Hyskoa's garden   作:マネ

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No.021 超生物

 クロロがスタングの能力を知らないフリをしていたのはシャルナークの能力でスタングの口から過去をしゃべらせたときの精神的衝撃を与えるための伏線だったのだろう。事実、スタングの精神的な苦痛は計り知れなかった。表情に出さなかったのはスタングの意地だった。

 

 

 ◆

 

 

 スタングは灼炎銃レッドレイの連撃を放つ。

 

 クロロは斜めに後退しながら、ファンファンクロスで軽やかにいなす。

 

 クロロはスキルハンターを背中に隠した。以前戦ったときはスキルハンターで防御することもあったのに。スキルハンターは完全防御型の具現化系。ダメージは通らない。

 

 なのに、なぜ隠す必要がある?

 

 レッドレイ程度なら、スキルハンターでいなせるはず。能力を使うまでもないだろう。以前とは異なる制約を課したのか? それが複数能力同時使用の制約か?

 

 右手にレーヴァテインを形成する。レーヴァテインを出している手では放出系能力が使えない。右手でレーヴァテイン。左手で灼炎銃。左手の中に小石を忍ばせる。

 

 ファンファンクロスに接近戦はセオリーじゃない。だからこそ、クロロもその戦術は用意していないはず。単調なカウンターしかないだろう。当然単純に攻めてもダメだ。

 

 だから――。

 

 スタングは左脚で跳んだ。クロロの頭上から攻撃する。

 

 ファンファンクロスは風の影響、重力の影響を受ける。上からの攻撃に弱い。クロロはスタングを真正面に捕えようとする。やはり頭上ポジションが弱点だ。ファンファンクロスの弱点発見。

 

 スタングは左脚から灼炎を出し、空中を蹴る。身体を前転させながら、クロロの懐に飛び込む。

 

 クロロはファンファンクロスでスタングを包みにかかる。

 

「レーヴァテイン!」

 

 その剣圧でファンファンクロスを吹き飛ばす。態勢を崩すクロロ。隙だらけだ。

 

 あとは左手に溜めていたオーラを放つだけ。

 

「終わりだ」

「おまえがな」

「レッドレイ!」

 

 ファンファンクロスが消えて、瞬間、スタングの前に現れる。

 

 どこからか飛んできた念弾がスタングを吹っ飛ばす。ファンファンクロスが空振りに終わる。

 

 スタングは地面をごろごろと転がる。

 

「ふいぃー」

 

 紙一重だった。

 

 スイッチが早い。一つ一つの技のクオリティが高い。どれも一流だ。

 

 クロロが周囲を警戒する。

 

「念能力とはふしぎなものだな。なんでも貫く鉾は具現化することができないが、なんでも防ぐ盾は容易に具現化することができる。かといって、完全な盾は存在しない。たかが剣圧で……」

 

「そのボロ切れは破ったぜ」

「フッ」

 

 中距離攻撃でも、接近戦もラチが開かないが、多角的な攻撃なら打開できそうだ。

 

 奏でる右腕の右腕(ビットワンビット)行けるか?

 

「来い、スタング」

「上から言うな」

 

 スタングからオーラがほとばしる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

 スタングは灼炎銃レッドレイを放ちながらクロロに突進していく。クロロは横に移動しながらレッドレイを交わし、交わし切れなかった黒い光線はファンファンクロスで受け流す。

 

 おそらく、本来ファンファンクロスは両手に持って戦うものなんだろう。クロロはファンファンクロスの能力を100%引き出せない。だから隙だらけになる。

 

 GO!

 

 クロロの背後から、ファンファンクロスとは逆側からレッドレイが放たれる。

 

 ファンファンクロスが消える。

 スキルハンターのページがめくられる。

 スキルハンターでレッドレイを弾く。

 スキルハンターのページを戻す。

 ファンファンクロスを具現化する。

 

 クロロはスタングのレッドレイを交わしながら逃げていく。交わし切れなかったレッドレイはファンファンクロスでいなしていく。

 

 ……マジかよ。

 

 身のこなしから繊細な指先の動きまで……。

 

 ダンスの中には指の複雑な動きで魅せるものがある。演技もそうだ。料理、スポーツ、ピアノ演奏を本物のレベルでこなす演者がいる。もはやダンスや演技の領域を踏み出しているがクロロにはそれに近しいものを感じる。

 

 本物の偽物。

 

 初撃でビットワンビットの場所を把握したのか、挟まれないように移動する。

 

「ふぅぅ」

 

 クロロが息を吐く。渾身の全方位攻撃を「ふぅ」で済まされた。

 

 付け入る隙が見当たらねぇ。

 

 でも、これでわかったことがある。複数能力使用の制約がスキルハンターの無防備化だ。スキルハンターを破壊すれば勝ち。具現化されたものは攻撃力がなければ無敵化できることがよくある。無害だからこそ無敵。無敵化を解除することで複数能力使用を可能にしたんだろう。

 

 スーパーハイリスクハイリターンって感じだな。

 

 並みの使い手じゃ使いこなせない制約だ。

 

 目標変更。スキルハンター。セカンドがクロロの右腕。

 

 ビットツーにも手伝ってもらうか。

 

 

 ◆

 

 

 ――練!

 

 今度こそ決める。

 

 スタングは羽毛模様のオーラを身体に纏う。空気抵抗をなくすためだ。そして、利用するためでもある。

 

「それもジン=フリークスの技の一つだな。彼はおまえの師か?」

 

 ジン=フリークスの情報はプロハンターでも手に入れるのが難しい。スタングの過去はさぐれてもジンの過去はさぐれない。シャルナークはジンのことをクロロに話していないようだ。

 

「っせーよ」

 

 スタングは両手からレーヴァテインを出す。

 

 行くぞ。ビットツー。

 

 スタングの左脚が爆発する。

 左脚が爆発するほどの瞬発力。

 

 スタングはクロロを急襲する。

 

 クロロはファンファンクロスを解除していた。

 スキルハンターも持っていない。

 

 両手を合わせて、謎の金属のかたまりを具現化する。

 

 もろともだ!

 

 だが、スタングは謎の金属に弾かれた。

 

 空中に放り出されて、くるくると回転しながら地面に叩きつけられた。そのまま地面をバウンドしていく。

 

「力押しか。自分の力を越えた能力は自らを滅ぼす。超速攻撃は特別な目がないとカウンターの餌食になるぞ。ろくな師に教わっていないようだな。せっかくの才能が台無しだ」

 

 どうやってあの金属を具現化した? スキルハンターは使っていないようだった。両手を合わせて、具現化していた。わからないことだらけだ。

 

「速さは諸刃の刃。速ければいいというわけではない。相性もあるが、すべてはバランス。おまえの能力はバランスが悪い。幻影旅団に入れ。おまえのために席は残してある」

 

 バレバレの嘘はやめろ。近くで俺たちを観察しているヤツがいるのはわかってる。

 

「自分の力を越えた能力……か」

 

 スタングは左脚を再生させる。右足の靴を脱ぎ捨てる。左脚の布はボロボロだった。もとから結構ボロボロだけど。

 

 クロロクラスの実力者となると一筋縄じゃいかない。自分の弱点が露呈してしまう。

 

「なら、俺がもっと強くなればいい。それだけの話だろ?」

 

 奏でる右腕(ビットワン)、奏でる左脚(ビットツー)行くぜ。

 

 スタングの右手から再び黒剣(レーヴァテイン)が伸びる。

 

 ビットワン、ビットツー、コネクト状態オートモード!

 

 生物の限界は生物でなければ容易に越えられる。これで人間の反応速度を越えられる。念能力に反応速度の限界はない。ジン=フリークス(ヤツ)がその典型だ。

 

 奏でる右腕と左脚は具現化したもの。生物ではない。反応速度は生物のそれではない。

 

 クロロは鉄の塊の裏手にまわる。反対側から出てきた。

 

「クロロ、次の攻撃で終わりだ」

「手の内をさらしてもらうぞ」

 

 この技は使える時間が限られている。オーラ量は問題ないが俺の身体のほうが持たない。本体は人間の身体だから。

 

 なぜ俺はまだ人間であることにこだわっているんだろう? 制約を捨てればいつでも念のみの存在になれるのに。霊獣の領域へ。

 

 スタングの脳裏にアリスとネイロの顔が浮かんだ。

 

 スタングの両手からレーヴァテインが伸びる。二刀流。

 

「行くぞ」

 

 再び、スタングの左脚が爆発を起こす。

 

 スタングが再びの急襲。

 カウンターをオート回避する。

 左手のレーヴァテインが謎金属のかたまりを切断。

 

 さらに右手のレーヴァテインがヤツの右腕を切り落とした。

 

 ヤツの右腕がくるくると空中を飛ぶ。

 

「勝負あったな」

 

 スタングはヤツの右腕をキャッチする。

 

「これで能力は使えないだろ? 俺の勝ちだ」

 

 ヤツは左手を服の中に入れた。

 

 ボムッ!

 

 スタングの右腕がふき飛んだ。

 

 

 ◆

 

 

 番いの破壊者(サンアンドムーン)……長老オンジンは死んだはず……。


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