Hyskoa's garden   作:マネ

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No.030 陥落のグリードアイランド

 ◆ PART A ヒソカ×スポンサー♣

 

 

 ヒソカが使っているトランプは念能力者の武器職人が作った特別製だった。念能力者がつくってはいるがオーラを込められているわけではない。

 

 ヒソカはトランプを投げた。それがブーメランのようにヒソカの手元に戻ってくる。

 

「う~ん、見事だ♠」

 

 ヒソカはそういってトランプのカード(❤の4)をペロリと舐めた。

 

「手元から放してもオーラの精度が落ちないね。それにボクのオーラによくなじむ。まるで身体の一部のようだ。操作系と放出系をよく理解している◆ 疑似的な操作系と放出系のようだ」

 

「ふふっ」

 

 彼女は武器職人ミホル。

 

 ハンターには二種類いる。自分の外の世界にハントの対象を見い出すものと自分の内の世界にハントの対象を見い出すもの。ミホルは後者だった。後者は神経質な職人肌が多い。ミホルもそうだった。クラピカがレオリオと出会って、多少変わったように、ミホルもヒソカとの出会いで多少やわらかくなった。

 

 ジョーカートランプにはヒソカをイメージしたジョーカーが描いてある。

 

 心を込めた手作りのものにはオーラが宿りやすい。武器の場合、それが使い手に干渉して、念能力の技が鈍ることが多い。作り手と使い手の相性が良い場合は良い相乗効果をおこすが、それはごくごく稀なこと。自分に適した武器に出会うのはよくあることではなかった。

 

 だから、ヒソカはミホルにオーラを込めないでほしいと要求したわけではない。

 

 オーラは霊子と正孔に分けられる。霊子が入る穴を正孔という。霊子が正孔に入っている状態を絶という。ミホルのトランプはヒソカのオーラがイオン化しやすいようにつくられていた。つまり、操作系のように周がしやすい。ゆえに、ミホルのトランプはヒソカのオーラによくなじんだ。

 

 この念能力の技術は世界でもミホルだけだった。

 

 念を込めるのではなく、念を込めやすくする武器。それは念能力者の武器職人とはまったく逆の発想。使い手のことだけを考えた末にたどりついた極地。献身の産物。自己主張の強いハンターが決してたどり着くことのない領域だった。存在するはずのないもの。ミホルにとって、ヒソカはそういう対象だといえる。

 

 この技術の開発は申請すればすぐにでもシングルハンターになれる功績だった。

 

 ヒソカはミホルのトランプに気持ち良くオーラを挿入できるはず。一度使ったら、他のトランプが使えなくなるほどに。そういう思いが込めてある。

 

「ずいぶんと念入りね。今度の獲物(ターゲット)はそんなに強敵なの?」

「天空闘技場のナンバーワン。メシアム=ウォーカー。バトルオリンピアで彼と闘れることになった♠」

「あぁ、彼ね。ここに来たわよ。アンタに勝つための秘策を用意しようとしているみたいだったわ。もうすこし時間をもらえれば調整もできたんだけど。彼、何かほかにあてがあるみたい」

 

「ボクのためにサプライズ(プレゼント)を考えてくれているなんて、うれしいなぁ❤」

 

 恍惚の表情のヒソカ。

 

「…………」

 

 ミホルは改めて思う。

 

「ほんとにアンタってヘンなヤツだよね?」

「そぉ?」

 

 ヒソカの手からトランプが消えた。マジックだ。まるで念能力。初見なら彼を具現化系能力者とまちがえるだろう。事前情報がなければ相当に厄介な使い手のはずだ。事前情報があっても厄介だけれど。

 

 ほんとうに規格外。こんなヤツは他にいない。

 

「もうじき、クロロとも闘れるよ❤」

「…………彼とは戦わないほうがいい」

「キミも同じようなことをいうんだ」

 

 キミも?

 

「彼を知っているけど、彼はここぞというバトルでは卑劣なハメ技を使ってくる」

「そういう相手をボクの前にひざまずかせるのが好きなんだ」

 

 ヒソカはクロロがひざまずくようすを思い浮かべているようだった。そんな顔をしている。

 

「アンタは彼の恐ろしさを知らない」

「くっくっく……♠」

 

 ほんとバカなんだから。

 

「アンタ、ダーマの騎士ってきいたことある?」

「なんだい、それ?」

 

 そして、情報に疎い。

 

「知らないんだ。私、いま、おなかが空いてるんだけど」

 

 ハンターは好きになるもんじゃない。狩られるのは簡単だけどハンターを狩るのは何よりむずかしい。

 

 

 ◆ PART B メシアム×ニュース

 

 

 天空闘技場シークレットフロア。

 

「天空闘技場と名づけたのはネテロなんじゃよ」

 

 そこに、その場所に、メシアムは驚きを隠せなかった。

 

「これが天空闘技場の真の姿なのですね」

「天空闘技場、ひねくれ者のあやつがつけそうな名前じゃろ?」

 

 その通りだ。常人の発想ではその名はつけない。

 

「はい」

 

 メシアムはうなずいた。桜色の髪のばあさんは「ふひひ」と笑った。

 

「大昔はフロアマスターなんてシャレた名前ではなく、ダーマの騎士と呼んでおったんじゃ。ダーマの洗礼を受けた騎士じゃ。洗礼を受けた念能力者はすべて緑色の目を持つ特質系となる。アタシが念能力を覚えた頃にその習慣はなくなったんじゃよ。ネテロが禁じおったそうじゃ」

 

 桜髪のルーラ。彼女は天空闘技場最高責任者。元バトルオリンピアチャンピオンであり、元ハンター協会の十二支ん。天空闘技場の運営に人生を捧げたハンター。

 

「ハンター協会から、おぬしなら洗礼を受けてもよいと許可が降りておる」

「なぜ、プロハンターでもない私なのですか?」

「おぬしに死んでほしくないから、じゃないかのう」

 

「なぜ、私が死ぬのです? ヒソカに殺されるとでもいうのですか?」

「ふっふっふ……彼は無関係じゃ。グリードアイランド襲撃事件は知っておるか?」

「グリードアイランド、それはなんです?」

「監獄の名前じゃよ」

 

 ルーラはグリードアイランドがゲームであること。そして、牢獄としての機能も有していることを話す。

 

「そこが三度にわたり、襲撃された」

「三度?」

 

「一度目はクロロとネイロとシドと名乗る三人組によって。投獄されておったクート盗賊団元リーダーが殺害された。他の元団員はなんとか逃げたそうだ。目撃情報から、クロロはヒソカだと判明しておる」

 

 ヒソカ、彼は何をやっているんだ? 相変わらず、行動が読めない。

 

 そして、クート盗賊団。きいたことがある。現代の幻影旅団のような存在だったらしい。だが、たった一人のプロハンターによって、壊滅させられた。たしか、そのハンターはジン=フリークス。最強クラスの念能力者。プロハンターでは最強とも言われている。実績は相当なもので、最強と言われても当然だろう。

 

「それにしても、それが真実なら妙な話ですね」

「ん?」

 

「複数人のゲームマスターがいて、一人が殺害されて、他のゲームマスターも三人を撃退できず戦場から逃走する。そんな状況なんて考えられますか? まず、ありえませんね。運営側だけが使える魔法で、プレーヤーを排除することができるはずです。ゲームマスターは複数人。プレーヤーにすぎない三人がそれを封じることは通常では不可能です」

 

 くっくっく……♠

 

 メシアムの脳裏にヒソカの笑い声がきこえた。

 

 どんな手段を使ったのかわからないが、彼なら可能か。そう思わせるものが彼にはある。どんな不可能も可能に変えてしまうような。

 

「二度目はフィンクスとフェイタンという二人組によって。二人は幻影旅団とみられておる。レイザ―という死刑囚が殺害された。どちらも犯罪とは言い難いから、対応に苦慮しておる」

 

「死刑囚でも殺人は犯罪でしょう」

「いや、犯罪ではない」

「なぜ!?」

 

「日常生活でも、殺人が許される場面がある。ボクシングの試合などがそれに当たるのう。グリードアイランドはそれと同じ。ボクシングで人を殴っても傷害罪にとわれることがないのと等しく、グリードアイランドでは殺人を犯しても罪にとわれることはない。殺人もゲーム戦略のひとつに組み込まれておるからのう。そういうふうにジン=フリークスという男が法律をねじ曲げたんじゃ」

 

「悪魔か」

 

「ジンという男も殺人を前提にしたゲームをつくったわけではあるまいて。悪いのは殺人を犯す者の心じゃよ」

 

 メシアムは納得がいかなかった。

 

「そして、先日、クート盗賊団の残党が脱獄した。脱獄をさせたのはアランカルという組織」

「どこかできいたことがあるような……」

「二百年以上前にこの世から姿を消したダークサイドハンターじゃ。こういえばわかるじゃろう。破面流アランカル」

「破面流? あの伝説の……?」

 

「彼らに対抗するためにはダーマの力が必要なのじゃ」

「それで、なぜ私なのです? ハンター協会には強者がたくさんいるのに……それに対抗って……?」

 

「曖昧なことしか言わんネテロのせいで、アタシにもわからん」

 

 曖昧な情報しか降りてきていない? 何がか起きようとしているけれど、きちんと把握できていない。まるで予言に振りまわせれているようだ。それも相当信頼されている予言者だ。

 

「受けるか?」

 

 

「私は……」

 

 

 ◆ PART C クロロ×ラブリーゴーストライター

 

 

「これでマチが死ぬことはないだろう」

 

 クロロはつぶやいた。シャルナークの占いにマチの死が予言されていた。

 

「クロロ、早くヒソカと戦ってくれないか? 監視って神経使うんだよね。それに尾行者にお願い事をする人なんてきいたことないよ」

「フッ」

 

 イルミはゼノを通じて、ハンター協会と連絡をとっていた。

 

「イルミ、今、入金したよ。確認頼む」

「確認した。まったく変な尾行だね」

 

 いつの間にか、イルミはクロロの隣りにいるようになっていた。

 

「天空闘技場で何かがおきる。マチが死ぬような出来事なんて限られている」

「団長の命令を無視して、天空闘技場に残るなんて、その子も相当ヒソカに振りまわされてるね」

「こんなことは初めてだ。世話がかかるのはノブナガだけで十分なんだがな」

 

 クロロは天空闘技場でヒソカに死んでもらいんだろうか? それとも……。

 

 イルミにはクロロの心が読めなかった。

 

「金で動くゾルディックを金で買えないなんて、妙な話だな」

「クロロ、ビジネスってそういうものだから。受けられない仕事もあるんだ」

「盗賊のオレにはよくわからないな」

 

 クロロがいくらカネを積もうとイルミはクロロの尾行をやめなかった。




グリードアイランド陥落篇の一坪の密林篇と一坪の海岸篇は本編から脱線しすぎるためにカットすることにしました。

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