◆ 回想
「なぁ。どうして、ブループラネットがグリードアイランドにあるって知ったんだ?」
キルアはビスケに訊いてみたことがあった。
「千耳会からアタシのホームコードに情報が入っていたんだわさ。アタシがブループラネットをさがしているなんて、よく調べているわさ」
調べた? いや、ちがうな。
ブループラネットがあるなんてことを知っているのはゲームプレーヤーだけ。アイツらが千耳会に情報を流すとは思えない。流したのはゲームマスターしかありえない。
ジン=フリークス。
つまり、ブループラネットはビスケをグリードアイランドに誘いこむためのエサ。そして、ジェイドサリがあのタイミングでサザンピースのオークションに出品したのも偶然じゃない。
キルアはゴンに対するジンの想いを少しだけわかったような気がした。
ゴンとジンの絆。
バッテラのほうは懸賞金を出させるために、どこかのプレーヤーが流したのかもしれない。
キルアはそんなことを考えた。
「いまどきホームコードなんて使ってんのかよ。やっぱババ――」
「だれが機械オンチのババアだ、コラァ~っ!」
キルアはビスケのアッパーを食らった。
キルアはシルバのことを思い出した。
キルアとシルバをつなぐ絆は暗殺だった。暗殺技術は暗殺としては使っていないけれど、大切な友達を守るために役立っている。キルアに暗殺技術のほとんどを教え込んだのはイルミだった。それには感謝している。
イルミ=ゾルディック。現在のゾルディック家最強の暗殺者にして、事実上のゾルディック家のトップ。
だからこそ、キルアの教育係になることができた。
◆ 回想終了
キルアはスタングの言動行動に不可解な印象を抱いていた。言動行動に一貫性がないように感じられた。
一見筋が通っているようで、通っていない。ゴンを殺ることで、まちがいなくゴンのオヤジさんに精神的なダメージを与えられる。あのカセットテープからきこえてきたオヤジさんの言葉やグリードアイランドでの冒険がそれを物語っている。それから、カイトとの出会い。
ゴンを導こうとしている。
不器用で素直じゃないけど、ゴンのために父親をやろうとしている。ゴンもそれを理解している。それはゴンにふれたスタング(アイツ)なら、すぐに気づいたはずだ。
なのに、ゴンを殺さなかった。自分を偽ってまで。
そして、唐突にオレを勧誘してきた。
オレはゴンのブレーキ役だ。主導権はゴンにある。オレを勧誘しても意味がない。それもスタング(アイツ)は気づいているはずなんだ。
勧誘。
ゴンを勧誘することができないから、代わりにオレを勧誘してきた……?
ゴンを仲間にしたい? そっちが本命? なぜ? ゴンを殺りたいはずだろ……?
スタング、何を考えているんだ!?
◆
「ここもダメか」
防火シャッターが降りていて、さらにエレベータも動かず、クラピカは足止めを食らっていた。
「セキュリティのコントロールルームはたしか230階。ヒソカの階(フロア)の隣りにある別フロアだったな」
天空闘技場は木の枝のように横に伸びている別のフロアが存在する。
天空闘技場はネテロ会長が提案し、世界樹を模してつくられたと言われている。しかし、クラピカは疑問を持っていた。クラピカの知っている世界樹の形とちがっていたからだ。コンセプトはあくまでもコンセプトなのだろう。
天空闘技場で何がおきているんだ? なんの放送も流れていない。非常用の電源は作動しているから、放送は可能だ。あきらかにおかしい。
要人も何人も観戦していた。テロか? それはない。かなり厳重に警備はされていた。それとも、それを打破できるほどのテロリストなのか?
幻影旅団。
クラピカの脳裏にマチの顔が浮かんだ。
ネテロ会長とヒソカがこの天空闘技場にいるかぎり、それもない。せっかくの計画を二人に潰される可能性があるから。
先日、クラピカのところに闇の組織から資金援助をしてほしいという話がきていたことを思い出した。相手は破面流アランカル。ネテロ会長とも因縁がある。
このタイミングとこの手際の良さ……。
クラピカの中で天空闘技場の非常事態とアランカルが結びつく。
早くボスのところへ戻らないといけないがエレベータが使えないこの状況では難しい。センリツがついているからだいじょうぶだとは思うが。
ボスの元に戻ったとしても、根本的な解決にはならない。原因を断たなければ。
クラピカは仕方なく、非常階段を使って、230階をめざすことにした。テロリストだとしたら、そこに実行犯がいるはず。
ん~、ダメダメ……♣
クラピカはケータイを取り出す。
アイツの力を借りるしかない。
クラピカの脳裏に旅団の女の顔がよぎった。
「ふぅ~」
クラピカは大きく息を吐く。
ケータイが鳴った。レオリオからだった。
「おっ、やっとつながった」
「やっと?」
「回線が込み合ってるみたいで、ケータイがつながりにくいみたいなんだ」
「そうか」
「クラピカ、だいじょうぶなのか? ケガしてないか?」
今日、天空闘技場にいることはレオリオに話していた。
「私は大丈夫だ」
「オレも今すぐそっちに行くから」
「は?」
「だいじょうぶ。安心しろ」
「待て、レオリオ」
「心配するな。オレが助けてやるから!」
「おい!」
一方的にケータイが切れた。
おまえがどうこうできる話ではないはずだが。おそらく練を覚えて、自信をつけたのだろう。
クラピカがレオリオにかけたがもうつながらなかった。回線が込み合っている……か。
レオリオが私が何階にいるか訊かなかったということはレオリオは天空闘技場の外にいるということだろう。天空闘技場の件は外にいるレオリオも知っていた。すでに内部だけの話ではなくなっているようだ。
私だけでは対処し切れない可能性が高い。ハンター協会も動くだろう。だが天空闘技場の内部に入り込めるかどうか。
――オレが助けてやるから!
少し勇気が湧いてきた。我ながら単純だな。
◆
「う~ん、つながらない◆」
ヒソカはケータイをしまう。
「天空闘技場の電子制御室は隣りだったかな? 彼ならそこへ行くはず。そして、おそらく返り討ちにされる……それは困る♣」
突然の停電。ヒソカは辺りを警戒しながら、どこかに電話をかけたが通じないようだった。
シャルナークから天空闘技場が襲撃されるかもしれないという連絡は受けていた。
100%当たる占い。
アタシの死が暗示されているらしい占い。アタシが直接占ってもらったわけじゃない。間接的な死の予言。
厳重警備の天空闘技場を襲撃するような組織。アタシたちクラスとまではいかないまでも、相当な使い手の集団だろう。
「おいしそうな匂いがするね❤」
「鎖野郎を助けに行くつもりかい? アタシは行かないよ」
アタシが鎖野郎に会うわけにはいかない。
「それはざんねん♠」
「このことか」
「なに?」
「なんでもない」
なんとなく、ヒソカと一緒にいれば死なないような気がしていた。
ヒソカと一緒に鎖野郎のところへ行く。
たぶん、それがアタシが生き残るための選択。でも、それはできない。鎖野郎とはもう関わらない。
ヒソカがじっとマチをみつめていることに気づいた。
「なに?」
「何に気を取られているのかな?」
「べつに」
ヒソカはまだマチをみつめている。
「なんだい?」
「止めないのかい? ボクはクラピカを助けに行くよ◆」
「べつに」
「ふ~ん♣ ほんとうに変わっちゃったね」
アタシより変わったヤツもいる。