Hyskoa's garden   作:マネ

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「おまえが勝ったら幻影旅団をやろう。オレが勝ったらおまえの能力をもらう」

 支払う対価は命と等価

 スタング×クロロ戦

 後半戦


クロロ×交渉戦 - 後篇 -
No.020 操作系殺し×戦術コーディネーター


 他人を操作する操作系能力者がもっとも油断するのは他人を操作状態においたとき。それはクロロをもってしても例外ではなかった。すでに勝敗は決しているのだから。当然といえば当然ともいえる。

 

 スタングが狙ったのはまさにそこだった。

 

 破れない能力はない。

 

 

 ◆

 

 

 意識は恐ろしいほどにはっきりしていた。スタングはシャルナークがブラックボイスを使っているとき、操作されている相手の表情に恐怖が浮かんでいたことを思い出した。表情は自分の意思で変えられることは知っていた。しかし瞬きは自由にすることができない。呼吸も自由にすることができない。わずかに自分のタイミングとズレがある。

 

 これが操作されるという感覚か。

 

 気持ち悪りぃ。

 

 クロロが余裕の表情でケータイのディスプレイをみせてくる。操作可能と表示されている。勝利宣言かな? ほとんどオーラを纏っていない。こんなに油断しているクロロは初めてだ。操作系能力者がもっとも無防備になるのはこの瞬間。

 

 殺れる。確実に。

 

「さて、その黒き炎はどうやって修得した?」

 

 クロロはケータイを操作する。

 

「メーラ=フェニックスの聖火で毎日毎日焼かれていた。骨がドロドロに融けるまで……」

 

 口が勝手に動く。シャルの能力では自白させることはできない。リモート操作しかできないから。

 

「冥府を焼いた煉獄の悪魔たち、レーヴァテインズ」

 

 俺の過去を調べたのか? シャルが調べたんだろう。プロハンターなら造作もないことだ。

 

 スタングは無理やりしゃべらされた。マノリアやメーラのこと、そして……。

 

「スタング、おまえはもう……」

 

 クロロはスキルハンターの表紙をスタングの手のひらに近づけてくる。

 

 突然、スタングに刺さっていたアンテナが粉砕された。

 

 クロロの両目が見開かれる。

 

 スタングはほぼ絶状態のクロロにオーラを飛ばす。驚愕の表情のクロロ。クロロは両腕で防御して後ろへと跳んだ。放ったのは微弱なオーラだがクロロは大ダメージのはずだ。クロロは眼球の動きだけで周囲を洞察する。

 

 なぜ?

 

 奏でる右腕(1stビット)、なぜクロロを殺らなかった? それ以前にクロロの茶番にどうしてつき合った? いつもは以心伝心なのに。今日は何を考えているかわからない。

 

 スタングのちぎれた右腕(1stビット)が隠で黒き灼炎銃(レッドレイ)を放ったことによりシャルナークのアンテナが砕かれたのだった。

 

 クロロはボロボロになったコートを脱ぎ捨てて、頬の汚れを手の甲で拭う。

 

「操作系能力の弱点だな。シャルのアンテナは刺した相手しか操作できない。身体から離れてオート操作になっているものまでは掌握できない。見落としていたよ。さすがはヒソカの(念の)共同研究者、といったところか」

 

 クロロがスタングを見据える。

 

「身体から切り離したパーツをオート操作する能力か」

 

 半分正解。

 

「そして、身体の再生能力もある」

 

 そして、正解。

 

 骨までドロドロに融けた腕が元に戻っているんだ。そういう推測が成り立つ。言葉にすることでプレッシャーをかけてきた。クロロが気づいていることに気づいていたが言葉にされるとプレッシャーになる。

 

 煉獄の悪魔たち(レーヴァテインズ)か。煉獄のアキレス(超速再生×部分影分身)か。

 

 どちらが目的なんだ? それとも両方か?

 

「シャルのアンテナは刺したものしか操作できない。戦闘能力が高く、なおかつ誰かを操作する能力者なんて数が少ないからな。これはかなりのレアケースだな」

 

「俺にシャルのアンテナは通じない」

「なぜオレを殺らなかった? プログラムミスということもないだろう?」

 

 そのプログラムミスなんだよ。身体から離したビットは「俺の身体に戻れ」という命令以外、すべてオート操作。リモート操作にしたかったが、できなかった。

 

 オート操作とリモート操作に優劣はない。自分の才能に合わせての選択となる。

 

 スタングの場合はこれとはちがう。スタングは1stビットと2ndビットの能力を掌握できなかった。3rdビット以下はなんとか掌握できた。掌握できないほど強力だったからだ。

 

「なぜ殺らなかったか、か。それはこっちのセリフだ。本気を出せ。クロロ」

「本気を出してないのはおまえもだろう? それにおまえを殺ったら能力が盗めない」

 

 どこまで気づいている?

 

 破面流派のことまでたどり着いているのか? 表向きは……というか、氷紋流派に所属しているんだけど。あれ、俺 アイツに破門されたんだっけ? 忘れたな。まぁ、どうでもいいや。

 

 

 ◆

 

 

 クロロ=ルシルフル、その場の閃きで戦うヒソカとは正反対で、周到に準備し、狙いすまして撃つタイプ。ヒソカとはまた別の意味で、勝てるイメージがしない。ある意味、ヒソカ以上に厄介だ。ヒソカすらクロロのフィールドでは負けるのではないかと思ってしまう。

 

 それにしても、なんていうオーラ量だ。あれだけのオーラ量を消費しておきながら、未だに涼しい表情をしている。コルトピ並みか? まさか聖獣クラスの俺より上とかないよな?

 

 あれほどの巨大ドームを具現化するためには相当量のオーラが必要になる。オーラの操作や念獣などを動かすのはオーラ量ではなくオーラのパワー。オーラの圧力(霊圧)が必要になる。これは似ているようでまったくの別物。コルトピのようにオーラ量が多くてもパワーがないタイプは念獣操作ができない。戦闘には向かないタイプといえる。戦闘ではオーラを動かすパワーが必要だ。工夫次第だがオーラ量だけでの常勝は難しい。

 

 オーラパワーもオーラ量も弱いのにセンスでカバーする者も中にはいるがそれは例外中の例外。

 

 クロロのオーラパワーはどれくらいあるんだろう。ここまでそれをみせていない。オーラ量もまるで底なしのように感じる。

 

 ただの人間にしてはありえない。

 

 なんらかのトリックが潜んでいるのか?

 

 スタングは考察する。

 

 具現化系は二通りに分けられる。

 

 シズクのように特定のものを何度も具現化するタイプとコルトピのように毎回異なるものを具現化するタイプ。

 

 前者は具現化すると自身の最大オーラ量が減少するが具現化を解くと最大オーラ量は元に戻り、ほぼオーラの減少は能力を使用した分だけとなる。慣れ親しんだもののために具現化効率も良く、オーラの消費量は後者に比べて極端に少ない。

 

 逆に、後者のコルトピタイプは解除してもオーラは戻って来ない。使い捨てタイプともいえる。その分、具現化しても自身のオーラの最大値は下がらない。永久に消えないものを具現化することは非常に大きなオーラを消費するために、通常は制約として時間制限を設ける。使い捨てタイプの場合はオーラが消費されるのは具現化時のみとなる。

 

 もしもコルトピがギャラリーフェイクに時間制限を設けている場合に考えられる最悪のパターンがこれだ。

 

 それはクロロが事前にドームを具現化していたというパターン。

 

 昨日ドームを具現化していた場合、クロロのオーラ量は俺との戦いの前に回復しているはず。

 

 つまり、これだけの戦闘をこなしていながら、未だあまりオーラを消費していないということになる。

 

 しかし、戦術シミュレーターとよばれるクロロといえど、そこまでのバトルコーディネートはさすがに無理だろう。

 

 ドックンドックン……。

 

 まさかな。

 

 スタングは思考をめぐらせる。

 

 俺を操作状態に置いたとき、クロロはスキルハンターの表紙に俺の右手をふれさせようとしていた。ほぼまちがいなくあれが能力を盗む制約だろう。

 

 念能力をみる。それについて質問をする。答えさせる。スキルハンターに手のひらをふれさせる。

 

 あと一つか二つは条件があるはず。まさかそれを1時間以内にやるとかいう条件じゃないだろうな。だとすると戦闘中も盗めるということになってしまう。チートすぎる。

 

 いずれにしても手のひらがスキルハンターにふれたら「終わり」と考えたほうがいいだろう。

 

「戻れ」

 

 俺は1stビットを右腕の位置に戻した。ちなみに、戻れと二度念じれば確実に戻ってくる。一度だとビットが拒否する場合がある。その理由についてはスタングが察しなければならない。ビットはスタングのことを想っている。だから、スタングはまだ二度「戻れ」と命じたことはない。また自動で戻ってくることもできる。まだ自動で戻ってきたことはない。

 

「これでレーヴァテインを二本振れるぜ」

 

 クロロがスキルハンターを構える。

 

 ふん。

 

 正解のようだ。もうひとつ盗むための条件があるなら、あの構えはない。おそらくもうひとつの条件は時間制限だ。30分……60分……まぁ、どうでもいい。

 

「さぁ、クロロ、第二ラウンドと行こうぜ」

 

 凝ッ!!

 

 スタングは両手にオーラを集めた。

 

 

 ◆

 

 

「オレの手作りのアンテナァ~~~ッ」

 

 シャルナークは叫んでいた。

 

 まずは一本目。


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