行為だった。

 

 こいつは、『緋の目』はバカじゃない。そこにはなんらかの意図があるはず。なのに、このオレが何も思いつかない。何も思いつけない。ピンと来るものがない。たかだか念能力者として数年しか経っていないだろうイチ念能力者の発想にこのオレがついていけないわけがないのに。

 

 ただのミスだろう……そう……普通なら考える。

 

 念能力の歴史を覆すような発想をこいつは持っているというのか?

 

『緋の目』は天空闘技場の壁に左手をかけて、ダウジングチェーンを垂らしていた。そのダウジングチェーンがジャリンと揺れた。

 

「貴様は死人か?」

 

『緋の目』が口を開いた。

 

「あぁ。よく気づいたな」

「息をしていなければ気づけて当然だろう」

 

「水中戦じゃなくてよかったな」

「水中戦なら、すでに勝負は決していたのだよ」

 

「あぁ?」

 

 こいつ、よく煽る。煽っている自覚はないようだが。

 

 このオレを誰だと思っている。

 

 

 ――その者は裏社会のノストラードファミリーの若頭クラピカ。純潔の緋の一族だ。生け捕りにしろ。殺すな。

 

 ――あぁ……了解。

 

 

 ベイルンからテレパシーで連絡が入った。

 

 ヤツ程度の命令をきかないといけないとはオレも落ちたものだ。オレは魔王軍四天王の一人だったのに……。ほんとうの名も名乗れぬ、冥府から召喚されし身のかなしさ、か。

 

 こういうときのために、オレもあのヤロウのように生前にプロテクトを張っておくべきだった。死してなおこの現世に呼び戻されるとは。

 

 もういいんだ。

 

 あの戦争から数百年。もう、この時代には宿敵の勇者(ヤツ)もいないのだから。

 

 オレが存在する意義はこの世界にはもうない。

 

 アベルシティ……これがあの戦争の結末の行き着いた世界。勇者がつくった世界。

 

 緋の一族。クラピカ。おまえはこちら側の人間だろう?

 

 これがこの世界(時代)なのか?

 

 クラピカが人殻をにらんでいる。

 

 人殻は念弾を一つだけ放った。クラピカはダウジングチェーンを使って、天空闘技場は時計回りに移動しはじめた。

 

 逃げ道を閉じて、チェックをかけてやる。簡単な、実に簡単な手筋だ。

 

 人殻はクラピカの頭上に念弾を放つ。クラピカの頭をおさえる。クラピカは下へ逃げるしかない。

 

 詰めろ、だ。

 

 人殻はクラピカの下に念弾を放つ。クラピカの足元をおさえる。クラピカは人殻から後退する。

 

 人殻はクラピカにあえて逃げ道を与えて、その逃げ道をじわじわと細めていった。あとは逃げ道を閉じるだけ。

 

 クラピカは上に飛んだ。クラピカは念弾を右足の蹴りで吹き飛ばす。

 

 良い判断だ。

 

 損得をよく理解している。ここは多少のダメージを覚悟しても逃げ道を確保するべきだ。

 

 と言いたいところだが残念。今のでスピードが殺された。やはり強化系能力を100%引き出せるようだ。そうでなければこんな芸当はできない。念弾のひとつひとつの破壊力はそう大きくない。だが確実に右足にダメージはあったはず。

 

 スピードが削られたクラピカに他の念弾が当たっていく。

 

 クラピカのスーツが破られていく。肌が露わになっていく。

 

「ダウジングチェーン!」

 

 クラピカのダウジングチェーンが天へ伸びていく。

 

 何をする気だ!?

 

 うねるダウジングチェーン。そのまま天空闘技場の壁面を滑ってきた。ダウジングチェーンが壁を擦っている。クラピカの手元にダウジングチェーンが戻る。

 

 いったい何をしている!?

 

 ダウジングチェーンが蛇のように戸愚呂を巻き、こすれ合う。鎖が真っ赤に染まっていく。

 

 これは……っ!?

 

 ダウジングチェーンと天空闘技場の壁面の摩擦と鎖同士の摩擦によって鎖が熱を帯びる。緋色の光すら放っている。まるで緋色に燃える鎖だ。

 

 緋の力……。

 

 クラピカ、まだ手を残していたか。

 

 攻撃力が跳ね上がったな。足りないオーラを物理で補ったか。

 

 この発想……オレの時代にはなかったものだ。

 

 だが、それでも、このオレは討てん。

 

 スピードが上がったわけでも、パワーが上がったわけでもない。せっかくの攻撃力も当たらなければ意味がない。愚策だな。それとも何か策があるのか? いや、ないな。一撃必殺の攻撃力はないのだから。

 

 その鎖でどうやってオレを討つ? 無理だ。

 

 緋色のダウジングチェーンがクラピカのまわりを囲んで、クラピカを緋色に照らしている。

 

 

 ◆

 

 

 ずいぶんと手こずっているな。あの未熟な使い手に人殻が負けることはありえないが、彼が生きた時代から数百年。念での戦闘も変わった。多種多様に。彼が負けるとすれば人類の英知の力。数百年の歴史の重み。

 

 人という種の力。

 

 想定していたより、遥かに厄介な存在だ。手強いな。ここで仕留めておく必要がありそうだ。

 

 さぁ、手の内をさらしてもらおうか。

 

 クラピカ。

 

 ネテロがベイルンをみつめていることに彼は気づく。

 

「ワシが選んだハンターはどうじゃ?」

 

 ネテロは不敵に笑った。

 

「…………」

 

 

 ◆

 

 

「ダウジングチェーン、モード・チェーンルージュ!」


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