Hyskoa's garden   作:マネ

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No.025 フロアマスター×契約

 ネテロとの闘いのあと、ヒソカは弟子のオルガに絡まれるも、テキトーにやり過ごしてメシアムのところにやってきていた。リングの上からメシアムのすがたをとらえていたから。

 

 天空闘技場、最上階。

 

「キミとボク、強化系と変化系はすごく相性が良いんだ♣」

 

 ヒソカはとても気分がよかった。楽しいバトルのあとはいつもそうだ。これ以上ない幸福感に満たされる。さらに闘いを終えた後はいろいろ敏感になり、一戦目より良いバトルができることが多い。もう一戦したい。もう一回したい。そんな心持ちだった。

 

 そんなヒソカの前に、バトルオリンピア現チャンピオンのメシアムがいる。

 

 ヒソカが獣になったとしても、仕方ないと言えるだろう。

 

「きっと素敵な時間になると思うんだ❤」

 

 ヒソカはその気持ちを抑えて、メシアムを口説き落そうとしていた。

 

 ヒソカは決めた相手としか闘らないタイプではない。気分次第で、誰でもいいから闘りたいと思うこともあるが、それはどうでもいい人相手の話。ヒソカは無理やりするのが好きじゃない。そこまでの流れを楽しむのがヒソカのスタイルだった。メシアムはヒソカがずっと狙っていた相手だった。

 

「残念ながら、いまおまえと戦うことはできない」

 

 メシアムはゆっくりと椅子に座って脚を組んだ。遥か遠くまで見渡せる窓から下界を眺める。

 

「フロアマスターはバトルオリンピア前の三ヶ月間は戦闘禁止期間となっている。それにもうすぐバトルオリンピアがはじまる。おまえと戦うわけにはいかない」

「あ?」

 

 ヒソカから純度の高い殺気が漏れた。

 

「次回のバトルオリンピアまで待つんだな」

 

「バトルオリンピアチャンピオンの座を賭けて闘ろう。だから、今は闘れない。というのなら、百歩譲ってわかるよ。そういう趣向は嫌いじゃないからね。約束の日を指折り数えるのも楽しいね。だけど、天空闘技場のルールだから? 自分にはもう相手がいるから? 興が醒めるようなことを言うなよ。そういうのはルールを破るから興奮するんじゃないか。師弟(禁断)のバトル。秘密のバトル。相手がいる人とのバトル。18歳未満とのバトル。そういうバトルこそ、心が高ぶるんだろう? そうだろう、メシアム?」

 

 メシアムはすこしの沈黙を挟んだ。

 

「途中なにを言っているのかよくわからなかったが、おまえをすこしだけ理解できた気がするよ。そんな自分を恥ずかしく思う。本当に本当の変態(戦闘狂)なのだな」

「♣」

 

「バトルのその先にあるものに興味はないのか? おまえの目的は……?」

 

「ボクは大切なものを自分の手でめちゃくちゃにしてしまうことに快感を覚える。強いて言えばそれが目的かな。それってそんなにおかしいことかい? いまはキミをめちゃくちゃにしてしまいたい♠」

 

「おまえとはバトルオリンピアでしか闘わない。それが私の条件だ」

「2年も待てないよ。おあずけはクロロで十分。すぐそこにリングがあるんだ。しようよ♠」

 

 ヒソカは興奮していて、まったく冷静ではなかった。いつものヒソカではなかった。高ぶっていた。

 

「私はバトルオリンピアのチャンピオンだ。この身体には商品価値がある。勝手なバトルはできない。勝手に身体を傷つけることはできない。ネテロ師範と一戦交えて、おまえも疲れているんだろう?」

「ぜんぜん◆ あれは前菜だよ。本番(メインディッシュ)はこれから♣」

 

 事実だった。

 

「先手と後手、どっちを取る? ボクは後手がいいな♣ リードは頼むよ」

「…………」

 

 メシアムはすこし引いているようだった。客観的にみればドン引きといえるかもしれない。引かれるのはいつものこと。ヒソカはそれをスルーする。

 

 ――ピンポンパンポ~ン。

 

『えぇ、ヒソカ様、ヒソカ様、フロアマスター事務局までお越しください。繰り返します。ヒソカ様、ヒソカ様、フロアマスター事務局までお越しください。事務局長から大事なお話があります』

 

 ヒソカとメシアムの間で時間が止まる。

 

「チェッ、なんだよ」

 

 ヒソカはくるっとまわってドアのほうを向く。首だけぐるっとまわしてメシアムをみる。

 

「待ってろよ」

 

 有無を言わせぬ言いようだった。

 

 花瓶が割れた。水が床にこぼれる。ヒソカは無意識に花瓶が壊れるように発の波動をコントロールしてしまっていた。

 

 ヒソカはメシアムのフロアを後にした。

 

 

 ◆

 

 

 ヒソカより一回り年上かと思われる女性がいた。女性はフロアマスター事務局長室の大型モニターから、バトルオリンピアの開会式の本会場準備のようすを眺めていた。

 

「あなたが局長かな?」

 

 うまく隠しているけど彼女も強いね。彼女とも闘りたいな。彼女でもいいかな。

 

「イセ=フィオン。フロアマスター事務局の責任者をしています。フロアマスター(あなた方)を管理する責任者です。今回のあなたとネテロ師範とのバトルのプロデュースもさせていただきました」

 

「へぇ♣」

 

 イセ=フィオン。縁結び(マッチング)ハンター。スポーツやバトルなどの興行を生業とするダブルハンターだ。

 

「で、なんでボクは呼ばれたの?」

「なんで呼ばれないと思ったの? フロアマスターとしての天空闘技場との契約、それと面接を行います」

 

「あっ、そういうこと◆ 契約はテキトーにしといてよ。それとさ、メシアムとしたいな。エデンもいいな。あの二人は抜けている。頭一つどころか、もっと下まで」

「たしかに、そういうことも訊かなければならないことだけれど、初めに契約内容についても話しておかなければなりません」

「面倒だな」

 

「あなたにはこれから天空闘技場と契約していただきます。天空闘技場であなたを雇用するという意味合いで受け取っていただければ結構です。今後もファイトマネーは出ませんが、天空闘技場に対するあなたの貢献度に応じて、報酬が支払われます。天空闘技場からバトルとはべつにさまざまな仕事をお願いすることもあります。主に広告塔としての役割です。それらの活動を総合して報酬が算出されます。今現在、ヒソカ(あなた)モデルのトランプの話がきています」

「早いね」

「カストロ戦のあとに話は来ていました。あなたがフロアマスターになることは確実視されていましたから」

「ふ~ん」

 

 細かい字で書かれた分厚い契約書がヒソカにわたされる。パラパラパラとめくった。ヒソカは契約書にサインする。

 

「読まなくていいの? 新流派設立の部分とか?」

「ちゃんと読んだよ。ついでに念能力の仕掛け(トラップ)がないかも調べておいたけど、なにか? サインっていうのは念能力発動の条件になりがちだからね」

 

 フィオンは引きつった笑いを浮かべる。

 

「特例中の特例で、前例もありませんが、あなたを来月のバトルオリンピアに出場させたいと思っています。天空闘技場のルール改定後、正式決定ですが」

「♠」

 

 ヒソカは両手で髪をかきあげる。

 

「ぜひ◆」

「優勝を期待しています」

 

「それにしても、なんだか誰かにこうなるように誘導されているような気がするなぁ」

「…………」

「何か、ボクの興味を他のところへ他のところへ持っていこうとする意思を感じるね」

「なんのことでしょう?」

 

 フィオンは演技がヘタだった。

 

 ヒソカの脳裏にクロロが浮かんだ。ヒソカとクロロの鬼ごっこは現在も進行中。

 

 

 ◆

 

 

「これでよかったかしら?」

 

「えぇ」

「これでしばらくヒソカは天空闘技場に釘付けだね」

 

 フィオンは緊張していた。やり取りを誤れば自分はここで死ぬかもしれない。そういう緊張感があった。フィオンはダブルハンター。天空闘技場のフロアマスターの責任者でもある。それでもこの二人相手に勝てるイメージがまったくない。

 

 メシアムクラスとは言わないが相当の使い手であることはまちがいない。

 

 これが幻影旅団。

 

 おそらく二人は幻影旅団の幹部。戦闘員。

 

「やっと団長に会えるね。マチ?」

「……え? あ、うん」

「マチ……?」

「行くよ」

 

 マチと呼ばれた女性と小学生低学年のように小柄で髪の長い男の子。女の子? 二人が出ていった。

 

 二人の話の内容から、ヒソカと幻影旅団の団長は命のやり取りをしているらしいことがわかった。マチという女性はそれを好ましく思っていないようにみえた。フィオンは三人の関係を想像するがうまく形にできなかった。

 

 フィオンは自分の若い頃をすこし思い出す。

 

 天空闘技場で出会ったゾルディックのあの銀髪の青年のことを……。

 

 彼は同じく銀髪のこどもを連れていた。そのようすからみて、親子ではないと思った。おそらく兄弟か甥っ子だろうか。そのこどもは二年ほどかけて200階まで行って、逞しくなって家に帰っていった。今では相当な使い手になっていることだろう。闇の住人。うわさをきくことはほとんどない。

 

 依頼されれば誰でも暗殺する。友人を持たない暗殺集団。

 

 ヒソカはゾルディックとも幻影旅団とも関係を持っている。彼らとは友人関係なのだろうか? ほんとうにふしぎな青年だ。常識を、当然を次々に壊していく。まるでネテロ師範のように。実況アナが言っていたように、時代は変わろうとしているんだろうか?

 

 フィオンは再び本会場を映すモニターをみる。

 

 本会場の準備の邪魔になったようで、少年と少女はスタッフに注意されていた。

 

 フィオンはすこし笑う。

 

 やっぱり似てる。フロアマスターのあの少年をみるたびにゾルディックのあの青年を思い出す。あの銀髪の少年は誰なんだろう?

 

 彼の正体がまるでつかめず、フィオンは首を振った。

 

「それはない」

 

 

 ◆

 

 

 ――流星街。

 

「あぁ、ホームに全員集合だ」

 

 クロロはマチとの電話を切った。

 

「全員集合とか言っちゃって、あの人は入ってないんでしょ? 新団員?」

 

 シャルナークはクロロにカマをかける。気配は感じるがすがたをまだみせていない。シャルナークもまだ会ったことがない人物。おそらく幻影旅団の新しい仲間。気配を感じないほうはおそらくゾルディックだろう。次元がちがう。

 

「いや、入っている。全員集合時点を持って、彼女を正式な旅団の団員とする。絶対に死なせるわけにはいかない。レア能力だ」

 

 新団員は女なんだ。強化系がよかったな。

 

 シャルナークは強化系や特質系と相性がよかった。


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