Hyskoa's garden   作:マネ

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No.034 天空闘技場×制圧①

「モニターだよ♣」

 

 マチは首をかしげる。

 

「ずっと妙な違和感があった。あの会場のモニターは本来、闘士の表情を映し出すためのもの。なのに、モニターにはポイントポイントで、ズシの後ろ姿ばかり映し出されていた。決着のあの瞬間もそうだった」

 

 観客がみたいのは闘士の表情。でも、映し出されたのは闘士の後ろ姿だった。

 

 まさか……!?

 

 オルガ(彼)の死角を消すため……? オルガ(彼)が指示を出していた……?

 

「天空闘技場は彼のフィールド◆」

 

 ヒソカはおもしろそうに笑っている。

 

「ボクを倒すために、一生懸命考えてつくったトラップ。それを逆手にとられて陥れられたとき、人ってすごく良い表情をするんだよね。そんなとき、ボクはこれ以上ない快感を覚えるんだ♠」

 

 ヒソカは恍惚とした表情を浮かべて、指先を気持ち悪く動かしている。

 

「クロロのそんな表情をはやくみたいな❤」

 

 ヒソカはマチをみつめてきた。マチは視線を逸らした。

 

 ヒソカを止めることはできないのかもしれない。団長にはバトルの前にヒソカに勝ち目がないことを説明してもらうことになっているけど、それも意味がないかもしれない。

 

 冷静沈着にことを運んだ団長には誰も勝てない。それをねじ伏せる手を編み出すことはアンタにもできない。

 

 ヒソカは死ぬ。

 

 アタシには何もできないの?

 

 ヒソカは気持ち悪く笑っていた。 

 

「…………」

 

 ここまで自分の思い通りにならないのはマチにとって初めての経験だった。

 

 

 ◆

 

 

 オルガは控室への通路を戻る。係の清掃員がオルガがぶちまけた消火器の粉を清掃していた。ちらちらとオルガをみてくる。天空闘技場のフロアマスター。いちおうは天空闘技場のスター。一清掃員が近くでみることはない。

 

「汚してごめんなさい」

 

「い、いいえ、こちらこそ」

「次の試合も頑張ってください!」

 

 清掃員二人がすこし興奮したようすでこたえた。

 

「おつかれ」

 

 通路の壁にもたれかかっていた少女が声をかけてきた。少女の黒髪は跳ねている。いつも跳ねている。かなり髪が硬いんだろう。

 

「二連戦は疲れるよ」

 

 彼女の名前はアン。

 

 知り合いのハンターに彼女の素性を調べてもらったことがあった。彼女に関する記録はどこにもなかったから、流星街の出身ではないかということだった。

 

 だとしたら、飛行船にも乗ったことがない彼女がどうやって流星街からこの大陸までやってきたというのだろう?

 

 サヘルタ合衆国大統領に近しいハンターといっても、大したことがない。それとも、プロハンターでも簡単には解けない謎をアンは持っているということなんだろうか?

 

 そして、そんな彼女はどうしてオレに近づいてきたんだろう?

 

「次はいよいよヒソカね」

「あぁ。この天空闘技場なら、ヒソカを倒すこともできるかもしれ――」

 

 突然、電気が消えた。

 

 オルガはアンをかばう。オルガは円を発動させる。

 

 さっきの虚空は単独犯じゃなかったのか? あのレベルの使い手が従属するような相手。あのレベルの使い手が敗北しても作戦を続行できるような相手。

 

 これは考えていた以上にやばい展開かもしれない。

 

 非常照明に切り替わる。

 

「邪魔!」

 

 アンはオルガを押しのけた。

 

「アンタの防御力じゃアタシの盾になんてなれないでしょ」

 

 ひどいな。

 

「ちょっとは感謝してあげてもいいけど」

 

 一瞬目を合わせて、アンは視線を逸らした。

 

 前々から思っていたけど、この論理的な物言い……アンって操作系だよな。男を従えたい女子。

 

 

 ◆

 

 

 天空闘技場機械制御室。

 

 監視員たちが倒れている。

 

「マシンイーター! エレベーター、プロテクト解除完了」

 

「ふ~ん、機械を自在にあやつる能力か。便利だねぇ」

 

 アスフィーユはモーラに言った。

 

「天空闘技場は私の指揮下に入った。もう遠隔でも操作可能」

「まずます便利……ベイルン卿はフロアマスターを倒したかな?」

 

 

 ◆

 

 

 試合会場のほうからざわざわした音がきこえてくる。なんらかの演出だと思っているのか楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 控室前で警備員が倒れていた。オルガは駆け寄って揺り動かすが返事がない。操作系の念能力で眠らされているようだ。控室内から人の気配がしない。ドアは半開きになっている。

 

 まいったな。

 

 オルガとアンはゆっくりと控室に入っていった。フロアマスターたちが倒れていた。

 

「おい!」

 

 オルガはヒャダルコを揺り動かした。ヒャダルコも警備員と同じだ。

 

 ピオリム、カンジル、テナガーン、バギ、エリマキ、ラリホー、ホイミ、ベルーリオ……。

 

 フロアマスター最強の防御力を誇るベルーリオまで……。

 

「ありえない」

 

 なんなんだ。これだけの使い手がいとも容易く倒されるなんて……。いくら操作系能力が一撃必殺の能力であるといっても、これだけの使い手を倒すことはできないはず。

 

「女子の控え室もみてみない?」

「あ、あぁ」

 

 オルガとアンは女子控え室に向かった。

 

 スカラ、セツナ、マヌーサ、イオラ……意識がある人はいない。こっちも全滅だ。

 

「なんで男子が女子の控え室にいるのかな?」

 

 クミングが後ろから声をかけてきた。

 

 クミング=リング。フロアマスターの女王。綺麗だから人気がある。実力は大したことない。ズシよりは強いと思う。

 

 倒れているフロアマスターがクミングの目に入ったらしい。オルガとアンに視線を向ける。

 

「何があったの?」

「オレたちも今来たところです」

 

「マリアンは?」

 

 そういえばいないな。

 

 新参のフロアマスター。マリアン=ローズ。

 

 メシアムとヒソカは最初からいなかった。エデンは失踪中。これで全員……いや、あとひとり。

 

「メシアム、こんなときにどこに行ってるんだよ……肝心なときに」

 

「フロアマスターはパフォーマーの一面が大きい。それでもこれだけの人数があっさりとやられるのはおかしいよ」とアン。

 

 オレもそう思う。

 

「ユダがいるよ。ユダがいるとするとこの状況も説明がつけられる。油断しているときの操作系能力ほど破壊力のある攻撃はないんだから。いない人があやしいよね? チャンプとマリアンって人はヒソカと同じで、かったるくていないだけだと思う」

 

「倒れているフロアマスターの中にユダがいるってことはない?」

 

 クミングがアンに訊く。

 

「それはない。理由がないから。現時点でこのフロアの制圧は完了しているから。これ以上の策は必要ない」

 

 だな。オレたちの評価は高くない。策を弄する必要はない。

 

「ユダはカキン人で、ルーキーフロアマスターで、十二支んのアイツ」

 

 十二支んがテロリスト?

 

 ネテロ会長。手元に爆弾を持ちすぎだぜ。

 

「まだ目的がみえないけど、サイユウ=ソン。これで決まり!」

 

 アンが人差し指を立てて断言した。


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