Hyskoa's garden   作:マネ

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No.023 終末×大洪水

「神と悪魔の合わせ鏡(フェイカーフェイカー)、解除!」

 

 

 ◆

 

 

 クロロの着地ポイントだった大地が割れていく。海が割れるように、大地がどこかに飲まれていくように。それは幻想的で、まるで神話の世界のようだった。

 

 谷が生まれて、ビットツービットが露わになる。ビットツービットは自分の炎によるダメージの回復中だった。完全な無防備。そもそもビットは奇襲対応が苦手。

 

 クロロはビットツービットを凝の足で踏みつけて割れた大地の上に着地する。凝の両手で無防備なビットを葬り去った。それは瞬く間の出来事だった。

 

 冷徹。

 

 クロロは乱れた髪を右のてぐしで少し直す。

 

「オレの思考をトレースしたんだ。オレもまた同じような戦術を築いている可能性に思い至らなかったか? スタング、思考が浅いぞ」

「上から言ってんじゃねぇよ」

 

「真似るということは越えていないということ。おまえには才能がある。オレの元に来い。おまえなら……」

「俺の身体が目的のくせに」

 

 クロロはうつむいて首を振った。クロロは親指を下に向けた。

 

「落ちろ」

 

 スタングの足元が消失する。

 

 落とし穴!?

 

 スタングは後ろへとバランスを崩す。準備してたレーヴァテインを発動し、落とし穴の横壁に突き立てる。落下は防いだ。左脚の火力ですこしなら飛ぶこともできる。

 

「バカな……」

 

 スタングは眼下に広がる光景に驚く。

 

 それは想像を絶するような光景だった。スタングの下には永遠につづくような深い深い坂があった。大げさな表現を使うなら、世界の形が変わっていた。

 

「こんなの……どうやって……? 地形が変わっている」

「シズクの能力を使った」

 

 デメか。

 

 デメを使って、大地を吸い取って、コルトピの能力で穴埋めをしたってわけか。

 

 たったひとりの……たったひとりの能力で、世界の形はこうもあっさりと変わるものなのか……メチャクチャだ。ムチャクチャだ。

 

 長い人類の歴史の中にもこんな能力者はいたはずだ。シャンバラ……この世界はやはり……。

 

 スタングは頭を切り替えて、これからのクロロとのバトル展開をシミュレートしていく。宙を蹴って、クロロに近づいて、中距離戦で、クロロをこの谷底に落として……。

 

「終わりだ」

 

 クロロは親指で自分の胸を示す。

 

「術者本人を越えるということは……能力を自分のものにするということは……こういうことだ」

 

 クロロは両手を合わせて、口許に持ってくる。

 

「スキルハンターの支配者(フェイカーフェイカー)」

 

 クロロの両手から爆発的に何かが生まれた。それが滝のようにスタングに押し寄せる。これはコルトピの能力。コピーをコピーしている。倍々で、何かを爆発的に増やしている。

 

 この匂いは……ガソリン!? 引火!?

 

 レーヴァテイン解除!

 

 スタングを見下ろすクロロ。そして、クロロのコピーたち。

 

 スタングは谷底に落ちていく。

 

 コルトピは念能力の能力はコピーできない。だが物質の性質は普通にコピーできる。クロロとギャラリーフェイク。最悪の組み合わせだ。

 

 俺たちが戦っていた場所はクロロが具現化した大地だった。

 

 たしか、コルトピのコピーには円の効果があったはず。コルトピが口を滑らせていたっけ。コルトピは口が軽いから。俺の動きは円で筒抜けだったというわけか。

 

 この戦いは初めから、この場所に俺を誘い込むためにあった。オーラの底をついた俺はなす術なくクロロに……。それがクロロの本当の狙い。

 

 スタングはガソリンの滝に飲まれた。

 

 

 ◆

 

 

『エマージェンシー! 聖獣モード強制発動!』

 

 また勝手に。それほどヤバいってことか。

 

 スタングの身体を服ごと硬質の皮膚が覆っていく。竜皮と呼ばれる具現化の鎧。目も覆われて視界が真っ暗になった。ガソリンの滝を落ちていて、どっちが上からもわからない。

 

 滝が爆発した。

 

 ガソリンに引火したようだった。

 

 スタングの意識が飛んだ。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 

 ◆

 

 

 真っ暗だ。さっきの展開から暗い谷の底にいるのだろう。ガソリンの匂いはしない。クロロが消したのかもしれない。

 

 どうやって登るんだ?

 

 息がうまくできない。瞬きもうまくできない。首の後ろがわずかに痛い。首の後ろにシャルのアンテナが刺さっているのだろう。

 

 俺は座っていた。足元は地下水で濡れていて、びちゃびちゃだった。谷に地下水が流れ込んでいる。嫌な匂いが立ち込めている。

 

 目の前に人の気配。

 

「これが人間の……黒い歴史の匂いだ。この歴史の上に流星街は存在する」

「クロロ……」

「森羅万象が行きつく最果ての地。終末の世界。オレたちはここで生まれた。こんな場所でも人間は生まれる」

 

 クロロがすぐ目の前でスタングを見下ろしている。クロロがスタングのあごに指を当てる。

 

「もらうぞ」

 

 スキルハンターを出現させる。あとは手を合わせるだけ。

 

 スタングのビットワンがクロロをぶん殴った。

 

 絶の右アッパー。

 

「だから、やらねぇっての!」

 

 スタングは右手でアンテナを抜いて、握りつぶす。クリーンヒットとまではいかないか。クロロの意識は断てなかった。

 

「何度も言わせるな。俺は操作できない。誰のものにもならない。さすがのおまえも絶の攻撃は避け切れなかったようだな」

 

 オーラを込めていたら避けられていただろう。攻撃力がないからこそ、ヒットさせることができた。

 

 クロロは口から何か硬いものを吐き出した。水たまりに入る。クロロはフラついているようだ。暗くてあまりよくみえないが。

 

 ほぼオーラは残っていないが逃げるくらいのオーラはある。

 

 俺の身体の半分近くは具現化したもの。それが俺の身体に寄生している。だから生物のオーラ量を超越していた。この爆発にもオーラを消費しただけで致命的なダメージはなかった。ビットワンとビットツーは自動回復ができるから。

 

 ――練!

 

 オーラ量が減って、この程度の練でも時間がかかるか。

 

 クロロのオーラもだいぶ減っているようだ。フェイカーフェイカー。これだけのガソリンの具現化は容易じゃなかったはず。

 

「フッ……オレも学習力がないな」

 

 すこしだが、クロロの息が切れているようだ。相当疲労しているようだ。

 

 最大のチャンスだが、俺も攻撃するだけのオーラが残っていない。ここで攻撃したら、クロロには勝てるが幻影旅団には負ける。

 

「おまえは能力を支配しているんじゃない。能力に支配されている。おまえの念能力はこれからも強くなるだろう。しかし、おまえ自身は強くなれない。おまえの戦闘センスはまだまだだ。洗練されていない。わかっているんだろう?」

 

 会話でつないで体力の回復をはかるつもりか。それは俺も同じ。

 

「支配し合うのが正解でもないだろ。自由にさせるのも答えのひとつだ」

 

 土壁が崩れてきた。もうじきこの壁は崩れて、大地に飲まれるだろう。

 

「クロロ、おまえは何を考えている?」

「オレは――」

 

 たまった。

 

 そして、タイムリミットだ。

 

「じゃあな」

 

 スタングは左脚で大ジャンプする。谷底が爆発したような衝撃が発生する。

 

 

 ◆

 

 

「団長、逃げられてんの。だから、言ったのに……」

 

 弾丸のようなものが谷底から飛び出してきた。それは光る羽を広げて流星街の風を受けて空へと消えていった。それをシャルナークは眺めていた。

 

 全身のオーラを羽毛状にするなんて、いったいどれほどの才能と努力があればできるようになるんだろう。指一本だってできるヤツはそうそういないんじゃないかな。スタンは劣等感を抱いているけど、才能はまちがいなく最強クラスだ。

 

 団長といえど最強クラスに手が届こうというスタン相手じゃ、重傷を負わすことなく戦闘不能にするっていう高難易度条件付きバトルをクリアするなんてできないよ。

 

 崩れていく谷を団長が登ってくる。

 

「最後、息を切らしている演技で誘ったが、乗っては来なかった。やっぱバレてた」

「変化系はヘンなところでカンがいいから」

 

 変化系は多分に運の要素を含むカンに関しては鈍いがこういうカンは働くタイプが多い。マチもそのタイプだった。変化系にはシャルナークの苦手なタイプが多かった。

 

 変化系と操作系は相性が悪いのかもしれない。

 

「しんどぉ~」

 

 団長は仰向けに倒れ込む。

 

「ありゃ盗めねーわ」

「だから、言ったんだよ。団長。あんなの相手じゃ倒すことはできても盗むことなんてできないって」

 

 団長はイタズラをみつかったこどものような顔をした。ちょっとバツが悪そうだ。

 

「団長……ヒソカを殺るための能力の中にスタンの能力も必要だっていうの、あれウソでしょ?」

 

 団長はシャルナークに視線を送ってきた。予想外に、それは何気ないものだった。

 

「スタンの能力は人の憎悪が生み出したもの。持っているだけで不幸になる。ジョーカーみたいなもの」

 

 シャルナークは団長をみつめ返した。

 

「団長はスタンを――」

 

 シャルナークの問いかけに団長は何も言わなかった。

 

「団長って本当は何がほしいの? オレには団長の考えていることがわからないよ」

 

 シャルナークはなぜかパクノダを思い出していた。

 

「でも、信じてる」

 

 シャルナークはなつかしい流星街の風を感じていた。団長はすこしだけ笑みを浮かべた。

 

 

 ◆

 

 

「それにしても、すごい圧迫感があるんだけど……」

 

 クロロ・コピー、未だ解除されず、シャルナークたちを遠巻きに囲んでいる。

 

「念のため」




 ようやくクロロ×スタング戦も完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。ほんとに長かった。

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