Hyskoa's garden   作:マネ

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No.026 奇術師の殺し方

 団長はヒソカとのバトルの多種多様なシミュレートを試みているようだった。

 

 それはあまりうまくいっていないようすだ。どんな戦術を組もうとヒソカはそれを破ってくる。そんな結果が導き出されているんだろう。シミュレートの中のヒソカは強いようだ。そもそも完璧な戦術なんてありえない。かならず、どこかに綻びは存在する。それを創意工夫でどうにかするのがバトルだ。

 

 誓約と制約を使って、念を強化している使い手ほどもろいものはない。もろさと引き換えの強さ。

 

 ヒソカはそこを突くのが抜群にうまい。ネテロ会長が敗北したのもそのためだ。バンジーガムが問題なんじゃない。ヒソカが問題なんだ。

 

 と言われているが、それほどの強敵なんだろうか?

 

 シャルナークは疑問に思う。オーラ量は大したことない。火力も大したことない。防御力もだ。驚異な点なんてどこにも感じられない。団長との温度差を感じていた。

 

「団長、ヒソカを殺る作戦はできました?」

「まだだ」

 

 シャルナークはバックミラーで団長のようすを伺う。団長とシャルナークは流星街を出るために盗んだ車でドライブ中だった。

 

「ヒソカなんて簡単に殺れそうなのに……」

 

 シャルナークは思っていたことをさりげなくぶつけてみる。

 

「どうやって倒す?」

「例えば、フランクリンのダブルマシンガンで……」

「どうやって当てる? 当たらないさ」

「そうかなぁ」

 

「ヤツはネテロの最速連撃も容易に交わしていた」

「…………」

 

 みたわけじゃないけど、コルトピの報告ではそういうことになっている。ネテロ会長が大したことないってだけなんじゃないのかな。100歳超の老いぼれなんだし。

 

「ヤツを殺るためにはヤツの能力を縛る必要がある。だがヤツを縛ったところで、ヤツはかならずそれをほどいてくる。ほどけない結びなど存在しない。……ジレンマだな。根本から考え直さないとヤツは倒せない。新しい発想が必要になる」

 

 団長の思考は無限ループに入ってしまったようだ。

 

「ほどけない結び……ほどきたくない結び……?」

 

 団長はひとりつぶやく。

 

 戦術デザイナーとよばれる団長を持ってしても、ヒソカを攻略する術は簡単には思いつかないようだった。

 

 団長が長考に入り、暇なシャルナークはカーナビのテレビをつける。

 

 オリンピックの陸上短距離金メダリストとこどもの鬼ごっこをやっていた。金メダリストにはゲーム開始前に、30秒間の逃げる時間が与えられる。こどもは10秒以内に金メダリストを捕まえなければ負けとなる。というルール。

 

 普通に考えると、オリンピック選手が30秒先を走っていて、そこからこどもが10秒で追いつけるわけがない。こどもは念能力者なんだろうか? それはない。

 

 このゲームはなんだ?

 

 シャルナークはこの変わったゲームが気になった。バックミラーをみると団長も気になっているようだった。

 

「そうか。その手があったか。フッ……ヒソカを殺れる。確実に」

「どんな方法です?」

 

 シャルナークは戦術デザイナーが思いついた戦術に興味を抱いた。

 

「ヒソカの弱点はそのプライドだ」

 

 ゲームはこどもの圧勝だった。内容はくだらなかった。

 

 

 ◆

 

 

「団長が復活したんだ。もう縛られるもんはねぇ。鎖野郎をぶっ殺す。ウボォーとパクのカタキをとる」

 

 ノブナガは声を張り上げた。

 

「でも、団長から鎖野郎には手を出すなって命令が出ているんじゃなかったっけ?」とシズク。

 

 そういう指示があったと自称団員候補から連絡が入ったとシズクはきいていた。

 

「そんなの知ったことかよ」

 

 たまにノブナガは団長に噛みつく。

 

「つーか、そいつが本当に団員候補か疑わしいもんだぜ。間接的にも団長はオレたちに接触できないんだろうが?」

「ん~、除念後の連絡だったから、接触は可能だよ」

 

 ノブナガはシズクに異常な警戒心を示した。シズクに背中はみせない。

 

「それにパクノダだってそんなこと望んでないんじゃないかな?」

 

 あたしは記憶弾を撃たれてないからよくはわからないけど、きっとそうだよ。

 

「新参のおまえがパクの何を知ってるってんだ」

 

 シズクはノブナガから視線をそらす。

 

「おまえはおまえの気持ちの落とし所をさがしているだけだろ?」

 

 シズクをかばうようにフランクリンがいう。

 

「パクノダの弾丸はおまえの心には届かなかったのか?」

 

 フランクリン、フィンクス、フェイタンがノブナガを睨む。

 

「くっ」

「ウボォーやパクノダを理由に使ってんじゃねえよ。パクノダの想いを踏みにじってるのはテメェじゃねえのか」とフィンクス。

 

 鎖野郎に対して、あんなに好戦的だったフィンクスとフェイタンはパクノダに記憶弾を撃たれてから、すこし変わった。二人のようすがあきらかに変わったのはグリードアイランドを持ち帰ってから。何があったのか知らないけれど。

 

 あのヨークシンの戦いが旅団に与えた影響はウボォーギンとパクノダの死を差し引いても、小さくないと思う。

 

 睨み合うノブナガとフィンクス。

 

「団員同士のマジギレ禁止」

 

「フン……オレがフィンクス(テメェ)にキレる理由はねえよ。テメェらは団長じゃねぇ。オレがテメェらに指図されるいわれもねぇ。勝手にやらせてもらうぜ」

 

 ノブナガは「鎖野郎はオレがぶっ殺す」と言い捨てて出ていった。

 

 ケンカならコインで決められるのに……。団長がいればこんな勝手は許されないのに……。

 

 幻影旅団ほどのメンバーを束ねられるのは団長のクロロをおいてほかにいなかった。

 

「追わなくていいの? 止めなくていいの?」

 

 シズクはノブナガが心配になる。

 

「構わねえよ。鎖野郎の弱点はわかってる。ノブナガもバカじゃねえ。かなりバカだけど。返り討ちにあうことはねえだろ」

 

 そう言いながら、フィンクスは落ち着かないようすだ。

 

「フィンクス、素直じゃないね」といって、フェイタンはニヤニヤする。

「あぁ?」

 

 このあとフィンクスはコンビニに出かけていった。コンビニなんてどこにあるんだろう?

 

 あとを追うように、フェイタンも出ていった。

 

 

 ◆

 

 

 団長とシャルナークはホームに向かって歩いていた。夜になっていた。

 

 団長がシャルナークに語ったヒソカを殺る方法は恐ろしく幼稚な方法だった。そんなんじゃ、ヨークシンのときのあのガキどもも倒せやしないよと思ったが口にはしなかった。あまりのバカバカしさにシャルナークは訊き直したほどだった。だけど説明を訊くと、団長らしく、その作戦は理にかなっていた。ここまでレベルを下げて、深く物事を考えることができるんだと素直に感心した。

 

 ガキの発想もできるのか。どれだけ戦術の幅が広いんだ。

 

 これが漫画だったらバカバカしくて読者も呆れかえり、逆に伝説になるだろう。ヒソカが勝ったら名作になるだろう。そんなことをシャルナークは思った。

 

 たったひとりを殺るために、これだけ大規模な作戦を実行するなんて、用心深いにもほどがあるよ。団長。

 

 そんなとき、フィンクスからシャルナークに電話が入る。ケータイを耳からすこし離して、団長にもきこえるようにする。

 

「ノブナガがひとりで鎖野郎を殺りにいっちまったよ。ノブナガを止めにオレとフェイタンが追っている」

「あのノブナガ(バカ)……」

 

「まぁいい。まだ時間はある。時間は稼げる。ノブナガ、フィンクス、フェイタン抜きで作戦の準備を開始する。ノブナガのことは二人に任せる」

「フィンクス、きこえた? てこと」

「あぁ、任せろ」

 

 全員集合はまだ先になりそうだ。

 

「やり方や契約条件などの手続きはシャル、おまえとマチに任せる。段取りは任せたぞ」

「え? マチと? やだなぁ。オレ、変化系は苦手なんだよな」

 

 またオレに面倒なことを押しつけて。

 

「で、団長は?」

「イルミ(ゾルディック)と付かず離れずの鬼ごっこだ」

 

 

 ◆

 

 

 ヒソカはバトルオリンピア。

 

 幻影旅団は決戦準備。

 

 クロロはイルミと鬼ごっこ。


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