Hyskoa's garden   作:マネ

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The LAST MISSION - ダーク・レコード -
No.031 バトルオリンピア×開幕


 バトルオリンピア初日――。

 

 

 ◆

 

 

 その日の朝、ファウベル山の山頂部分が消失した。

 

 念能力によるものと思われた。ハンター協会は偶然にも近くにいたプロハンターであるハル=ルチにファウベル山山頂消失の原因調査を依頼した。

 

 ハルは具現化系ハンター。彼は術者の死後、具現化されたまま、この世に留まった念能力を収集するハンターだった。ネテロは彼をわずかながら危うく思って気にかけていた。

 

 調査結果は超高熱レーザによる蒸発とのことだった。そのレーザの発射位置も特定されていた。それはファウベル山の西に位置する天空闘技場、その天辺――。

 

 常識と照らし合わせるなら、バトルオリンピア初日にこんなことをするフロアマスター(参加者)はいない。このタイミングでのオーラの消費はバトルに負の影響を及ぼすから。しかも、これほどの火力ならばオーラの消費も相当なものと考えられる。テロだとしたら、テロを予告するようなもので、天空闘技場に警戒されるだけでメリットはない。

 

「ふむ」

 

 ネテロは上がってきた報告書を読みながら、ひとつうなずいた。

 

「天空闘技場が襲撃されるという情報との因果関係が気になるのう」

 

「たしかに、タイミングが良すぎますね。しかし、会長。理由がわかりません。仮に、テロリストの犯行だとしたら、テロリストはすでに天空闘技場に侵入しているということになります。しかも、屋上まで入りこんでいる。こんな情報を示唆させる意味もありません」

 

 ビーンズもテロとの因果関係があるように感じているようだが、テロとの因果を結ぶ糸が見当たらないようだった。

 

「おかしな事件ですね。これほどのことができる念能力者なんて限られているのに、見当すらつかないなんて……いったい何者による犯行なんでしょうか?」

 

「ううむ」

 

 

 ◆

 

 

 

 クックックッ……♣

 

 

 

 ◆

 

 

 バトルオリンピア特設リングにフロアマスターたちが入ってくる。

 

「ズシだ! ズシィーーッ!」

 

 ゴンが飛び跳ねながら、ズシに思いっきり手を振っている。ズシも気づいたようで、小さく手を振り返した。

 

「ゴン、やめろよ。ハズいだろ」

「ごめん、キルア……あれ? 21人そろってないよね?」

「あのヒソカがこんなのに出るわけねえだろ。チャンプのメシアムってヤツも出てないしな」

「ズシの相手ってどの人かな?」

「アイツだ。オルガ=トリンク。ズシがフロアマスターになる前の最年少フロアマスターで、サヘルタ大統領の孫!? マジかよ。死神ヒソカと戦って生きている唯一の天空闘技場闘士……だってさ。コネか?」

 

 オルガが振り返った。

 

 キルアと目が合う。瞳の中に念を飛ばされたような奇妙な感覚に陥る。オルガはすぐにキルアから目を逸らした。

 

 ドックン、ドックン、ドックン……。

 

 タダモンじゃねえ。ナニモンだ?

 

「だいじょうぶ。ズシは強い」

「…………」

 

 銀髪のくせっ毛に青眼。白い肌。オルガ=トリンク。

 

 キルアは言葉にできないような奇妙な感覚を覚えていた。彼から目が離せない。物理的な意味ではなく精神的な意味で。

 

 まわりがざわざわしはじめる。「アイツら、キルアとゴンじゃねえか?」「おっ、ほんとだ」「オレ、ファンなんだ」「わたしも」「可愛い」「天空闘技場に戻ってこいよ」「待ってるからさ」とかいう声がきこえてくる。

 

 ゴンがまわりに笑顔を振りまいている。ゴンが飛び跳ねて、うざがっていた後ろのオヤジも笑顔になっている。

 

「あら、二人とも有名人だこと」

「まあな。でも、ビスケのほうが有名だろ? 心源流の師範なんだしさ。あっ、有名なのはゴリのほうか」

「誰がゴリだ。こらぁ~っ」

 

 キルアはビスケにぶっ飛ばされた。

 

「あのキルアが少女にぶっ飛ばされたぜ。ナニモンなんだ? あの女の子は……」

「可愛い。ファンになっちゃった」

「でも、あの子は闘士じゃないぜ」

「期待の新星」

 

「おほほほ……し、視線が痛いだわさ」

 

 

 ◆

 

 

 スタングは遠くの天空闘技場を仰ぎ見ていた。

 

「ヨークシンシティの9.3以降、主要都市の警備が厳重になってんな」

 

 スタングが愚痴をこぼした。スタングはダース・ベイルンに視線を送る。赤と黒の仮面を被っているので、表情は伺い知れない。スタングは頭をかく。アベルシティのど真ん中で、その格好は目立つっての。わかってんのか? こいつはよ。クロロみたいなタイプだな。

 

 クート盗賊団の元リーダーを倒して、スタングは破面流アランカルに所属している意味をなくしていたが、ベイルン卿との出会いで、アランカルにべつの利用価値が生まれていた。

 

 

 ――暗黒大陸の攻略

 

 

 スタングには夢があった。それは世界の果てを目にすること。ベイルンはカキンと接触し、暗黒大陸進出計画を進めているらしい。その足掛かりとして、この計画が持ち上がった。

 

 それにしても、この天空闘技場占拠計画はずさんだな。天空闘技場内に内通者を放っているが、いつバレてもふしぎじゃない。ちょっと考えれば誰がユダかなんてすぐわかる。バレバレなんだよ。それともあらかじめ答えを知っているから、そう感じるのか?

 

 天空闘技場を攻略するために、内通者は必須だ。事務局に入り込むには時間がかかる。フロアマスターとして送り込むのがもっとも手っ取り早い方法だ。天空闘技場の主戦力はフロアマスターだから。そこに入り込めば天空闘技場攻略は格段にやさしくなる。

 

「観客全員の手荷物検査なんかしちゃっても意味ないのにねぇ」

 

 アスフィーユがつぶやく。瞬間移動の具現化系能力者。グリードアイランドから脱走したブラックリストで、元バラガム盗賊団のメンバー。

 

「飛んでいくんだから。ね、スタン君? ひげ剃ったんだ。長い髪も切ってすっきりしたね。えらいえらい」

 

 アスフィーユは背伸びして、スタングの頭を撫でる。

 

「うるせえ」

「ふふっ」

 

 アスフィーユは肩を震わせて笑う。この女、これからテロするってのになんていう余裕だ。

 

 さいきんになって、彼女のことがすこし理解できてきた。彼女がアランカルのメンバーになって、作戦に参加している理由は俺とはまったく逆のものだろう。きっと俺とは正反対のものを求めているのだ。

 

 俺は過去を。彼女は未来を。年齢は俺のほうがずっと年下なのに。

 

 ビットワンが俺の身体をなでた。

 

 俺は彼女がうらやましかった。

 

「本来、人があるべき姿を取り戻すために、我らは立ち上がった。行くぞ。マノリアの騎士。バラガムの騎士」

「あぁ」

 

 スタングは返事をする。

 

「天の光と共にあらんことを」

 

 ベイルン卿が言った。

 

 

 ◆

 

 

 キルアとゴンはバトルオリンピア開会のネテロのスピーチをきいて、彼に会いにやって来ていた。

 

「グリードアイランドって、いま、どうなってんのかな?」

「指定ポケットカードが10枚増えて、バージョン2.0になっておるぞ」

 

 そりゃ、そうか。キルアは納得した。

 

「一坪の密林ってどんなイベントだったんだろうな。気になるよな、ゴン?」

「うん」

 

「やっぱ、レイザ―みたいなゲームマスターいたのかな?」

 

 ネテロは黙る。キルアはそんなネテロの表情が気になった。

 

「レイザ―みたいにゴンのオヤジが捕まえたヤツがボスキャラやってるとしたら、クート盗賊団とかか? 気になるぜ」

 

 キルアは足を放り出して、天井を見上げる。

 

「いまなら、ネテロさんからボールとれるかな?」

「どうかのう」

「とれるとれる。余裕」

「言うようになったのう」

「あはは」

 

 キルアとゴンは調子に乗っていた。

 

 

 ◆

 

 

 ヒソカは部屋を全面ドッキリテクスチャーで模様替えしていた。ヒソカが触れれば一瞬で切り換えることが可能。

 

 ヒソカはフロアマスターになって、天空闘技場のワンフロアをあずかっていた。

 

 金髪の碧眼の青年がフロア(部屋)に入ってきた。

 

「いらっしゃい」

 

 出会った頃はまだ少年だったのに、ずいぶんと成長したね。いま、ここでその味を楽しみたいけれど、ダメダメ◆ 我慢しなくちゃ。彼はクルタ族だから、大切にしなくちゃね。

 

 彼が部屋に入ってきた瞬間、彼はビクッと反応した。どこか落ち着きがなく、そわそわしているように感じる。

 

「ずいぶんと早かったね。クラピカ」

 

「何の用だ?」

「出番がまだまだ先でね。暇を持てあましていたんだ。まさかほんとうに来てくれるとは思わなかったよ」

「おまえの暇つぶしに付き合うつもりはない」

「つれないね♣」

 

 クラピカは部屋に視線をめぐらせる。確かめているようだ。

 

「キミがいるってことはゴンたちも?」

「知らない。私は常に単独で行動している」

 

「ふ~ん」

 

「用がなければ帰らせてもらう」

「ボクは思うんだ」

 

 ヒソカはクラピカを引きとめる。クラピカの反応がおもしろいから。

 

「キミのその瞳は緋色の状態が通常モードなんじゃないかってね。どうだい? 今の碧眼のほうが特別なんじゃないのかな。キミの一族は長い年月をかけて、緋色の瞳を隠す技術を習得したんじゃないのかな」

 

「…………」

 

「キミが表だと思っているものは裏で、裏だと思っているものは表。キミは考えたことないかい? クルタほどの有能な一族がなぜ山奥で生きていかなければならなかったのか? クルタ族は有能な一族なんだろう?」

 

「何が言いたい?」

「キミはその理由に気づいているはず。気づいていないフリをしているだけ。ハッキリ言ってあげようか?」

 

「貴様に何がわかる」

「わかるさ」

 

 ヒソカはクラピカの目の色の変化をみる。碧眼のままだ。

 

 クラピカは怒って、部屋を出ていってしまう。

 

「う~ん、ニアミス◆」

 

 部屋のパーテーションの影からマチが現れる。

 

「アタシがいるってことに気づかなかったみたいだね」

「くっくっく……」

「何がおかしいんだい?」

「彼、気づいてたよ」

「え?」

 

「あんな見事な絶ができる女なんて、旅団(マチ)、キミくらいなものだろ?」

 

 マチはわずかに「しまった」という顔になる。

 

「それに……」

「それに……?」

 

「匂いは絶で隠せない♠」

 

「…………」

 

「う~ん。彼にどんな心境の変化があったのかな♣ ボクなら手を出しちゃうのにな」

 

 ヒソカは後ろからマチの腰に手をまわす。マチは上半身をひねってヒソカのほうを向く。

 

「本当に団長と闘うつもりなの?」

 

 冷たく、とげとげしい言い方。ヒソカはそれが心地よかった。

 

「うん❤ 楽しみだなぁ」

「その前にアタシが殺してあげようか?」

「いいね。ボクはいつでもオーケーだよ。ソファならあるから……」

「マジで殺す!」

 

 ヒソカはマチに手を振りほどかれた。ヒソカの心(表情)の変化をさぐるようなマチ。

 

「マチ? そんなにボクに死んでほしいなら、クロロに殺してもらえばいいよね? 何をそんなに恐れてるんだい?」

 

 ヒソカがマチに迫る。

 

「……ア、アタシは何も恐れてないっ!」

 

 マチはヒソカから後ずさる。マチはソファに倒れ込む。

 

「くっくっく……♠」

 

 野性×知性‐理性……それがヒソカ。

 

 

 ◆ PART HYSKOA パクノダ×ファントムチェーン




クラピカの目の色は原作と異なり、茶色ではなく通常モードで碧眼になっています。

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