ヒソカとマチはつながっている……!?
だとしたら、クロロとのバトル(ヒソカの悲願)も難なく達成できるはずだ。そんなようすはない。二人は単純に……。
クラピカは首を振る。
もう、どうでも良い話だ。私は……。
パクノダのうつむいた表情が頭から離れない。彼女の命を断ち切ったジャッジメントチェーンの感覚がまだ右手の小指に残っている。おそらく消えることはないだろう。それは呪いのように。
――やめておけ。成し遂げたとしても、得られるものなんて何もない。残るのは虚しさと血に染まった手だけだ。おまえはそんなものを背負って生きていけるほど強くない。何度でもいう。やめておけ。
「…………」
私は同胞の眼を取り戻す。それだけだ。
◆
眼に硬を使うことは禁じられている。それはオーラの圧力に耐えきれず、失明する恐れがあるからだ。眼の霊圧耐久値は低い。眼は凝までしか使えない。逆にいえば眼は念能力者の弱点となりうる。
当然、例外は存在する。
◆
負けるわけにはいかない。最年少フロアマスター。心源流の門下生。ズシ=カーライルには。
ズシはこの一年でずいぶんと成長した。身体だけじゃない。精神的にも強くなった。
ズシはキルアとゴンと親しい間柄にあったそうだ。彼ら二人の才能はずば抜けていた。成長速度も桁違いだった。天空闘技場におさまる器ではない。そんな二人に触発されたのだろう。ズシはオレの予想より早く、フロアマスター(ここ)まで上がってきた。
だが、それはオレも同じ。
くっくっく……♠
特別な才能にふれたのはズシだけじゃない。
オルガは入場口の前で、開幕戦の時刻を待っていた。オルガとズシはバトルオリンピアの目玉の一つだった。
ヒソカの呪霊錠によって練がうまくできない。この状態で、ズシに勝てるだろうか?
後ろに気配を感じた。わずかに漏れる殺気。オルガに緊張が走る。これほどの絶の使い手。強いな。
「何者だ?」
オルガはゆっくりと振り返った。巨漢の男が立っていた。男は乱れたオーラを纏った。絶は見事だが纏はお粗末だな。オーラを御し切れていない。
男がオルガに突っ込んでくる。右ストレート。オルガは紙一重で交わす。そのまま身体をひねって、男の頭を蹴り飛ばす。
コイツ、パワーにスピードがついていけていないな。
あきらかに男のオーラは乱れている。オーラに無理がある。身体にオーラが馴染んでいない証拠だ。めちゃくちゃな修業をしてきたんだろう。こんな状態で戦闘を続ければ身体を壊すぞ。
ヒソカとは逆の意味で狂ってる。
「ほう。すこしは楽しめそうだな」
男の鼻から血が垂れる。
「おまえはなんだ?」
「名を虚空」
「フロアマスターを倒して、名をあげたいのか?」
「ふん」
ハァッ! と気合いを入れて、虚空は真正面から突進してくる。上から拳を突き立ててくる。オルガが避けると虚空の拳は床に突き刺さった。
右手にオーラを集める。
オルガの回し蹴りが虚空の頭を捕える。
右手の凝はフェイク。
接近戦で、相手の身体をすべて視界に入れるのは難しい。凝で相手のオーラの動きを見切ろうとしても、かならず死角が生まれる。ミスディレクションと併用すればこうなる。
ミスディレクション。死角からの一撃。それは疑似的な隠。
接近戦はまるで素人だな。おそらく放出系。距離を取られるとやばいかもな。
「小僧が。大したオーラもないくせに」
「オーラの量で強さが決まるわけじゃない」
オーラを制限されているせいか、精神が研ぎ澄まされていく気がする。
虚空はオルガから距離をとった。虚空の両手から青い炎のようなオーラが出現する。虚空は青いオーラを投げ飛ばしてきた。オルガは消火器を破裂させる。辺りが消火器の粉でみえなくなる。
隠。
オルガは虚空を急襲する。虚空を捕えた!
虚空の青い炎のカウンターがオルガを襲った。オルガは入場口を通し越して、リングまで吹き飛ばされた。
どうして?
あの青い炎……追跡タイプか? なんらかの方法で対象者をロックして、自動で追跡する能力……? おそらく相手にふれるというのが条件だろう。厄介な能力だ。視界を封じての奇襲がアダになった。
両手に青い炎を纏って、虚空が入場口から入ってくる。
負傷したオルガの突然の入場に会場がざわついている。
◆
『なんだなんだぁ~~!? オルガ選手が負傷しています。そして、いったい彼と戦っているアイツは何者だぁ~~っ!?』
マチに迫るヒソカの動きが止まる。
ヒソカはマチどころではなく、オルガと虚空のバトルに夢中になる。
「アンタってヤツは……」
「あっ、いま、目があった❤」
ヒソカはモニターをみながら言った。
「それは目が合ったとは言わない」
◆
オルガは立ち上がる。オルガと虚空はリングの上で対峙する。
さて、どうやって倒す? そこには根本的な問題がある。オレの火力ではヤツを倒せない。10分ほどの練ができるなら、話は別だけど。練に時間がかかりすぎる。
アイツなら、ヒソカなら、どうする……?
オルガはカメラに目線を送る。ヒソカと目が合った気がした。
虚空は会場を見渡している。
「これがバトルオリンピアか」
オルガはリングの石板を蹴りで破壊し、それを盾に虚空に突っ込んでいく。虚空は青い炎を放つ。
オート制御の自動追尾型――。
石板が青い炎に接触する。爆発がおきた。
さっきより爆発力が大きい。自分から離れているからだろう。威力を上げたようだ。あれを食らったら、やばいな。物理的な接触で爆発するタイプ。リモートで爆発させることはできるだろうか?
虚空は次々に青い炎を投げてくる。虚空がオルガに近づくようすはない。
やはり中長距離タイプか。
青い炎をオルガは紙一重で交わしていく。
『これはゴン選手とギド選手のバトルを思い出させます!』
アレとはちがうよ。フロアマスターレベルの戦い。それに最後に勝つのはこのオレだ。
虚空がニヤリと不敵に笑う。ポーカーフェイスが苦手なようだ。青い炎にはトラップが仕掛けられている。
凝ッ!
何もない。一見してトラップは見当たらない。つまり、ヤツが狙っているのは死角からの奇襲。どこに死角がある?
考えろ。
虚空の視線が一瞬不可解な場所に動く。そこだ。青い炎の裏にもうひとつ、隠を使ったリモートの青い炎がある。
見切った。
硬ッ!
オルガは虚空の念弾を足場に青い軌跡を描きながら空中を飛ぶ。三つの念弾を経由。ゼロ距離で虚空の青い炎を蹴り飛ばし、虚空のあごに当てる。
オルガは虚空の身体をつかんで、オルガに向かってくる青い炎にぶつけた。
「おまえに青い炎が当たらないように安全プログラムが組んであったんだろう? だけど、自分から当たりに行ったら、その安全プログラムも意味がない」
虚空はすでに意識を失っていた。
――次はおまえだ。ヒソカ。
◆
敵の念弾を足の踏み場に使う……?
神技。天性の才能。
おそらくこんな芸当ができるのは世界に五人といない。桁違いの精度のオーラ操作技術が必要になる。
マチはヒソカをみる。
ゾクゾクゾクゥーーーーッ!
「いい。凄くいいよ♣」
「はぁ」